なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第187話 長谷川真昼、姫路城を差し出されて引く

 秋の涼しい風が吹き抜ける中、私たち中国方面軍の先発隊は、ついに播磨国へと足を踏み入れた。

 

 総司令に大抜擢された羽柴秀吉さんを筆頭に、私、半兵衛君、秀長、『センイチ』や『モリミチ』ら英霊ボールたち。

 ついに私たちは、毛利家との最前線の地へやって来たのだ。

 

「遠路はるばるご苦労様に存じます、秀吉殿」

 

 国境で私たちを出迎えたのは、かつて岐阜城で信長様から英霊ボール『ドンデン』を託された、播磨の切れ者・黒田官兵衛さん。

 栗山善助さんや母里太兵衛さんといった黒田家の屈強な家臣たちも控えている。

 官兵衛さんが深々と一礼してくる。瞳は相変わらずカミソリのように冷徹で、無駄な愛想笑いは一切ない。

 

「官兵衛殿、出迎え感謝する。これからよろしく頼む」

 

 秀吉さんが柔和な笑顔で応えると、官兵衛さんは表情を変えずに信じられない提案を口にした。

 

「こちらは我が息子の松寿丸。信長様への忠節の証しとしてお預けします」

 

「黒田松寿丸です。信長様の許には多くの英才が集まってると聞き及びます。それがしも、信長様の小姓として働きたく思います!」

 

 現れたのは、小学3年生ぐらいの男の子。

 官兵衛さんの息子らしい利発な顔つきだけど、まだ子供特有の愛嬌はあるね。

 

「大丈夫? まだ小さいけど、お父さんと一緒に暮らせなくなるんだよ?」

 

 私がそう言うと、松寿丸君は朗らかな笑顔で返してくる。

 

「真昼様、ご心配感謝します。ですが生きていれば会えるのです。ならば織田様が天下一統するために身を粉にして働くのみ。そうすれば、毎日気兼ねなく会えるようになります」

 

 ……うん。流暢に喋ってくるね。

 まったく、私が小3ぐらいの年の頃は虫取り網片手に蝉ばっか取ってたぞ?

 

「松寿丸はまだ幼い。小姓にするには早かろう。まずは我ら羽柴が預かる。長浜にてねねに面倒を見させ、折を見て安土へ伺候させる。それでいいかな? 松寿丸」

 

「はい! ありがとうございます! 秀吉様!」

 

 うんうん、秀吉さんも子供には優しいね。

 松寿丸君を見る目、なんだか母性を刺激されてるようだよ。

 

「さらに中国攻めの本営として、私の居城である姫路城を丸ごと秀吉殿に献上いたします。私は家族と家臣を連れて二の丸へ移りますゆえ、ご自由にお使いください」

 

「えっ⁉ 自分の城を丸ごと差し出すの⁉ 敷金礼金に家賃はいくらなの⁉」

 

「無論、タダです」

 

「ほえ⁉」

 

 考えてみてくれたまえ。

 一家団らんしてるところに、お父さんの上司がやって来て家を上げますって言うのを。

 お母さんブチギレ、お姉ちゃん即上司○しちゃうぞ?

 

 私が素っ頓狂な声を上げて驚く中、官兵衛さんの懐から黄色と黒の縞模様のオーラを放つ『ドンデン』がフワリと飛び出した。

 

『おーん。そらそうよ。勝ちに行くなら、まず本拠をちゃんと使わなアカン。形だけの協力なんか一番アカンやつや。本気で優勝狙うなら、グラウンドの整備からやらな』

 

 ドンデンのぼやきに官兵衛さんも同調し、淡々と合理的すぎる理由を説明し始めた。

 

「姫路は播磨の中央に位置し、交通の要衝です。ここを総大将である秀吉殿が直接治めることが、日和見な播磨国衆への最大の圧力となり、毛利への防波堤となります。私の家名より、織田の勝利が優先です」

 

「……見事な覚悟です、官兵衛殿。ありがたく頂戴いたします」

 

 秀吉さんは朗らかに笑い、官兵衛さんの手をガッチリと握った。

 ウンウン、いい話だね! 味方が自分の家を譲ってくれるなんて、最高のスタートダッシュじゃん! なんて私が思ってると、後ろで小六さんと小右衛門さんがヒソヒソ声でドン引きしていた。

 

