なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第200話 長谷川真昼、松寿丸を逃がす策に加担する

「信長様と帰蝶様の問題はひとまず置き、現状を確認します」

 

 姫路城で秀吉さん(私)の帰蝶だった人生を聞き終わり、半兵衛君が地図を広げ、ストンと扇子を有岡城に向ける。

 

「秀吉殿の申す通り、官兵衛殿が生きて戻ると仮定しても厳しい状況は変わりません」

 

「ああ。村重は姑息だ。小寺政職が裏切った証拠も有岡城にしかない」

 

 秀吉さんも厳しい顔で頷く。

 

「官兵衛殿を幽閉した村重は、官兵衛殿が荒木に付いたと吹聴するでしょう。……そうなると信長様は、官兵衛殿の息子、長浜にいる松寿丸の処刑を命じます。これを覆すことはできません」

 

 断言して囁く半兵衛君に、私は息を呑む。

 

「官兵衛さんは裏切ってなく……村重の嘘なのに?」

 

「真昼、人質とはそういうものだ。これは別に信長様だけじゃない。戦国の世には、殺させるために子を成す者もいる」

 

「裏切った証拠がない。ならば裏切っていない証拠を出せ。至極単純明快な解決方法はあります。ですが有岡城を陥落させねば、裏切っていない証拠は出てきません」

 

 秀吉さんと半兵衛君からの、上月城に続く救出困難理由を耳にして私は両拳を握りしめていく。

 

「……今度は救う。無理とは言わせない。私が長浜へ行って、官兵衛さんが無実だって判明するまで、松寿丸君を隠す」

 

 立ち上がり、決意して告げる私に半兵衛君はフッと笑った。

 

「それについてはお任せを。秀吉殿でも真昼殿でも、信長様が知れば極刑しか選択肢がありません。ですが、僕が主犯だと極刑になることはありません」

 

「何それ? どうやって? 半兵衛君、体調悪いんだから、その策を私に授けて休んでて」

 

「フフフ。僕にしかできないので、あしからず」

 

「なら学ぶ! この目でじっくり見て学ぶから、覚悟してよ半兵衛君」

 

「おや、やる気ですね。真昼殿」

 

「そりゃ、秀吉さんのあんな話聞いたらやるっきゃないでしょ!」

 

 気合を入れる私を余所に、半兵衛君と秀吉さんは頷き合った。

 

 ***

 

 官兵衛、織田を裏切るの報は、瞬く間に織田領を席巻していった。

 

『あの黒田官兵衛ほどの男が、何の策もなく敵城へ入るはずがない』

『有岡城に向かったのは、荒木村重と密約を結んでいたからだ』

『三木城の別所長治、摂津の荒木村重の裏で糸を引いているのは、黒田官兵衛だ』

 

 そんな根も葉もない噂が、あっという間に蔓延した。

 三木城に籠もる別所吉親も、これを利用して東播磨の国衆を煽り立ててくる。

 

「黒田すら織田を見限った。今なら間に合うぞ。勝ち馬に来い」

 

 と。

 

 姫路城に残る黒田家の家臣、栗山善助さんと母里太兵衛さんは、怒り狂ってそんな噂を否定して喚き散らしている。

 

「殿が裏切るなら俺らを連れて行く! たった1人で他城の謀叛に加担なんて、どう考えてもおかしいだろ! するなら俺と一緒に行って村重殺して有岡城乗っ取ってるわ!」

 

「村重ごときに我が殿が付くかよ! 付くなら村重のほうだ! 場所は姫路、ここで秀吉殿らを斃すほうが、よっぽど殿らしいだろ。無論一番槍は俺だ!」

 

 ちょっとちょっと、官兵衛さん信じてる理由が別の意味でやべえんだけど。

 この2人、もしかして官兵衛さんが姫路城を秀吉さんに提供してたことに若干怒ってて、今回のことでストレス爆発してない?

