なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
これは私たちが有岡城で官兵衛さんを救出する前後で起きた、徳川の血飛沫の結末までのお話。
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三河・岡崎城の主である松平信康と、遠江・浜松城にいる徳川家の主である家康の関係は、家康が伯父の水野信元を庇わず見殺しにしたことによって急速に冷え込んでいた。
いや、信康は父と不仲になったと思ってもいなかったであろう。
けれど岡崎城にいる信元の妹であり、家康の実母である於大は烈火のごとく家康を恨んだ。
「あの狸は我が息子ではありません。きっと幼少の時の織田家人質時代に本物は殺され、信長に都合のいいのが入れ替わったのです」
などと本気で公言しだし、家康の元来の拠点である三河の地を揺らしていった。
さらに家康の妻であり、信康の生母・瀬名も織田に恨みを持つ今川家の姫出身。
信康が産まれる前は不倶戴天の敵のような間柄だった於大と同調し、反織田の感情を鮮明にしたのだ。
「その通りです、お義母様。家康が本当に三河の主なら義元公討ち死に後も、今川のために槍を振るい、織田なんぞに尻尾を振らないでしょう」
こんな2人が共通するのが於大の孫にして、瀬名の子、信康への溺愛。
「ああ、忌々しい。あの狸顔なんて早く死んで、信康が徳川の主になれば丸く収まるのに」
「そうですわお義母様。そうすればすぐさま武田の支援で尾張に侵攻。フフフ、信康が天下の主になるのが天命というもの」
もう一つ、共通点がある。
「五徳め。信長の娘だからと、当然のように三河でふんぞり返りおって。ああ嫌じゃ嫌じゃ。孫が可哀想じゃ」
「信康が可哀想じゃ。この前も信康を馬扱いして背中に乗って外出しおってからに」
五徳は邪魔だ。けれどまだ利用価値がある。
織田と同盟破棄した場合の人質として。
あとはどうやって家康を殺すかのみ。
この於大と瀬名による不満と野望により、水面下で徳川家は現状維持の家康派と次世代の信康派に割れてしまったのだ。
五徳もまた、岡崎城に味方がいないのを肌で感じている。
「ウキー……」
五徳の侍女であり、羽柴秀長の妹猿の旭が不安そうに鳴く。
「旭、大丈夫。そろそろ、屠るか」
五徳は長く頑丈な縄を手にして立ち上がり、視線を椅子にしていた信康と跪く黒装束の老人に向けた。
「瀬名お義母様の部屋へゴー」
***
「殿……三河問題、どうするのでございますか?」
浜松城の大広間で貧乏ゆすりをしている家康に、重臣筆頭の酒井忠次が訊ねていく。
畳の上に信長からの書状が置かれている。
中身は三河で問題になっている於大と瀬名の増長と、五徳が孤立していることについて、対処せよとだけ書かれた内容。
信長がどこまで対処を期待しているか文面から読み取れないが、徳川にとって圧力であることは違いない。
信長が知った以上、もはや放置して信康擁立が表面化しようものなら三河に軍事介入しかねない。
信康・五徳夫婦保護を名目に、徳川による三河統治は裁量不足による没収、遠江一国に減封されるだろう。
「どうするって言われてもなあ……どうしよ?」
「これは真面目にお考えくださいませ。このままですと殿は死に、徳川は滅びます。……数正、お前も殿の背中を押せ」
忠次は控えている石川数正の援護射撃を期待するが、数正は苦悶の表情で黙したまま。
水野信元の件で、於大が激怒しているのが自分だからと理解しているため発言しにくいのだ。
『これは儂のボヤきや。嫌なら耳塞げ』
家康の横で、英霊ボール『ノムサン』が緑色に発光する。
『儂は最初の妻の子を捨てた。悔いはあるが、生きるっちゅうんは綺麗事やない。その分、後妻の我が子を大事に育成したわ』
「儂にも生涯、悔いを負え、と? そりゃあんまりじゃ、ノムサン。ぶっちゃけ瀬名は苦手じゃ。別れたい。けど妻なんじゃ。どんだけ嫌われても、儂にとって初恋でもあるのじゃ……」
