なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
光秀さんから帝が京で馬揃えを御所望していると聞き、信長様は即決で開催を決定した。
「十兵衛! 段取りは任せた。者共! ひと月後に開催する。名馬は当然だが、馬だけでは物足りん。衣装も奇抜な物を用意せよ! 京の民の度肝を抜け!」
なんて言って、ただやるだけじゃなく、こっちの準備も増やしやがったのは相変わらずの信長様なんだけど。
仕方ないので私も衣装調達のため、忠興君と玉ちゃん夫婦、おごとくちゃんと佐助(信康)君夫婦、ついでに弥助と五右衛門を連れて京の反物屋巡りを開始したのだった。
「今日はありがと、玉ちゃん。京の町に詳しい玉ちゃんが参加してくれて助かるよ~」
「いえいえ真昼様。夫の忠興にも衣装を用意するついでですので、気になさらないでくださいませ」
ひしっと、久し振りに会った光秀さんの娘でもある玉ちゃんに抱きつく私。
ん? なんか物凄い殺気を背中に浴びたぞ?
振り向くとそっぽを向いている忠興君。
口笛吹いている五右衛門に、わなわなと震えている弥助。
おごとくちゃんはあくびしながら佐助君の背中に座っている。
犯人は……誰だ⁉
「五右衛門、弥助。貴様らが我が妻に抱きついたら斬り殺すから覚悟しておけ」
「へいへい。ほな行くで。ただでさえ弥助と真昼姉ちゃん、五徳様は目立つんやから、余計な騒ぎで村井のおっちゃんの仕事増やさんように」
「ゴクリ。あれが家中で噂の玉殿。男が話しかけただけで忠興殿が殺意を放つという……」
犯人は夫の忠興君かい。まったく、玉ちゃんを愛してるのは相変わらずだけど、愛の方向、めちゃくちゃ歪んでない?
てか、私に殺気を放った罪は許せん。あとで説教してやる。
「玉ちゃん大丈夫? 忠興君、めっちゃ嫉妬深くなっちゃってるけど」
「私は別に。職務以外、私と片時も離れようとしない問題はありますが」
小声で囁く私に、玉ちゃんは愛されてる幸せオーラを放ってくる。
おお! これぞバカップル。馴れ初めから知ってるから近所に住むおばちゃん目線で涙腺が緩んでくるよ。
「それがしと同じでございますな! 常に背中に我が妻の尻が置かれる感触、もはや空気と同じでございまする! なくなれば死んでしまうのです!」
うん黙れ、佐助。
「玉には聖女服が似合いそう。真昼は勇者。私は魔女。このコンセプトで反物揃えるか」
「……あの、五徳姫様。参加するのは夫と父で、私は参加しないのですが」
困惑する玉ちゃんに、おごとくちゃんは親指をビシッとさしてくる。
「問題ない。私の横で参加決定」
夫の尻を鞭でペチンと叩き、移動していくおごとくちゃん。
相変わらずのフリーダムだぜえ。
ていうかおごとくちゃん、まさか馬は夫で参加する気じゃないよな?
反物屋巡りつつ、甘味屋や五右衛門お勧めの穴場飯屋で京の町を満喫する私たち。
「これ、蜀江錦です。まさかここでお目にかかれるとは」
とある反物屋で、数学の授業で使う記号のようなのが刻まれた織物を見つけた玉ちゃんは即買いした。
「色は地味だが、全人類の命より重い妻が選んだのだ。喜んで着るぞ!」
「いえ、これは信長様に献上なさいませ。必ず褒美が出ます」
「玉がそう言うなら間違いないな! ……信長様がしょくなんちゃら知らないと説明できないから、玉も一緒に拝謁しよう!」
「もう、しょうがない夫です」
そう言いつつも玉ちゃんも嬉しそう。
てか忠興君さあ、仕事の時間も一緒にいられるって思ってね? 小さなガッツポーズ、私は見たぞ?
