なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
荒木村重の裏切りに対し、信長は調略と地鳴らしを進めると同時に、信忠を総大将、明智光秀と滝川一益を補佐にし、堀秀政、蒲生氏郷、長岡忠興、万見仙千代、菅谷長頼ら若手中心に軍を配備。
村重が籠る有岡城を厳重に包囲していった。
「信長め、俺を経験値稼ぎにするか。ならば皆殺しにしてやる。全軍出陣!」
深夜、寝静まる織田の陣所を火攻めする荒木軍。
松明や火矢の炎が業火へ変わる。
「はーっはっはっは。この程度よ、織田なんぞ。全軍、次を強襲するぞ」
俺はこの隙に……そう思う村重だったが、人が燃える肉の臭いがまったくしないことに気づく。
やがて炎の陣に、織田兵率いる将が現れた。
「夜討に気づかぬ我らと?」
「語るに落ちたな。さあ、死んでもらうぜ」
左から堀秀政、前方より長岡忠興の姿。
さらに右から蒲生氏郷の姿が炎で照らされる。
「ちっ。……のう、氏郷殿。宗易門下同士、一騎討ちで勝負を決めぬか?」
槍を構えて告げる村重だが、氏郷の表情は変わらない。
「御冗談を。首手柄など私はいりません。全軍、かかれ。奴を城に戻すな」
「宗易門下なら俺もいるぜ、おっさん。俺の最愛にして至高の妻を舐めるように見たの忘れてねえからな!」
忠興が激昂して金属バットを構える。
「おのれ! 舐めるなよ! てめえら! 敵を屠れ」
村重の号令一下、荒木兵が迎撃した。
(さてと、俺はこの隙に)
有岡城と違う真逆の道を精鋭で固め、馬を走らせる村重。
(フフフ、思った通り。俺が有岡に戻ると思ってやがる。右近と清秀と合流すれば、まだ逆転可能よ)
そう思いながら馬の蹄音を闇夜に響かせる村重であったが、そこへ無数の矢と火縄の銃声が響いていく。
「なっ……」
村重は絶句した。城を出た荒木軍に織田は向かっているのに、なぜここで待っている奴がいるのかと。
もう一つは完全に不意打ちを食らい味方が地面に落ちていくのに、俺は無傷だったこと。
これはまるで、俺は天から守られているようではないか。
やはり俺こそが、日の本を支配する器なのだ。
「もう一度だ。冷静に村重を狙え!」
「さあて。当たるといいな。万見仙千代よ」
村重の獰猛な笑みに怯むことなく、仙千代は火縄銃を構える。
「覚悟、村重!」
***
播磨・三木城。
織田から毛利に寝返り、上月城奪還のキーマンとなり、摂津の情勢を一変させる動きを見せたこの城の主・別所長治であったが、あれから城の領外に出ていない。
叔父である別所重宗と、尼子再興軍の生き残りである亀井茲矩率いる羽柴軍に包囲され、日に日に城内の兵糧が減っている状況だ。
『上月を見捨てるのは計算の内やった。……が、村重への対応までじっくりやるとはな。信長っちゅう男は苛烈極まる性根やとデータが示していたが、とことん我慢と調略か』
長治の英霊ボール『オオギ』が、三木城の大広間の上座で冷静に情勢を分析している。
村重だけじゃない。瀬戸内の制海権も鉄の船6隻で一変させてしまった。
もはや海も織田が優勢。三木城で籠る利点が消えた。
「村重は、勝てるでしょうか?」
オオギの横で、長治が不安そうに訊ねる。
村重が死ねば、後顧の憂いを無くした羽柴軍が全軍を率いて三木城に向かう。
それだけは、なんとしても避けたい。
『村重なんざどうでもええ。お前さんは今から儂の言う通り動け』
「……」
『ここで全軍率いて包囲軍を一点突破で打ち破り、そのまま空の姫路を急襲。成功すれば御着の小寺政職を脅して吸収し、失敗すれば毛利水軍を頼り、安芸へ亡命や』
オオギの策に、長治は悲しそうに首を横に振った。
「失敗すれば当然、成功しても、包囲軍は三木城を落とすのでは?」
『当たり前や』
「三木の民はどうなります? 父祖代々の地がどうなります? 残念ですが、それがしはここを離れる気はありません」
『アホぬかせ。あとで奪還すればええだけや』
強気に念を押すオオギだったが、それでも長治の気持ちは変わらない。
「吉親叔父上が、毛利殿と宇喜多殿に救援を要請しているのです。まず、その結果を待ちましょう。救援が来れば、三木城を維持したまま勝てるのです」
オオギが猛牛のごとき明滅し、何か言おうとしたがそこに吉親が急ぎ足で大広間に入ってきた。
「殿! 朗報でございます!」
「毛利が動いてくれたか!」
立ち上がって喜ぶ長治だったが、吉親が告げたのは有岡城の情勢のほう。
「深夜、城から撃って出た村重軍、包囲する織田の一角を撃破したそうでございます!」
「うむ……おお、朗報だな。それで村重殿は?」
「はい、織田に損害を与え、高笑いして有岡城に戻ったそうでございます」
