なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
長浜城に到着すると、ねねちゃんが私たちを迎えてくれた……のはいいんだけど、後ろにいる猿軍団、何あれ?
「ウキーウキキノキー」
「ウキーウキー」
「ウッキウッキ」
秀長の指示で、猿軍団がバッと散っていく。
「ああ、秀長の両親とお姉ちゃん猿夫婦か。そういや居たっけ、そんな奴ら……」
信長様から尾張中村の永住権貰ってたっけ。
妹の旭ちゃんはおごとくちゃんの侍女として三河にいるけど、それ以外は長浜に引っ越ししてたのね。
……いや、秀長の家族だから当然そうなるんだろうけど、猿軍団がねねちゃんと一緒に長浜居残り組にいるって脳がバグるよ。
「半兵衛君、真昼。松寿丸のこと、頼んだわ」
凛として告げてくるねねちゃんに私も胸を張って答える。
「うん、任せて」
城の奥へ通されると、松寿丸君が背筋を伸ばして座っていた。
子供らしい笑顔を見せてくるけど、お父さんの官兵衛さんのことで小さな顔に不安の影が落ちている。
「やはり、それがしが死ぬべきだと思いまする。ねねお母様、真昼様、半兵衛様もバレたら殺されるのです。それがしは耐えられませぬ」
「そういうこと、子供は気にしないの! さあ立ち上がって。美濃に向かうよ」
私は正座姿勢から動こうとしない松寿丸君の手を握り、力任せに引っ張る。
「どうしてそこまでして、それがしを助けるのですか? 父はそれがしを見捨てたのに……」
松寿丸君の目に、我慢していた涙が溢れていく。
「今の結果だけ見れば松寿丸君がそう思うのは仕方ないけど、もう少し生きてみて? その結果が必ず変わるから、さ。よいしょっと」
背中に松寿丸君を乗せていざ行かん、美濃の地へ!
すると気合を入れる私の横で、半兵衛君が真顔で松寿丸君に言い放つ。
「松寿丸殿。僕たちは貴殿が松寿丸殿だから救うのではありません。織田の天下一統のため、黒田官兵衛に汚点を残さないために救うのです」
「って、半兵衛君、言い方ァ!」
子供に言うセリフじゃないってそれ。小3の私が言われたら頬に噛み付くと思うぞ?
でも、松寿丸君の泣きじゃくりがそれで止まった。
「父上の汚点……わかりました。父上のために、それがし、生きて生きて生き抜いてみせます」
「もう、松寿丸君はオトナなんだから」
そう呟きつつも、背中越しに伝わるこの体温を冷たくするわけにいかない。
「また、会いましょう。松寿丸」
「はい。ねねお母様!」
こうして私たちは近江・長浜から美濃の半兵衛君の領地である不破郡へ向かう。
国境の関所を怪しまれずに突破し、通る領の領主や代官の目、一般の農民や商人の目を欺かなくてはならない逃避行だ。
当然、険しい道や隠れ道を進んでいく。
「獣道の闇夜を松明なしで進む真昼様と半兵衛様……凄いです」
馬の上で私の背中に掴まる松寿丸君が、感嘆というより唖然として呟くけど寝てていいのに律儀な子だよ。
「信長様、深夜でも突然爆走するから慣れっこなんだ。松寿丸君も、信長様と一緒に働くようになればすぐできるって」
「はい。その日を楽しみにします! 真昼様と父上、半兵衛様と一緒にする時を」
「真昼殿、次の道を右に。そこから不破郡はすぐです」
「了解! 半兵衛君!」
獣道を抜け、月明かりしかない闇夜の街道。
けれどそこに複数の黒い影が見える!
「待ち伏せ⁉ 不破郡までもう少しのところで!」
慌てて馬を急ブレーキする私。
なんてことだ。こんな時間に集団でいるなんて、狙いが私たちだとしか思えない。
私は金属バットを構え、近づいてくる黒い影を威嚇していくと、知っている声が耳に届いてきた。
「お待ちを。兄上、真昼殿。重矩でございます」
「重矩君⁉ どうしてここに⁉」
たしかに声は半兵衛君の弟の重矩君だ。
けれど彼は信長様の近習で安土にいるはず。どうしてここに? まさか信長様の命令で待ち伏せされてた?
