なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第192話 長谷川真昼、別所長治の離反を聞く

 上杉謙信の死で、織田信長は天運よ、織田に付いたほうがよさそうだな。

 という空気が津々浦々に流れたのに、ここ、播磨だけが違った。

 

「申し上げます! 別所長治殿が織田方から離反! 毛利に寝返りました!」

 

 秀吉軍団の一人、宮部継潤さんの報告に、秀長にお茶を淹れていた三成ちゃんが固まり、秀長の足に熱湯が注がれる。

 

「ウキー!」

 

 ぴょんぴょん飛び跳ねる秀長以外、みんな絶句してる。

 特に心臓止まったんじゃないかってぐらい、驚愕顔で固まったのは重宗さん。

 裏切った長治の叔父さんだ。

 

「理由はわかりますか?」

 

 官兵衛さんが問うと、継潤さんは言いにくそうに口を開いた。

 

「他の播磨国衆に、このように公言していると。『毛利は見返りを求めず所領安堵してくれる。羽柴は所領安堵どころか戦働きばかりを求める』……と」

 

「見返りを求めず? 毛利ってところは慈善事業でもやってるのかな?」

 

 私がちょっとした疑問を口にすると、半兵衛君がゆっくり首を振る。

 

「とんでもない。大内を滅ぼし尼子を滅ぼし、吉川・小早川という名家を養子縁組で乗っ取る。稀代の謀神・毛利元就の軌跡を知っていれば、見返りを求めぬどころか死に物狂いの働きを求められます」

 

 官兵衛さんも続ける。

 

「今後主戦場は三木城となるのです。別所長治は毛利側の最前線。これを見返りと言わずに何というか、私は知りません」

 

 うへえ……それってつまり、織田と毛利のどっちについても地獄だから、まだ甘い言葉を囁いてくれるほうについたってことか。

 そういや、お姉ちゃんが男の人に甘い言葉で愛の告白されてたけどボコボコにしてたことあったなあ。

 慌てて私が止めたけど、お姉ちゃんに言われて気絶した相手の服脱がしていったら、拳銃とナイフとスタンガンとお姉ちゃん暗殺の指示書が出てきてドン引きしたよ。

 お姉ちゃんに付き合わされて、指示書出した奴を豪華客船ごと海に沈める羽目になったんだよなあ。

 あれは疲れたよ。

 

 まったく別所長治め、甘い言葉に騙されるなよ。

 

『継潤よ、オオギさんはなんと?』

 

 センイチの問いに、継潤さんがツルツル頭を光らせて答えていく。

 変幻自在の名将という英霊ボール『オオギ』が織田に付くべきと説得してくれてたら楽なんだけど……。

 

「長治殿を勝たせる、と表明したそうにございます」

 

 ですよね~。私に楽させる英霊ボールばかりなら、とっくに回収終わってるだろうし。

 

「お、お待ちくだされ! 秀吉殿、それがしに説得の機会を!」

 

 ようやく重宗さんが目覚め、慌てて土下座しながら叫んだ。

 

「わかった。無理せずにな、重宗殿」

 

「ははっ! 吉報をお待ちくだされ」

 

 サササッと出ていく重宗さんを眺めながら、小六さんが渋い顔をして意見してくる。

 

「いいのかよ。重宗殿って吉親と仲悪いんだろ? 兄弟なのによ。殺されるんじゃねえか?」

 

「つーか、長治は可愛い甥っ子だ。情にほだされて戻って来ねえんじゃ?」

 

 小右衛門さんも険しい顔をして口にするけど、秀吉さんはスッと手で制した。

 

「案ずるな。別所家としても敵味方両方に所属させたほうが、家名存続で都合よかろう。それに重宗殿の信長様への忠誠は厚い。ですね、官兵衛殿」

 

「はい。重宗殿も私と同じく、家族を織田に殺されようと、織田に従うでしょう」

 

「いやいや、めっちゃ重いってそれ……」

 

 私はドン引きしつつ、まずは重宗さんの説得が上手くいきますようにと祈った。

 

