なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
石山本願寺本堂が失火して焼失してしまったが、顕如さんたち坊官の怒声……じゃなかった、避難誘導で人的被害はゼロ。
顕如さん、本堂がなくなったことに後悔や不満や無念がたくさんあるだろうにおくびにも出さないで、その後も天王寺砦で仲孝さんと貞勝さんによる実務折衝を腕組みしながら凝視し、時々口を挟んだりしている。
教如さんは信盛さんの陣でずっと瞑想している。
結局、仲直りの握手もしないなんて、ホント面倒くさい親子だな。
やがて話がまとまり、近衛前久様の承認の印が押され、安土の信長様へ最終承諾をもらう早馬が飛ばされた。
「紀伊の鷺森……え? 紀伊って孫一さんたち親織田と、反織田が争ってるし巻き込まれるんじゃね?」
顕如さんたちの行き先を聞いて私は心配する。
この筋肉ヤクザが戦いに参戦したら紀伊がヤバくなるんじゃね? って。
「鷺森は孫一の拠点である平井と近い。安心しろ嬢ちゃん、戦いに絡むつもりはない。ま、説法聞きたい奴を拒む気もなければ、俺が平井で飲んだくれるのに文句も言わせんがな」
あの~、顕如さん? 本音、後半でしょ、このヤクザ。
「孫一殿を裏切り者と思う我らでなければ、受け入れぬ狭量でもない。他の地も色々候補に挙がったが、他宗派との諍いと戦国情勢の兼ね合いがあるからな。その点、無神論者の孫一は都合がいいのだ」
頼廉さん、真面目な顔して言ってるけど、平井で飲むの楽しみって感じで喉を鳴らしたの、私は見逃してないからな。
「貞勝殿と光秀殿、妙向尼殿と出会えてよかった。貴殿らでなければ交渉も難航したでしょう。御三方、いつでも鷺森に遊びに来てくだされ。盛大に歓待いたすゆえ」
仲孝さんは安堵の表情で涙を流している。
えっと、交渉団は6人いるんだけど? 私と勝三と前久様を省いたのはなんでかな?
「さて、そろそろ始めるか」
顕如さんの一言に、本願寺側の英霊ボールが進み出てくる。
和睦の目的の一つ、英霊ボール回収のお時間がやってきたのだ。
すでに本願寺本堂で暴れて敗れたヒロセ・アナブキ・トクジは眠り、私の達筆で名前を書かれて眠りについている。
『あの字は屈辱じゃ。おいこらセンイチ。あの謎ルールはなんじゃい』
頼廉さんのポッポさあ。回収前に喧嘩売るとはいい度胸だな。
『言いたいことはわかるが、白球は眠ったら見分けつかんので諦めてますわ』
嘆息するセンイチの言う通り、全部全く同じ白球なのが悪いのだ。
『ちっ。頼廉よ、お前との相棒楽しかったわ。鷺森でも闘争心を忘れずにな』
「ええ、ポッポ殿。今までありがとうございました」
平伏する頼廉さんの目に大粒の涙が溢れる。
うん、いい光景だね。……でも、なんか物足りないな。
「あれ言わないんだね」
そう、ポッポの代名詞、敵の頃に散々聞いて布団の中で何度も耳鳴りしたあのセリフ。
『喝だ喝! 小娘! 我らを雑に扱ったらぶん殴りにいくからな!』
「それ。でも殴りに来るのはやめてね」
胸のつかえが取れてスッキリしたよ。
と思っていると、ポッポが私を見つめてくる。
『小娘』
「なに?」
声色が柔らかくなってて、逆に怖いんだけど。
『あっぱれじゃ』
そう言い残し、ポッポも眠りについた。
喝じゃない言葉で眠りにつくとは、やるね、ポッポ。ちょっと心に染みたよ。
頼廉さんが深く頭を下げてくる。
「親分のあっぱれと喝。拙僧が引き継ぐゆえ、どうぞ安らかに」
喝ばっかりじゃなく、あっぱれ中心で引き継いでね、頼廉さん。
次に下間仲孝さんが、アキヒロを差し出してくる。
『最後まで色紙を投げ出さない仲孝さん、嬉しかったです』
「ええ。アキヒロさんの予祝魂、私が受け継ぎ、この世をスピチュアルにしていきます」
何を話してるんだ? こいつら。
『お嬢ちゃん、世の中には波があるんだ。ビッグウェーブが味方にも敵にも、ね……グフッ』
「なんかよくわかんないけど、危険なネタな気がするからはよ寝ろ」
次に、緑色の重厚な光を放つツルオカが私に向かってくる。
「この大親分は我らを支えた。これを渡すということは、嬢ちゃんが本願寺の戦の記憶を継承するということだ」
顕如さんの言葉に、ツルオカが深く沈むような光を放つ。
『儂らの存在、忘れんなよ。顕如も、教如も、坊官どももな』
「はい」
センイチも、珍しく茶化さず低く敬意を込めて言った。
