なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第168話 長谷川真昼、京の町を奔走する

 京で頻発するたおやかな乙女行方不明事件。

 私と五右衛門が最初に容疑者として目を付けたのは立入宗継さんという大商人。

 

 私が単刀直入に事件について尋ねると、立入さんの目が鋭く細まった。

 

「私のところにも耳に入っております。ですが犯人は私ではありませんな」

 

「せやな。牢人も雇ってへんし、屋敷に違和感あらへん。でもな、立入様、あんた落ち着きすぎや。もっと怒るべきやないか? ワイらに疑われて」

 

 五右衛門の目も鋭くなる。

 たしかにそうかも。夜中に起きているのはまだしも、私たちが突然現れても悲鳴あげないし、織田家に厳重に抗議するとも言わない。

 人として出来過ぎな気がする。

 

「立入さんは何か知ってるんじゃないんですか? なら教えてください! 女の子たちが危険な目に遭ってるんですよ!」

 

 私の誠実なお願いに、立入さんは「ふう」っと息を吐いた。

 

「南蛮商人の人身売買の疑いがあるという話ですな」

 

「ええ。フロイスさんがそう疑ってましたけど」

 

「……実は私、とある南蛮商人と取引していたんですが、積荷を持ってくると告げられたのみで一向に姿を現さない者を待っていたのです」

 

「架空取引で大損したの?」

 

「いえいえ、積荷を確認してからと告げています。金銀のやり取りはまだです。……ですがこう思うのです。連中、京に入る目的に私の名を利用したのではないかと」

 

 立入さんの拳に力が入る。

 もし彼の想像通りなら、犯人を京に侵入させるためだけに利用されたことになる。

 

「その南蛮商人の名はなんていうんや」

 

「……ペレイラ、と申されてました。この名を聞いた時から少し嫌な予感はしてました」

 

「知ってる名前なんですか?」

 

 当然ながら私は初耳。まあ、南蛮の知り合いなんてフロイスさんだけだけど。

 

「20年ほど前、マカオを拠点に明国沿岸を荒らしていたバハンの元締めに、同じ名を名乗る南蛮人がおりました。もっとも、その者は明国に捕まり処刑されたと聞いております」

 

「バハンって何ですか? 宇宙刑事系の話?」

 

 マカオと明国は知ってるよ。信長様のところにその二つの国でできた品物がよく届くからね。

 

『小娘、お前一体いくつじゃ? バハンと聞いて宇宙刑事○ャバン連想するなんて』

 

 センイチ? 乙女に年齢の話はNGだぞ?

 

「いやいや、お父さんが好きだっただけだって。宇宙刑事ギャ○ン」

 

「姉ちゃん、何わけのわからんこと言ってるんや? バハンっちゅうのは海を荒らす海賊のことやで」

 

「バハン。八幡大菩薩の旗を掲げる海の荒くれ者どものことです」

 

 五右衛門と立入さんの説明に私は驚く。

 

「海賊⁉ なんで京に海賊がいるの?」

 

「京だけやないで。連中は大陸まで行って好き放題やっとる。略奪、皆殺し当たり前の屑どもや」

 

「光秀殿が京都代官になって以降、京からバハンは一掃されました。利用していた商人も含めて」

 

 うへえ、大陸ってスケールデカすぎ。

 以前嘉隆さんが俺を海賊と呼ぶなって怒ってたけど、そんな連中いたらそう思うの当然かも。

 光秀さんがそんな連中の存在許せないってのも理解できるよ。

 

「それで、そのペレイラが怪しいの?」

 

 私が尋ねると、立入さんは頷く。

 

「私の知る限り、最近の京で不自然に羽振りが良くなった商人は一人もおりませぬ。南蛮船との大規模な闇取引があれば必ず銭の流れに痕跡が出ます。しかし、それがない」

 

「なぜならペレイラが犯人だからってことだね」

 

「そう簡単な話でもありますまい。商人が携わってないだけ」

 

「……なるほどな。下京の人間の誰かが協力者なら、痕跡を辿るのは難しいわな」

 

 五右衛門が呟くけど、下京って、小市民の人たちの誰かが事件に関わってるってこと?

 

『自チームのサインを、敵に教えているスパイがいるってことだね』

 

 イシイの嘆息に、私は拳を握る。

 事件の輪郭が、少しずつ見え始めていた。

 

 *** 

 

 京の夜は、文字通り底冷えがする。

 特に冬が近づくこの季節は、息を吐くたびに白く濁り、手足の先から体温が容赦なく奪われていくのがわかる。

 

「……光秀さん、無理しすぎ! ほら、貞勝さんのところで炊き出しのついでに握ってきた特製おにぎり! ちゃんと食べて!」

 

 私は四条付近の木戸番の小屋に潜伏している光秀さんに、竹の皮で包んだおにぎりを差し出した。

 

 光秀さんは深く編み笠を被り、山積みになった通行記録の木簡を、血走った目で一つ一つ照合している最中だ。

 

「……ありがとうございます、真昼殿」

 

 光秀さんはおにぎりを受け取ったけど視線は記録から外れない。

 この人、おにぎりを記録の一部だと思ってるんじゃないかな。

 するとイシイがふわりと浮かび上がり、光秀さんの手元を覗き込んだ。

 

『ねえ十兵衛君。普通のスコアブックってさ、書く人の癖が出るんだよね。疲れた時は字が崩れるし、雨の日は墨が滲む。眠い夜なら、時刻の線も曲がる』

 

「……何が言いたい」

 

『綺麗すぎるんだよ、この木戸の記録だけ』

 

 光秀さんの手がピタリと止まった。

 他の木戸の記録は、墨の濃淡も、筆跡も、時刻の記し方も微妙に乱れていた。眠気のせいか、端の文字が潰れているものもある。

 

 でも、ある木戸の記録だけは違った。

 

 文字が均一すぎて、墨も綺麗。

 時刻の間隔が、まるで定規で測ったみたいに揃っている。

 

「……これは記録ではない」

 

 光秀さんの声が、氷のように冷えた。

 

「後から作られた答案だ」

 

 光秀さんはさらに木簡をめくる。

 

「ここの木戸番。失踪者の最後の足取りが集中している木戸筋と一致する」

 

「じゃあ、そこに犯人が⁉」

 

「まだ断定はできません。証拠が足りない。記録が偽造されているとしても、誰を、いつ、どうやって運び出したかが見えない。この目で目撃せねば!」

 

 光秀さん理知的なのはいいけど、このままだと本当に壊れちゃいそう。

 行方不明事件で新たな被害者出てないのは、私たちの行動が読まれてる可能性もある。

 なら、次に相手側がするのは邪魔な光秀さんを消すことじゃないかな?

 蛇石事件の時のように。

 

「光秀さんも命を狙われてるんだから気をつけて」

 

「ここならすぐに大通りに出れるので、襲撃者も考えるでしょう。その心配は大丈夫です」

 

 さすが光秀さんだなあ。そこまで考えてるとは。

 でも、悪党の思考回路を舐めてはいけないぞ。

 

「そういや私、小さい頃に誘拐されそうになったことあったっけ。両親にやられた恨みを晴らすためっていう理由で。まあ、ランドセル顔面にぶつけて返り討ちにしたんだけど」

 

「家族を狙う?」

 

「そうです。光秀さん、玉ちゃんっていう娘さんいましたよね? 連絡きちんとしてます?」

 

「真昼殿……娘の護衛頼めるだろうか」

 

「了解です! 任せてください!」

 

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