なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
「何? 顕如と孫一が信長らしき男と長谷川真昼らしき女を連れ、こっちに向かってるだと?」
金剛峯の金堂で報告を聞いた真言宗のトップ、真魚は当初唖然とした。
「どうしますか? 下手な言い訳は比叡山の二の舞になるだけかと」
白髪白鬚の老人、清胤に問われ、真魚はあっさりと決断を下す。
「俺は逃げる。清胤、あとは任せた」
そう言い残し、真魚はそそくさと反対側の断崖絶壁を転がるように落ちていった。
この清胤、上杉謙信が我が師と慕った真言宗一の博覧強記である。
「やれやれ。全英霊ボール奪取を目論む御仁のくせに、小心者過ぎるわい。……さて」
嘆息しつつ、清胤は高野聖どもに金堂の清掃を命じた。
***
高野山の山を登っていく道中、あっちこっちに廟と呼ばれる故人を悼むお墓が建ってるのが目に入ってくる。
遠巻きで眺められた感覚あるけど、誰も近寄ってこないね。
女人禁制って聞いてたからどうなるかとヒヤヒヤしたけど、争いにならなそうでよかったよかった。
「えーっと、平敦盛……聞いたことあるような?」
「平家物語の敗者だな。清盛入道でも頼朝でもねえのが意地の悪さが透けて見えるぜ」
キセルで煙を燻らせながら、孫一さんが教えてくれた。
平家物語って、戦国時代の前の話だっけ。
「人間五十年、下天の内をくらぶればの元ネタよ。まあ、本物の敦盛は50年どころか17年しか生きてねえがな」
信長様が鼻歌しながら教えてくれた。
「ああ、信長様の十八番の歌の人か。梅が幻のごとくは相当無念だったと思うよ」
私は納得し、次の廟へと進んでいく。梅が食べたくなってきたぞ。
紀州って梅の名産地なんだよね~。
『小娘、梅じゃなく夢じゃぞ?』
細かいなあ、センイチ。意味、同じじゃん。
おっ、次の廟が見えてきたぞ。
「こっちは法然……これは親鸞。どっちも聞いたことあるかも」
そう私が呟くと、顕如さんが露骨に嫌な顔をしてくる。
「これだから真言の連中は嫌いなんだ。浄土宗と浄土真宗の開祖を平然と『俺んところにお墓ありますよ』なんて面しやがって。言っとくがな、ここに親鸞上人の遺体なんてねえぞ」
わーお。有名人全部俺たち祀ってますアピールしてるんか。
「おお! こっちの廟には武田信玄と上杉謙信って書かれてる! 最近死んだ人のも、もう造ってんの⁉」
「謙信の野郎は真言をえらく気に入ったと知っていたが、信玄ねえ。……本人知ったらブチギレるだろうな」
真顔で凝視する信長様が吐き捨てる。
強敵を雑に扱われ、信長様の不快ゲージが溜まってるんだろう。
クワバラクワバラ。高野聖さんたち、言い訳間違ったら詰むから気をつけて。
さらに進んでいき、本堂が見えてきたところで私は二つの廟に書いてある名前を見て絶句した。
「これはやりおる。真言どもは早くこうしたいらしいな」
顕如さんが笑いを堪えながら呟き、孫一さんも爆笑してくる。
「こいつはいい、よかったな真昼。お前、信長の隣だぞ」
「よかないわ! 私、まだここにこうして息して動いてるんだよ! 足も透けてないよ! なのになんで私の名前入りの廟ができてんのぉぉぉぉぉぉぉ⁉」
私の絶叫が高野山で山彦となる。
そうなのだ。そこにあった二つの廟に『織田信長』と『長谷川真昼』の名が刻まれていたのだ。
信長様、センイチを持って振り被って……って! 早い。壊す前に本当に私と信長様のか確認しないと!
「ストップストップ、信長様! 同姓同名の過去の人のオチかもだから!」
慌てて信長様の前に立って止める私。
あのさあ信長様、自分の墓が本人とまったく関係ない場所にあって恐怖するより先に破壊しようと考える思考、人としてヤバくない?
ここは名探偵として、真実はいつも一つを追求すべきでしょ。
「ほう、仮にそうだとしよう。それで俺と真昼と同じ名の過去の奴が隣同士で廟となった。ここまではありえなくもないな」
「でしょでしょ! 理由は話を聞いてからで……」
「が、だ」
私の頭頂部をがっちり掴んで、信長様は私の向きを変えやがる。
いや、指をさして振り向かせろや。私じゃなかったらむち打ちになってるところだぞ。
「「「なっ⁉」」」
図らずも、私と孫一さんと顕如さんの声がハモってしまう。
そう、濃い霧が薄っすらとなって近くに姿を現したさらに二つの廟。
そこに『鈴木孫一』と『顕如』の名前もあったのだ。
こんな偶然、滅多にないんだからね!
じゃない。あるわけがないよ。これはもう確実に喧嘩売ってるでしょ。
4つの廟を前にして、私たちパーティーメンバー4人の口が邪悪な三日月の形になったのは言うまでもない。
『儂のないんか……寂しい』
センイチ? 英霊ボールな分際で廟を求めるなよ。