なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
第206話 長谷川真昼、宇喜多直家と再会する
半兵衛君が死んでも、戦国の世の時計の針は止まらない。
三木城を包囲する兵たちの喧騒も、馬のいななきも、遠い出来事のようにしか聞こえてこない。
半兵衛君の死と同時に眠ったモリミチに、私の達筆で名前を書いて酒を注ぎつつ、センイチとヒロミツにも注いでいく日々を私は送っていた。
『前から思ってたんじゃが、白球によくもまあ豪快に筆で名を書くもんじゃな、小娘』
『昔からそうだ。ただの豪快な字なのに、本人は達筆のつもりだから始末が悪い。狩野永徳に、この字を書いた奴の性別は? と聞いたことがある』
『わっはっは。答えは柴田様か稲葉様! じゃろ』
『なんだ。センイチさんも、もう聞いていたのか』
『あんな屈辱耐えられぬわ。必ず儂が最後の1球まで勝ち抜いてやる!』
『フッ。最後の1球はオレの役目よ』
おいこらセンイチとヒロミツ。
人の達筆になんだって?
「ここにいましたか真昼様。うわっ! 酒臭っ!」
しんみり白球たちと半兵衛君とモリミチの第何回目だかの告別式をしてると、三成ちゃんがやって来て鼻を抓んでる。
一応言っておくけど、私は飲んでないからな?
「もう竹中様の死から7日経っています。そろそろシャキッとしてくれないと困ります」
「……うん。ごめんね三成ちゃん。大丈夫、今までも多くの死を見てきてるし、私もわかってる。ただ……吉乃さん以来かな? ここまで泣いたの」
「信長様の奥様だった人ですか。本当に真昼様、今川上洛戦の頃から織田家で活動してるんですね」
「アハハ。歳を取らないから不気味に見える?」
「いえ、噂だけなら怯えるかもですが、本人知ってるので別に」
さいですかい。
「ん……三成ちゃんやみんなに迷惑かけるわけにいかないし、動くとしますか」
私は伸びをしてセンイチを抱える。
「ヒロミツは秀吉さんをお願い」
『言われるまでもない』
「センイチ、行くよ。官兵衛さんを救いに」
『おう! 任せい! 今なら小娘もヒロミツも三成も分裂して見える! モグラ叩きは得意じゃ!』
とりあえず、センイチを井戸に放り投げて酔いを覚まさせちゃるか。
センイチを井戸に置いてきて、秀吉さんの本陣に入った私なんだけど、そこで秀吉さんと対面してる人物を見て心臓が止まるかと思ったぐらいビックリして固まってしまった。
「やあ真昼殿。元気そうで何より」
私はササッと秀吉さんの前に立って、挨拶してきた相手を睨んでいく。
「……秀吉さんを暗殺しに来たの?」
そう。居たのは戦国の世でも屈指の殺し屋、白面の野猪・宇喜多直家だったのだ。
世の奥様やJKたちよ、ナイスミドルなおじさまな外見に騙されちゃいけないぜえ。
こんなにイケオジなのに、笑いながら人を殺すタイプなんだぞ。
「いえいえ滅相もない。私は正式に、毛利から織田に鞍替えする意思を伝えに来たのです」
直家の軽い口調に、私は秀吉さんを見つめる。
彼女は険しい顔をしながらも頷いた。
「なんで今になって? 官兵衛さんが有岡で音信不通になって、半兵衛君が死んじゃって、播磨は毛利優勢なのに」
私が威嚇しながら訊ねると、直家は両目から涙を一雫ずつ流した。
目薬さして準備してたのかってぐらい器用だね。
「お恥ずかしい。ご存知でしょうが、秀吉殿が播磨に進軍してきたあたりから備前も大変だったのです」
「えっと、浦上宗景さんだっけ? 直家さんの旧主の」
「はい。暗殺せず追放してやったのに、なぜかしつこくゲリラ活動してきまして。一時期は天神山城を奪取されるぐらい、私も追い詰められていたのです」
うん。それで毛利も、対織田戦線に宇喜多直家が全力を出さないのを納得してるって半兵衛君が言ってたっけ。
こっちにとっては都合よかったし、どっちかというと宗景さん頑張れって思ってたんだよね。
……てか、なぜかしつこくって、理由わかってるくせに。
「徹底的に浦上残党を屠っていったんですが、その過程で……くっ! なんと毛利は私を支援しないどころか、宗景を支援していたと判明したのです!」
号泣する直家。
うわぁ、それは気持ちわかるよ。
毛利の気持ちが。
「しかも毛利輝元は、九州の大友こそ我が宿敵とか言って上洛しようともしない。これならいっそのこと、信長様に付いたほうがゲーム差0.5ぐらいマシだと思ったのでございます」
また絶妙にわからん例えを。
まあいいや。毛利に恨みを抱いたんなら、織田で頑張ってくれそうだね。
「えっと、じゃあ英霊ボール回収させてもらうけどいいですか?」
そう言いつつ、私は気づく。
「あれ? ヒロオカとワカマツは? シゲオは? 一緒に持ってこなかったの?」
「いやあ、これはうっかり。いやはや、歳を取ると段取りを忘れることが多くなりまして」
絶対嘘でしょ、このおっさん。目が備前は俺の物。これが確約できないなら英霊ボールを死んでも渡さんって意思が見え見えなんだけど。
秀吉さんが立ち上がり、こう直家に告げていく。
「直家殿の織田への恭順、認めよう。ただし働いてもらうぞ。英霊ボールはそのままでいい。毛利の最前線として備前を死守せよ」
「おお! 寛大なお言葉、まことにありがたき幸せ。……あと我が息子・八郎の後見人になってくれると嬉しいですなあ」
「わかった。直家殿の息子は、我が羽柴が全力で庇護しよう」
秀吉さんも私だもんね。頼られるとそう答えるしかないよね。
白面の野猪の子供……会ってみたいような永遠に会いたくないような。
「うーん、どうでしょう? 三木城包囲中ですが、我が岡山城で酒宴しませんか?」
「「いや、それは全力で拒否する」」
直家の提案に、私と秀吉さんの声が綺麗にハモったのだった。
結局、宇喜多直家の織田寝返りの余波で毛利がピリつき、私は官兵衛さん救出に向かうどころではなくなり、迫りくる毛利の牽制をする日々が続いてしまった。
事態が好転するのが、輝元が宿敵・大友宗麟が耳川の戦いで島津義久に大敗した余波で九州に食指が動いてくれたこと。
対織田戦線に力を入れなくなったわけじゃないけど、圧が弱まったのが私でも感じられた。
私は栗山善助さん、母里太兵衛さんと頷き合う。
機会はそうそう訪れない。
この機を逃さず、私は秀吉さんに有岡城行きを願い出た。
「……わかった。黒田の者たちと向かってくれ。真昼」
「了解です。任せて、秀吉さん」
こうして私は秀吉さんの許可を貰い、官兵衛さんの家臣、善助さんと太兵衛さんを引き連れ、有岡城包囲の戦場へと向かっていった。