 

 官兵衛さんの父である黒田職隆さんは息子を信じているようだったが、黒田家はあくまで小寺家の家臣だ。

 

「政職様に探りを入れましたが、『残念じゃ。官兵衛がのう』と言うのみ。腹の底は私でも読めます。信長様が勝てばこのまま。毛利・荒木・本願寺優勢なら毛利に行くつもりです」

 

 そんな小寺政職の思惑を打ち破る一手は、官兵衛さんが生きて戻ること。

 その瞬間、彼が織田にいる居場所がなくなる。

 

 そして当然ながら、安土の信長様にも噂は耳に入り、半兵衛君の予想通り、松寿丸君処刑命令が下されてしまった。

 

 ***

 

 命令書が姫路に届き、秀吉から了承の返答を読み終わった信長は控えている近習たちに目を向けた。

 

「久作(重矩)、半兵衛はなんて言ってる。奴のことだ、お前にも手紙を出しているだろう」

 

「は。兄からは、近々松寿丸の首を持って安土へ行くと」

 

「であるか。仙千代!」

 

「は」

 

「検死に長浜へ向かえ」

 

「……承知しました」

 

 信長の側に控える近習たちに緊張が走る。

 信長と仙千代が出て行ったあと、重矩のところに自然と足が向いた。

 

「半兵衛様の名で、信長様は警戒したかと」

「松寿丸を、ねね殿は我が子のように可愛がっているとのこと。秀吉様との関係悪化にもなると懸念します」

 

 蒲生氏郷、長岡忠興がひそひそ声で告げていくが、腕組みする重矩は無表情のまま。

 そこに堀秀政が告げる。

 

「重矩殿、貴殿の美濃の所領で土地を巡って揉める庄屋がいるとか。安土での職務は我々が引き継ぎます。どうぞ、解決しに行ってくだされ。信長様には我らから報告します」

 

 そんな案件がないのを、誰もがすぐ悟った。

 けれど、反対する者はいない。

 

「……すまぬ」

 

 こうして、重矩も動きだす。

 直後、秀政から報告を聞いた信長は、苦笑して重矩の帰郷を許可した。

 

 ***

 

 姫路を出発した、長浜城で松寿丸君を処刑する執行者——の名目の私たち。

 面子は私、半兵衛君、秀長だ。

 

 道中、半兵衛君の咳が明らかに悪化していた。

 馬の揺れが体に響くのか、時折顔をしかめている。

 

「半兵衛君、少し休も」

 

「……いえ、時間がありません。直ちに首を斬らねばなりません」

 

 半兵衛君の策はこうだ。

 松寿丸は半兵衛君の領地である美濃に隠す。

 代わりの死体は、長浜で病死した松寿丸君に近い年頃の男の子。

 

 そんな都合よく、似た年頃が見つかるわけがと思うけど、ここは戦国の世。医療体制は令和と雲泥の差。

 残念だけど、毎日のようにあっちこっちで子供は死んでいるのだ。

 

「当然、遺族にも手厚い保護をします。それについては任せます。秀長殿」

 

「ウキ!」

 

 秀長は見事な手綱捌きで馬に乗り、私たちについてくる。

 私と半兵衛君の荷物を持ち、街道の先を抜け目なく警戒している動きまでする、相変わらずただの猿じゃなく、織田家羽柴秀長の威名が轟いている有能な姿で。

 

「……ねえ秀長、あんた本当に猿なの?」

 

 いや、ここで聞くタイミングじゃないけど聞かずにはいられないよ。

 こいつも語りたがってたし。

 

「ウキ。ウキキノキー……」

 

「は? 俺の喋ることは全部秀吉さんが喋っちゃった? いやいや、他にあるでしょ! なんで自分が猿なのかとか」

 

「ウキー」

 

「そう言われても困るって、こっちが困るわ!」

 

 私が喚いていると、半兵衛君がクスクスと笑う。

 

「真昼殿。秀長殿の言葉がわかるようになっているようで」

 

「あ、そういえばそうかも。……なんで?」

 

「ウキ!」

 

「こっちが知りたいわ! ってなんじゃそりゃ!」

 

 駄目だこの猿。そのうち拷問しちゃる。

 

『秀吉と小娘が同一人物と判明したんじゃ。その影響じゃろ』

 

『しかし未だ信じられぬわ。いや、輪郭はそう言われれば似てなくもないが……いつも凛々しい秀吉と小娘がのう……』

 

『モリミチさん、ホント、それじゃ』

 

 センイチ? モリミチ? 秀吉さんが凛々しいのは同意だけど、私のことはなんて思ってたんだよ。

 

「後で絶対問い詰めるからね。逆さ吊りにして水責めにするぐらいは覚悟しといてよ!」

 

 私の脅しに、秀長は震えて半兵衛君の後ろに隠れたのだった。

 

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