「やっぱやべえよ、この男。博打でいきなり手持ち金全額ベットしてきやがった」

「いや、ありがてえよ。ありがてえけど、俺たちにも『俺はここまで織田に命を賭けた。お前らも命を賭けろよ』って言われてるみたいだぜ」

 

 うん。……そう言われると官兵衛さんの覚悟の重さが私にも見えてくる。

 播磨は毛利・本願寺の影響力強い土地なのに、ここまでする官兵衛さんって、相当信長様に入れ込んでるってことなんだよね。

 私も気合入れないと。

 

 すると官兵衛さんが半兵衛君に近づいていく。

 

「半兵衛殿、しばし2人っきりで今後の方針の打ち合わせしたいのですが、よろしいですか?」

 

「ええ。秀吉殿、少し席を外します」

 

「ああ。私は姫路の内部を見て回っている」

 

 ん? 半兵衛君と官兵衛さん、散々手紙のやり取りして、あとは実行するのみとか言っていたのに。

 まあ、顔を合わせれば言いたいことの一つや二つ出てくるか。

 

「真昼様、ボサッとしてないで動いてください。姫路城内の蔵の数、井戸の位置、馬屋の収容数の確認。やることはいくらでもあります」

 

「あっ、ごめんごめん、三成ちゃん」

 

 秀吉さんの近習というより私設秘書って感じの石田三成ちゃんに、邪魔だと言わんばかりにジト目をされてしまう。

 

「なんで私だけ『ちゃん』なんですか? 清正や正則には『君』なのに」

 

「いや、だって可愛いし」

 

「……人を秀長様のような愛玩動物のように言わないでください」

 

「ウキッ⁉」

 

 わーお。ゴゴゴという怒りのオーラが三成ちゃんから見えるよ。

 秀長も、自分が愛玩動物だと思われてる流れ弾でショック受けてるし。

 

「ごめんごめん。三成ちゃん君」

 

「……信長様、女の趣味が悪いんですか?」

 

 ん? 三成ちゃん、どういう意味かな?

 

 ***

 

「半兵衛殿は、秀吉殿をどう思っていますか?」

 

 2人きりになった官兵衛が単刀直入に聞く。

 正確にはドンデンとモリミチ、英霊ボール2球のおまけ付きだが。

 

「大将として問題ありません。久秀殿の謀叛を知った経緯に官兵衛殿の名を出した虚偽はありますが、信長様への忠義、織田家で挙げた功績は比類無しだと思っていますよ」

 

 正直に話す半兵衛だったが、官兵衛はゆっくりと首を横に振った。

 

「……半兵衛殿。あなたは私を信頼してくださり、秀吉殿の正体が信長様の元奥方・帰蝶様と教えてくださいました。当然、この秘密は墓まで持っていくつもりです」

 

 播磨入りに先立って、半兵衛は官兵衛に決して紙には残さぬ形で秀吉の正体を告げていた。

 

「……官兵衛殿。何が言いたい?」

 

「半兵衛殿。あなたは元々斎藤道三に忠節を誓った身。ですので、帰蝶様について深く考えるのを憚られたのだと推察します」

 

「ふむ……」

 

「私は違います。ですので、秀吉殿の異質はよく見えます。無論、正体が女性や才覚の有無ではありません」

 

「……才覚の有無ではない?」

 

「信長様に深く信頼されている者の中に、もう一人、同じような方がいます」

 

 官兵衛が口にすると、半兵衛は目を見開いた。

 

「そういう……ことですか。なるほど。腑に落ちました。官兵衛殿、ありがとうございます」

 

「半兵衛殿が腑に落ちた回答。私には荒唐無稽としか言いようがありませんので、手伝えることは少ないでしょう。これからどうされるおつもりですか?」

 

「どうもしません。官兵衛殿は予定通り、秀吉殿の播磨平定に協力してください」

 

「承知。……ところで半兵衛殿。顔色が優れぬようですが、大丈夫ですか?」

 

「ええ。まだもう少し持ちます」

 

「……残念です」

 

 官兵衛は、ただ頭を下げた。

 この、自分を理解してくれた生涯唯一の友の死期を悟り。

 

『おーん。現役で死ぬには惜しすぎるで。モリミチさん、説得できないんか?』

 

『無駄だ、ドンデン。こいつは頑固者。儂はただ、こいつが布団の上で死ぬようにするだけじゃ』

 

 英霊ボール2球も、半兵衛の悲壮な決意にキラリと光る雫を流した。

 

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