なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
官兵衛さんが有岡城に向かったことを知った半兵衛君は、すぐに早馬を放ったけど、もう官兵衛さんは有岡城の門を潜ったという報告だけが戻ってくる。
「……遅かったか」
報告を受けた半兵衛君は、歯軋りしてどこかに向かう。
「ちょっと、半兵衛君!」
慌てて追う私がたどり着いたのは秀吉さんの部屋。
半兵衛君が開けた襖に三成ちゃんが何事かと身構え、秀長はビクッとし、秀吉さんは、ただ嘆息した。
「……なぜ、官兵衛殿を行かせたのです。あなたはどうなるか知っているはずだ」
「ちょっとちょっと半兵衛君。まだ確定してないのに、秀吉さんを問い詰めるのはどうかと思うよ。冷静に……」
私がいつも冷静な半兵衛君を説得しようとする日が来るなんて。
そう思いながら、動悸が止まらない。
これが、本当に取り返しのつかないことだと理解したからだ。
「官兵衛殿は……生きて戻る」
「生きて戻る? まるで死ぬような目に遭うのを知っているかのようですね」
「それは……」
「戻るのはいつですか? 五体満足で戻るのですか? 官兵衛殿の人生をあなたは背負えると言うのですか?」
「……」
秀吉さんは沈黙した。
彼女の膝の上の手が、ぎゅっと袴を握る指先だけが震えているのが分かる。
「よろしい。生きて戻るとしましょう。仮にそうだったとして、それが今回も当てはまると、なぜ言い切れるのかと聞いているのです! 答えなさい、羽柴秀吉。……いえ、長谷川真昼!」
「なんで私⁉」
突然の飛び火に、私は吃驚するけど半兵衛君の目は秀吉さんに向かったまま。
秀吉さんは天を仰ぐかのように上を向いた。
え? どゆこと?
秀長も両手を広げ、やれやれという顔しやがるが、私に向けて妙にキリリとした顔を見せてくる。
まるでこれから、俺の知ってることをすべて教えてやると秘伝の技を渡す師匠役のように。
「三成。しばし席を外してくれぬか?」
「……承知しました秀吉様。さあ行きますよ、秀長様」
「ウキッ⁉ ウキキ、ウキ」
「いえ、私は猿語はわかりません。それより書類の決済お願いします」
「ウキーーーーーー!」
秀長はなんで俺も⁉ ここ俺の大事な出番なんだけど! と言いたそうだったけど、三成ちゃんに引きずられて出て行ってしまった。
どんまい秀長。大丈夫、奥義伝授は秀長なしでやってやるよ。敬礼!
……じゃなかった。あれ? いいのあれ、いなくなって。
「秀長殿のことはいずれ。では答えを聞きましょうか」
半兵衛君が座り、私も横で正座して秀吉さんと向き合う。
センイチとモリミチも神妙に頷きあってゴロンと畳の上に転がってる。
「どうしてそう思う? 半兵衛殿」
そう言った秀吉さんの顔に微笑が浮かぶ。
「最初の疑惑は、手取川無断帰陣の理由が松永久秀謀叛。しかも官兵衛殿から聞いたと咄嗟の嘘をついたこと」
「……うん」
「そこから天王寺砦で、真昼殿にわざわざ信長様の側を離れるなと念を押したことにも違和感が浮かび上がりました。秀吉殿は、あの信長様狙撃も知っていたのではないかと」
「……」
「これは播磨に着いて官兵衛殿に言われて気づいたことですが、真昼殿と秀吉殿には共通点があります」
「共通点?」
「ええ、信長様の本音を言動のみで引き摺り出す、稀有の存在。これは帰蝶様だったからと、ずっと思って考えもしませんでした」
「信長様の本音……それは半兵衛殿や長秀殿でも」
「僕や長秀殿は策という、配下と主君の弁えた関係です」
なんとか反論しようとする秀吉さんを、徹底的に半兵衛君は潰していく。
あわわ。これどっちを味方すべきか悩むよ。
いや、当然半兵衛君なんだろうけど、絵面は完全にヒロイン虐めて追い詰める名探偵コ○ンや金田○少年だよ。
「さらに、謙信の死に動揺の一つも見せず、今、この時点で官兵衛殿の帰還を知るはずがない。なのにあなたは生きて帰ってくると断言した。わざわざ生きてと断言できるのは、一度経験している者のみ」
「……かもね」
……一度経験?
