なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
姫路城に秀吉さん率いる私たちが入ると、続々と播磨の国衆たちが挨拶に訪れてきた。
みんな平身低頭してくるけど、誰もが口元は笑みなのに目が笑ってない。
それを正座しながら聞いていく、こっちのことも考えてくれたまえ。
目は口ほどに物を言うって言うけど、全員が背中を見せたら斬りかかったきそうな雰囲気だよ。
まずは官兵衛さんの主君である御着城主・小寺政職さん。
「羽柴殿のことは官兵衛からよく聞いております。信長様の信任厚く畿内でご活躍されたと。……畿内では」
「ありがたきお言葉。西国でも活躍する所存、官兵衛ともどもお力添えをお願い申し上げます」
上座の秀吉さんが慇懃に挨拶するけど、政職さんは頭を下げない。
「信長様の威光が届かない播磨で、どれだけやれるか見物ですなあ。のう? 官兵衛」
私たち織田家に混ざって横で見ている官兵衛さんに目を向ける政職さん。
「は。楽しみでございます」
そんな官兵衛さんの真面目な返答に、政職さんが音にならない舌打ちをした気がする。
「……官兵衛さん大丈夫? 官兵衛さんの主さん、なんか腹黒そうだけど? 以前、縄をつけてでも信長様に従わせるって言ってたけど」
そっと小声で官兵衛さんに訊ねると、こんな返答が返ってくる。
「ええ、いざとなったら縄で縛ります」
こっわ! 無表情で何言ってるんだこの人!
あのおっさん、官兵衛さんの主君だよね?
次の赤松則房さんも、楽しそうに嫌味言ってくる。
「羽柴殿ほど身軽なお方なら、我らのように古き縁に縛られず、さぞ采配も早うございましょうな。まさに猿! わっはっは」
秀長が顔面真っ赤にして「ウキキキキー」と歯軋りする。
あっ、秀長の顔は元々真っ赤だった。
純日本猿だもんね。
続いて尼子再興軍の尼子勝久さんと山中鹿介さん。
「織田は尼子の旧領、出雲をくれると約束してくれた。秀吉殿は守る気はあるか?」
「光秀殿が、秀吉殿なら必ず助力してくれると断言してくれた。だから我らはここにいる。もし助力が見せかけ、偽りなら我らはそこで織田に攻め入り、秀吉殿の首を獲って自害する所存」
尼子再興軍って切羽詰まってるとは聞いてたけど、いきなり喧嘩腰⁉
ここで曖昧な態度したらガチで暴れそうだよ。
「ああ。全力で助力しよう」
「どのように!」
鹿介さんが詰め寄ると、半兵衛君が扇子をパチンと閉じて告げる。
「明確に毛利に付くと明言した、赤松政範が籠る上月城を落とし、尼子殿に与えます」
「上月城を我らに?」
驚く勝久さんに、秀吉さんがさらに告げる。
「共に毛利を倒すのに活躍すれば、出雲だけではなく石見も与えると信長様は仰せだ」
秀吉さんが三成ちゃんに書状を渡し、彼らに届ける。
「おおっ! たしかに!」
「この書状が偽りになる以前に、上月を落とせないでしたとならぬようにな。そこで実力を測ろう」
勝久さんは喜んだけど、鹿介さんはこの目で見ないと信用しないぞって顔している。
もう、疑り深いなあ。
『むう……』
「どうしたの? センイチ。鹿介さんずっと見て」
センイチが唸った先、鹿介さんの懐からひょこっと英霊ボールが姿を現す。
そういえば以前聞いたことあったっけ。尼子再興軍に力を貸している英霊ボールがいたことを。
『センイチか。……イーグルスで日本一、おめでと』
そう言って鹿介さんの懐に潜る英霊ボールに、センイチは何も言い返さない。
いつもはギャーギャー喚くのに。
「なんか因縁あんの?」
小声で訊ねる私に、センイチも小さく囁く。
『いや、因縁は特に』
「じゃあ問題ないじゃん。騒げば?」
『儂もな、何度もリーグ優勝したが日本一にはなかなかなれんかった。でも、最後の最後で日本一になったんじゃ』
「センイチが……自慢話して騒がない……だと?」
『小娘。これは自慢話やない。何度も日本シリーズで煮え湯を飲まされたんじゃからな』
「でもイーグルスってところで勝ったんでしょ?」
『ああ。儂は幸せ者よ。ユキオさんのようにV9ジャイアンツに叩きのめされたり、エナツの21球のような伝説とぶつからず、逆に神の子伝説で日本一になったからな』
センイチが語る鹿介さんが持ち英霊ボール『ユキオ』への感情は複雑みたいだ。
『ユキオさん、なんで再興軍なんぞに。……嫌な予感するわい』
伝説になれなかった名将か。
たしかに鹿介さんはオーラが違った。
織田でいえば権六おじさまや長秀さん、一益さんに近いかも。
時の運だけはどうしようもないもんね。私だってお姉ちゃんより早く産まれてたら、私がお姉ちゃんになっててお姉ちゃんをボコボコにできたのに。
ん? それはもう私じゃなくってお姉ちゃんになってるんじゃ?
