なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
第186話 長谷川真昼、播磨行きが決まる
木津川口での毛利水軍の大勝。
手取川での上杉謙信の大勝。
信貴山での松永久秀の爆死。
すべてが織田に大打撃を与えたことにより、播磨が揺れていた。
御着城の小寺政職もそうだ。
「のう、官兵衛。織田は畿内を押さえてるだけで、大したことないのではないか?」
以前から織田に肩入れしている家臣、黒田官兵衛に疑問を投げかけるほどに。
「いえ、殿。大局を見れば、織田の天下一統は間違いありませぬ。一つは銭の流れを支配していること。二つは常備兵の存在。三つは織田家の人材の質」
官兵衛の声には抑揚がない。
人が当たり前にする呼吸のように口にする。
「人材? 名将なら毛利も両川に児玉殿、村上殿ら多くいるではないか」
「私の言う人材の質は戦の采配、領地経営の手腕だけではありませぬ」
「なら、何を持って言う?」
「天下を采配する器量」
官兵衛の言葉を聞いて、政職は「なるほど」と呟くも内心面白くない。
この儂は天下を采配するどころか、播磨を采配する器量がないと言われてるみたいではないか。
官兵衛もまた、内心では焦りを滲ませていた。
(赤松も別所も毛利派が勢いづいている。殿も強い者の庇護下に入りたいだけ。まずは殿に、織田につきたいと思っていただかなければ)
御着から姫路に戻った官兵衛は、すぐさま安土にいる信長と半兵衛に、織田の将の派遣要請の手紙をしたためた。
『おーん。ついに播磨も、本格的な主戦場になるな』
官兵衛の英霊ボール『ドンデン』が手紙を見つつ、囁く。
『誰が来るやろ? 勝家が北陸、光秀が丹波、長秀が安土築城、一益が嘉隆の鉄の船支援中、信盛と村重が本願寺、信忠と利治と恒興が対武田。なんや、こっちに回す人材おるんか?』
「さて。誰が来ようと、私を用いれば織田を勝たせます」
『そらそうよ。……ええの来るといいな、官兵衛』
孫を慈しむように、ドンデンは呟いた。
***
「久秀さん……結局、最後まで食えないおじいちゃんだったね」
久秀さんの乱が終わり、安土に戻って大広間で大の字になって、久秀さんから託されたブレイザーを天井に投げては手に戻しながら私はボソッと囁く。
敗北した英霊ボールは眠りにつく。
この面倒くさいルールのご多分に漏れず、ブレイザーも軽く寝息を立てて雑に扱っても起きない。
私が墨で書いたブレイザーという達筆が、上げ下げするたびに大きくなったり小さくなったりする。
「……生きて隣で助言してほしかった」
するとボソッと呟く私の横で、センイチが上を向いたり下を向いたりして怒鳴ってきた。
『後事を託されたんじゃ。小娘! 気合入れろ! ここからシーズンは終盤戦じゃ!』
「いや、終盤の次に序盤になるんでしょ? もう騙されないからね、私」
『当たり前じゃ! 毛利とは序盤も序盤! 上杉とも開幕戦で大敗しただけじゃ!』
ほらね。これだからセンイチは。
言うことがわかりやすいんだから。
私が物思いに耽っていると、信長様と半兵衛君、それに秀吉さんが大広間に入ってきた。
「あれ? 今日は軍議終わったんじゃなかったの?」
私が目をパチクリさせてると、半兵衛君が説明してくれる。
「先刻、官兵衛殿から織田の将を播磨に在陣させてほしい、と手紙が届きました。毛利の脅威が播磨に侵食したということでしょう」
信長様も頷いてくる。
「播磨が毛利に雪崩れたら陸でも石山と繋がる。当然、ここは送らねばなるまい」
「毛利最前線だね。毛利は英霊ボールも多くいるし、厳しい戦いになりそう」
「ええ。真昼殿の言う通り、並の将では対応できますまい」
「しかも官兵衛を従え、毛利両川と渡り合い、直家と隣接することとなる。これは俺か半兵衛以外無理だろうよ」
