なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
明智玉は侍女を連れ、京の町を歩いていた。
目的は仕事が忙しい父・光秀へのプレゼントだ。
「お嬢様、あちらに南蛮の石を扱ってる小間物屋がございます」
侍女に言われ、店先を見ると赤や青に輝いた宝石が並んでいるのが見えた。
「うーん。高いわね」
玉は目を細めて呟く。
買えない額ではない。
「偽物ね。全部日ノ本の職人が作ったんじゃないかしら? 価格が半分なら適正だと思うけど」
誰にも聞こえないようにボソッと呟く玉。
染料が日ノ本の植物と同じだと、見る人が見ればすぐに気づく出来栄えなのだ。
こういう商売は最近増えてるが、真贋の区別をつけて売れば良いのにと思っている。
ただ、需要があって流通している以上、厳しい取締をしても欲しがる人たちの不満は募るだろう。
空前の大ブームを起こしている茶器や金属バットのように、いずれ真贋の価値で日ノ本産が暴落して手頃な価格になるはず。
そうなったら買ってもいいが、今は買う気にならない。
「別の店に行きましょう」
玉が侍女に言い、歩き出した直後だ。
「お嬢さん。……もっと綺麗な、本物の南蛮の宝石を欲しくはありませんか?」
女性が近づいて来て、玉に親しげに微笑んだ。
「あなたは?」
「ごめんなさい。お嬢さんが偽物じゃ満足できない目をしていたから。ここにいけばこれと同じような本物が手に入るわ。しかも、さっきのお店とお値段変わらず」
女が赤く輝く宝石をそっと見せてくる。
「凄いですねお嬢様。先程のお店で見た輝きと雲泥の差です」
「ええ、たしかに本物だわ」
玉も目を輝かせる。
これだ。この本物を父にプレゼントすれば喜ぶに違いない。
「はい、これが地図。みんなには内緒にしてね」
女は唇に自身の右手人さし指を当ててウインクする。
「どうして内緒ですか?」
「数が少ないし、まだ真贋の区別つかない人たちだらけだもの。だからわかる人だけに教えたいの」
女の説明に玉は納得した。
たしかにさっきの小間物屋の宝石で喜んでる人たちに、本物を売っている場所を教えて得する理由もない。
「お嬢様、数が少ないなら急いで行きましょう!」
「そうね。ではさっそく……」
「……ストップ、ストップ!」
そこで私が玉ちゃん発見して、腕をガシッと掴んでいく。
「えっと? 真昼様?」
「はい。お父さんの同僚の長谷川真昼です。玉ちゃん、怪しい人の誘いに乗っちゃ駄目!」
「怪しいとは? 親切な人でしたが?」
侍女さんも困惑してるけど、親切=善人は甘い、甘すぎる考えだよ。
「お嬢ちゃん、飴玉あげるよって作戦だよ今の。私とお姉ちゃんが何度引っかかって、犯人ボコったことか。……って、違う。ほら! 今の女の姿消えちゃってるし!」
「引っかかってボコった、というセリフが引っかかるんですが? でもたしかに女の人の姿が見えません」
「でしょ! 五右衛門!」
私は玉ちゃんを無事にゲットし、裏道で待機していた五右衛門に合図を送った。
「さっきの女の人の身辺調査と尾行、お願い!」
「任せとき、姉ちゃん。ワイの目を誤魔化せる奴は京にはおらんよ」
***
数時間後。調べ終えた五右衛門の報告に、私は身を乗り出した。
「姉ちゃん、ドンピシャや。あの女の名前はお清。木戸番の佐吉の妻や」
「木戸番? ……やっぱり!」
私は玉ちゃんが貰った地図を見る。
光秀さんが疑っていた木戸番が一番近い場所だ。
「ただし、まだ決め手にはならん。証拠はゼロや。現状やと、失踪した女性たちは力ずくで拉致されたんやなく、自分自身の意思でそこに向かっていたかもしれんてだけや」
「だから、誰も攫われる瞬間を目撃していなかったってなるね」
番小屋で眠り薬を盛られ、意識を失ったところを別のところに運ぶ?
