なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
色々内部不安を抱えながらも、播磨の毛利勢力一掃は順調に進んでいった。
官兵衛さんと半兵衛君が福原城攻略、続いて秀吉さんと尼子再興軍で上月城攻略、さらに秀長が但馬の竹田城攻略と流れは完全に織田に傾いていた。
でも状況はなぜか良くならない。
理由ははっきりしている。播磨最大勢力別所家が当主長治の若年を理由に、叔父の重宗さんしか動かさないからだ。
そのせいで他の国衆の動きも鈍い。明確に敵対表明すれば攻める理由になるけど、どこも態度だけは「さすが織田様」なんて言って手揉みはしてくる。
官兵衛さんの主君、小寺政職さんが顕著だ。官兵衛さんが働いているのに自分は一兵も出さずに御着城で悠々自適にしてる。
私は何をしているかというと……。
「甘い! そんなんじゃホームランどころかヒットも打てないよ!」
「「はい! 真昼様!」」
姫路城で正則君や清正君相手に、バットを振らせているのだ。
「早く実戦で戦いたいぜ」
「ああ、尾張中村の縁だけで雇ってくれた秀吉様のために」
うんうん。2人は筋がいいね。羽柴軍主力にいずれなると思うよ。
『姫路居残りは暇じゃな……モリミチさんとドンデンは働いてるのに』
「まあまあセンイチ。毛利が主力をどう出すか、直家さんが暗殺に来ないかって問題あるし。……それに」
私は金属バットを天に掲げる。
「本拠地の城代って初めてだし、私も出世したんじゃね? なんか天下取った気分」
『信長にタメ口してる小娘が、今さら何言うとるんじゃ』
「冗談だって。……それに、オオギがどう動くかわかんないからね」
三木城で別所長治のところにいる英霊ボール『オオギ』。
「強奪できれば一番いいんだけど、そうしたらブチギレて誰が織田につくかよ! ってなるもんね。我慢我慢」
『小娘……発想が信長よりヤバいぞ?』
そうかなあ? 英霊ボールの存在のほうがヤバくね?
「はい! 今日の素振りはここまで! 素振り1万回、5千回あたりから雑になってたよ。反省して明日に繋げるように!」
「え……明日も」
「は、早く戦場に行きたい……ぜ」
なぜか私の声を聞いて、正則君と清正君はパタンと倒れたのであった。
ふう、いい汗かいたね。
センイチにあとは任せて大広間に向かうと、三成ちゃん君が書類整理してた。
姿勢も正座でピンとしてるし、顔も真剣そのもの。
小六さん、小右衛門さん筆頭に汗臭い男が多い羽柴軍で秀吉さんの次に優雅だね。
いや、これ優雅というより真面目一辺倒で隙がなさすぎてピリピリしてる空気だ。
朝に正則君と清正君素振りさせに行く前に通りかかった時と同じ姿勢で、今は決済済みの書類山積み。
これずっと同じ姿勢で仕事してたんじゃ? 秀吉さんはここまで真面目じゃないぞ? 抜く時は抜くのも秀吉さん上手いし。
「よし、三成ちゃん君! 明日三成ちゃん君も素振りしよう!」
「……」
「無視ですかぁ! 寂しいことしないで!」
ブルンブルン三成ちゃん君を揺らす私。
「うわっ! ……真昼様、いつからそこに。なんで人を揺らすのですか? あと、ちゃん君はやめてください」
「わかったよ。三成ちゃん!」
もう、この仕事人間め。私の気配を感じないほど集中する人間がこの世にいたとは。将来大物になるね。
「……」
「なんで絶句してんの? 三成ちゃん」
「いえ、もういいです。それで、何の用事ですか?」
そこに、正則君と清正君が通りかかる。
上半身裸で。汗かいたから行水してきたんだろうね。
途端に、三成ちゃんの瞳が汚物を見るようになった。
おお……こわっ!
こら、2人とも拝むな。なんだその趣向は。
しっし、行った行った。
「じゃあ私たちも行水しよっか?」
2人を急ぎ足で去らせ、私は三成ちゃんを誘う。
「あの……私、男ですが? 羽柴秀吉様の近習、石田三成を子供扱いしてるおつもりですか」
「アハハ、嫌だなあ。三成ちゃん女の子でしょ?」
「は?」
「隠さなくっていいって。私、勘だけはいいから」
「……いつから私を?」
「北ノ庄で最初に見た時はわかんなかったけど、播磨で一緒になってから、かな?」
「ちっ。変なところで鋭い人ですね。秀吉様とねね様、あと一応秀長様以外にバレてなかったのに」
「あっ! 大丈夫! 誰にも言わないから!」
「……あっけらかんと言う人を信用しろ、と?」
「大丈夫。私、秀吉さんの秘密も墓まで持ってくから」
ピクッと三成ちゃんの頬が動く。
ほほう? 帰蝶様だって、三成ちゃんも知ってそうだね。
「わかりました。信頼しませんが信用します」
「じゃ、水浴びしよっか」
こうして水浴びして水滴を弾く三成ちゃん見て、私はボソッと囁く。
「三成ちゃんの年齢でこの胸なら、秀吉さんのようにサラシいらないかも。うん、大丈夫。下半身見られない限りバレないよ」
「……いつか殺す」
もう、三成ちゃんツンデレだなぁ。
***
私が三成ちゃんと友情を育んでいた頃、加古川で秀吉さんは別所長治の使いである別所吉親と初対面をしていた。
「上月城の攻略、おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。重宗殿はよく働いてくれている。このまま長治殿が何もしなくても別所は安泰だろう」
秀吉の言い方には棘がある。
当然だ、重宗以外の別所が動いていないのだから。
「だが、ここから大働きすれば織田は全力で長治殿、吉親殿を重用する。次の戦の参加を心よりお待ちしております」
ここで秀吉は穏やかに微笑み、吉親の手を握った。
(なるほど……人たらしの秀吉とはこれか。上手いな。……が、重用だと? 播磨は織田の物だと思うその傲慢、許せぬ)
吉親は「次戦は必ず」と言い残し、三木城へと帰った。
心に、織田への憎悪を募らせながら。
(さて……ここで吉親を殺すのは簡単だ。罪は適当になすりつければいい。しかし後の中国攻めのために、三木城には犠牲になってもらわなくてはならぬ。悪く思うな、別所は重宗に継がせる)
秀吉もまた、冷めた瞳で吉親の背中を見送った。
***
「叔父上、秀吉はいかがでしたか? オオギ殿に会って決めよと言われましたが……本来なら、それがしが行くべきでしたが」
三木城に帰還した吉親に、当主の長治は急ぎ駆け寄る。
もう1人の叔父の重宗は羽柴の一諸将のように駆けずり回り、三木城に寄り付きもしなくなっている。
長治にとって、頼れるのは吉親に英霊ボール『オオギ』。
オオギは内心不満だ。長治に行かせるべきだった。
それを遮ったのが過保護なこの叔父、吉親だ。
それと長治が信じる者がもう1人——
「その顔、秀吉殿に会って見切りをつけたようですな。ご安心を。毛利は別所殿の所領を安堵します。拙僧の名を持って書面に残しましょう」
毛利の外交僧、安国寺恵瓊が英霊ボール『カツミ』を片手に不敵に微笑んだ。