なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第181話 長谷川真昼、秀吉と勝家の対立に挟まれる

 上杉謙信の軍勢が能登・七尾城を包囲したという急報を受け、私は久太郎君たちと越前・北ノ庄城の権六おじさまのところへ馬を急がせていた。

 

「秀吉さん、もう着いた頃かな? 長浜で合流できるかと思ってたからビックリだよ」

 

 信長様の命令が届いた時には、すでに出陣準備完了ってさすが秀吉さん。

 このスピード感、織田家で信長様の次に凄いかも。

 

『信長が即断即決即行動なら、秀吉は来た球に即反応してキャッチするタイプやな。小娘、お前も見習わんか』

 

「一言余計だよ、センイチ」

 

「……真昼様、秀吉殿は秀長殿や小六殿ら、羽柴の主力を全て投入しております」

 

 馬を並走しながら、久太郎君が声をかけてくる。

 

「うん、凄いよね、秀吉さん」

 

「軍を即展開するのに準備が必要なのは、真昼様も天王寺砦で経験済みかと」

 

「まあ、そうかも」

 

「上杉来たるで、臨戦態勢でいるのは正しいかと。……ただし、長浜をねね殿に任せ、全軍出陣は相当な覚悟がなければできますまい」

 

「それだけ、危機だって思ってることだね」

 

 私がそう答えると、久太郎君がボソッと呟く。

 

「まるで柴田殿に圧力をかけるような……いえ、礼儀正しい秀吉様が、そのようなお考えをする必要もないと思いますが」

 

「みんな色々考えてるんだね。でも大丈夫だって。秀吉さんはずっと権六おじさまを、超目上の人に接するみたいに敬ってるし。権六おじさまも、秀吉さんを丁重に扱ってるし」

 

 秀吉さんは元帰蝶様だもんね。

 斎藤道三が死んだ長良川の戦い以降、帰蝶を捨てて木下藤吉郎として足軽から仕え直した過去がある。

 清洲城時代の人たちや、道三に仕えていた美濃衆ぐらいしか知らない秘密だけど、それ以降の人たちも次々と手柄を立てても穏やかな秀吉さんを慕ってるぐらい、彼女の優雅な姿は織田家の名物でもあるのだ。

 

「今頃、権六おじさま、救援に駆けつけた秀吉さんに頭を下げてるんじゃないかな? 『ここまで多くの兵と共に来てくれて感謝する』なんて言って」

 

 そんな会話していると、北ノ庄城の輪郭がうっすらと見えてくる。

 さあ、私たちの合流もあと少しだ。

 

 ***

 

「もう一度、言ってみよ! 羽柴秀吉ィィィィ!」

 

 北ノ庄城の軍議の間、柴田勝家の激昂が響き渡る。

 上座の勝家と下座の秀吉が睨み合い、勝家には佐々成政が飛び出さないよう押さえつけ、秀吉には前田利家が押さえつけている。

 両者の間で、不破光治が「冷静に、両者冷静に」と仲裁しているが、誰の耳にも届いていない。

 

「何度でも言おう。柴田殿、七尾城救援は間に合わない。軍を進めるのは無駄だ。……進めれば、上杉に大敗して恥をかくのみ」

 

「貴様っ! 大軍を率いてきたくせに、この儂の指揮では負けると抜かすか!」

 

 前に出ようとする勝家を、成政は「落ち着け、監督」と引っ張るが、ジリッジリと逆に引き摺られていく。

 

「柴田殿の指揮が悪いなどと言っていない! 私は七尾城救援を止めよと言ってるのだ!」

 

「七尾を見殺しにして誰が織田を信じる! 武家の義が立たん! それに兵の数はこちらが上ぞ! 上杉軍も蹴散らせるわ!」

 

「蹴散らせる? 朦朧したか、柴田殿? 敵を舐めてかかるとはらしくない」

 

「な、なんだと⁉」

 

 勝家の顔色が真っ赤から闇色を纏った赤に変わる。

 

「お、おい。言いすぎだ秀吉。らしくねえ。親父殿もだ! 一旦落ち着いてくれ! 大体軍議が将の喧嘩って、兵の士気が落ちるだろうがっ!」

 

 2人の距離を取らせるべく、利家は秀吉を押すが微動ともしない。

 

(華奢な身体でどんな体幹してんだよ)

 

 利家は呆れながら、続ける。

 

「救援する、しないにしても、上杉が西上すれば戦うことになるんだ! 勝つ方法を、だな!」

 

「忌々しいが又左の言う通りよ。こうなった以上、はい仲直りの握手なんて展開は訪れねえんだぞ!」

 

 成政が懸命に叫んでいる間に、光治が勝家に轢かれ、沈黙してる。

 

「七尾城へ向かう! 臆病者は要らぬ! 全軍支度せよ!」

 

「行っても無駄だと何度言えばわかる!」

 

