なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
私と妙向尼さんが、おまけの勝三とセンイチで石山の住人たちを説得していた頃——本願寺本堂。
蝋燭の火だけが灯る内部で教如は瞑想をしていた。
胸中に巡るのは対信長戦線で死んでいった者たちの無念の表情。
開祖・親鸞上人の教え。
雑賀で未だに本願寺を信じて信長に抗戦する門徒。
石山の聖地で殉教し、信長を舌打ちさせたい抵抗心。
それと、父親の拳の威力。
ギイという音とともに本堂の扉が開く。
振り返らず、瞑想も止めず、教如は口を開いた。
「義絶した俺になんの用だ、顕如」
「用はただ一つよ。アナブキ、トクジ、ヒロセを回収し、てめえを始末する」
頼廉と仲孝を従え、指の関節が鳴る音を響かせながら顕如は返した。
『させない! 息子のプライドぐらい分かれやバカ親父!』
英霊ボール『ヒロセ』が超スピードで本堂を飛び回り、顕如たちの視線を奪う。
『銭はグラウンドで落ちてるんやろ! 待遇改善を要求するで!』
英霊ボール『アナブキ』も野太い声を発して顕如たちを威嚇する。
『また売られるんは嫌や。大親分、給料上げてって言ったらトレードされた気持ち、大親分にはわからんやろ!』
英霊ボール『トクジ』の、ホークスからスワローズに売られた恨み節が顕如たちに突き刺さる。
『喝だ喝! 言いたいこと言いやがって! もっと大局を見んかい! 給料上げろは儂も同意じゃ!』
頼廉の横で英霊ボール『ポッポ』も吠え返す。
『おんどれらの言いたいことはわかった。なら引導を渡すんが大親分である儂の使命よ。思いっきりぶつかってこいや!』
顕如の英霊ボール『ツルオカ』の怒声を合図に、仲孝の英霊ボール『アキヒロ』も飛び出し、白球どもが空中で激しく激突していった。
鼓膜が破れるかのような硬球の激突音を聞きながら教如は立ち上がり、顕如たちと向き合う。
「この世は行き着く先は争いよ。子も親も、主も従も関係なく、な」
「お待ちを、教如様。あなた様が退去をしていただければ丸く収まるのです。織田への恨みは理解しております。ですが、恨みを飲み込むこともまた人の業である御仏の教えを……」
「俺は丸く収まる気が毛頭ない!」
仲孝が説得しようと試みるも、教如は遮った。
「教如様のお覚悟はご立派です。ですが立派なのは武士としてであり、宗主としては失格。……そんなに戦いたいなら本願寺宗主を名乗らず、武士になっては如何ですかな?」
長年、対信長の最前線で指揮をしていた頼廉の言葉に、教如は舌打ちして言い返す。
「それでは俺の存在意義が消える。俺が欲するのは宗主としての本願寺での死だ! であればこそ、御仏は織田に降伏する不甲斐ない門徒どもに真の赦しを与えてくださるはずだ!」
「はっ。それが本音か。くだらねえ」
ファイティングポーズを作った顕如の返しに、教如は激昂した。
「くだらないだと!」
「ああ、そうさ。くだらない。てめえごときの死で御仏が赦しを与える? 思い上がるなよ、人間。頼廉、仲孝、下がってろ。これは俺と教育失敗した息子だった奴との一騎討ちだ。今度は英霊ボールのバフも邪魔もなし。純粋に力勝負といこう」
顕如の上半身の法衣が筋肉で引きちぎられ、阿弥陀如来の刺青が姿を現す。
「……上等だ。拳の重みは若さに分があると知れ、顕如」
教如の法衣も弾け飛び、南無阿弥陀仏の刺青が姿を現す。
「ゴー、ファイッ!」
頼廉の合図で両者跳躍し、瞬くより早く、拳の応酬がスタートした。
「さあ始まりました、本願寺宗主王座防衛戦。実況は拙僧・下間仲孝と」
「解説及びレフリーを、拙僧・下間頼廉がお送りします」
「いやあ、大変なことになりました頼廉さん。この勝負、第11世王者顕如様がどういった戦いをするでしょうか?」
「拙僧から言えることはただ一つ。……英霊ボールどもの風圧を受けながらは相当神経を使いますよ」
「おっと決まったああああああああ! まずは左フック、右アッパー、左ストレートのコンボが教如より炸裂! 顕如様たまらずよろけたあああああああ!」
「でもさすがですね。拙僧なら今の攻撃で3回死んでいます。それを耐えたのなら、まだ顕如様に勝機ありますよ」
「英霊ボールどもの争いも激しい! ポッポの喝の波動がアナブキを近づけさせない! ツルオカの大親分もトクジ相手に体当たり、体当たり、体当たりだああああああ!」
「アキヒロVSヒロセは超スピードのヒロセにアキヒロがどう対処するか。こちらも注目です」
***
石山の民の説得を成功させた私は妙向尼さんや貞勝さんに事後処理を任せ、顕如さんたちが使った隠し通路で本堂に向かっていく。
『荒ぶる英霊ボールどもの波動を感じるわ。拳が激しくぶつかる音もな』
「どっち優勢かわかる? センイチ」
『わからん。が、肉体の全盛期は教如、さらにアキヒロじゃホークスの内乱についていけんやろ』
一緒にいるセンイチの不吉な言葉に、私は猛ダッシュする。
——そしてたどり着いた本堂、私の目に飛び込んできたのは。
『グハッ』
『なんぼのもんじゃ! 相手が悪かったな、アキヒロ。儂の盗塁、誰にも邪魔はさせん!』
センイチの危惧してた通り、アキヒロがヒロセに撃破され、ヒロセがアザだらけで立っているのがやっとの顕如の背後に突撃していく光景。
そこへ、同じく満身創痍の教如が拳を振り上げる。
「俺の勝ちだ! 顕如!」
まずい! 父殺しまで教如に背負わせるわけにいかない!
「いっけええええええ! センイチいいいいいい!」
振り被って私、投げました!
『おんどりゃー! 可愛いアキヒロの仇、取ってやらあああああああ!』
センイチも闘志を溢れさせ、一直線でヒロセに向かう。
ガキン! ビュワ! ガキン! バシッ! ブン! グフッ!
ん? 何が起きた? センイチが屋根に突き刺さってふらふら~と落下してきて、ヒロセが本尊側の壁に食い込んでいて、頼廉さんと仲孝さん、教如が倒れてるんですけど⁉
何これ? 犯人私じゃないよね?