なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第174話 長谷川真昼、天王寺に駆ける

 原田直政の討死により戦線が崩壊したことで、明智光秀、長岡藤孝、佐久間信栄が立て籠もる天王寺砦も全滅寸前にまで追い込まれた。

 

「くそっ……! 矢玉も兵糧も、もはや底をつくぞ!」

 

 信栄が焦燥に駆られた声を上げ、砦の中は負傷者が溢れ、うめき声が充満している。

 藤孝は冷静さを保ち、金属バットを握って兵を鼓舞しているが限界は近い。

 

 光秀の肩先で、イシイがぼんやりとした光を放ちながらぽつりと言った。

 

『十兵衛君。敵さん、僕たちを全滅させるなら総攻撃のチャンスは何度もあったのに、しなかったね』

 

「……たしかに」

 

『まずったね。僕が援軍を呼ぶ光を放ったことで、敵さんは天王寺砦を餌にする策に変えたのかも。援軍が来るならどのくらい?』

 

「すぐなら3千が限度だろう。ひと月あれば、1万以上集まると思うが」

 

『3千なんて、頼廉と孫一にやられるだけ……困ったね』

 

 光秀は目を細め、砦の外を囲む軍勢の向こう側を睨んだ。

 ツルオカ、ポッポ、ノビタ。本願寺側の英霊たちが描いた罠。

 敵はこの機を逃さず、織田を各個撃破する態勢を取ったのだ。

 すぐに来れば踏み潰す。来ないと見れば、天王寺砦を陥落させる。

 

「最悪の二択だが、我らが助かる道は早期援軍到着しかない。だが……賭けるリスクが高すぎる」

 

 光秀は血の滲む拳を強く握りしめた。

 

 ***

 

 天王寺の危機を受け、近隣の織田方諸将に緊急の救援命令が飛び、続々と諸将が集まる。

 羽柴秀吉さん、丹羽長秀さん、滝川一益さん、稲葉一鉄さん、蜂屋頼隆さん、松永久秀さん。

 面子だけ見れば豪華だ。けれどこの緊急事態。みんなすぐに全軍招集できず、半兵衛君の読み通り総兵力3千のみである。

 

「村重はどうした?」

 

 若江城で信長様が問うと、長秀さんが苦渋に満ちた顔で告げる。

 

「木津川口に、毛利水軍が現れたとのこと。そちらを対処しておきますと返事がありました」

 

「妙でござるな。右近殿や清秀殿に任せればいいものを」

 

 一益さんが渋い声で呟くも、信長様は「よい。この面子で十分だ」と立ち上がった。

 

「作戦は一点突破のみ。天王寺砦へ風穴を空けてください。中央突破し、乱戦になれば雑賀衆の鉄砲隊は無効化できます。勝機はそれしかありません」

 

 半兵衛君の言葉に私たちも立ち上がる。

 綿密な策も入念な準備もない、突然時限爆弾を指定時間以内に解除せよと言われたかのような緊張感。

 全員が、生きて戻れるかもわからない戦いが始まる。

 

「真昼……」

 

 出陣する間際。秀吉さんが神妙な顔つきで話しかけてくる。

 

「信長様の側を離れないように」

 

「……はい!」

 

 どうしたんだろ? 秀吉さん、いつになく真面目だったな。

 元々真面目な天女様だけど。

 すると久秀さんも声をかけてくる。

 

「クックック、儂が頼廉や孫一なら信長様を狙う。秀吉殿はそれを懸念しておられるようで」

 

「あ、なるほど。さすが久秀さん。……って! それ、信長様の側が一番死亡リスク高いってことやないかーい!」

 

「真昼殿なら大丈夫でしょう。なあに、儂も側にいるからご安心を」 

 

「ありがとうございます、久秀さん。久秀さんがいるなら、めっちゃ心強いです」

 

「クックック。信長様が死ぬなら、特等席で見たいですからなあ」

 

 ……前言撤回。このおじいちゃん。相変わらずヤバすぎる。

 それ、自分も死ぬかもしれないのに。

 

 こうして私たちは馬を走らせ、天王寺砦の目前まで着いた。

 地平線を埋め尽くす、本願寺と雑賀の連合軍。

 でも、先頭を走る信長様は馬の歩みを緩めるどころか、さらに加速させた。

 

「俺に続けェ!」

 

 センイチも、燃え盛るように吠える。

 

『こんな格言が野球界にある。困ったらど真ん中ストレートよ!』

 

 私も馬上からバットを振り回し、襲い来る門徒兵の槍をカキィンと弾き飛ばす。

 

 秀吉さんも優雅に舞うように敵兵を弾き、一益さんも忍術駆使して撹乱していく。

 

「おうりゃああああ! 若いもんに負けてたまるかぁぁ!」

「クックック。それはその通りよ」

 

 一鉄さんも、久秀さんも雑兵をものともせずに倒していく。

 

「十兵衛め! 利三と心中なんて許さんぞ!」

 

 ……うん、動機はともかく一鉄さんのパワーが極限まで引き上がってるよ。

 

「信長様を守りながら進め!」

「鉄砲隊に注意せよ!」

 

 長秀さんに頼隆さんも、理知的に全軍に檄を飛ばす。

 

「敵は前後左右にいます! 囲まれる前に進軍を! 止まってはいけません!」

 

 半兵衛君もモリミチの鉄壁を発動させながら、声を張り上げる。

 

 いける。こっちの数は少ないけど、門徒兵より練度が高い。みんな無駄な動きをせずに戦っている。

 ん? あれは……火縄銃の銃口?

