なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第176話 長谷川真昼、敗戦処理をする

 木津川口での戦いにより、天王寺砦攻防戦の勝利は吹き飛び、石山に籠る本願寺も物資が届いたことによって、陸地を包囲されてもノーダメージという再び対本願寺戦線は長期化の様相を呈していた。

 

 建設が進み、町として機能しだしたけどまだ城が完成していない安土の仮陣所。

 上座に座る信長様の許へ、3人の男が呼ばれていた。

 

 1人は信長様が一益さんに言って志摩の海から呼び寄せた九鬼嘉隆さん。

 すでに、自分が対毛利水軍の総大将に選ばれると自覚しているのだろう。

 表情は固いけど、彼の懐から見える英霊ボール『ボビー』とともにやる気に満ちている。

 

 もう1人は岡部又右衛門さん。

 こっちはちょっとムスッとしている。

 安土城建築スケジュールが詰まってるのに呼びやがって、という不満が顔に出ているよ。

 

 さらにもう1人、この人は私の予想外。

 めっちゃ久しぶりの登場の、近江で巨大鍛冶場を運営する国友善兵衛さんだ。

 こっちもこっちで、納期の鉄砲と金属バットの生産間に合わなくなったらどうしてくれるんだよ、って顔で腕組みしてるよ。

 

「さて、木津川口でのことは聞いているな」

 

 信長様の開口に場が重くなる。

 畿内織田水軍全滅は制海権が奪われたに等しいから。

 

「はっ。存じております」

 

「嘉隆が指揮し、勝てるか?」

 

「必ず勝つ! と、断定はできませぬ」

 

 信長様の質問に嘉隆さんは苦渋を滲ませた表情で答え、聞いていた諸将から動揺が漏れる。

 せっかく信長様が任せるために呼んだのに、その態度はなんなんだという雰囲気が溢れてくる。

 一益さんがスッと嘉隆さんを弁明しようと立ち上がりかけるが、半兵衛君が制す。

 

「なぜ、勝てぬと?」

 

「毛利は小早川水軍、村上水軍を率い、瀬戸内を中心に海戦経験が豊富。さらに此度の戦で使用した炮烙玉。例え敵と同じ以上の船を用意しても、炮烙玉の餌食になるだけです」

 

「ならばこちらも、炮烙玉を用意すればいいではないか!」

「左様。資金力はこちらが上。嘉隆! 貴様は臆病風に吹かれておるな! 信長様、嘉隆ではなくそれがしにお任せを!」

 

 聞いていた稲葉一鉄さん、若狭水軍の将である逸見昌経さんが激昂するも、嘉隆さんは冷静に返す。

 

「炮烙玉を命中させる技量を、末端隅々まで仕込むのに数年は必要。逸見殿、たしかに俺は臆病だ。海は一瞬の隙で仲間を全滅させちまう。そうさせぬために、考え抜くのみよ」

 

 嘉隆さんの反論に、昌経さんが言葉に詰まらせる。

 うんうん。海は怖いもんね。私も何度か海戦したけど沈没を経験してないの嘉隆さんのおかげだし。

 

「見事だ嘉隆。だから俺は貴様に任せたい」

 

「はっ。死力を尽くし、勝ち筋を見つけましょう」

 

 平伏する嘉隆さんだったが、それをまだ早いと頭を上げさせていく。

 

「嘉隆、必ず勝てる策を与える。岡部又右衛門と国友善兵衛! 嘉隆に協力せよ!」

 

「はあっ⁉ 安土城はどうするんだよ、信長様!」

 

 まさかの信長様の発言に、又右衛門さんが噛み付く。

 そりゃそうだよね。安土城完成に生涯捧げる感じで頑張ってたのに。

 

「もう又右衛門がやれる仕事は終わっただろう。あとは五郎左(長秀)に任せよ。それにこれは、貴様にしか頼めん仕事よ」

 

「ええ。又右衛門殿、安土城はお任せを。きっと次の任務、あなたなら気に入ると思いますよ?」

 

 長秀さんがにこやかに告げると、又右衛門さんは「けっ」と言いつつも、信長様の『貴様にしか頼めん』と言われてご満悦だ。

 職人魂、チョロいな。

 

「おいおい、要は船造りだろ? 嘉隆と又右衛門はそっちのプロだ。呼ばれるのはわかるがよ。俺を呼んだ意味は何だよ。俺は鉄のプロであって船造りのプロじゃねえぞ?」

 

 困惑声を出す善兵衛さんだったけど、次の信長様の言葉に、もっと困惑な声を嘉隆さんと又右衛門さんと一緒に出すことになる。

 