まあいいや、次だ次。
次の人は官兵衛さんと同じで織田家に肩入れしてる人だから気が楽だよ。
「別所重宗殿、入られよ」
官兵衛さんが呼び、襖が開く。
ふう。重宗さんは播磨の名家・別所氏のお偉いさん。
官兵衛さんと並ぶ、播磨で織田贔屓を明言してる二大織田キチの人だ。
今日は当主ともども挨拶に来るって手紙出してたもんね。
当主の別所長治が秀吉さんに平伏すれば、播磨平定は一瞬で済むと官兵衛さんが言ってたし、これで対毛利に集中できる——なんて思ってた私は一瞬で過去になる。
なんと重宗さんだけが、土下座態勢で現れたのだ。
「申し訳ございませぬ! 長治は病気で連れて来れませんでした。ですがご安心を。我が別所も羽柴殿を全身全霊で支える所存!」
声に焦り、額に汗。猿でもわかるよ、なんかあったなって。
ん? 秀長が私見てちょっと驚いてるぞ?
もしかしてあの猿、真昼でもわかるの? って思ってないか?
あとで猿鍋にしてやる。
「長治殿を支える両翼が一人、吉親殿が『貧農上がりに頭を下げるか、下げるなら羽柴が下げよ!』と三木城で喚いていると聞きます。重宗殿、その結果、長治殿が感化されたということですかな?」
半兵衛君の扇子がシュバッと開く。
モリミチが現れて扇子の上で回ってるけど、冷静に考えたらどんな構造してるんだよ、あの扇子。
「頭を下げよと言うならいくらでも下げよう」
そう言って立ち上がる秀吉さんを官兵衛さんが制す。
「それは悪手でございます。長治殿に頭を下げれば、羽柴殿が別所に与したと思われるのみ。織田の威光ではなく、長治の威光が増すのみ」
『そらそうよ。しかも別所家には安治の頃からオオギさんがおるんよ。頭下げたら一生利用されるで』
「別所家に力を貸す英霊ボール『オオギ』ってどんなボールなの?」
私が訊ねると、重宗さんは苦渋に満ちた顔で告げる。
「一言でいえばマジシャン。定石を無視する戦を運用し、勝利をおびき寄せるボールでございます。今は長治が所有しております」
マジシャン? 鳩でも出すのかな?
するとドンデンも意味深に追記してくる。
『おーん。下で働いたことあるから知っとるで。オオギマジックなんて呼ばれてるが感覚やなく、1にデータ、2にデータ。3・4にデータ。5にデータってお方や。データ詰め込みすぎて、他人には意味不明な采配するんよ』
『オオギさんはデータ頑固なくせに遊び人なんじゃ。だからこっちの意表を突くのも大好きという嫌な御仁よ』
『……小娘、オオギさんは毛利にいるミハラに恩がある。あまり信用せんほうがええ』
モリミチとセンイチも補足してきた。
うわあ……まーた厄介そうなのが厄介そうなところにいるもんだ。
さらに備前の宇喜多直家さんからも密書が届く。
でも……手紙の内容、ちょっと気持ち悪かったよ。
『拝啓。お元気ですか? 私は毛利の下で元気にしております。ですが心は信長様に。まあ織田が勝てばですがね。いつまでも信長様を心の中にしておきたいものです。我が英霊ボール、ヒロオカとワカマツともども備前でお待ちしております』
うーん、ここまでで十分気持ち悪いんだけど、続きはこれ以上だ。
『追伸。シゲオの輝きに触れて私はおかしくなったようです。ああ! 暗殺したい暗殺したい暗殺したい暗殺したい! なのにシゲオの輝き見ると、うーんどうでしょう? と思考が停止するのです。信長様、まさかこれを見越してシゲオを私に? いわゆる一つの精神攻撃ですね』
いやいや、信長様はそんなことを1ミリも思ってないと思うぞ?
信玄倒した礼なだけだし。
これとも戦うの? 精神汚染された暗殺者、嫌すぎるわ。