なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
本多正信さんを浜松城にいる家康さん宛に厳重に縛って郵送し、本願寺に籠る残る難敵は教如と英霊ボール『アナブキ』『トクジ』『ヒロセ』だ。
「教如は織田の総攻撃で、石山ごと自爆しようとしてるんだろう。住んでる門徒と民を犠牲にしては寝覚めが悪い。策があるなら俺も協力しよう。よいな、頼廉、仲孝」
織田の最前線砦の天王寺で、息子の叛乱で追い出された顕如さんが腕組みしながら言ってくる。
「はっ。石山の兵糧も残り僅か、このままでは教如様たちは餓死するのみ」
「ならば教如様が考えるのは織田の怒りを買うこと。門徒を率い、ここ天王寺砦を襲撃するかもしれません」
頼廉さんと仲孝さんが顕如さんに跪いて真面目な顔で渋い声を発してるけど、坊主頭がキラリと三つ光ってる上に、彼らが持つ英霊ボールどもも発光してるから眩しすぎて直視できないや。
「っしゃあ! 天王寺砦に攻め入る。それ即ち母上の危機! なら暴れていいでござるな。我が人間無骨バットも泣いて喜んでるでござる」
バットブンブンスイングして喜ぶ勝三君だけど、妙向尼さんと光秀さん、貞勝さんは渋い顔だ。
「困りましたね。教如に死なれると、せっかくの和睦交渉が結局殲滅戦かと天下に喧伝されてしまいます。織田、本願寺、どっちにとっても不幸でしかありません」
「攻撃されれば反撃しないわけにいかず、教如は死ぬでしょう。信長様も、顕如様との和睦で石山に進軍する名目を得ます」
「しかし英霊ボールを3つ所持、戦になれば織田にも相応の犠牲者が出るでしょう」
『あの3球、モブだと思って油断したわ。3球集まれば文殊の知恵とはよく言ったものじゃ』
『センイチさんもナチュラルに先輩ディスるよね? 僕だけ鬼畜扱い、ちょっと不満だなあ』
センイチとイシイはともかく、みんなが真剣に状況打破を考えてる中で、前久様は扇子パタパタさせて欠伸していた。
「教如って前久様の猶子なんですよね? なんとかしなくっちゃって思わないんですか?」
疑問に思って私は聞いてみる。
猶子とは政治的に親子のように庇護しますよ、って約束の関係。
以前、朝廷の権力争いで敗れた前久様が本願寺に身を寄せた時に交わしたそうな。
なのに心配とか、説得しなくちゃとか気合入んないのかな?
「真昼はんは、どないな結末を望んどるんどす?」
「そりゃあ、教如も含めて石山に住む全員が助かればいいと望んでますよ。前久様は違うんですか?」
「そうどすなあ。どうでもええですわ」
この性格破綻者公家め、バッサリ言いやがったよ。
「ネモトは? 寝技得意なんでしょ? 抑え込み一本とかできないの?」
『儂ゃ柔道家やないで。ちゅうか顕如が退去を認めたんや。朝廷は教如が宗主と認めん。それで話はしまいよ』
もう、人情ぐらい持ってよ。
「わかりました。前久様とネモトはここで欠伸していてください。私は石山の民の説得をしてきます」
それだけ言って、私は貞勝さんたちのところに向かう。
後方で、前久様の顔とネモトが扇子で隠れたのを知らずに。
***
私は石山の門の前に到着して叫ぶ。固く閉ざされた門は開こうとしないから叫ばざるをえないのだ。
「織田家の長谷川真昼です! そのままでいいので聞いてください!」
声には自信ある。センイチの闘志バフも全開にしてるから石山の町、全土に響かせてやる。
一緒にいるのは妙向尼さんと勝三君のみ。
勝三君は矢でも射ってこいってワクワクしてるけど、多分それ、私たち全員死ぬんじゃね?