 

 乱戦が続く戦場から少し離れた小高い丘で、雑賀衆の鈴木孫一が冷徹な目で戦場を見下ろしている。

 

「……来たな、信長。ったく、舐められたもんだ。この俺が、乱戦だからって引き鉄弾かないとでも思ったか?」

 

 孫一の肩で、銀色のオニヘイが低く告げる。

 

『今が好機だ。芯を撃て』

 

「了解だ。あばよ、信長!」

 

 孫一は火縄銃を構え、照準を戦場のど真ん中を駆け抜ける信長様の胸元へとピタリと合わせた。

 

「信長様!」

 

 気づいた私が馬から飛び降り、信長様へタックルをかます。

 

 ――バチィッ!

 

 直後、空気を裂くような銃声が響き渡り、信長様の身体をかすめ、具足の端を吹き飛ばした。

 

「……っ」

 

 信長様の足から、赤い血が流れ出す。

 大将の負傷に突撃していた織田兵たちが一瞬凍りつき、敵の歓声が沸き上がる。

 

「今ぞ! 信長の首を獲れ!」

 

「させるかぁぁぁぁぁぁ!」

「全軍、信長様を囲め。敵の槍を跳ね返せ!」

 

 勢いづく本願寺勢だったけど、一鉄さんが縦横無尽にバットを振るい、半兵衛君が指揮を振るい、なんとか互角の攻防で踏ん張る状況に持っていく。

 

「信長様! 大丈夫ですか⁉」

 

 私が傷口を押さえようとすると、信長様は顔に跳ねた泥と血を乱暴に拭い、立ち上がった。

 

「かすり傷だ。……全軍、進め!」

 

 痛みを微塵も感じさせない信長様の咆哮に、味方の兵たちが再び猛然と前進を開始する。

 センイチが空中で激しく明滅し、吠えた。

 

『この馬鹿が! 小娘がおらんかったら死んでおったぞ!』

 

「なあに、いたんだから生きてる。つまり、俺の勝ちよ。さあ、行くぞ! 天王寺砦解放までもう少しだ!」

 

 足から血が噴出しているのに、全速力で走っていく信長様の命を賭した突撃により、ついに本願寺勢の包囲網にほころびが生まれる。

 

「クックック、天運は信長様にあり! 門徒を狩る好機ぞ!」

 

 久秀さんの下知により、さらに本願寺勢は恐慌状態に陥った。

 

 小高い丘で、再び狙撃する構えをしていた孫一だったが、火縄銃を縦に持ち立ち上がる。

 

「ちっ……千載一遇を逃したか。半兵衛の守備シフト、邪魔だぜ。……退くぞ。この戦、信長の勝ちだ」

 

「待て、孫一! 数は我ら本願寺が上ぞ!」

 

 雑賀衆率いる孫一の撤退指示に、雑賀衆の1人、土橋平次が反発し、火縄を放つも弾丸は坊主の頭に命中してしまう。

 舌打ちする平次に、孫一は怒りを込めた瞳をぶつけていく。

 

「我ら本願寺? 勘違いするなよ平次。我らは雑賀衆だ。お前の腕じゃ、坊主の死体を増やすだけよ」

 

 撃ち殺しかねない孫一の雰囲気に、平次は言い返せない。

 

「調子に乗るなよ。孫一」

 

 誰にも聞こえぬように呟く平次だったが、孫一らと共に撤退していった。

 

 これで戦局は一気に織田に傾いた。

 

「今しかない! 挟み打ちにするぞ!」

 

 砦の中から、光秀さんたちが突撃を開始。

 

「一点突破にしてやられたか。信長め、よもや大将が猪武者をするとはな」

 

『喝だ! ……これが織田と本願寺の差だな。顕如が出陣していれば兵の士気が違っただろうに……』

 

「顕如様を討ち死にの危険に晒すわけにはいかぬ。まだ、勝負はついていない。石山で持久戦に切り替えるぞ」

 

 本願寺の将、下間頼廉とポッポも天王寺砦を諦め、石山へと撤退していく。

 そこで頼廉は、撤退する兵の数を見て愕然とした。

 

「3割以上やられただと? ここまでの大敗だったとは……!」

 

 屈辱を怒りに変え、頼廉は猛スピードで馬を走らせた。

 

「光秀さん! 遅くなってごめん!」

 

「信長様……真昼殿……! またそのような無茶を……!」

 

「良かったよ〜、間に合って!」

 

「無事で何よりだ。十兵衛」

 

 信長様の血だらけの足を見て、光秀さんの顔色が変わる。

 

「此度の御恩。生涯かけてお返しいたします!」

 

「相変わらず真面目な男よ」

 

 信長様が笑みを浮かべ、ここに天王寺の戦は織田軍の辛勝で終わった。

 けれど代償は大きい。

 原田直政さんの死に、信長様の負傷。

 さらに——

  

「申し上げます! 毛利水軍、木津川口に集結! 本願寺に加勢を明言しました!」

 

 勝利を吹き飛ばす悲報が、私たちの許に届いた。

 

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