「ハハハ、そうか。さすがは天下の豪傑荒木村重殿。織田のような弱兵じゃ相手にならぬか」
「左様でございます。織田は弱い。我らも救援部隊が来次第、目に物見せてやりましょうぞ!」
喜び合う長治と吉親だが、どちらも乾いた笑い声だ。
(『村重め。夜討と同時に脱出を試みて阻まれたな。今頃城の中で激昂して茶器でも割ってるやろ』)
オオギの読み通り、有岡城に戻った村重は織田など大したことないと笑いながら内心で焦燥していた。
(兵は率いて脱出は無理か。捨て駒数名率いて行くべきか。……次の機会を待つ)
この攻防戦の詳細を仕入れたオオギは、織田軍の損害が思いの外少なく、それでも信長が、より慎重に有岡城包囲のために、対武田戦線の最前線にいる池田恒興と森長可まで投入してきた理由を察する。
(『荒木村重の脱出を防いだのはこいつだな。万見仙千代。織田軍の名ある者の死はこの者だけ。……信長、さぞかし痛恨やろ。育ちきる前に死ぬ奴を見るのは』)
オオギは長治を見る。
(『こいつも育ちさえすれば……』)
***
三木城を包囲する、羽柴軍の本陣があるのは平井山というところ。
木津川口でのリベンジ戦を終え、羽柴軍の士気も高まっている状態だ。
ただ私は、有岡城戦線で仙千代君の戦死を知り、内心でかなりのショックを受けていた。
(ごめん、仙千代君。松寿丸君の件、察してたのに見逃してくれて)
死神は、ある日突然誰かの背後で鎌を突き立てる。
私も、秀吉さんが前回本能寺まで無事なんだから、私も本能寺まで無事だと思わずに、より注意していかないと。
三木城包囲戦中、暇はない時間を無理やり作って、半兵衛君は秀吉さんが秀吉さんでいることになってる目的と運命打破のため、その時の情勢を細かすぎるほど聞いていった。
密談メンバーは他に私と秀長、センイチとモリミチ、さらに私とは久し振りの顔合わせのヒロミツだ。
じっくりするにしても戦場ど真ん中だし、どうしても今すぐ秀吉さんや半兵衛君が判断しないといけないこともある。
それに三成ちゃんや小六さんたちに、ずっと内緒話してるのもいい気分はしないので、ゆっくりと慎重に進めていった。
ヒロミツとも、再会初日にこんな会話をして打ち解けたのだ。
「私とは大垣城以来だね。どお? 元気してた?」
『フッ。俺は帰蝶とちょくちょく会ってたからな。あまり久し振りな気はせん』
「そっか。まあ帰蝶様な秀吉さんと私が同一人物って、まだ実感ないけど、これからよろしくね。あっ、そういや以前言っていた尊敬してるイナオって監督には会ったの?」
『いや、居場所を確認したのみだ。だがお前、俺がイナオサマに手を抜かないか心配してるだろ?』
ギクッ! センイチと違って細かいことに気づくんかい。
『おい小娘。ヒロミツは勝負の鬼やぞ。例え愛息だろうと声優だろうと狩る対象なら屠るわ』
センイチも暑苦しくも嬉しそうに再会を喜んでいた。
ん? 声優?
『ちっ、センイチさんめ。本能寺回避後に白黒つけてやる』
『望むところよ! 声優ネタでとことん揺さぶってやるわ!』
『ギリッ!』
こらこら~、仲間陣営で喧嘩すな~。
まあ、それはともかくヒロミツはイナオサマと声優に弱いとインプット完了、と。
センイチもたまには役に立つね。
***
やがて密談を重ねるごとに、半兵衛君の中に一つの答えが導かれていく。
「この世に解き放たれた108の英霊ボール。一つだけ、どこを探しても見つからないなら、考えられるのはここしかありません」
半兵衛君が示した地図の場所に、秀吉さんの顔色が変わった。
「……なるほど。ここなら本能寺の奇襲も、信長様や十兵衛君の目を盗んで行うことは可能。……しかし、ここへ確かめに行くのは不可能だ」
『ちっ。ここは無理だ。見つかればその時点で信長も終わる。そして英霊ボールがいるなら、確実に見つかる』
ヒロミツも悔しそうに青く明滅した。
『なるほどな。ヒロミツが告げた英霊ボール107の所在。残る1球に、奴の名がないのは違和感じゃった。奴のプロ野球での異名。そこなら納得じゃ』
嘆息するようにモリミチも呟く。
「貴方がたが気づいたことも、これから隠し続けなさい。さすればこの英霊ボールの所持者は、前回通りに本能寺を襲うでしょう」
ゴクリ。
私は息を呑む。こんな重大な情報、私が知って大丈夫だろうか? 特に信長様に「おい真昼、何を隠してやがる」なんて言われたら白目剥くしかなくなるよ、私。
「いいですか。……欺き続けるのです。……敵は……本能寺に……あり」
そこまで言った、半兵衛君の身体が揺れた。
『半兵衛!』
「半兵衛君!」
モリミチと私の絶叫が、陣幕を揺らしていった。