「黙れ秀吉! ……美濃を平定した際に、奥方へ戻ればよかったものを」

 

「親父殿!」

「監督!」

 

 利家と成政の叫びに、勝家はハッとして真っ赤だった顔を普通に戻して冷や汗をかくが「ぬうっ……」と呻くしかできない。

 謝るべきか? この北陸の指揮官は儂だ。戦う場所をどうするかどころか、戦そのものを否定する援軍の将に謝る筋合いはない。

 さらに、今の失言は本音でもある。

 才覚は認める。織田家家中になくてはならない存在だ。

 でも、なぜこいつは秀吉のままでいるのだ? いるべきは信長様の横だろう。

 脳裏に、主・信勝を裏切る決意をして那古野城で見た信長様と帰蝶様のまさに戦友という関係に、この夫婦なら天下を獲ると身震いしたものだ。

 道三の死で後ろ盾を無くし、離縁したが未だに後悔している。

 帰蝶様、奥方様のままでいてくだされ! と言わなかったことに。

 

 秀吉は無言のまま背を向け、軍議の間を後にした。

 

 ***

 

 私たちが北ノ庄城に到着した時、空気が最悪どころじゃない。

 近寄る人から笑顔を奪う空気がいたるところに流れていた。

 

 秀吉さんは即座に自軍の兵をまとめ、なんと陣を払って引き上げ始めようとしているのだ。

 

「秀吉さん⁉ どうしたの?」

 

 いつもの柔和な笑みは消え、険しい表情だ。

 

「お待ちなさい、秀吉殿。出陣支度ではないように見えますが?」

 

 久太郎君も厳しい口調で糾弾する。

 

「秀政殿、見ての通りです。私は長浜に帰ります」

 

「それがどういう意味か、わかって言っているのですか?」

 

 そうだ。無断帰陣は……。

 私が絶句していると、又左さんが血相を変えて走ってくる。

 

「おい、秀吉! どこへ行く気だ! 今ここで勝手に退けば、軍律違反で首が飛ぶぞ!」

 

 又左さんの悲痛な叫びにも、秀吉さん無言のまま。

 

「ちょっと秀長! どういうことか説明して!」

 

 秀吉さんの横で神妙にしている日本猿の秀長の首を掴んで揺らすが、まあ当然ながら奴はこうしか言わない。

 

「ウキー⁉ ……ウキ……グフ」

 

 あっ、別の鳴き声聞けたけど白目剥いて逃げやがったよ。

 え? 気絶してるだけ?

 まあ、そうとも言うね。

 

「小六さん! 小右衛門さん!」

 

 猿の秀長じゃ埒が明かない。私は秀吉さんと長い付き合いで、遠慮なく言い合える仲の2人に顔を向ける。

 

「いや、そういうがよ……」

「ああ、こんな怖い顔の大将、初めてでよ」

 

 もう! 肝心な時にあんたたちも困惑すな!

 

「おい三成! 秀吉の側近なら撤退の指示を淡々とするだけで済ますな! お前、そういうところだぞ! こういう時はなあ、秀吉と仲のいい将に仲介を求めるのがてめえの立場だろ!」

 

 又左さんの激昂に、三成と呼ばれた人は淡々と言い返す。

 

「主の意向に沿うのが我が役目。……私について利家殿は随分お詳しいようで。……聞いたのは正則からですか? 清正からですか?」

 

 秀吉さんの陣の先頭にいる少年2人が目を逸らす。

 うわあ……理詰めで逆に相手を追い詰めるタイプだよ、この子。

 でも、なんというか……カッコいい子というより可愛い子だな。

 正則君と清正君も、なんかこの子に下心ありそうだし。

 ……あれだね。衆道ってやつだね。

 てか又左さん、しまったって顔してないで言い返してくれ~。

 

 そんな気まずい雰囲気になった説得交渉。

 秀吉さんがフッと笑みを浮かべてくる。

 

「……案ずるな、又左。謙信は、これ以上深入りして来ない」

 

 秀吉さんの声の確信に満ちた響きに、私は眉をひそめた。

 

「なんでそんなこと、分かるの?」

 

 聞こえてくるのは上杉謙信上洛すっていう最悪の情報ばかりなのに。

 

「それよりも……大和だ」

 

「大和……? 松永殿がこっちに救援に向かうと書状が来たが?」

 

 困惑する又左さんに、秀吉さんはそれ以上何も語らず、本当に南に向けて軍を動かしてしまった。

 

「清正、正則。秀長様を」

 

「「おう、俺が運ぶぜ!」」

 

 三成ちゃんの指示に、少年2人が気絶している秀長を馬に乗せる。

 大事にされてるなあ、秀長。

 

「……秀吉さん」

 

 私は初めて見た秀吉さんの別の顔に、言い表せない不安と焦燥を感じていった。

 

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