なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第182話 長谷川真昼、軍神に完敗する

 秀吉さんが無断で陣を離れ、兵を引き上げた直後。

 

「刻は一刻を争う! 全軍、七尾城に出陣するぞ!」

 

 権六おじさまの号令に、北ノ庄城が揺れる。

 

「待って! 行くのはともかく、戦うのは信長様の到着を待ったほうが……」

 

 私は権六おじさまの前に立って説得を試みるけど……。

 

「手取川に着く頃に、五郎左(長秀)と久助(一益)が合流する。そこで七尾を包囲する上杉を逆包囲すれば、連中は城攻めを諦め仕切り直す。そこで信長様をお待ちすればいい!」

 

 と言って、権六おじさまは気絶している光治さんを引き摺って出ていってしまった。

 

「俺らは親父殿の命令だ、行く以外選択肢はねえ。真昼たちはどうするよ?」

「北ノ庄城で待っててもいいぜ? 信長様が来てから一緒に進軍すればいい」

 

 又左さんと成政さんに言われるも、私は即こう答える。

 

「ううん、せっかくここまで来たんだし、私も行くよ」

 

「ですね。秀吉殿の言葉の真偽も気になります」

 

 久太郎君も迷わず頷く。

 まずは七尾城、長続連さんたちの救援だ。

 

 ***

 

「秀吉殿が帰陣? まさか……」

「あの御仁が信長様の命令を守らぬとは……」

 

 加賀国の霧が覆う手取川を渡り終え、長秀さん、一益さんと合流した権六おじさま率いる北陸軍。

 2人とも、秀吉さんの行動に困惑気味だ。

 

「それよりも大和。久秀殿が北陸支援のため、石山戦線から信貴山城に戻られたぐらいでござるな」

 

「順慶殿は石山包囲中、火種はないように見えます」

 

 そんな思案する2人に混じって私も腕組みしてると、馬の蹄が鳴り響く。

 

「……申し上げます! 七尾城、落城!」

 

 物見が告げる悪夢のような報告に、権六おじさまが顔色を変えた。

 

「バカな! あの堅城を易易と落とせるものか! ……続連はどうした? 降伏したのか? 落ち延びたのか?」

 

「……は。長続連様は城外からの上杉謙信のバットのスイングによる衝撃波で討ち死に。……七尾城は遊佐盛光が長綱連ら長一族を誅殺し開城、上杉に降伏しました」

 

 聞いていた私たちに衝撃が走る。

 救出に向かう対象の死もそうだけど、上杉謙信の異次元の攻撃方法だ。

 

「毘沙門天の化身か……」

 

 又左さんの一言に静まりかえるしかできない。

 

「勝家殿、七尾城が落ちた以上、これ以上の進軍は無意味です。大聖寺城まで下がり、信長様と合流を目指しましょう」

 

 長秀さんの進言に、権六おじさまも無念を滲ませながら声を振り絞る。

 

「……全軍、手取川を渡れ」

 

 こうして私たちは、渡ったばかりの手取川を再び渡る。

 それが半分を過ぎた頃だ。

 霧が晴れ、視界がクリアになった私たち織田家は信じられないものを見てしまう。

 

「毘沙門天の旗印! 後方に上杉軍が!」

 

 馬の蹄音もなければ嘶きすら聞こえなかった。

 なのに振り向くと白頭巾の男を先頭に、馬に乗った上杉兵が岸にひしめいている。

 

 あれが上杉謙信! ヤバい! あれは人間のオーラじゃない! お母さんから聞いたことある、あれは神を降臨させ、神を飲み込んだ存在だ!

 

『ぬう……ワンチャン、タカダ、モトシ。……それにシンゴ?』

 

 センイチも飛び出し、震え声を出すも、上杉軍にいる一つのボールを見て疑問形になる。

 

『僕のことはいいの! もう説明済みだし。さあセンイチさん、つば九郎の許に送ってあげるよ。フフフ、ベンチでヨシイが蹴ったら壁が崩れ、隣の部屋で休憩中だったつば九郎が驚愕して、びよーんと飛んでったのを思い出すよ』

 

『そんなんじゃからつば九郎は早死にしたんじゃ! ドアラは永遠の寿命じゃぞ!』

 

『中身が変わってるだけでしょ、それ!』

 

 センイチとわけわからん言い争いしてるシンゴはうるさいけど、それ以外は音が聞こえない。 

 無音の軍という、今まで対戦したことのない敵。

 私たちは渡河中、敵は背後。

 容赦なく、矢が手取川上空より飛来する。

 

「こんのお!」

 

