なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
顕如派を追い出し、クーデターに成功した石山本願寺本堂に残る教如に、眼鏡をクイッとさせて本多正信が口を開いた。
「心配ですか? 失敗したら後世に悪名が残る、御仏の名に傷がつくんじゃないか? 御仏も滅びるのではないか、と」
「冗談を抜かすな。俺に失敗もなければ悪名も残らん。……長島でも越前でも門徒を虐殺した信長に尻尾を振るう顕如こそ悪名の塊だ」
教如の身体は高揚と筋肉によって小刻みに震える。
「俺は違う。俺こそが阿弥陀如来に殉ずべき男! さあやれ、信長。ここ石山も虐殺で幕を下ろせ! 俺の死が信長の悪名を完成させ、地獄から貴様の足を掴んでやろう!」
「見事なお覚悟。僕は教如様を支持します。……ただ、殉ずるのはまだ早いかと。まずは教如様を信じる門徒に石山を固めさせ、信長の総攻撃の前に打てる手を打つべきです」
正信の眼鏡がキラリと光る。
「紀州の土橋平次殿に支援を要請しましょう。織田派に劣勢とはいえ信仰厚き御仁。宗主様から雑賀の指導者は土橋殿とお認めになれば、それだけで土橋派らは奮い立ちます」
「ふむ……」
「僕が使者になります。吉報をお待ちくだされ」
「わかった。座して死を待つより足掻くほうが俺も好きだ。頼んだぞ、正信」
『アナブキさん、トクジさん、ヒロセさん、教如様をよろしくお願いします』
正信の頭の上で英霊ボール『ノビタ』がペコリとする。
『言われんでもわかっとるわい』
『こっちも主を死なすつもり更々ないわ』
『ノビタ……ノムサンの弟子なのにええやっちゃな』
教如の周囲を浮遊する、ホークス系英霊ボールどもが緑色の光を発光した。
本堂の扉が閉まり、残された教如の周りで蝋燭が揺れる。
「……見え透いた嘘を」
苦笑する教如の側で、アナブキらも優しく明滅した。
***
石山の隠し通路から、南の紀伊ではなく西へ続く獣道を進む編笠を深く被った男。
彼の懐でノビタが小声で囁く。
『上手くいったね、正信』
「ええ、石山が滅んだら、教如に線香の一本でも供えてやりますか」
編笠の奥から眼鏡が光る。
毛利水軍の敗北によって、石山は陸も海も孤立。逃亡しようにも織田への降伏以外は死、というか降伏の動きを見せたら顕如に殺される日々が続いていた。
このまま石山で死んでなるものか、家康を破滅させるその日まで生きねばならぬのだ。
転機が訪れたのが信長からの和睦交渉。わざわざ近衛前久に任せたことに本気度が窺える。
(顕如らが受け入れることも、教如が反発することも計算通り。僕はその隙に逃げさせてもらいますよ。誰がノビタを渡すものか!)
歪んだ笑みを隠しながら歩みを早める正信の足だったが、止まった。
目の前に人影が2つ、浮遊する英霊ボールも2つ。
「そこまでです。お縄の時間ですよ、正信さん!」
『おいこらノビタ! 往生際が悪いぞ! ツルオカの大親分らを見習わんか!』
「残念ですが、知恵者と名高い貴殿を逃がすわけに行かぬ。織田の天下泰平のために」
『ノビタパイセン。諦めてよ。あんた大選手だったけど名監督じゃなかったし、英霊ボール大戦勝ち抜くのキツイって。織田でぬくぬくしようよ』
真昼、センイチ、光秀、イシイの登場に正信は編笠を地面に叩きつけ、狂気の瞳をギラつかせた。
***
待ち伏せしていた私たちに、観念することも無念を噛み締めることもしないで、愉悦のこもった邪悪な笑みを見せてくる正信さん。
私と光秀さん相手でも心折れないなんて、このクソ眼鏡、やっぱり厄介過ぎる。
「一つ聞きたい。不意打ちされてれば僕は死んでいた。わざわざ姿見せて名乗るなんて、馬鹿じゃねえのか?」
うわぁ。普通ここは、どうして僕がこの道を通ると読んだとか聞くと思うんだけど?
