なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第205話 長谷川真昼、半兵衛の最期に泣き崩れる

 半兵衛君が倒れて数日後、京の名医・曲直瀬道三先生が、なんと播磨の平井山まで訪ねてきてくれた。

 

「おや、僕ごときに遠出とは。ありがたき幸せ」

 

「以前より、秀吉殿から相談を受けておりました。症状から労咳。延命は療養のみ。これを守らぬ患者を診る意味もない。なので、会うことはないと思っていました」

 

「……」

 

「しかし光秀殿や利治殿、貴殿の弟君の重矩殿、さらに信長様や真昼様からも手紙を貰い、考えが変わりました」

 

「……」

 

「織田にとって代えの利かない智者にして、同僚や信長様から惜しまれる命。貴殿の顔を我が脳裏に。医者の限界を忘れぬために」

 

「フフフ。大袈裟な。……ただ、織田は僕にとってやりやすかったです。信長様、美濃衆の仲間、それと一応真昼殿のお陰で」

 

「やりきった、と?」

 

「いえいえ、未練も後悔も山程あります。……ですが」

 

 半兵衛は上を見上げる。

 

「僕の初陣は、斎藤道三様を救援するための長良川の戦い。最期の陣で、同じ名の曲直瀬殿が来たのは幕引きに縁起がいいかと」

 

 曲直瀬道三は一礼し、平井山を後にした。

 

 布団の中で、半兵衛君が横で正座して看病してる私に視線を向けてくる。

 

「いつの間に、曲直瀬殿へ」

 

「手紙? 長浜に行った時、ねねちゃんに頼んでおいたよ。さあ、ゆっくり休んで。大丈夫、安心して。戦闘になったら担ぎながら戦うから!」

 

「フフ、それもまた一興」

 

 半兵衛君は目を瞑り、寝息を立てていく。

 どうかせめて……三木城攻略が終わるまで保って。官兵衛さんが無事に救出されるまででも……。

 

 翌朝。正座態勢のまま眠った私の後頭部が、陣所の地面に思いっきりぶつかり、私は目を覚ました。

 すると横に秀吉さんと秀長が、沈鬱した面持ちで布団で眠る半兵衛君を見つめている。

 センイチとモリミチ、ヒロミツも、淡い青色を放つも普段のやかましさを一切見せていない。

 半兵衛君は目を開け、私たちを見て……笑みを浮かべた。

 

 猿でもわかる。今日、この日が——

 

「……竹中家は……弟の重矩に」

 

「ああ。羽柴秀吉が責任を持ってその通りにしよう」

 

 半兵衛君の手を両手で包み、秀吉さんは瞳を潤ませながら答えた。

 

「官兵衛殿は……戻れば別人のように……なるでしょう。ですが本質は彼の……ままなのを……忘れず」

 

 秀長がポタポタ涙を流しながら、激しく頷いていく。

 

「真昼……殿」

 

「うん。なんでも言って、半兵衛君。なんでも叶えてあげるから」

 

 私の声は声になっていただろうか? 自信がないよ。

 半兵衛君の手を握っていくけど、体温が感じられない。

 

「あなたは……あなたのままで」

 

 戦国へ来て、信長様に就職し、桶狭間で勝ってさあ美濃攻略だと思ったら、半兵衛君に足止めされた記憶が蘇る。

 木曽川で初めて出会った時のこと。

 十面埋伏の計で完敗したこと。

 斎藤龍興を追放し、稲葉山城を乗っ取って、私と秀吉さんの説得拒否して浅井家に行っちゃったこと。

 稲葉山攻略後、ようやく信長様の熱意に負けて、織田家に就職してくれたこと。

 

 そこから、1日も休まないで働いてたっけ。

 時々……いや、結構な確率で私に無茶振りしてきたね。何度死んだこれって思ったことやら。

 それなのに私だけじゃなくて、みんな半兵衛君の策を信じるのは、彼に私欲がまったくなかったから。

 ずっと命を削って、織田の天下静謐に邁進してたから。

 

「うん。……任せて。半兵衛君」

 

 半兵衛君は少年のように微笑し、モリミチに視線を向ける。

 

「お世話に……なりました」

 

『こちらこそ。お主に出会い、儂は果報者よ。センイチ、ヒロミツ。後は任せたぞ』

 

『うっく……モリミチさん。半兵衛。こっちこそ世話になりっぱなしやった』

『誰かに継承させる道は選ばぬ、か。わかった。任された』

 

「さて……少し眠ります。あまり、騒がしく……しないように」

 

 目を瞑った半兵衛君が微動だにしなくなったのに、すぐ気づいた。

 

 恐る恐る半兵衛君の手を握ると、徐々に体温がなくなっていくのが伝わってくる。

 

「半兵衛君……?」

 

 この陣幕や周辺に、羽柴軍が全員集まったかのようにいたるところから啜り泣く声が響いていく。

 小六さんも、小右衛門さんも、三成ちゃんも、正則君や清正君も、重宗さんや則房さんに茲矩さんも。

 

「ねえ、半兵衛君。起きてよ。みんな待ってるよ。半兵衛君が策を出して指示するのを。ねえ……」

 

 モリミチからも青色の光が消え、ただただ寝息を立てていく。

 センイチの号泣に釣られるように、羽柴軍全体が悲しみ一色に染まる。

 

「いや……いやだ……半兵衛君……半兵衛君っ!」

 

 私は床に突っ伏し、子供のように声を上げて号泣した。

 

「うわあああああああああああああああん!」

 

 平井山の陣所に、私の泣き声も響き渡っていく。

 

 竹中半兵衛重治。

 戦国の世を誰よりも見渡した天才は、最後の最後まで半兵衛君らしく、誇り高く安らかに、短い生涯を終えた。

 

 この日、平井山が泣き止むことはなかった。 

 

 ――【半兵衛最期の策、秀吉の正体編】完

 

 【官兵衛再起、石山本願寺戦終結編】に続く

 

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