 私は金属バットを振り回し、矢を撃ち落としていく。

 

「真昼様、無茶をなさらず!」

 

 私の横で、久太郎君も見事なスイングで矢を防いでいく。

 

「くっ! 七尾を落としたのみならず、もう手取川にいるとは……」

 

 権六おじさまも呟きながら、金属バットで矢を弾く。

 状況は最悪だ。反転して攻撃するタイミングを完全に潰された。

 

「柴田様! 早くお逃げくだされ!」

 

 光治さんが急かすも、権六おじさまは微動だにしない。

 

「退け、退けぇ! 一刻も早く渡河するのだ!」

「勝家殿! ここは我らが後詰いたします! 急ぎ脱出を!」

 

 長秀さん、一益さんも声を張り上げ。

 

「クソがっ! 不意打ちとは卑怯な!」

「軍神たぁ聞いて呆れるぜ! こっちと尋常に勝負すんのが怖いんだろ!」

 

 成政さんと又左さんの激昂が木霊する。

 

「儂は織田家北陸司令官、柴田権六ぞ! 責任を誰かに押し付ける気は更々ない! いくらでも矢を放つがよい! 全て我がバットで跳ね返してみせるわ!」

 

 権六おじさまの手取川を飲み込むような怒声が炸裂すると、矢の雨が止まった。

 すでに手取川は、矢の刺さった織田兵がいたるところで浮いているだけになっている。

 完膚なきまでの大敗は確定した。

 

「大将以下、名のある者が真っ先に逃げないのは見事だ。礼に、渡河を許そう」

 

 白頭巾の男——上杉謙信から重厚な声が聞こえてくる。

 攻撃してこない? 本当に?

 

「上等だ。そこで待っていよ。儂と一騎討ちしようぞ!」

 

「待って! 権六おじさま! 責任取って死ぬ気なら許さない!」

 

「じゃが……軍を動かしたのは儂の責任。……せめて、上杉謙信の首だけでも取ってくれるわ!」

「親父殿、俺に命じてくれ! それだけで親父殿の体面は保つだろ!」

「監督! 又左だけじゃ不安なら俺にもだ! ここまでコケにされて、引き下がれるか!」

 

「って! みんな落ち着いて!」

「そうです。渡河を許すなんて上から目線に、キレてる場合ではありません」

「ここは屈辱を受け入れるべきでござる」

 

 決死に止める私に、長秀さんと一益さんも加勢してくる。

 

「一騎討ちか。なら、ここからしようか。全員まとめて、な」

 

 岸で謙信が呟いた言葉に、織田の誰もが意味がわからない。

 でも、私の全身の血が逆流する。

 右足を高く上げ、左打ちの姿勢でバットを構える謙信の姿を見て。

 

「センイチ! 闘志を集中させて!」

 

『失礼な! いつでも儂は全身全霊闘志を出してるわ!』

 

 刹那——手取川が割れた。

 視界に映ったのは、上杉軍の英霊ボール『タカダ』がスピードにバフをかけ、『モトシ』がキレのバフを与え、『ワンチャン』のパワーのバフが謙信のバットスイングを凶器に変えた光景。

 

 ——ブンッ!

 

 真空波によって大波が生まれる。

 

「ぐっ……こんのおおおおおおお!」

『クソがああああああああ! ワンチャンめええええええ!』

 

「いかん! みんなそれがしに捕まるでござる!」

 

 ドォォォォォン!

 

「ぐはっ!」

 

 私含む生き残っていたみんなが、手取川の向こう岸に叩きつけられるように打ち上げられた。

 

 手も足も出ない、悪夢のような敗北。

 一益さんがいなかったら、全員川の中で魚の餌になっていただろう。

 

『はい、ここで僕の出番。火消し火消しっと』

 

 英霊ボール『シンゴ』の声に、亀裂が入った川が元通りに戻る。

 

「ほう。まだ俺を睨むか。面白い」

 

 私が見つめる反対側の岸で、謙信は愉快そうに笑った。

 

「父上。このまま進軍すれば、織田の主たる将を討ち取れます」

 

 景勝が進言するも、謙信は視線を私から逸らさず、こう返す。

 

「信長以外の首など不要。一旦、七尾城に戻り、降った者たちに感状を渡す」

 

「このまま行けば、越前は落ちます」

 

 柿崎晴家も進言するが、謙信は意に介さない。

 

「いつ行っても、落ちるさ」

 

 撤退する上杉軍を呆然と見つめる私たち。

 助かった安堵と、敗北した屈辱、多くの兵を無駄死にさせた後悔が、私たち生き残った面子に重くのしかかった。

 

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