なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
松寿丸君救出を終え、長浜城は静けさを取り戻していた。
半兵衛君は別室で休息をとり、秀長も家族を探しに出ていく。
「……ねねちゃん」
私は2人っきりになったタイミングで、ねねちゃんのことを聞いていく。
「秀吉さんから全部聞いたよ。……なんかごめん。英霊ボール大戦のせいで、ねねちゃんも巻き込まれちゃってたみたいで」
「謝らなくていいわよ、真昼。ま、いきなり過去に戻ったのはビックリしたけどね」
「帰蝶様付きの侍女だったんだね、ねねちゃん」
帰蝶様として生きた、前の世界での秀吉さん。
そこで桶狭間の前辺りでねねちゃんが雇われ、以降本能寺までずっと身の回りのお世話をしていたそうな。
「浅野家の養女として、どっかのお家に嫁に行くより面白かったわよ? 帰蝶様、戦場では強いけど、私生活は雑だったから面倒のしがいがあったわ」
「その時は、ねねちゃん誰かと結婚しなかったの?」
「話は何度かあったけどね。相手が戦死とか病死とかで流れちゃった。でも特に気にしてなかったわ。毎日忙しかったし、本能寺まであっという間よ」
ねねちゃんの目が、遠いあの日を愛おしむように細められる。
「あの日は今でも信じられない。本能寺で寝静まった深夜、迫りくる炎、帰蝶様の悲痛な叫び声。私は小一郎と一緒に、なんとか帰蝶様だけでも脱出させようとしたけど、炎の壁に阻まれたわ」
「そして、時間が巻き戻ったんだよね。秀吉さんの願いで」
「クスッ。いきなり浅野屋敷で幼女化した私になってるんだもの、ガチで焦ったわよ。すぐに帰蝶様の使いで小一郎が来なかったら家出してたわよ」
「あはは……」
戦国の世で幼女が家出って即詰みなはずなのに、ねねちゃんがしてたら『最強幼女現る』って噂になってそうだよ。
戦国時代の地図が今と全然違くなってそう。
「それで秀吉さん……帰蝶さんと相談し、今の形に持っていったんだね。でも、さ。結婚までするなんて覚悟決まりすぎというか、無茶というか」
「……そうでもしなきゃ、同じ未来になるだけよ」
「そっか……」
「あと勘違いしないように。木下藤吉郎となった帰蝶様と結婚したのは私の意思。普通に幸せだったわよ」
なんかモニョるよ。
一応、秀吉さん、もう1人の私だし。
「グフッ!」
すると、ねねちゃんが頭突きしてきやがった。
ちくしょう……相変わらず、凄まじい反応スピードだぜえ。
「なあにニヤついてるのよ。言っておくけど、あんたが秀吉様と同一人物なんて、私はまだ認めてないわよ」
「うう~。こっち来て出会った瞬間に頭突き食らった理由ももしかして……それ?」
ねねちゃんは笑って私を見るだけ。
ま、答えを聞くのは野暮ってもんだね。
英霊ボール大戦消えた世界で、突然私が現れて再び英霊ボール大戦が始まったのだ。
苛つく気持ちと、しっかりやれという気持ちを目一杯ぶつけてきたんだろう。
「しっかりやるから、見てて。ねねちゃん」
「ええ。任せたわよ、長谷川真昼」
友情のようで、家族のようで、でもそれは私と違う私とねねちゃんの関係。
私にとってのねねちゃんは、これからは友人だけでなく戦友となるのだ。
「ところで真昼」
「ん? なになに。大事な話の続き?」
居住まいを正すねねちゃんに、私も背筋をピンと伸ばす。
「秀勝を養子にする件、忘れないように」
「ほえ⁉ あれまだ有効なの⁉」
「当たり前でしょ! まだ産まないの? ポンポン産みなさいよ! さあ安土に戻って信長様を誘惑する! はい、これ決まり!」
「ちょっ! ちょっと待って! 大体その辺は私と帰蝶様おんなじ肉体なんだから妊娠しないっての!」
そうなのだ。ここも秀吉さんから聞いている。令和の人間である私が過去で子供を産んじゃうと、歴史が変わっちゃうかもだもんね。
「どうせ試してないんでしょ? やってみなくちゃわからないわよ。言っておくけど、信長様と帰蝶様の夜、毎日凄かったわよ」
「生々しいわ!」
私は立ち上がり、それでも出ていく前にもう一つだけ質問していく。
「……小一郎、今の秀長のこと、ねねちゃんはどう思う?」
「……純日本猿ね」
真顔で答えないで。余計謎が深まるから。
「まあ……だよね」
「でも真昼。あの子に悪意があれば私たちはここにいない。それだけはわかってあげて」
ねねちゃんの瞳は、穏やかでとても澄んだものだった。
***
『小娘、もう姫路に戻るんか?』
ねねちゃんの部屋を出て合流した私に、すぐにセンイチが質問してきた。
「うん。秀吉さんのところに戻らないと。半兵衛君の体調が戻り次第……」
『それも……戻るんか?』
センイチめ。嫌なことを。
「このまま半兵衛君をねねちゃんに任せ、先に戻ろっか……」
そう小さく呟いた私の耳に、背後から相変わらずの言葉が届いてくる。
「ねね殿とのお話は終わりましたか。さて、帰りますよ、真昼殿。姫路に」
半兵衛君が後ろに立っていたのだ。
「半兵衛君……このまま療養したほうが。顔、青白いよ」
「はて、帰路で馬から落下したら言う通りにしましょう」
「いやいや、それ、落ちたほうが危なくね?」
私の心配を無視し、半兵衛君はスタスタと歩いていく。
……もう、わざと落として地面スレスレで受け止めてやろうか。
「ウキッ!」
すると秀長も準備万端といった状態で現れた。
後ろにいる猿軍団がペコペコお辞儀してくるけど、わかってるって、秀長のことは任せて。
「ウキーウキーウキー」
「ウキャキャキャキャ」
全毛毟らないでくれて感謝します?
あなたは神です、女神です、美少女No.1です?
ムフン。そこまで言われたら、あなたたちの存在は認めてあげるとしますか。
でもそうだ。ちょっと疑問あったんだけ。
「ねえ秀長。明応9年からいるって言ってたよね? 両親猿の竹阿弥さんや仲さん、お姉さん夫婦の智さんと弥助さん、妹の旭ちゃんて本当の家族なの?」
「ウキー……ウキキキー」
「は? 仲間を探して美濃の山で受け入れてくれたのが彼らだって? いやいや、猿はお城の中で服着て礼儀正しくしたり、諜報活動とかできないと思うぞ?」
「ウキッ!」
「それは自分が仕込んだって。あんた猿を進化させる気かよ」
ダーウィンに秀長付き出したら、よだれ垂らして解剖しそう。
よかったな秀長、私が解剖学の知識なくて。