なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第230話 長谷川真昼、高野山問題に一旦ケリをつける

 信長が高野山を軍事的に包囲すると告げ、立ち去った直後のこと。

 

「ふう。命拾いしたわ」

 

 服はボロボロ、草木と泥があちこちに付着した状態で高野山のトップ・真魚は金堂に帰還して嘆息していた。

 

「お帰りなさいませ。信長殿からは真魚様が御帰還すれば安土へ釈明に来いとのこと」

 

 信長たちへの対応を丸投げした白髪白髭の坊主・清胤の言葉に真魚は苦笑した。

 

「行ったところで殺されるだけよ。誰が行くかバーカ」

 

 大の字に寝っ転がり、目を閉じようとした真魚だが、信じられない物が天井に張り付いてるのを目撃し、口をポカンと開けた。

 

 シュタッ! シュタッ! シュタッ! シュタッ!

 

 天井にあった物が落ちてきて、逃げようとする真魚を取り囲む。

 

「てめえが真魚か。こいつは傑作だ。本願寺宗主として宗派対談をMMA形式で申し込む」

 

 上半身裸だが、見えるのは筋肉と背中に阿修羅顔の阿弥陀如来の刺青。

 浄土真宗のトップ・顕如さんが真魚と呼ばれた人の行く手を阻む。

 

「体格差考えろや! スーパーヘビー級がストロー級に勝負持ち込むな!」

 

 喚き散らす真魚の背中に火縄の銃身がゴツンと刺さる。

 

「なら俺との対談はどうだい? クレー射撃だ。飛んでるあんたに目掛けて俺が撃つルールよ」

 

 キセル咥えて煙を燻らせながら告げてくる雑賀衆の鈴木孫一さんに、やはり真魚は青ざめて叫び返す。

 

「それ、俺ただの皿の代わりじゃん!」

 

 そんな真魚の頭頂部に、金属バットがゴツンと置かれる。

 

「ならば一打席勝負よ。それなら命の心配する必要あるまい」

 

 ゴゴゴとオーラ音を鳴り響かせ、信長様が真顔で言うけど、真魚にとっては今までで一番恐怖を感じたようだ。

 

「目線が……どこにデッドボール食らわせるか探ってる……だと?」

 

 うん、いいツッコミ連発してるね。高野山のトップなだけあるよ。織田家に必要不可欠になりそうな存在だとひしひし伝わってくるね。

 体格と容姿以外は。

 

「清胤! どういうことだ! こいつら帰ったんじゃないのか!」

 

 こらこら~、責任押し付けた爺さんに怒鳴るんじゃありません。

 

「ええ、帰ると口にしてたんですが、なぜか天井に張り付きまして」

 

 清胤さんも私たちを蜘蛛の巣のように言わないで。

 これ、いつもの信長様のパターンなだけだからね?

 

「はいは~い。私からも質問」

 

 私も金属バットを真魚の顔面に、もう少しで当たる距離ギリギリで突きつける。

 

「……軽いノリで、牙突態勢取るなよ女。……えっと、なんでございますか?」

 

 引き攣った笑顔、生存したい一心が籠もっていて好感度上がるね。

 

「えっと、高野山のトップってのはツッコミの切れ味で理解したんですけど」

 

「ツッコミで納得ってなんだよ!」

 

 いや、それだよ。まあいい。それを深掘りすると永遠に漫才大会になってしまう。

 

「高野山のトップっていうから厳つい爺さんを想像してたんですけど……なんで子供で、異人さんなんです?」

 

 そう。真魚は見た目小学5年生、肌は真っ黒だったのだ。

 

「はっ! 私と同じく歳を取らないんじゃ⁉」

 

「んな妖怪な存在でたまるか! 俺は普通にモザンビーク生まれの南蛮奴隷出身だよ! 本名は※#?だ!」

 

「ほえっ⁉ 全く本名聞き取れなかったんですけど⁉ じゃあどうして高野山にいて真魚と名乗ってるの⁉」

 

 すると真魚の懐から黒光りだけど妙に明るい英霊ボールが飛び出してきやがった。

 やっぱり持ってたか。

 

『むう! このテンション、貴様、ゲッツか!』

 

 センイチも驚き青い闘志を前面に出して対抗しようとしている。

 ゲッツ? ゲッツーならもう知ってるよ。併殺王かな?

 

『ゲッツ! アイーン! ダッチュウノッ!』

 

 ……はい?