「織田家は石山退去は坊官のみで、町に住む人々全員そのまま居住、及び織田領内の往来自由を約束します! 安土でも、岐阜でも、清須でもどこでもです! ここに京都所司代・村井貞勝さんと、京都代官・明智光秀さんのサイン入り証明書があります!」
見えてるかわかんないけど、両手で持って紙を広げていく。
別に信長様から住人たち全員退去って言われてないし、このくらいは現場の裁量で決めていいでしょ。
そのためにいる貞勝さんと光秀さんなんだし。
「ざけんな! 門徒を虐殺している織田の支配下で暮らせと? そんな甘い言葉で騙されるかよ!」
「そうだ! 差別され、仕事も奴隷のごとく扱われるオチになるだけじゃねえか!」
門の向こう側から怒りの声が返ってくる。
ま、予想通りの反応だね。
「浄土真宗の門徒だからで差別はありません。石山出身者だから嫌がらせ、なんてこともさせません。したら逆にその人が罪に問われます。信じてもらえないなら、全員に私の名前入り金属バットをプレゼントします。これさえあれば、釈然としないけど嫌がらせしようと考える人はいないと思います!」
「長谷川真昼のサイン入り金属バット?」
「あの……織田の鬼の化身の……?」
誰が鬼の化身じゃこら。っと、ここは我慢我慢。
「ただし、これは特権ではありませんので悪しからず。あなたがたも罪を犯せば、織田の法で裁かれるのを忘れないでください!」
「罪だぁ? 門徒ってだけで罪にするだけだろ!」
「長島と越前でてめえら織田が何したか忘れたとは言わせんぞ!」
結局、行き着く先はそこなんだよね。
「私の横にいるのは妙向尼さんという、織田の浄土真宗信者です! 彼女は織田で迫害されず、逆に信長様から信頼されて本願寺との和睦交渉を任されています!」
「はあ? どうせ、似非信者だろうよ!」
「信長が信頼? んなの口先だけなら何とでも言えるわ!」
私は妙向尼さんを見て頷き合う。
頼んます、妙向尼さん!
「私は石山本願寺の民、全てに届くことを願っています。そちらの交渉役の名をお聞かせください」
「……俺は顕尊。教如の右腕を自負している」
声は若い感じだ。ただ教如を呼び捨てにして他の人が怒らないのが、顕尊が位の高い人物だと告げている。
「では、まず似非信者の汚名を返上しましょう。四十八願、どの項目でも諳んじますので、どうぞ何願でも」
「ならば第八願! ただし、諳んじるだけなら暗記でできる。暗記ではなく、貴様の考えを誰にでもわかるように解説しろ!」
「承知しました。ではお答えします。誰もが他者の苦しみに心から共感し、適切に助けられる世界を実現するのが我が願い。それが叶わないまま悟りを開く、それは真に悟りを開いたのでしょうか?」
「第三十四願!」
「阿弥陀仏の救いを本当に聞いた人が、変化する現実を受け入れる揺るがない智慧と、仏の教えを生涯失わない力を得られるようにする。それが叶うまで、悟りは開きません」
「……第十八願」
「善人か悪人か修行ができるかできないかにかかわらず、阿弥陀仏を信頼し、浄土に生まれたいと願って念仏する者を必ず救う。救いは広いが、だからといって悪を軽く考えてはならない。それでも罪を犯した者が心を翻して救いを求めるなら、見捨てられるわけではありません」
おお! 何言ってるかさっぱりわからん。
こら勝三、センイチ、寝るな。
私だって瞼が重くなってるのを我慢してるんだぞ。
ただ、門の向こう側は妙向尼さんが語った内容に効果てきめんだったようだ。
怒声が、徐々に弱々しくなっている。
「……一つ聞きたい。なぜ、ずっと織田にいる?」
顕尊とかいう人の声には、畏敬と疑念が混ざっていた。
「夫が織田の将であり、息子も織田の将。それに、浄土真宗を信仰しているからと迫害してくる愚か者もいませんから」
門の向こう側のひそひそ声が長く続く。
うう……どうなるかなあ?
頼むから拒絶しないでよ。
「さらに聞く。妙向尼の子息、森長可。貴様は浄土真宗を信仰する母をどう思っている?」
まさかまさかの勝三君の意見で決めようとしてる?
でも残念だったね。こいつは金属バットで敵を屠ることしか興味ないけど、それを育てたのは誰だって話だ。
「母は母でござる! 怒らせると恐ろしい鬼でござる!」
いや、ここは母が大事って言う場面じゃない? なんでガチ本音を言うんだこいつ。
『儂からも一言ええか? 極楽浄土行く前に、この世の課題を一つずつクリアするのが人の役目やろ。足掻くんじゃ、生き抜くためにな』
センイチの声で、向こう側のひそひそ声はなくなった。
「今、顕如さんたちが隠し通路から教如さんを倒……もとい、最後の説得をするために本堂に向かってます。……みんな顕如さんを信じて織田と戦ってたんですよね? なら、最後まで顕如さんの行動を信じてくれませんか?」
私のとどめの一言で、敵意と悪意が薄らいだように感じた。
「……わかった。我ら石山の住人、教如に従わず織田に降ろう。織田領の居住権と信仰の自由を忘れぬように」
おお! 大成功じゃん!
「あっ、私のサイン入り金属バットは?」
ひそひそひそひそひそひそ、と回答まで随分時間かかるなあ。何をそんなに話し合う必要あるんだろ?
おっ、咳払いが聞こえてきたぞ。
「それは……もらわないと駄目ですか?」
顕尊て人? なんでそこで敬語で聞いてくるんだ?