「重矩。それに矢足か」
動揺する私を制し、半兵衛君が落ち着いた声で馬上から囁く。
「兄上、急ぎ長浜へお戻りくだされ。検死に仙千代が向かってます。松寿丸殿はお任せを」
「よく知らせてくれた。真昼殿、松寿丸殿を重矩へ」
「えっと……大丈夫? 重矩君。バレたらヤバいんだよ?」
「なあに。僕は兄上から愛人に子を産ませてしまったから引き取れと押し付けられた。と、言い逃れできます」
「いやいや。子供の前で変に生々しい策謀を淡々と言わないでくれたまえ」
呆れつつも、松寿丸君を任せて大丈夫だと判断できるセリフだから私は重矩君を信じることができる。
「矢足の屋敷で匿い、官兵衛殿生存の際、安土に行くように。万が一あらば、竹中の子として世に」
「は。兄上、お任せを」
「重矩……後は任せた」
「……は。お疲れ様でした。兄上」
兄に向かって深々とお辞儀する重矩君の姿を見ながら、私は松寿丸君の面と向き合う。
「私から一言。必ずまた会いましょ」
「はい! お世話になりました。真昼様」
こうして私と半兵衛君は松寿丸君を重矩君に託し、長浜へと急いで戻る。
もう信長様ったら。検死をわざわざ長浜に送るなんて相変わらず性格悪いんだから!
***
私と半兵衛君が長浜に戻った直後、万見仙千代君が到着した。
危なっ! ギリギリセーフ。信長様には私たちが長浜から安土に松寿丸君の首を持っていく手紙出してたのに、まだ長浜にすら居ないのかよって思われるとこだったよ。
「ウキ!」
得意満面にブツは用意しましたぜ、姉御と首桶を見せてくる秀長。
病死とはいえ、首を切断して身代わり、か。
「なんまんだぶ、なんまんだぶ。どうか安らかに眠ってね」
神も仏も、ぶっちゃけ私の人生では敵でしかないけど、こういう時ぐらいは祈らせてもらうよ。
ついでに、バレたら次は神と仏の首を頂くからなと内心で念を押しておこ。
おいこら秀長。全身の毛を逆立ちさせて後退りするなよ。
私の心の声でも読めるんか?
さあ、次は仙千代君との騙し合いだ。
長浜城内に入り、私とねねちゃん、半兵衛君と秀長が待つ大広間までやってくる仙千代君は挨拶もそこそこに仕事の話を切り出してきた。
「信長様の御命令です。黒田官兵衛の子、松寿丸の処分はもうお済みでございますか?」
「はい。こちらに」
啜り泣きするねねちゃんが発する声に、秀長も涙を流していく。
私も泣くべきだろうか? でも涙は出ない。苦しい悲しいよりも、バレるかバレないかのドキドキが上だからだ。
仙千代君が確認作業のように首桶を開け、中を確認し、私たちの顔をジッと窺ってきた。
「……竹中様。この首は間違いなく松寿丸ですかな?」
「はい。竹中半兵衛重治の名においてお約束します」
「左様ですか。それならば間違いないでしょう。……真昼様。よく暴れませんでしたね」
「仙千代君、言い方ァ! 大丈夫です。あとで長浜猿軍団の全毛毟ってやり場のない怒りを発散します」
「ウキッ⁉」
やだなあ、冗談だよ秀長。そんな青ざめなくてもいいのに。
ん? 長浜から急速に猿軍団の気配が消えてくぞ? あいつら、殺気に関して敏感すぎるでしょ。
あとで山狩ならぬ猿狩しよ。
「そうですか。いやはやホッとしました。真昼様に暴れられたらこっちの命もないかと……」
仙千代君? ただの検死に、命の危機感じてたんかい。
「ではこの首桶を頂戴し、安土へ帰ります。嫌な役割、御苦労様でした」
仙千代君が長浜城を後にしたのを確認し、私は緊張の糸が切れて大の字で寝転がっていく。
「つ、疲れた……でもこれで、あとは官兵衛さんを救出するだけだ」