なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
空高く舞い上がり、太陽と合致した英霊ボール『ノビタ』が巨大にして凶悪な容貌の畜生ペンギンを背に、私たちのいるところに急降下してくる。
『見える! ホームからセカンドに投げて走者を殺しまくったノビタの強肩が!』
『メガネの癖にノビタパイセンは打撃もピカイチ! ヤバいよあれ。このままじゃ石山一帯が消滅するかも!』
センイチとイシイも驚愕して上空を見上げる。
石山一帯消滅って、英霊ボールは原爆クラスの破壊力まで持つんかい。
「おっと、正信殿何処へ? ノビタを止めていただけると助かります」
光秀さんの声に、私はハッとして地上にいる正信さんに視線を移す。
どうやら逃げようとしたところを光秀さんに確保されたようだ。
両腕を背中に回され、光秀さんにがっちり掴まれている。
「そうだよ正信さん! このままだと正信さんも死んじゃうんですよ! ノビタを止めてください!」
迫りくる巨大ペンギンの圧で地上の草木が消し炭になっていく。
時間がない。なさすぎる。ならばここは一縷の望みを正信さんによる説得で……。
「説得は無駄だ。というか意味がない」
低く怨念のこもった声が正信さんの口から漏れる。
「あれはノビタの秘技『代打オレ』。俺の魂をも糧とした一撃必殺の奥義よ。フフフ、ここで捕まるなら死んだほうがマシだ」
「自分の魂? ……どうしてそこまで。ううん。もう時間がない! 光秀さんは正信さんを押さえててください!」
「真昼殿、どうするのですか! いや、任せました。行け、イシイ! 真昼殿を助力せよ!」
『仕方ないなあ。んで? どうすんの?』
私はイシイとセンイチを掴んで飛ぶ。こうなったらこれしかない。
「とおっ!」
私は跳躍し、迫りくるノビタに自ら近づいていく。
『なに⁉ 力勝負する気か! 舐めるな! 天空からと地上、どちらが勢いあるか明白! この勝負、もらった!』
ノビタが加速し、風圧だけで骨に軋みがくる。
でも、この勝負、私がもらったああああああああ!
ガキン! ガキン!
私の持つセンイチとイシイがノビタにぶつかる。
『フハハ、衝撃で骨が砕けただろう! 安心してお嬢さん。すぐ楽にしてあげるよ! ……⁉』
余裕だったノビタが驚愕する。どうやら私の狙いに気づいたようだ。
「押し返すなんて最初から思ってない。ノビタのスピードを減速させて、地上に着地させるだけ」
私は高速回転するノビタをセンイチとイシイで挟み、火花を散らしながら勢いを削っていくのだ!
『……なっ』
絶句するノビタだけど、もうわかってるはず。センイチとイシイと摩擦して、もう地上を消滅させる勢いが出てないのを。
『イダダダダダ! ええぞ小娘! こんな方法で爆撃回避する人類、小娘が初じゃろ!』
「いやあどうだろ? お父さんはやらされてそう」
『ノビタパイセン、そろそろ回転止めてくれるとありがたいんだけど。でも懐かしい……よく僕が腑抜けた投球すると、ホームから思いっきりマウンドにボール投げてきたよね。敵だったらデッドボールぶつけてたよ』
イシイが言い終わったと同時に、私はシュタッと地面に着地する。
うん、体操選手なら相変わらずの10点満点な出来栄えだね。
「まさか……ノビタの秘技が……」
正信さんはショックがでかいのか、力が抜けて両膝が崩れ落ちていく。
『すまん、正信。まさかこの世に跳躍して勢いを殺してくるJKがいようとは……。代打オレ。せっかく僕の必殺技だったのに』
ノビタも無念そうに呟いた。
「ずっと信長様のキャッチャーやってたからね。球威は信長様並みに凄かったよ」
『……は?』
絶句するノビタとしんみりした空気。敗北を認めてくれたんだ。これでノビタゲットだぜ。あとは眠るのを待って、正信さんをとりあえず天王寺砦まで運ぶのみ。
そう思ってた私の手の上で、イシイがボソッと囁いてくる。
『代打オレって監督の頃から成功率高くなかったような?』
『お前はさっきから一言多いんだよ! 代打オレは19打数7安打しとるわどアホウ!』
『いやいや、監督としてですよ、パイセン』
『……そういやさっき言ってたな。名選手だけど名監督じゃない? そっくりそのままお前に返すわ!』
『なっ⁉ 逆ギレ反対! パイセン落ち着いて。どうどう』
『逆ギレじゃないわ! ガチギレじゃこれはああああああああ!』
……あのさあ。私の手元で白球が勝手に動いてガキンガキンしないでくれます?
