なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
三木城陥落の報が安土に届いた頃、森長可もブツクサ言いながら大広間へと向かっていた。
「なぜそれがしがこんなところに。本来なら村重を追って安芸まで行っていたものを」
そんな早足で歩く長可を、信長の近習筆頭格である堀秀政が迎える。
「来たか長可。……さ、どうぞこちらへ。信長様がお待ちしております」
秀政が丁寧に挨拶したのは長可にではない。
後ろにいる女性にである。
長可の母・えいである。夫の死後仏門に入り、妙向尼と名乗っている。
他にもう1人、長可の弟の蘭丸もついてきている。
大広間に通され、上座に座る信長に平伏する森家面々。
ただしすぐに長可は顔を上げた。
「信長様! それがし護衛役は嫌でござる。敵を殺せと言われるなら喜んで行きまする。しかしなぜそれがしが、本願寺との交渉の護衛役になるのでございまするか!」
相変わらずの長可の態度に、信長の近習の面々である氏郷や忠興は(こいつ1ミリも変わってねえ)と内心ボヤく。
しかしこいつはそれでいいのもまた羨む。長可はこうだから信長様は信頼しているのだと。
「勝三(長可)よ。これはお前の母からの提案だ。母が敵地に行く。心配ではないのか?」
「まったく! 何故ならば、母は顕如と同じく阿弥陀如来を信じておりまする。その母を本願寺が害する愚か者の集まりならば、長きに渡って織田を苦しめませぬ! あとそれがしは仏教に興味ゼロ! 坊主頭見ると叩き潰したくなるでござる!」
あまりに遠慮ない言い回しに、蘭丸が慌てて兄の袖を引っ張る。
ただし長可は気づかない。
「と、勝三が申してるがどうする? 妙向尼。他の者に護衛役を頼むか?」
信長は苦笑し、判断を投げたが、妙向尼は頭を上げて毅然と返答していく。
「いえ、連れて行くのは森家当主である森長可だからこそ価値があるのです。個人の武勇でも、我が子だからでもありませぬ」
長可は「げっ」と呻く。
そう言われたら、こいつでもさすがに察する。
「……良い回答だ。勝三、お前の父と兄が死んだ原因は本願寺の蜂起。そのお前が本願寺との交渉の場にいる。それが重要になると理解したようだな」
当時、宇佐山城で英霊ボール『ナッシー』と心穏やかな交流をしていた森家。
そこへ突如として本願寺が織田に宣戦布告し、その影響で比叡山・浅井・朝倉連合軍が京に向かい進軍。
迎撃した父・可成と兄・可隆及び救援に来た信長の弟・信治が討ち死にし、ナッシーは奪われた。
当然、長可にもあの時の屈辱と憎悪が脳裏にこびりついている。
「は、はあ……」
困惑する長可に、信長はとどめの一言を放つ。
「勝三! 母の危機以外に金属バットで敵を殺すことを禁ずる」
「それはさすがに殺生な!」
抗議する長可だが、大広間にぞろぞろと大物たちが集って来て座り、内心で(詰んだこれ)と項垂れるしかない。
「ホッホッホ。信長はん。この狂犬、もし味方が妙向尼はんに、よいではないかよいではないかと帯クルクルしたら斬ってくるんちゃいはります?」
その声を聞いた瞬間、長可だけではなく蘭丸も立ち上がり声の主を睨んだ。
それを光秀が間に入り、阻む。
「前久様。冗談は程々に。長可殿、蘭丸殿、このお方は近衛前久様。此度の本願寺交渉の総責任者を立候補された、元関白様であらされる」
それを聞き、森兄弟は座り直す。
目はギラついたまま。
「ホッホッホ。よろしゅう頼んます。あっ、さっきのはブラックユーモアなんで本気にせんといてな」
扇子をバサリと開き、前久は笑顔を振り撒いた。
『ヤバいね、このおっさん。悪気の塊が服着て歩いているのに本気で悪気がないって思ってそう……』
光秀の英霊ボール『イシイ』が小さい声でボソッと呟くも、沈黙状態だった大広間だったため皆が耳にする。
「こら辛辣やわあ。イシイはん、もっと言ってくれなはれ。ちょっと背中がゾクゾクしはりましたわあ」
前久の笑顔を見て、イシイは身震いして光秀の袖に隠れた。
「前久殿は変人だが政治手腕は確か。さらに本願寺と個人的繋がりもある。此度の交渉、使節団の長は前久殿、副長に妙向尼。サポートに十兵衛(光秀)と吉兵衛(貞勝)。護衛に勝三と真昼を付ける。以上だ」
信長が立ち上がり、出て行こうとするが「お待ちくだされ!」と声が上がる。
声の主は蘭丸だ。
「私も本願寺に行く許可を!」
そんな蘭丸を信長は一瞥し、冷酷に告げる。
「小僧に何ができる? 前久殿には権威がある。妙向尼には信仰と織田双方に忠義がある。弁説は十兵衛、実務は吉兵衛。武力は勝三と真昼。貴様が行く意味がない」
「まあまあ信長はん。母と兄と離れたくない蘭丸はんの心情、可愛いやおまへんか」
前久が茶化すも、蘭丸の目は信長を真剣に見つめたまま動かない。
「ならばお約束します。手柄一つも立てられなかったら自害すると」
声になった言葉の内容に、光秀たち織田諸将はさすが森可成殿の子にして長可殿の弟と感嘆した……のだが。
ゴツン!
長可が思いっきり殴り、蘭丸は気絶した。
「弟はこのまま安土へ置いていくでござる。雑務は得意な奴でござるので、こき使ってくだされ」
妙向尼は落ち着いている。森家では日常茶飯時の光景なのだろう。
「よかろう。久太郎(秀政)! 此奴に小姓としての仕事をすべてやらせよ。できなければつまみ出せ!」
え? 全部やらせるって本願寺行くより酷くね?
と、前久は思ったとか、思わなかったとか。
***
三木城陥落の残務処理に、領民たちへの炊き出し、次なる戦線への軍備。
そんなクソ忙しくしながら、眠った英霊ボール『オオギ』に墨で名前書いて長治の墓前で酒を注いでいる私のところに安土の信長様から早馬が届いた。
『石山へ迎え。本願寺の英霊ボールどもを回収せよ』
……うん。相変わらず人のHPがいつでも満タンだと思ってやがるね、信長様。
秀吉さんの軍じゃなく私だけに言うって、どうせえというのだ。
「安心しろ真昼。交渉団は近衛前久様を筆頭に妙向尼殿、十兵衛殿、貞勝殿だ」
泣きついた秀吉さんに相談してよかったよ。
面子的に私いなくても十分じゃん。
「ん? ならなんで私も呼ばれたんだろ? いや、わかるよ? 英霊ボール回収でしょ。本願寺にいっぱいいるもんね」
すると官兵衛さんが杖でトントン地面を突き、あっさり告げてくる。
「英霊ボール回収は勿論のこと、真昼殿は浄土真宗に染まらず敵を人として扱います」
「おお! その視点から呼ばれたのか! そこから相手の心を開けって意味だね。いやあ、信長様ったら私を頼りすぎでしょ。困っちゃうわ~」
「いえ、違います。交渉団が危険に陥っても、仏の言葉に惑わされずに武力を振るえるからです」
……おいこら官兵衛さん。人を勝三のように評価してるんじゃありません。
「ウキ、キッキッキー」
秀長め、勝三が男版真昼ってどういう意味じゃ?
まああいつが小さい頃、千本ノックしてしごいたのは私だけどさ。