「あなたが牛一殿に語った偽りの幼名『日吉丸』。これは天高く昇った太陽という意味。……同じ意味の名前がもう一つあります。太陽が天高く昇る刻限。それは『真昼』。あなたは無意識に元々の名を参考に考えて日吉丸の名を考えていた」
「……それはこじつけすぎないか? 半兵衛殿らしくない」
「ひとつならこじつけでしょう。ですが、こじつけがいくつも同じ方向を向くなら、それは偶然ではありません」
「……」
「あなたが帰蝶様の名を捨て、最初に名乗った名は木下藤吉郎。木下は日の下にありながら木陰に隠れる名。藤吉郎の藤は水と日の光を受けて伸びる木」
「……」
「長谷川の川と真昼の日の光、さらに斎藤帰蝶の一字に思いを込めたと、今ならはっきりと分かります。本人は相当頭を捻って考えたと思っているでしょうが、長谷川真昼の思考を元に考えれば簡単です。彼女のお花畑な脳内で、男装するならなんと名乗る? はい、真昼殿」
「ちょっ、ここで振らないで! てかお花畑じゃないし! えっとえっと……ううー、もう木下藤吉郎しか思い浮かばないけど、これ刷り込みだからノーカンだよ」
なぜか私が追い詰められてると、秀吉さんは両手を挙げて嘆息した。
「ふう……やはり、半兵衛殿にはバレたか。日吉丸という名前は相当前から考えていたんだがな。木下藤吉郎も、ねねと秀長と一生懸命考えたんだけどね」
秀吉さんの表情は、今までの重苦しい雰囲気が消えたかのように晴れている。
でも、悲しみの色は消えていない。むしろ、より濃くなったように感じる。
「えっと……どゆこと?」
恐る恐る訊ねる私に、秀吉さんは居住まいを正し、告げてくる。
「私の名は羽柴秀吉。元の名は斎藤帰蝶。……さらに元の名は……長谷川真昼」
…………は?
「えっと、私も長谷川真昼なんだけど? 同姓同名ってこと? いやあ、すっごい偶然じゃん! アハハハハ」
「いや、違う、真昼。私は君だ。君が私でも合っている」
「いやいや、私、双子じゃないよ?」
尚も抵抗を試みる私だったけど、半兵衛君が無慈悲に正解を告げてきやがる。
「真昼殿。つまりこうです。 一度目の貴女は、戦国で帰蝶として生きた。その帰蝶殿が、今は羽柴秀吉として我らの前にいる。そして二度目の貴女が、貴女である長谷川真昼殿です」
…………ん?
「さすがは半兵衛殿。いや、半兵衛君」
いや、秀吉さん頷かないで。余計こんがらかるっての。
「ちょっと待って秀吉さん! それって秀吉さんが英霊ボール集めして、信長様の奥さんの帰蝶さんになったってこと⁉」
信長様とラブラブな帰蝶さんが私? いやいや、さすがにないって。
だって私が令和で普通に暮らしてた時に憧れていたベストカップルだよ。
それが私だった? ないない。ないって。
でも、秀吉さんは頬を少し赤らめて、こう呟くのだった。
「……コホン。そうなる」
「んーと。まだ信じられないんだけど?」
「通っていた高校は東京の公立。帰宅部発足してルンルン気分でいたら、突然野球の神とやらに召喚されただろ? 私」
………………。
うん、その通りだよ。
本当に気づいたら戦国時代に飛ばされてたっけ。
これは私しか知り得ないことだ。
「えーと。ということは本当に秀吉さん……いや、帰蝶さんの本当の名前って……」
「ああ、正真正銘、長谷川真昼だ」
………………。
「なんで私ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ⁉」
私の絶叫が、無駄に姫路城に響き渡っていった。
いやあ、第1話からこのネタのために書いてたw