上空で受け止めた時より痛いんだけど。
『まあ、イシイが悪い。禁句っちゅうもんが英霊ボールにはあるんや。小娘、ちょいと待っててやれ』
センイチが嘆息し、私もしょうがないと諦め、正信さんの側に向かう。
「家康さんのところに送ります。大丈夫、あの狸は三河一向一揆で逆らった人を全員許してますし、正信さんの帰参も待ち望んでますから」
私が言って、光秀さんが無理やり立ち上がらせるけど正信さんは呆けたまま。ショックが抜けきらないようだ。
このままだと自害しちゃいそう。それは後味悪すぎるからなあ。ここはなんか活力ある言葉をかけてあげないと。
「私が勝ったんです。教えてください。どうして家康さんを憎んでるんですか?」
正信さんは瞳の焦点が合わないまま、何かを思い出しているようだ。
——あの日。清洲同盟が成立し、岡崎城に帰った当時松平元康だった頃の家康が告げた一言。
『信長様から野球チームを結成するように言われたわ。みんな希望ポジションあるか?』
僕は当然捕手だ。それしかないでしょ? 司令塔として三河松平を支える。三河一の切れ者の僕に相応しい役目じゃないか。
……なのに。
『4番キャッチャーは儂な。ん? 弥八郎(正信)もキャッチャー志望? プッ。メガネがキャッチャーって』
奴の持つ英霊ボールノムサンも追い打ちをかける。
『キャッチャーは4番打てる打力が必要よ。お前さんじゃ未来永劫元康の控えじゃな』
その後、三河一向一揆が勃発。足が自然に岡崎城から遠ざかり、一向一揆に加わっていた。
そこで英霊ボール『ノビタ』と出会い、メガネをバカにされた話をすると号泣され、生涯力を貸すと約束してくれた。
『おのれノムサン! 僕の時も球団にあんなメガネ取るな! って怒鳴ったくせに僕が活躍すると儂が育てた顔しやがって! やろう、正信。気の済むまでとことん付き合うよ』
それからここまで本願寺の一員として織田・徳川をとことん邪魔してきた。
やりきった? そんなことはない不完全燃焼だ。織田に戦線を押し返され、三河の地が遠のいたのだから。
——正信さんの目の焦点が合う。
よかった、意識ははっきりしたようだ。
「……ない」
「ほえ?」
「ぜってえ教えねえよ! 死んでも教えん! 家康が死んでも教えんわ!」
「完全拒絶! 酷い! 勝者の権利まで奪っちゃう気だよ、このメガネ!」
呆然とする私と興奮状態にまたなっちゃった正信さんを、光秀さんがフッと笑みを零してから温かい一言をかけてきた。
「御苦労様、真昼殿、イシイ殿、センイチ殿。……正信殿、これは私の浅薄な知恵だが、聞いてくれるか?」
「……」
「主君が嫌がることを言葉巧みに誘導するのも臣下の務め。家康殿と貴殿の間柄で知恵者の貴殿だ。側で仕えてガンガン献策するのは如何だろう? そのほうが困惑顔の家康殿を間近で見られると思う」
うわぁ。とんでもないことを言い出したよ光秀さん。
嫌がらせは側近くでって、お母さんのパーティーメンバーのお父さんに対する仕打ちじゃん、それ。
光秀さんの言葉を聞いて、正信さんから毒気が抜けていく。
「……織田の知恵者らしい意見だ。ま、考えてやるよ」
ほっ。よかったあ。これで一件落着だね。家康さんのストレス度以外。
私が安堵して正信さんを見ていると、手の中の英霊ボールどももおとなしくなっている。
うんうん、あんたたちも仲良くしてよ。
『ていうかおかしいでしょ? ジャンプして僕を受け止めるって。ジャ○アンだって無理だよ』
『わっはっは。ジャイ○ンは言い得て妙じゃ。じゃがツはつけちゃあかんぞ』
『僕は出○杉君役だね。センイチさんは学校の先生っぽい。あはは、お嬢さんはジャイア○……グフッ』
「誰が○ャイアンだって? 私はどう見てもしずかちゃんでしょ?」
なぜか仲良く私をディスっていた三つの白球を地面にめり込ませていく私であったとさ。
『……さらばだ、正信。大丈夫、お前ならきっと……やれ……zzz』
「ああ、今までありがとう。ゆっくり休め、ノビタ」