『ツルオカさん……見事な采配じゃった。ホークスのドンとして長年儂を苦しめたわ』
『バーカ。……ノムサンを回収したら儂の隣に置け。食ってやるから』
ツルオカはそう言うと、安らかな光に包まれて眠りについた。
「ちょっと待って! 最期の一言、めっちゃ不穏なんだけど⁉」
私は家康さんのところにいるノムサンを思い浮かべながら、その時が来たら本当に食べるか置いてみるか、なんて思うのだった。
まあ、冗談だろうけど。
「大親分、まことにありがとうございました」
両手を地面に付け、顕如さんが深々と頭を下げる。
終わった。これで本願寺の英霊ボール回収作業終了。
信長包囲網初期からの長年の戦いに、ついに終止符が打たれたのだ。
と、私がホッと一息ついていると。
ツルオカがパリンと割れるように弾けた。
「ほえ⁉」
なんと未知の4つのボールが出てきたのだ。
『忘れとった。こいつらも回収してくれ。zzz……』
「いや、説明せい。てか、本当に食ってたんかい」
『本願寺に敗れた英霊ボールどもじゃ! マユミ、フクラ、スパイチュ、カツヒロじゃ! 小娘、はよ回収せい!』
センイチの声に、私は胃液まみれだったらヤダなと思いつつ、手を伸ばしていく。
幸い、胃液はなかった。ちょっと酒臭かったけど。
てか、どれが誰だよ。
***
英霊ボールどもの回収の翌日、信長様からの返答が届いた。
というか、本人が来やがった。
「和睦内容、全て了承した! 石山は今日より大坂と呼称、門徒も坊官も織田領の往来に制限はつけぬ!」
馬に乗りながら開口一番それってどうなんよ?
「よう信長。御仏に縋りたくなったら鷺森に来るがよい。酒ぐらい奢ってやる」
「貴様こそ、安土に来たら歓待ぐらいはしてやる。他宗派の揉め事の書状を手土産にな」
信長様? それってこき使うって意味だよね?
「フッフッフ、ハッハッハ。それでこそ信長だ。坊官ども! 和睦は成った! これより鷺森に向かうぞ!」
「え? もう行っちゃうの?」
顕如さんの大声で頼廉さんたち坊官が旅支度を整える中、私は驚いて訊ねた。今日ぐらい、信長様とのんびり話せばいいのに。
「必要なことは全て聞けたわ。残ればあの野郎は仕事を押し付けてくる。だからとっととずらかるのよ」
おふう……その第六感、当たってそう。
「ところで教如は連れて行かないの? 姿見えないけど」
キョロキョロする私に、顕如さんは冷ややかに言い放つ。
「義絶は取り消さん。生涯会うつもりもない」
「……うわぁ、丸く収めましょうよ」
「ふっ。奴はガキじゃない。俺より寿命ある人生よ。好きに生きるがいいさ。……それに」
「それに?」
「いや。……じゃあな、嬢ちゃん。刺青を入れたくなったら相談するがいい」
そう言って、顕如さんはお辞儀してくる頼廉さんや仲孝さんたちと旅立っていった。
若い坊さんが愛想笑いしてくるけど誰だっけ?
「顕尊さんですよ。顕如様の次男で、教如さんの弟ですね」
妙向尼さんの解説に私は驚く。
「え⁉ そんな隠しキャラだったの、あれ。てか弟は義絶されないで済んだんだ」
遠目で見つめると、顕如さんは荷物を持たず、顕尊さんが背中より大きい荷物を背負っている。
さらに顕如さんは彼の両肩に乗り、真っ直ぐ立っている。
あれが禊の儀式……なのか?
何はともあれ、本願寺戦終結の私の感想はただ一つ。
「刺青は入れる気ないかなあ?」
***
「ホッホッホ、死に損ないましたなぁ、教如はん」
顕如たちが旅立った同時刻、とある陣にて。
近衛前久が旅支度をする教如に会っていた。
「これからどないしはります? また相談があればいつでもええで。一応、ワイの猶子やさかい」
扇子を広げる前久に、教如は後ろ姿のまま答える。
「俺は石山しか知らぬ世間知らずと痛感した。当分、各地を旅して見聞を広げようと思います」
「ええ心がけや。ほな、何かあれば京に来なはれ、待っとるで~」
前久の軽口に答えず、教如は歩き出す。
『こっちのシナリオ、長谷川真昼によって随分綺麗な着地になったな』
教如の姿が見えなくなり、英霊ボール『ネモト』が愉悦混じりに囁いた。
「起用したんは信長はんや。ま、利用価値が高まるんはええこっちゃ、長谷川真昼はん」
前久は扇子をパタパタさせながら、愉快そうに嗤った。
——【官兵衛再起、石山本願寺戦終結編】完
【天下平定間近⁉ 信長政権絶頂期編】に続く