『家康が死にたいならええ。止めはせん。しかしな、忠次や数正を見捨てるんか? お前一人の死で済まず、長年忠義を尽くしてくれたこいつらも殺すんか?』
ノムサンの正論に家康は反論を封じられる。
そうじゃ……このままだと何もかもを失ってしまう。
「ムムム……わかった。母上は寺に押し込め……信康と瀬名を……」
最後に言うべき言葉を濁す家康。
忠次と数正が拳を握りしめて発言を待ってると、大広間に「ウキー」という鳴き声が響き渡り、家康は立ち上がった。
五徳の侍女であり、家康が長年恋をしている旭だ。
遠い昔に隠居して姿を消していた服部保長を従え、右手に一通の書状を掲げていた。
***
「え? マジで? 信康君が服部正成君の介錯で切腹? 瀬名さんが処刑……於大さんが寺に押し込め……って、嘘でしょ?」
京の名医・曲直瀬道三先生によって杖は必須だけど動けるようになった官兵衛さんを、秀吉さんと秀長、善助さん太兵衛さんと共に安土まで行った私は三河で起きた大事件を耳にして絶句した。
「実子と妻を殺し、織田を選ぶと明確に意思表明したのです。徳川家康殿の覚悟、見事かと」
官兵衛さんが淡々と告げるけど、私はいやいやと首を振る。
「骨肉の争い怖えな。我が黒田じゃなくてよかったわ。……あ、一応小寺政職って殿の骨肉だっけか」
善助さん、主君の元主君に容赦なさすぎでしょ。
「てか家康が怖えよ。俺らの殿でも奥さんと息子を自ら殺さねえよ。……他人の手ならあるかもだけど」
太兵衛さん、それ、これから官兵衛さんと松寿丸君対面なのに発想ヤバいでしょ。
「ていうか……噂ちがくね?」
私は完成間近の安土城の大広間で男を馬乗りにして、後ろで目隠し猿轡に縄で縛ってるのに、なぜか嬉しそうな女性を後ろに置いて「よっ」って感じで右手を上げてくるおごとくちゃん見ながら囁いた。
「久し振り、真昼」
「あ、うん。久し振り、おごとくちゃん。……それ何?」
私はおごとくちゃんを乗せてる物体と、縄で縛られてる物体を交互に見つめていく。
「旭と交換トレードで貰った」
「いやいや、そんなさらっと……一応、徳川の跡取りなんじゃ?」
これ、どう見ても切腹したっていう信康君だよね?
縄で縛られてるの、瀬名さんだよね?
「これは元々私の私物……じゃなかった。形式上は夫だから私の物」
『なんや、信康・瀬名対旭のトレードは釣り合わんと思ったが、1対1のトレードか。つまり旭が家康の嫁になって、瀬名がおごとくの侍女か。納得じゃ』
いやいやセンイチ。おかしな納得の仕方しないでくれたまえ。
「……えーっと、いいの? 信康君」
私がおごとくちゃんの下に居る物体に目を向けると、物体は元気一杯に声を張り上げてくる。
「真昼様! 徳川の跡取りと五徳様の馬! どっちが幸せか分かりきったことでございましょう! そう、五徳様の馬こそ我が生きる目的!」
キラキラ瞳で、信康君だったかもしんない存在が叫んだ。
「ふぐう! ふぐう! ふぐうううううう!」
瀬名さんだった存在さあ。言ってることはわからんけど、なんで恍惚して快感得てるの?
「それがしのことは今後、猿飛佐助とお呼びくだされ! 猿の旭殿を当然意識した名であります! 母上はこの豚ァ! と呼ぶと喜びます! 猿飛小夜と改名し、五徳様の侍女として忠誠を誓ってくれました!」
えーっと。ごめん、ちょっと何言ってるのかわからん。
もしかして、瀬名さんの猿轡も猿繋がりってオチか?
しかしアレだね。猿(旭)、豚(小夜)、馬(佐助)でもう1人河童が加われば、おごとくちゃんが三蔵法師になるね。
あっ、寺に入れられた於大さんが河童か。剃髪させられてるもんね。
てか秀吉さんたち、透明人間のようにおごとくちゃんたちをスルーしないでくれたまえ。
何これ? もしかしてこの秘密、墓まで持ってかなきゃいけないの?
あっ、秀長は旭ちゃんからの手紙読んで泣いてやがる。
妹が家康さんの奥さんになって嬉しそうだ。
「大勝利」
私に向かってVサインしてくるおごとくちゃん。
「いや、どんな大勝利やねん!」
私のツッコミの手が、おごとくちゃんの胸にポンと当たるのだった。