その答えに、正信さんの考えることなんてお見通し! いつも裏をかくし本願寺に忠誠心もないから絶対こうすると思ってましたよ!
って言って、悔しがって膝から崩れる正信さんを縛って連れて帰る簡単なお仕事だと思ってたのに!
「貞勝殿が申してたであろう。貴殿は三河武士。家康殿が頼んだ以上、我らに貴殿を殺す資格はない。詰んだのは理解したはず。さあ、縛につけ」
「光秀さんの言う通りですよ! 正信さんは知恵者だけど槍や刀はてんで駄目ってこっちは知ってます。金属バットを構えた私たちと真っ向からやり合う人でもないことを。さあ、家康さんのところに送ってあげます」
そう。今、私が言った通り正信さんに個人の戦闘力は皆無。
……なのになんで嫌な予感がビンビンするの?
将棋なら王手。チェスならチェックメイトなのに、正信さんから生命を燃やす邪気が私たちを気圧するほど溢れてくる。
「家康……家康。家康家康家康家康家康家康家康家康家康家康! うっせんだよ! 誰があんな狸のところに戻るかよ! 家康のところに送る? フフフ、アッハッハッハ! あの狸をぶっ殺して地獄に送ってからまた来いや! そうすれば送られてやるよ。家康のところになぁ!」
純粋な憎悪の圧が私の足を止める。これは理屈ではない。力の差を狂気で埋める殺意の凝縮。
自らの死を、メガ○テのように周囲を巻き込んででも嫌がらせするかのように。
「……どうして、家康さんをそこまで恨むの? あの狸、頼りないし、最近旭ちゃんと再婚して惚気話手紙で送ってきたり、信康君と瀬名さんあんなふうにしちゃったり、相変わらず武田と北条に劣勢で信長様に泣きついて頼ったり、三河遠江でアップアップしてるけど、一生懸命生きてるよ?」
ここは説得を試みるしかない。私はありったけの家康さん弁護の言葉を思いつく限り口にしていく。
お願い。届いて。私の正信さんと戦いたくない想いを!
よし! 正信さんが邪気を引っ込めて顔を俯かせた。
これ、効いたんじゃね? さすが私、説得上手だね。
ブチ。ブチブチブチブチブチブチ。
ん? なんで正信さんの顔全体に怒りマークが次々増えてくのかな?
「てめえ言い過ぎだぁぁぁぁぁぁぁ! 家康を馬鹿にしていいのは、この世に僕だけで十分だぁぁぁぁぁ!」
……あれぇ? どうして逆ギレしてくんの?
「真昼殿、挑発はほどほどに」
光秀さん? 私、説得してたんだけど?
「ノビタ!」
正信さんが叫ぶとノビタが眩く光り輝く。
『代打オレ、発動』
『気をつけろ小娘! 身構えろ!』
『なっ⁉ 嘘でしょ、抵抗するの⁉』
センイチとイシイが絶叫する中、ノビタが白い閃光となり、真上へ撃ち上がった。
まるで打ち上げ花火みたいだ、なんて一瞬思ったけれど、すぐにそんな呑気な感想は吹き飛んだ。
なぜなら光は私の知っている花火よりもずっと速く、ツバメよりも高く、雲に届きそうな勢いで空へ突き刺さっていったからだ。
そして流星のごとく、私たちに向かって落ちてくる。
何あれ? 背景に性格が畜生っぽい巨大ペンギンが見えるんだけど。
アレが落ちてくるってヤバくね? このままじゃ爆撃のように、爆心地吹き飛びそうだぞ。