なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第210話 長谷川真昼、官兵衛と松寿丸の再会を喜ぶ

 徳川内紛がおごとくちゃんの剛腕で幕引きした顛末を聞いた直後のこと。

 闇夜から猛禽類の瞳が光るように襖の奥から茶々ちゃん、初ちゃん、江ちゃんの悪魔……もとい幼女三連星の6本の腕が伸びてきて瀬名さんを奥の間に引き摺って行き、おごとくちゃんも猿飛佐助と改名した信康君を馬にしてどこかに行ってしまった。

 

「市叔母様と犬叔母様に自慢してこよ。八重緑姉様は岐阜か。明日行こっと」

 

 なんて口が動いてたような? 多分八重緑ちゃんはドン引きすると思うぞ?

 ……とまあ、わけわからん騒動が終わり、ここから本題だ。

 安土の大広間に肌をピリつくような空気が纏わりつき、秀吉さんに秀長が平伏し、官兵衛さんも善助さんと太兵衛さんに支えられながら平伏していく。

 センイチもドンデンに寄り添うように支える。

 

 信長様が、久太郎君や鶴千代君ら近習たちを率いて入ってきたのだ。

 

「信長様、おごとくちゃんアレでいいの?」

 

 とりあえず気になったことは確認しないとね。

 

「当人たちが納得し、織田に不利益がないなら別にいいさ」

 

 いやいや、納得してるのがヤバいでしょ。

 ただ、信長様の視線は平伏している官兵衛さんに向かったまま微動だにしない。

 

「松寿丸を」

 

 短く指示した信長様の命に、重矩君が官兵衛さんの息子の松寿丸君を引き連れて現れる。

 

「ち、父上……!」

 

「松寿丸、信長様の御前である。平伏せよ」

 

 駆け寄ろうとする松寿丸君を、官兵衛さんは平伏したまま身も蓋もない発言をしやがった。

 さすがの信長様も苦笑した。

 

「よい。俺はそこまで野暮じゃない」

 

 信長様の言葉を聞いて、松寿丸君は遠慮なく駆け寄り、官兵衛さんの胸に顔を埋めて声を上げて泣きじゃくった。

 

「父上ぇぇぇ……! 生きて……生きておられたのですね……!」

 

 官兵衛さんは動かぬ足で崩れそうになりながらも、震える痩せ細った腕で愛する息子を力強く抱きしめた。

 言葉はなかったが、親子の流す涙が有岡城での絶望と暗闇の全てを洗い流しているように見えた。

 

 私も目頭を押さえていく。

 互いに死んでいたかもしれない親子が生きて再会する。

 こんなの泣くしかないでしょ。

 

 なのに信長様はゆっくりと立ち上がり、親子の前に歩み寄り、永遠に見ていられる光景を台無しにしやがった。

 

「官兵衛」

 

 鋭い声に、官兵衛さんは息子をそっと離し、地に這いつくばって平伏した。

 

「俺は松寿丸を殺せと命じた。……恨むか」

 

 ちょっ⁉ 信長様! それ恨んでますって言われたらどうすんだよ。 

 そんな私の心配を無視し、官兵衛さんは淡々と返答していく。

 

「人質とは、そのためにございます。恨む筋合いのものではありませぬ」

 

「であるか。つまらん。半兵衛なら俺の詰めが甘いからこうなった、と嫌味を言ってきただろうよ」

 

 うん、半兵衛君なら言ってたね。

 でも信長様、ここで半兵衛君の名を出すのズルいよ……。

 松寿丸君は、半兵衛君が殺したと騙して自分の所領に隠した。

 信長様の命令に背き、官兵衛さんが救出されたら重矩君が事情を話すように布石して。

 信長様は、半兵衛君に直接言いたいことが沢山あっただろう。

 けれど……半兵衛君はもうこの世にいない。

 あるんだね、信長様にも半兵衛君ロスが。

 

 そんな信長様の挑発だったけど、官兵衛さんは動じない。

 

「有岡の土牢で、人間らしさは少し置いて参りましたゆえ」

 

「望みを言え。可能な限り叶えてやる」

 

「私の望みはただ一つ。信長様の天下一統のみ」

 

 官兵衛さんの言葉の奥にある底知れぬ深淵を覗き込み、信長様はしばらくの間、無言で彼を見つめ下ろしていた。

 

 やがて、信長様はフッと短く息を吐く。

 

「であるか。……生きて戻ったことは褒めてやる」

 

 それだけ言うと信長様は踵を返し、上座へと戻りながら続ける。

 

「半兵衛は俺の失策を救った。が……死んだことは許さん。官兵衛!」

 

「ハッ」

 

「半兵衛を超えよ」

 

「ハハッ。……必ず」

 

「ドンデン! これからも官兵衛を支えよ」

 

『おーん……そらそうよ』 

 

 そこで太兵衛さんが挙手する。

 この人もよくこの空気で何か言おうとするなあ。まさかお酒飲んだ?

 

「よい。発言を許す」

 

「松寿丸様でございます。どうか信長様の小姓として目をかけてくださいませ」

 

 太兵衛さんの発言に、松寿丸君も平伏して声を張り上げる。

 

「お願い申し上げます! それがしを小姓にしてくださいませ!」

 

 それにも信長様は苦笑し、松寿丸に告げていく。

 

「お前の父は俺のために足を悪くした。……側で支えよ。父を見て学べ。それが俺に対する最高の忠義になると思え」

 

 そう言うと、信長様は官兵衛さんたち黒田の者に退出を命じた。

 大広間に、私と秀吉さん、秀長と近習たちが残る。

 

「半兵衛がいなくなったから播磨攻略遅れた。などという言い訳は許さん。わかったな、秀吉」

 

「は。三木城を落とし、毛利を必ずや屈服させてみせます」

 

「それと直家だが、備前だけではなく働き次第で美作を与えると伝えよ」

 

 信長様の発言に、私は驚いて声を出す。

 

「信長様、アレが備前一国にいるだけでも怖いのに、もう一国与えるんですか? ヤバくね?」

 

 暗殺マシーンだよ? 白面の野猪だよ?

 

「アレは餌がなければ動かん。しかも奴は老齢なのに嫡男の八郎は暗殺を知らぬ小僧よ。可愛い息子に残すと思えば、人一倍働くだろうよ」

 

 うーわ汚い。さすが信長様。直家が一番弱そうなところついてきたよ。

 ……八郎君、本心で可愛いと思ってくれたらいいんだけど。多分、大丈夫かな?

 

「ところで真昼、何を隠してやがる。言え」

 

 ほえ⁉ なんでここでそれを聞く⁉

 

「えーっと、そのお」

 

 私がしどろもどろで目線を泳がせていると、秀吉さんが代わりに口を開いてくれた。

 

「半兵衛殿が、今後の毛利戦線での策を私・秀長・真昼に分割して授けたのです。壁に耳あり障子に目あり、その時まで口外できぬゆえご容赦を」

 

「ウキッ!」

 

 秀長も胸を張って答える。

 

「そ、そうなんですよ! 難しい単語が多くて、一字一句覚えてるのが大変でして……」

 

 私も苦笑いしていく。

 

 いやあ危ない危ない。

 まさか本能寺の敵をおびき寄せるために、信長様を餌にする策を半兵衛君から授かったなんて口にしたらどうなってたことやら。

 

「ほう。であるか」

 

 信長様? その怖い笑顔どういう意味⁉

 

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