なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第193話 長谷川真昼、上月城を見捨てる

 播磨の西、毛利領との国境に位置する上月城。

 ここを任されているのは、毛利に敵意剥き出しの軍団である尼子再興軍。

 当主・尼子勝久が尼子一族が安芸で幽閉されているのに彼だけ捕らえられてなかったのは、京の寺で僧になっていただけの理由である。

 彼の父親は尼子誠久。先々代当主・晴久に暗殺され、勝久は出雲から追放されていたのだ。

 先代・義久の代で、毛利に滅ぼされたことを東福寺で聞いた時は何も思わなかった。

 

(俺とはもう関係ない話だ、俺のできることは仏の教えを民に教えるのみ)

 

 しかし東福寺に、山中鹿介を筆頭に尼子の生き残りが訪ねてきて運命は流転する。

 

「俺を担ぎたいなんてくだらぬ。去れ」

 

 当然、拒絶した。それでも鹿介ら生き残りは毎日東福寺の門に立った。

 雨が降ろうと、雷が落ちようと微動だにせず。

 

 数日が経った頃、彼は門に立つ鹿介に問うた。

 

「なぜ尼子にこだわる? 俺が言うのもあれだが、晴久も義久も名君ではなかったぞ。俺は政の右も左もわからぬ若輩の身。鹿介、お前が大将のほうが皆も従うだろう」

 

 すると鹿介は片膝をつき、両手を組んで答えていく。

 

「名君でなければ虐殺してもよいと? 正義でなければ土地を蹂躙していいと? 毛利に従えば民は幸せになれると? 反吐が出る! 俺たちは出雲の民! 我らの願いは父祖代々の地で平和に暮らすこと! その平和に、尼子家がいないなど俺には耐えられない」

 

 真っ直ぐ見据える鹿介の瞳に心震え、東福寺の僧に過ぎなかった男は還俗し、尼子勝久となった。

 

 それから幾年、毛利の土地で吉川元春ら主力軍が到着する前に散り散りに逃げ、次の目的地に合流するゲリラ活動を行い続けた。

 毛利の体制を揺らすことはできずも、苛立ちを募らせることに成功している。

 山名や大友ら反毛利の支援者を得て戦うだけの日々、勝久は僧に戻りたいと思った日は1日もないほど充実していた。

 やがて毛利と織田の関係が悪化し、織田の明智光秀から織田に来ないかと誘われ、勝久は受諾する。

 播磨に来た羽柴秀吉の指揮下に入り、上月城を任され、今後は出雲まで突き進むのみの状況に至った。

 

「早く織田に播磨を固めてもらいたいものよ」

 

 そう勝久が呟いて直後、亀井茲矩が驚愕して駆け寄ってきた。

 

「殿! 吉川元春、小早川隆景率いる毛利軍が迫っておりまする! 数、3万!」

 

「3万……我らの10倍」

 

 勝久の顔に、汗が滲んでいった。

 

 ***

 

 上月城を目指す毛利軍の先頭で馬を走らせるは、2人と2つの白球。

 

「尼子め……手こずらせおって。今度こそ詰みだ。一人残らず消してくれる」

 

『ユキオさんのゲリラ、手を焼いたけど、それは俺も日本一になれなかった気持ちがわかるからが原因。もう迷わない。V3して1回も日本一になれなかった俺と、ここで雌雄を決しよう』

 

 吉川元春と英霊ボール『オガタ』が闘志を漲らせている。

 

「兄上、作戦通り包囲即攻城戦は控えてください。この戦は必ず勝てる戦。慢心と憎悪は瞳を曇らせます」

 

『その通りじゃ。三木城が我らの城となり、さらにあの城もこちら側になる。敵が愚かなら血みどろの決戦となるだろう。フフフ、敵が知恵者だからこそ、上月城全滅だけで終わらせる。ちなみに儂は日本一3度もある』

 

 小早川隆景と英霊ボール『コバ』が自信を滲ませていく。

 するとオガタが少しムッとした。

 

『コバさん! 一言余計じゃけえ』

 

『こんくらい許せ。これは大選手なのに英霊ボール大戦参加資格なかった『サチ』と『エナツ』の分よ』

 