 けれど、戦国の世は当然ながら祈りが届く場所はない。

 逆に神吉城、志方城、野口城、高砂城と次々に毛利側への表明を露わにしてしまう。

 朗報といえば、説得に失敗した重宗さんが五体満足で姫路城に戻ったぐらいだ。

 

「ふむ。おそらく毛利は明確な勝ち筋を立てています。ですから別所ら国衆は、毛利につくことを決断したのでしょう」

 

「勝ち筋って、毛利側が描くこうなったらいいなってシナリオだよね。何を狙ってるんだろ?」

 

 思案する半兵衛君を真似て、私も腕組みして考えていく。

 全国情勢は織田有利だけど、播磨だけ不利になる理由……ぐう……ハッ! 寝てないぞ? 寝てないからな。

 

「私が毛利の将なら、三木城によって我らの行軍範囲を狭めた隙に上月城を狙います」

 

 官兵衛さんの意見に、半兵衛君が頷く。

 

「ですね。ですが宇喜多直家は動かないでしょう。備前は今、浦上宗景がゲリラ活動しており直家は手を焼いています。毛利は業を煮やし、吉川元春と小早川隆景の両川を出陣させる可能性が極めて高い」

 

「ならば逆に好機。この決戦で勝敗が決します。……ですが」

 

「ええ。攻城戦である以上、守勢の我らが有利。それを分からぬ両川ではないでしょう。まだ仕掛けがあると思ったほうがいいです」

 

 どうやら単純に、一大決戦に乗るわけにいかないみたい。

 官兵衛さんが半兵衛君と秀吉さん見て頷く。

 

「……私と重宗殿で態度を曖昧にする国衆に探りを入れましょう。何か分かるまで、半兵衛殿と真昼殿は秀吉殿と姫路にいてくだされ」

 

 官兵衛さんと重宗さんが調査に出て、またまた姫路城で待機の私。

 正則君と清正君をシゴキながら、三成ちゃんとお風呂に入ったり、秀長のためにキセル室を作ってあげて閉じ込めたりの日々が続く。

 

「ねえ、秀吉さん」

 

 ふと、自室で正座して瞑想してる秀吉さんが目に入り、話しかける。

 

「どうした? 真昼」

 

「特に用ってわけじゃないんだけど、最近一段と秀吉さん落ち着いてるなって。三木城の裏切りでも驚いてなかったし」

 

「過ぎたことは仕方あるまい。次に備えて対処するのみだ」

 

 秀吉さんの微笑は、相変わらず帰蝶様と知ってると破壊力抜群。

 

「さすが秀吉さんだよ~。私も秀吉さんみたいな大人の女性になりたいなあ」

 

「フフ、真昼ならなれるさ」

 

 ***

 

 対本願寺の最前線にいる荒木村重は腕組みをしていた。

 

(天王寺砦で信長が死なず、逆に大勝したことが第一の誤算)

 

 本願寺は下間頼廉、鈴木孫一ら主力率いる1万5千の兵。対する信長は緊急事態で集めた3千の兵。

 なのに信長が大勝し、本願寺は野戦能力を喪失してしまった。

 

(第二の誤算は上杉謙信。よもや手取川での一撃のみで西進をやめるとは)

 

 聞いた時は開いた口が塞がらなかった。

 義というわけのわからない美学で動く、理解不能の怪物野郎めと謙信に舌打ちしたものだ。

 

(第三の誤算は上杉謙信の急死。なぜこの時に死ぬ? 俺を馬鹿にしてるのか? 信長が北陸に主力を結集した隙に安土を落とす策を台無しにしやがって)

 

 村重は率いている全軍を召集し、告げる。

 

「有岡城に戻る」

 

「殿、お待ちを! 理由はなんでございますか?」

「信長様に、どのように説明をするのですか!」

 

「理由? 説明? そうだな。……病気だ、病気」

 

 驚く高山右近や中川清秀の制止を振り切り、村重は馬に跨いだ。

 

(まあよい。播磨が揺れた。俺がここで本願寺・毛利に付けば形勢は逆転する。俺が天下を獲るための舞台が整う)

 

 そんな村重の笑った表情を見てしまった右近と清秀の背筋に、ゾッと悪寒が走った。

 

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