信長様が上座に座りながら囁くも、目線は下座に控える秀吉さんから離れない。
「が、今まで各地で功を立て、久秀の謀叛にも的確に対応したお前ならできるだろう。……やれ、秀吉」
「ははっ! この秀吉、身命を賭して毛利との戦いの矢面に立ちましょう」
おおっ! 秀吉さんかあ。うんうん、納得だね。
足軽頭から地道に手柄を立てているの見てきたから感無量だよ。
すると信長様の目が私と半兵衛君にも向く。
「軍監に半兵衛、英霊ボール対策班に真昼とセンイチを加える!」
「まあ、そう言われると思ってましたよ」
『じゃな。アニキめ、必ず儂の軍門に降らせるわ』
私とセンイチが気合を入れてくが、秀吉さんはちょっと不満あるようだ。
「お待ちくだされ。半兵衛殿と真昼の手を煩わす必要ありませぬ。我が羽柴で十分です」
まあ、秀吉さんがそう思うのも当然だよね。
私はともかく、うるさいセンイチときめ細かい策を立てる半兵衛君が一緒じゃ、気が休まらなくなるもんね。
「これは半兵衛と決めたことよ。上杉は雪の間は動かぬ。本願寺は籠城に専念、武田は守勢に転じている。なら、毛利に全力は当然よ」
「播磨は別所、小寺、赤松と国衆が入り乱れる魑魅魍魎の地。知恵者は多いほうがよろしいかと。ご安心を。総大将は秀吉殿です。存分に戦場で我が命を使いください」
半兵衛君の真っ直ぐな瞳に、秀吉さんはついに折れた。
少しだけ、悲しそうな顔をしながら。
***
軍議が終わって廊下に出ると、曲がり角からものすごい勢いで誰かが突撃してきた。
待機していた秀長が驚いて「ウキッ」と鳴く。
「秀吉殿ォォォ!」
声の主は信長様の親衛隊兼記録係の太田牛一さんだ。
筆と帳面を構え、いつも以上に目を血走らせている。
「播磨入り。これ即ち対毛利の総司令官! 是非意気込みを、『信長公記』の特別付録として記したい! つきましては、まず後世のために生い立ちを少しお聞かせ願えませぬか!」
生い立ちは帰蝶様だけど、それ記録文書にするのいいのかな?
「生い立ちか」
「はい! 尾張中村の御出身と聞きますが、幼き頃の名は? 弟で猿である秀長殿についてもお気軽に悪口でも! なんでお前猿なんだよ、でもなんでもいいので!」
「ウキッ⁉」
秀長が抗議する中、秀吉さんはスラスラと語っていく。
「ああ、私の幼名は日吉丸という。貧しい農民の子でね。秀長……弟の小一郎とは、幼い頃から苦労して育ったものさ。なぁ、秀長?」
秀吉さんが話を振ると、横にいた秀長が「ウキウキ! ウキキィ!」と胸を叩く。
「おお……! なんと熱い兄弟愛! 『幼き頃の苦労が今の我らを作った』と! これは名文が書けそうだ!」
「ウキキ! ウッキー!」
「ええそうですね。秀長殿の容貌猿、体形も猿、と」
「ウキッ!」
牛一さん、秀長の扱い雑だね。
ちなみに秀長が言いたかったのは「俺の幼名は小竹だ」だったらしい。
猿の世界でも幼名あるのかな? 一体どこまで本当なんだか。
そんな取材場面を眺めていると、半兵衛君が腕組みしながら見てるのが目に入った。
「どうしたの? 半兵衛君」
「いえ、秀吉殿は嘘が上手いな、と」
「うんうん、帰蝶様なのにスラスラ嘘設定喋ってるね。あれ、絶対に前から考えてたよ」
「ですね」
「なんか考えてる? 半兵衛君」
「ええ、播磨のことを考えていました。僕も、秀吉殿のように嘘が上手くなりたいものです」
「……それ、嘘だよね?」
「おや、バレましたか」
「って、どこから嘘なんかーい!」
この腹黒ドS軍師め。相変わらず人をからかいおってからに。
「播磨なら大丈夫だよ。私にセンイチ、半兵衛君に秀吉さん、それプラスに官兵衛さんが加わるんだから」
「……ですね」
半兵衛君の呟きを耳にしながら、私も気合を入れていくのだった。
魑魅魍魎渦巻く播磨攻略が、いよいよ始まる。