でも、その目撃情報がないとおかしい。
私は玉ちゃんに話しかけてきたお清さんという女の人のの顔を思い出す。
特別凶悪な顔つきをしているわけでもなく、凄みも後ろめたさもなかった。
無邪気に純粋に、本物の南蛮宝石を教えていただけのように見えた。
「……なんか悪い人に見えなかったね。あの人も利用されてるのかも」
私がポツリと呟くと、五右衛門が鼻で笑う。
「悪い顔した悪人なんてそうそうおらんわ。善人顔の悪人が9割9分9厘よ」
「だね。無論私は1厘のほうだけど。今のは花の一輪と掛けたんだけどわかる?」
「さて、この件を村井のおっちゃんと光秀さんに報告や。姉ちゃんは玉さんの護衛頼んだで」
「ちょっとちょっと、ボケたんだからツッコんでよ。それが仕事でしょ?」
「なんやボケの花のことか。それならわかるわ」
「どういう意味かな? 五右衛門?」
私のとびっきりの笑顔に、五右衛門はささっと消えていくのだった。
私が消したわけじゃないぞ?
***
五右衛門の報告に、御所で事件の概要を整理していた村井貞勝は立ち上がり、木戸番・佐吉の区間を集中的に調べ始める。
「あった。これだ」
「なんや、なんか怪しい証拠あったんか?」
貞勝が持っている書類を五右衛門が覗き込むが、それは行方不明事件とは一見すると無関係な喧嘩の記録だった。
「ただの喧嘩で、役人が到着する前に当事者たちは去っていたが、喧嘩していた連中、牢人の風体だが大きな特徴が一つあった」
「特徴? 刀の切傷とかか?」
「……豊日訛り」
貞勝の囁きに、五右衛門の顔色が変わる。
「バハンの巣が仰山あるところやないか! ほな、光秀さんの命を狙い、娘を拐かしてるってのは……」
「ええ。バハンと南蛮商人が手を組んだか、あるいは元々結託している両者による光秀殿への復讐でしょう」
「……あかん! こっちが佐吉とお清に目ぇ付けたなら、向こうの取る手段は一つしかない!」
「実力行使。……五右衛門、至急真昼殿と光秀殿へ報告を! 私は藤孝殿に助勢を頼みます!」
***
京の路地で木戸番を見張っていた光秀に、突然の殺気が舞う。
――ヒュンッ!
四方八方の屋根から、黒装束の刺客たちが現れたのだ。
「……何者だ。なぜ私の命を狙う」
光秀は刀に手をかけ、冷徹な視線を向けるのを刺客の一人が冷たく嘲笑した。
「仇討ちじゃ。仲間ん、な」
「……豊日訛り。貴様ら、バハンか」
光秀さんの即答に、黒装束たちは失笑した。
「分かったかえ? おまえが今から死ぬ理由がよ」
「ああ、理解した。貴様らが悪だということをな!」
叫び、刀を抜く光秀さんに黒装束たちは嘲笑う。
「命だけじゃねえ。おまえん名誉も、まとめて貰うちょくわ」
刺客が光秀さんの足元に放り投げたのは、見覚えのない書類の束だった。
「明智十兵衛。おまえがここで死んだ後、おまえこそがこの人売りん首謀者じゃったっちゅう証が、京中にばら撒かれる段取りになっちょる」
「なっ……!」
「南蛮文化ん取り締まりを名目にしちょったが、その実、裏じゃ南蛮商人と手ぇ組んじょって、女どもを売り飛ばし、腹ば肥やしちょった……そういう筋書きじゃ」
書類には光秀さんの筆跡を模写した捏造書類と、ペレイラへの依頼状に酷似した偽文書が含まれていた。
光秀の顔が、さあっと青ざめる。
自分が物理的に排除されるだけでなく、京の秩序を乱した外道の大罪人として歴史に永遠に刻まれる。
「ふざけた真似を……!」
怒りに身体を震わせる光秀に、さらに刺客は残酷な事実を告げる。
「今頃、おまえん屋敷にも、わしらん仲間が向かっちょる。おまえん愛娘も、異国じゃ高う売れるじゃろうのう」
「き、貴様らァァァッ!」
「そうじゃ! その顔じゃ! それが見たかったんじゃ!」
牢人らの煽りに、光秀は激昂と共に刀を抜いた。