「それよ。善兵衛、船を覆う鉄を作れ」

 

「「「はあっ⁉」」」

 

 おお、綺麗に3人ハモったよ。

 他の諸将たちからもどよめきが起こる。

 船に鉄? 信長様は何を言ってるのだと思考が追いつかない様子だ。

 

「木造だから炮烙の餌食よ。なら、鉄で船を覆えばいい。何か矛盾があるか?」

 

「ただ鉄を覆えば重さで船は沈むでしょう。それを嘉隆殿、又右衛門殿、善兵衛殿で協力し、沈まぬよう設計してください」

 

 半兵衛君の締めの言葉風の無茶振りに、さすがに嘉隆さんたち、ブチギレるんじゃないかとソワソワしていると、豪快な笑い声が4つ響いてくる。

 

「面白い! やってやりましょう! この九鬼嘉隆! 全身全霊を込めてこの事業を成功させてみせます!」

 

『hey嘉隆。マリーンに鉄を並べる。これ、男のロマンね!』

 

「ちくしょう。安土城も無茶振りだったのに、まさかそれ以上を用意するのかよ。信長様、俺はあんたに仕えてよかったと心の底から感謝してるぜ!」

 

「ったくよ。俺を呼んだのそういうわけかい。船に巻く鉄を作れ? 上等だ。やってやんよ!」

 

 うんうん、みんな燃えてるね。

 信長様、こういうプロジェクト考えて適材適所で任せるの上手いなあ。

 私はあんまり役に立てないけど、応援が欲しければ呼んでね嘉隆さんたち。

 造船現場でチアダンスしてあげるから。

 

 ***

 

 安土で次なる戦いの準備が進む一方、大敗の余波をモロに受けて火の車になっていた場所がある。

 政治と経済の中心、京の都だ。

 

「ホッホッホ、公家衆の中には、これからは毛利に媚び売ろうと考えておるもの多いどすなぁ」

 

 京都所司代、村井貞勝を訪ねて来たのは朝廷の中心人物、近衛前久。

 それともう1人。

 

「商人の間でも、堺はどうなるんだ? 瀬戸内を封鎖されたら商売上がったりだという声が漏れております」

 

 京の大商人である立入宗継だ。

 

「戦は兵家の常。いっときの戦局で判断されては困ります。……と言いたいですが、1日1日の生活が大事なのが市井の声。税負担を軽くし、銭の流れを止めぬよう尽力します」

 

 貞勝の毅然とした対応に、前久と宗継が顔を合わせて驚く。

 敗北した政権が取る一手は税率を上げることが多い。

 それを真逆にするだけで、織田は安泰と印象づける操作を貞勝は平然とやってのけたのだ。

 

「銭集め、足りひんちゃいますか? 志摩でビッグプロジェクト始まると聞いてはりますが?」

 

「ご心配ありがとうございます、前久様。銭については問題ありません。この時のための楽市楽座」

 

 去っていく貞勝の後ろ姿を見ながら、前久は心の中で思う。

 

(1日続くだけで織田は大ダメージや。はてさて、この難所いつまで持ちこたえられますかな? 信長はん)

 

 安土の執務室でも、半兵衛君が恐ろしい速度で筆を走らせ、各地へ書状を飛ばしていた。

 彼の手元にあるモリミチが、守備位置を細かく調整するように点滅している。

 

「真昼殿。戦というものは、敗北そのものより、敗北を聞いた味方の心が崩れることの方が怖いのです」

 

「……だから、情報が広がる前に先手を打ってるの?」

 

「ええ。ですが、西国方面は私が直接手を出さずとも、すでに彼が動いてくれています」

 

 半兵衛君が示した書状の差出人は黒田官兵衛さん。

 播磨で毛利の防波堤となっている若き天才軍師の手紙には、播磨周辺の国衆をすでに牽制し、毛利の東進を抑え込んでいる旨が書かれていた。

 

『ここで慌ててはいけません。これ以上の失点を防ぐ守備固めや、エラーした後の味方の鼓舞こそ、我らの役目』

 

 読み終わった半兵衛君は、少しだけ安堵したように微笑んだ。

 戦は、グラウンドの上だけで終わるわけではない。

 情報と補給、そして人の心を操る戦いが激しく交錯しているのだ。

 

 ***

 

 伊勢志摩に向かう途上、岡部又右衛門は脳内で燃えぬ船の設計図を必死に構築していた。

 

 彼の乗る籠の背後から、音もなく忍び寄る何者かの冷たい視線があることに気づかずに。

 

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