 

『いや、儂、お前が日本語ペラペラなの知っとるんやが?』

 

『デモデモデモデモソンナノカンケイネエ!』

 

『……あかん。こいつ壊れとる』

 

「いや、センイチがドン引きしないでよ。ほら、英霊ボール仲間だよ? もっと昭和のギャグに反応してあげてよ」

 

『小娘! アイーン以外は平成じゃぞ!』

 

「どうでも良すぎるツッコミだよ!」

 

 ドン引きする私たちを余所に、清胤さんがコホンと咳払いして事情を説明してくれる。

 

「昨年のことでございます。奴隷船が難破して紀伊湾にこの方は流れ着いたのです。そこで拙僧が見たのは英霊ボール片手に無傷だったこの方の姿。……ゲッツ殿は最後の力を振り絞り、拙僧にこう頼んだのです」

 

『ミーのゲッツ魂でなんとかこいつの命を救えたわい。ミーの記憶も能力も……限界までこいつに流し込んだ……あとは……任せた』

 

「そうしてゲッツ殿は、わけわからん言葉しか発しない英霊ボールとしてこの方の側にずっといたのです」

 

 シーンと金堂が静まり返り、咽び泣くセンイチの汚い声が響き渡る。

 えっと、感動して泣くところなのか? この場面。

 

「時化で船が転覆した時、このゲッツのお陰で俺は命拾いした。日本語ペラペラになったのもこいつのお陰だ。……だから俺は、こいつのためにも英霊ボール大戦をキチンと終わらせてやりたいんだ」

 

 真魚……ええ子やん。腹黒高野山の首魁だと思ったら、被害者信盛さんだけでなんとか終わりそうだよ。

 

『ラブチュウニュウ♥』

 

 うん、黙れ、ゲッツとかいう英霊ボールは。

 

「それで真魚と名付けたわけか。あらかた理解したが、ゲッツは真言を理解していた英霊ボールだったのか?」

 

 顕如さんの質問に、真魚は首を横に振る。

 

「いや、そもそも英霊ボールってなんだよ。他国にねえぞ、喋るボールなんてよ」

 

 うん、フロイスさんも初めてセンイチ見た時、十字架掲げて震えてたもんね。

 

「じゃあ、どうやって真言密教覚えたんだ?」

 

 孫一さんの問いに、右手親指をビシッと自分の顔に向け、真魚はドヤ顔してきた。

 

「それは俺が天才だからだ」

 

 ポカリ。

 

 孫一さん、ムカついたからって後ろから頭を殴んないであげて!

 もうちょっと聞きたかったのに、気絶しちゃったじゃん。

 

「まあ、ゲッツ殿という英霊ボールを所持しているのが、一番の理由でしたが」

 

 清胤さん? 壊れたギャグマシーン発生機、よく捨てないで我慢したね。

 

 そこで信長様が金属バットを引いて清胤さんに顔を向ける。

 

「であるか。清胤!」

 

「はっ」

 

「まずは此奴を綺麗に洗え! 真昼!」

 

「はいはい」

 

「ゲッツを回収せよ」

 

『ナンデヤネン!』

 

 おいこらゲッツ。私より先にボケるな。

 このあと数刻、私は金堂でゲッツと追いかけっこする羽目になったのだが、なんとか真魚を餌にして回収に成功したのであった。

 真魚の身体は信長様の命で徹底的に磨き上げられた石鹸の香りと、光沢が増した黒光りで輝いて見える。

 その容貌に、顕如さんも孫一さんも思わず感嘆したぐらいだ。

 

「ゲッツ。今までありがとう。安らかに眠ってくれ。また巻き戻ったら会おう」

 

『ラミちゃんペッ! ダメヨ~ダメダメ……zzz』

 

 なんか締まらないオチだけど、英霊ボール回収できてよかったよ。

 ついでにこうなったしね。

 

「真魚。その名は今日限りで捨てよ!」

 

 信長様の命に憮然とする真魚だけど、生殺与奪を握られてるので口を尖らせただけだ。

 

「本日より弥助と名乗り、俺の近習になれ。巻き戻りたくなければ、死ぬ気で働け!」

 

 相変わらずの信長様節だけど、真魚改め弥助の心に刺さったようだ。

 

「……やっぱり奇人変人だな、信長……いや、信長様は。仕方ないから近習になってやるよ」

 

 おおっ! これで信盛さん以外ハッピーエンドじゃん!

 

「てか、なんで弥助なんです?」

 

 私が訊ねると信長様はあっさり言う。

 

「此奴の南蛮名※#?を日の本風に言っただけだ」

 

 ……うん、信長様って耳も良いんだね。

 

 こうして私たちは一旦平井の町に戻り、目覚めたけど戦力外以降の記憶を失っていた信盛さんを見舞い、安土へと帰っていく。

 

「右衛門尉(信盛)、高野山は又六郎(織田信張)に包囲させる。入山は諦らめよ」

 

 そんな信長様の言葉に、信盛さんは「クビになった儂を案じてくださるとは」と感無量してたけど……うん。事実は教えないでおくかな?

 

「神道にも以前から興味ありましてな。熊野大社に行くとするかな」

 

 ……信盛さんの次に、何もありませんように。

 

 

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