それから玉ちゃんは忠興君に着せる反物を買い、弥助も近習仲間から頼まれた色を買っていき、かなりの荷物を抱えて満足してるようだ。
「聖女用の藍色がない」
ぜんざいを口に入れながら、残念そうに言うおごとくちゃん。
私的には、ずっと馬状態で頬がげっそりしてきた佐助がどうなるのか興味津々だよ。
「ほな、教会の神父、オルガンティノ様に聞いてみたらどうや?」
五右衛門の提案に、弥助は嫌な顔をした。
「わざわざ白人に会う気はしねえな。俺は先に安土へ帰るよ」
奴隷だった立場だし、弥助がそう言うのも理解できるけど、ここは私が教育しないと。
「身分は信長様の近習なんだし、差別したらまずいって向こうも理解してるって。それにオルガンティノさんも人種差別する人じゃないよ? それなのに弥助がオルガンティノさんを差別するのはどうかなあって感じ。会ってから判断すべきじゃない?」
「けっ! 言ってくれるじゃねえか。わかったよ、会ってやるよ」
うっし。私の説得大成功だぜ。まあ、任せてよ。嫌がらせされたら私の金属バットが火を噴くからさ。
ん? 忠興君と五右衛門が弥助の肩に腕を回してゴニョゴニョしてる。
俺がついてるから安心しろって励ましてるのかな? 友情、いいね。
(いいか弥助。俺は聖女姿の玉が見たい。オルガンティノを脅して南蛮の反物、すべて強奪するぞ)
(昔取った杵柄や。盗みのプロからどこに隠されてるか見当つくわ。2人はオルガンティノ様らの注意を引きつけてな)
ん? なんか欲望丸出しな声が聞こえたような……気のせいにしておくか。
***
京にあるキリシタン教会、といっても令和の時代のイメージの大聖堂とかじゃない和風三階建ての建築物だ。
内部もステンドガラスとか聖母マリア像がでんと構えてるんじゃなく、お寺なのに椅子や長テーブル、礼拝堂がある和洋の和よりな空間である。
私たちが訪ねたことを知ると、上の階からドタバタとオルガンティノ神父が降りてきて、弥助の前に跪いて涙を流してくる。
「話ハ聞イテイマス。何カ困ッタコトガアレバ、イツデモ相談シテクダサイ」
普段ふてぶてしい弥助も、これには面食らったようだ。
「ちっ。普通の白人だったら蹴り飛ばそうと考えてたんだがな。善良なおっちゃんかよ。しかしいいのか? イエズスの教えを広めている存在が、黒人に頭を下げてよ」
「黒人、白人。小サキ問題デス。コノ世ノ分類ハ二通リシカアリマセン。……信長様カ、ソレ以外デス!」
くわっ! って擬音がつきそうなオルガンティノさんの魂の叫び声に、みんなぐうの音も出ない。
オルガンティノさんも荒木村重の謀叛の際、めっちゃ信長様にあっちこっち行かされてたから恐怖が骨身に染みてるんだね。
そこに人種の壁も、宗教の壁も存在しない。
オルガンティノさんは私たちの仲間だよ!
聖女服用の反物が欲しいと来た目的を告げると、オルガンティノさんは司祭たちに持ってくるように命じてくれた。
おお! おごとくちゃんの目が輝いてるよ!
馬のままの佐助君の輝きは、今にも消えてなくなりそうなのに。
そういや佐助君、飲み食い一切してなかったような?
玉ちゃんは玉ちゃんで、壁にある絵画に興味があるようでジッと見つめている。
ん~。キリスト教にそんな興味ない私でも、令和知識で何となく分かる絵だ。多分あれだね、聖母マリアがクリスマスパーティー主催した時の絵だろうね。
「グラツィアニ興味アリマスカナ?」
「グラツィア……どういう意味でしょう?」
「神ノ恵ヲ全テノ人ニ与エル、ト言ウ意味デス」
玉ちゃんは感銘を受けたかのように絵画から目を離さない。
オルガンティノさんも優しい瞳で玉ちゃんを見ていくが、すぐに忠興君の殺気を浴びてムーンウォークバリのステップで離れていく。
さすが神父と名乗るだけあって、やるね。