なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
紀伊・平井の町。
ここは雑賀衆の頭領だった鈴木孫一の拠点であり、紀伊国における織田勢力の生命線だ。
「孫一ほどの男でも、同胞殺しに手こずってるようだな」
酒場で呑んでいた孫一の前に強面の坊主が座り、愉しそうに煽る。
「言ってくれるねえ、負けて本拠地失った顕如さんにゃ言われたくねえぜ。こっちは元々山岳地帯が大半だ。潜伏されたら見つけるのは厄介よ。ったく、平次も左近も強かな野郎よ」
苦笑しつつ、孫一は返した。
戦況は織田派の孫一が常に優勢だが、決定打を与えられないでいる。
「早く紀伊を静かにしてくれよ。こっちは鷺森と平井でのんびりしようと考えてたのに、反織田からの接触がうぜえ」
「ハハハ。全部ぶん殴ってポイ捨てしてるそうじゃねえか。教えてくれりゃ、引き取りに行くのによ」
キセルに火を点け、孫一は続ける。
「……高野聖の動きが活発になっている。どうも平次や左近を支援してるんじゃねえかと疑っている。鷺森に現れたかい?」
「高野聖のような自己中、鷺森に入り次第殴れと頼廉たちに言っている。お陰で現れん。無論、こっちも高野山に近づけさせん。自己中が伝染るわ」
「俺も紀伊に長いこといるが、連中が山から下りるのと上るぐらいしか記憶になかった。それなのに、どういう了見で反織田するんだか。今さら比叡山の仇討ちでもねえだろうに」
「それはないな。逆は知らんが真言の連中、天台に全く興味なしよ」
その後も一刻ほど雑談をネタに酒を浴び、顕如は鷺森への帰路についた。
道程が半分ほど過ぎた鬱蒼たる山道を歩いていると、複数の気配が近づいてくるのを感じ取り、顕如は近くにあった大木をよじ登り身を潜める。
(高野聖が4人。向かうは北。その後目指すは何処か)
普段なら顕如もこのような思考をせず、ガン無視してすれ違う選択をしたはず。
なのにしなかった理由はただ一つ。
(あの麻袋、中は人だな。始末して運ぶ理由ねえ。それとも珍しいからお届け物か?)
俄然興味が湧く。他力本願極楽浄土を信条とする己ら浄土真宗と、奇妙奇天烈な自分の世界に籠もってひたすら修行し仏になるを目指す高野聖ども。
自己中連中が何をしようとしているか好奇心が勝る。
顕如は木から飛び降り、フライングボディープレスで高野聖の1人を下敷きにして沈黙させ、驚愕と動揺する残り3人の顔面に右ストレートをめり込ませ、立っている者は己だけとする。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
顕如は麻袋の紐を解いた。
***
「いやあ、ついに来ましたよ天下の霊峰、高野山。上空から眺めたら絶景なんだろうけど……霧、濃くね? これからここ登るの?」
私は安土で温々寝ていたら例のごとく信長様に叩き起こされ、寝ぼけ眼で馬に乗り、やってきたのは人生二度目の紀伊国。
前回は孫一さん降伏させてすぐに帰ったから物見遊山する暇なかったし、紀伊の山登り辛かったぐらいしか記憶ないけど、まさか下調べなしに今ここに立っているなんてね。
人生、一寸先は闇ならぬ知らない地だよ。
さあ、今回のパーティーメンバーを紹介しよう。
まずは世のお嬢さんがた、ニヒルな男に惚れたら眉間に銃弾めり込むから注意だぜえ。
「ったく。まさかこんな日が来るとはな。ま、金さえ貰えば文句はねえよ」
恋人は火縄銃。無神論者過ぎて浄土真宗の部下の半分以上に裏切られた一撃必殺のスナイパー、鈴木ィィィ孫一ィィィ。
次に紹介はこの方。世の内気な乙女たち、大きな背中に守られたいし壁ドンされたくても、壁ドンで壁が消滅する破壊力に気をつけて。
「もう、到着するか。しかも本人が来るとは頭がおかしい。ちっ。鷺森に帰って頼廉と仲孝に投げようと思ってたんだがな」
男は背中で語る。というか背中の阿弥陀如来が阿修羅に変形したら血の雨しか降らない。浄土真宗の宗主、得意技は右ストレート、本願寺ィィィ顕如ォォォ。
さらに本命のこのお方。少女漫画のヒロインに「これ私だ」と感情移入してるお嬢様がた、オレ様キャラに振り回されたいなら、これ以上の逸材いないけどHP全開ポイントは一切無視するから大変だぜ?
