なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

175 / 176
第175話 長谷川真昼、毛利水軍に大敗する

 木津川口に毛利水軍到来の報を受け、信長は天王寺砦救援の戦線に間に合わなかったが、無傷の兵を率いて合流してきた佐久間信盛に先鋒を任せ、荒木村重と合流、陸地から毛利水軍の進撃を阻もうと試みる。

 ——も。

 

「おお! なんという数!」

 

 信盛の目に飛び込んでくるのは安宅船を中心に編成された、大小800艘の艦隊。

 悠然にして雄大に、我が物顔で大坂湾を埋め尽くしていた。

 

「村重殿、そなたは毛利に怪しい動きがあったと信長様に報告したそうだが、船はいかほど用意したのだ?」

 

 信盛の慌てる声に、村重は淡々と答える。

 

「真鍋七五三兵衛殿らに任せ、およそ300艘」

 

「……半分にも満たぬではないか」

 

「仕方がありますまい。時間も足らなかったゆえ」

 

「ともかく、港だ。港を封鎖するぞ。連中を陸地に近寄らせるな!」

 

 信盛が下知した直後、後方の陣から悲鳴が上がる。

 

「申し上げます! 本願寺の本多正信率いる部隊が奇襲! 火攻めにより陣形が乱れておりまする!」

 

「なんだと?」

 

 信盛はチラッと村重の顔を見た。

 ずっとここにいたのに、敵の動きを察知していなかった顔ではない。

 まさに無表情。

 いつもの自信に満ちた顔ではないのは、状況が状況だから当然。

 しかし焦りの色がないのはなぜだ?

 不気味な冷や汗が信盛の背中に流れた。

 

「信盛殿、迎撃を」

 

「……うむ。真鍋……毛利水軍を任せたぞ」

 

 迎撃に出る信盛と村重だったが、正信は火攻めで織田方を足止めし、火が消えれば別のところに火を放つ作戦で撹乱していく。

 

「僕らがここで勝つ必要ない」

 

『うん。足止めで十分さ』

 

 正信の横で、英霊ボール『ノビタ』が言い切る。

 

「ああ、いい気分だ。信盛は僕たちが撹乱しているだけだとわかってるだろう。でも、火は消さなければ燃え続ける。対処するしかあるまいさ」

 

『油断しちゃ駄目だよ。織田本隊が合流したらひとたまりもないんだから』

 

「わかってるさ、ノビタ。でも、織田本隊が来るより先に毛利水軍が役目を果たしてくれるだろうよ」

 

 正信が海を見渡す。

 そこに、巨象に挑む蟻の艦隊が見える。

 

「さあ、虐殺返しの始まりだ」

 

 ***

 

「よいか、我らの役目は織田との戦ではない。本願寺に物資を運ぶことである。その旨を忘れるな」

 

 毛利水軍の総大将、乃美宗勝が迎撃に来る織田艦隊を見下ろしつつ告げる。

 彼の肩に乗るのは毛利が誇る英霊ボール6球の一つ『ミムラ』。

 

『ミハラさんやコバさんから口酸っぱく言われてるけえ、みんな理解しとるわ。なあ、アニキ?』

 

 ミムラに言われ、毛利水軍の中核を担う村上武吉の肩に乗る英霊ボール『アニキ』も頷く。

 

『陸地で戦したら、遠征のこっちが不利って話じゃ。ったく、オガタが尼子遺臣に手こずってなきゃ、決戦に持ち込めたのにのう』

 

「だがよ、宗勝のダンナ。あの織田水軍とかいうゴミの群れはどうするよ? 無視すんのも可哀想だろ?」

 

 武吉の発言に、宗勝はただこう返すのみ。

 

「立ち向かう度胸は認めよう。褒美を上げてやれ」

 

「フフフ、了解」

 

 不敵に笑う武吉と宗勝に、ミムラとアニキも赤く光って毛利水軍全体にバフを与えていく。

 

 ミムラの得意とする小技が船団をミリ単位で動かし、アニキの鉄人付与が痛みを耐え抜く防御を可能とする。

 

『ミムラさん……こうしてまた一緒に戦えるなんて、儂、感無量じゃけえ』

 

『アニキよ、泣くのはあとにせい。……ちゅうか、儂がお前をアニキって呼ぶのおかしくねえか?』

 

『儂に言われても困りますわ』

 

 英霊ボール呼称に少し愚痴を零しつつも、毛利水軍800艘が織田水軍300艘に襲いかかっていった。

 

「炮烙玉を放て。織田水軍を一匹たりとも陸地に返すな」

 

 武吉の下知に、毛利の船から陶器の中に油の染み込んだ火を入れ、縄で遠心力をつけた黒い塊が次々と織田水軍に命中していく。

 

「火を消せ! ここは海ぞ! 火攻めに意味があるものか!」

 

 絶叫する真鍋だったが、火は消えない。油の染み込んだ火玉は木製の安宅船を次々と炎上させていく。

 

「駄目です! 消せません!」

 

「おのれ! こっちも火矢を放て! せめて道連れにしてやるわ! ぐわっ!」

 

 真鍋は意地を見せつけようとするも、炮烙玉が直撃し、全身が炎に包まれ、堪らず海水に飛び込むも二度と浮かび上がってくることはなかった。

 

 こうして大坂湾・木津川口は、瞬く間に織田水軍300艘のみが紅蓮の炎に包まれていったのである。

 

 ***

 

 私たちが木津川口に到着した時、すべてが終わっていた。

 海が赤く染まる中、悠然と石山に向かう毛利水軍を横目で見つめることしかできない。

 

「これはまた、完膚なきまでの全滅ですな」

 

 松永久秀さんも嘆息して、海を見つめる。

 

「生存者は?」

 

 半兵衛君が合流した信盛さんに訊ねるも、無言で首を横に振られるのみ。

 

「忌々しいが、元来瀬戸内を掌中にしているのは毛利水軍よ。輝元め、ここで本願寺に与するか」

 

 信長様も足の包帯から血を滲ませているのに、馬上から赤い海を眺めていく。

 

 すると海に炎以外の赤く光る球体が見え、センイチも真っ赤になって吠えだした。

 

『おいコラアニキ! おまっ、儂の説得でカープからタイガースに来たやろ! 戦国でもそうせんかい! ドンデンだってこっち側におるんやぞ!』

 

 センイチの激昂に、アニキとやらは冷静に返してくる。

 

『センイチさん、儂はあんたにもドンデンさんにも感謝してるけえ。けれど儂は生まれも育ちもカープ! 故郷を守るのが戦国での儂の使命じゃけえ!』

 

『……ぐっ!』

 

 アニキの正論すぎる一言に、さすがのセンイチも黙るしかない。

 

「退くぞ。これ以上は無意味だ。右衛門尉(信盛)、村重」

 

「「はっ」」

 

「引き続き石山を包囲せよ」

 

 そう告げ、信長様は一旦安土への帰還を決めた。

 

「久助(一益)」

 

「はっ」

 

「嘉隆を志摩から呼んでこい」

 

「……承知したでござる」

 

 続いて信長様が発した声に、聞いた私たちの心音が高まる。

 九鬼嘉隆さんを呼ぶ。それは今回の復讐戦、及び瀬戸内の覇権を海から決める意思を信長様が示したからだ。

 

 私は燃え落ちる船の残骸を見つめながら、戦国の海に沈んだ命の重さと、ついに始まった西国の覇者毛利との戦いに武者震いを感じた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。