『カープの裏歴史わかる人、どんだけいるのかわからないんだけど⁉ まだゾ○ビタバコのほうが知名度あるでしょ!』

 

『何を抜かすか! 東京駅に降り立った儂ら見て、ヤ○ザが攻めてきたと駅が大パニックになったほうが有名じゃろ!』

 

『え? それ史実なの?』

 

 英霊ボールどもの口喧嘩を聞きながら、元春と隆景は全軍に下知する。

 

「さあ、上月城を包囲せよ。毛利に仇なすゾ○ビどもを駆逐するぞ」

「尼子よ。我らを見てパニックになるがいい。全軍、進め」

 

 ***

 

 私たちがいる高倉山の陣幕に上月城が包囲された報告が入り、私と小六さん、小右衛門さんがササッと立ち上がったのに、秀吉さんも半兵衛君も、官兵衛さんも立ち上がらない。

 

「どうしたの? 行くんでしょ、上月城に」

 

 私が言うと、小六さんも声を張る。

 

「毛利本隊と決戦できるなんざ、最高の舞台じゃねえか。ここは急いで向かうべきだぜ、秀吉の大将」

 

「何か気がかりでも?」

 

 小右衛門さんが訊ねると、官兵衛さんが腕を組みながら淡々と答える。

 

「今、上月城へ我らが動けば三木城に背を晒します。さらに播磨各地の火種により、動かせる軍は1万。負けるのはこっちです」

 

「毛利の奥の手が未だ掴めぬは我らの不手際。ですが宇喜多直家が毛利を素通りさせた以上、何かあるのは確実。毛利が勝ち、織田が負ける一手を布石にしてるのです」

 

 別所重宗さんも、苦渋の表情で答える。

 

「うっ……じゃあ、鹿介さんたちを脱出させるだけでも!」

 

 私が提案するも、即座に官兵衛さんが否定する。

 

「毛利を前にして、彼らは逃げません」

 

「なら抜け道から奇襲!」

「どの道も三木のオオギが睨んでます」

 

「船で!」

「制海権は毛利です」

 

「空から!」

「弓矢の餌食です。……どうやって飛ぶのです?」

 

「英霊ボール投げて撹乱!」

「敵方のコバ・オガタ・オオギが涎を垂らすのみ」

 

「私だけでも!」

「3万の兵を動かす毛利両川は名将の中の名将。真昼殿が如何に無双しようと、上月の塀に届くことはありません」

 

 私の策を官兵衛さんは一つずつ、刃物みたいに切り落としていく。

 

「上月を救いに行けば、織田が滅ぶのです」

 

「……そこまで?」

 

  絶望しかない。播磨のたった1城の攻城戦が、織田と毛利の未来を背負うことになるなんて。

 

「ウキキ!」

 

 そこに秀長が、信長様から届いた書状を持ってやってくる。

 そうだ……信長様なら起死回生の策を……。

 でも、開いて読んだ文面に私は言葉を失う。

 

『上月城は棄て置け。毛利の狙いに乗る必要はない』

 

 私は信じられない思いで、上座に座る秀吉さんを見た。

 秀吉さんなら、あのニコニコした笑顔で「真昼の頼みだ。なんとかする」と言ってくれるはず。

 けれど秀吉さんも首を横に振った。

 

「……上月城への救援は断念する。我らは三木城攻めに専念しよう」

 

「尼子再興軍は……見捨てるの?」

 

 私の声に、秀吉さんは私から目を逸らさず、ただ答えた。

 

「……そうなる」

 

 センイチも無念そうに呟いてくる。

 

『……ユキオさん。今どんな気分なんやろ。オガタはともかくコバさん相手は色々思い出すやろうな。2年連続でやられた79年、80年日本シリーズを。……ああああああ! 儂のドラゴンズとタイガースのトラウマが蘇る』

 

 センイチ……わけわからんこと言って自分のトラウマに溺れるなよ。

 

 私は藁にも縋る気分で半兵衛君を見る。

 今まで何度も窮地をひっくり返してくれた天才ドS軍師を。

 

 半兵衛君は無音で首を横に振るだけ。

 綺麗な理屈も、慰めも、何も口にしてこなかった。

 

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