「高野聖どもが何か企んでるなら早めに潰したいからな。いずれ山ごと消し去るか、封じ込めだけにするか、きっちりこの目で確かめてやる」
人呼んで天下人(仮)、敵も味方も能力値しか重視しない、というか性格破綻者ほど見ると心が高揚する、常識は母の胎内に置いてきた、ご存知織田家で一番偉い人、織田ァァァ信長ァァァ。
……何これ? なんで私、称号『殺し屋スナイパー』と『刺青筋肉宗主』と『第六天魔王』とパーティー組んで高野山の山脈見上げてんの?
あれ? 私の頭上に称号『ゴリラJK』が浮かんでるぞ?
誰がゴリラやねん! そこは美少女JKやろ!
私は称号欄を鷲掴みにして地面に投げ、両足で思いっきり踏んでいく。
ふう、スッキリした。
『ちゅうか、右衛門尉(信盛)はまだ目覚めんのか?』
おっと、忘れてた。私たち一行の前で浮遊する白球の紹介がまだだった。
いつも側で見守ってくれる執事タイプを求めている乙女たちよ、口うるさい根性論と鉄拳制裁ばっかなのに、自分にだけは優しいし包容力あると勘違いしちゃいけないぜ。
泣く子も唖然とする喋る白球、戦国の世に散らばった108の英霊ボールが一つ、称号『闘将』、センイチィィィィ。
ん? 信盛さんが目覚めない?
「ああ、平井で手当てしてるがこっぴどくやられていてな。ありゃあ、当分無理だろ」
キセルをプハーしながら孫一さんが呟く。
「ちょっとちょっと、どうして信盛さんがやられるんです? 高野山って奇人変人の集団で、他人に興味ないって聞いてましたけど」
私が驚いて訊ねると、顕如さんが肩を竦めた。
「織田の重臣が軍勢率いてやってきたならわからんでもないがな。ただ、信盛殿は戦力外通告を受けたばっかよ。真言の連中に、殺る理由はないし何処かへ運ぶ意味もない」
うへえ……信盛さん、ただでさえ戦力外にショック受けてたのに、第二の人生も散々なスタートしたんかい。
「顕如が運んでた連中も、信盛殿を平井に運んでいる間に気絶から回復して逃げたんだとよ。この生臭坊主の拳で死なねえとは、運の良い連中だ」
孫一さん? 運ってなんだっけ?
「ま、行けばわかるさ。右衛門尉の仇は取ってやる」
スタスタ歩いていく信長様だけどさあ……信盛さんの仇って、信長様も含まれるんじゃ?
「うん。大方の事情はわかったよ。高野山でどうして信盛さんが襲われたかと、どこに連れて行かれようとしたのかを探るんだね。任せて。事情を知った私は強いから」
装備してる金属バットを持つ手に力が入る。
坊主頭でスローライフを送るはずだった、信盛さんのささやかな夢を壊すなんて許せないから。
「待て、信長、嬢ちゃん」
急ぎ足する私たちに、後ろから顕如さんが冷静な声で告げてくる。
「高野山は女人禁制。嬢ちゃんを見た瞬間に敵認定されるぞ」
な、なんと! そんな男女差別が相撲の土俵以外にもあるなんて……!
相撲は上半身裸になる時点でどうでもいいけど。
私が絶句していると、歩みを止めない信長様が真顔でこんなことを言いやがる。
「フッ。であるか。大丈夫だろ」
「それもそうか」
「だな。どっちにしろ時間が惜しい。敵認定されたら戦うまでよ」
顕如さんも孫一さんも、どういう意味かなあ?