なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
第235話 長谷川真昼、伊賀攻めへ向かう
——鳥取城陥落前のこと。
毛利輝元との一大決戦が流れた信長様だけど、安土に集結させた軍勢をそっくりそのまま別の敵に向けた。
「伊賀忍者の一部が傭兵稼業を廃業し、織田に降ると約束した」
という報告を聞き、私たち安土にいる者たちは急いで信長様のところに向かう。
伊賀は、戦国初期から大名を追い出した地侍と忍びの集合体である。
作物が育ちにくい痩せた土地に住む彼らは搾取を嫌い、余所者を受け入れず、幼い頃から出稼ぎ傭兵になるべく過酷な修行で育てられる。
出稼ぎは昔から行われていて戦国の世では当たり前と認知されていたんだけど、信長様は畿内が安定して働き口が増えたのに北は東北、南は九州まで出稼ぎをやめない伊賀と甲賀に以前からこう警告をしていたのだ。
「生活の安定は保証してやるから織田につけ」
ただ、足軽や奉公働きより傭兵稼業のほうが当然実入りがでかいのも事実。
甲賀は一益さんの説得で渋々折れたけど、伊賀はずっと反発してた上に北畠信勝君を撃破したこともあって関係は悪化の一途を辿っていた。
まあ、その時の信長様は勝手に伊賀と戦争して負けた信勝君にガチギレしたんだけど。
信長様の前で平伏する、黒の組織っぽい忍者ショーイベントで見るような黒ずくめが2人。
薬で誰か子供にしてそうな目つきだよ。
「信長様、お待ちを。福地宗隆殿は、息子を百地丹波に殺されたゆえ恨みがあるのでわかりますが、霧隠才蔵は丹波の秘蔵っ子。此奴に理由がありませぬ」
注進してきたのは、自身も甲賀忍者出身なので忍者界隈に詳しい滝川一益さんだ。
宗隆の息子は北畠に仕え、信勝君の家臣となったけれど前回の伊賀攻めでしんがりを務め、百地丹波の配下に討たれたそうだ。
「であるか。才蔵、理由を言え」
金属バット持ってるとはいえ、よく至近距離で忍者と会話できるなあ信長様。
あいつら無の動作で人を殺す訓練されてるから、言葉と姿勢が全部信用できないんだよね。
お父さんとお母さんも昔、散々な目に遭ったって聞いたことあるし。
あっ、無論一益さんは別だよ? 長年一緒に仕事して助けられてるし。
才蔵と呼ばれた人は平伏したまま告げる。
「百地丹波殿より、俺の終生のライバルとなる男が織田にいると卦で出た。見極めてこい、と」
終生のライバル? 忍者で? 言っとくけど私を指さしたらこの場で消すからな。
あっ、卦は知ってるよ。お姉ちゃん、占い大好きでよく私を実験台にして無理やり占い結果通りにしてきたからね……。
「ほう? 戦の結果でも郷土愛でもなく、己のライバルのみを求めるか。鶴千代(氏郷)!」
「はっ」
「此奴は貴様が使え! 久助(一益)は此奴の望む者を見繕え! 全軍出陣せよ、プレイボールだ!」
信長様の号令により、ここに伊賀忍者1万人VS織田軍4万の戦いがスタートした。
***
伊賀の東西南北から進軍していく織田軍。
北東の柘植口から一益さん、丹羽長秀さんが。
南東の伊勢地口から北畠信勝君改め、やっぱり改名したけどこのタイミングでかよと思っちゃう信雄君と、津田信澄さんが。
北西の多羅尾口から堀久太郎君が。
南西の笠間・初瀬口から筒井順慶さんと、ねねちゃんの義弟の浅野長吉さんが。
そして北の玉滝口から蒲生氏郷君と霧隠才蔵、それと私とセンイチが進軍していったのだ。
「フハハハハ、人数差なんぞ我が分身の術でどうとでもなる! 四方八方の俺に襲われて死ね!」
「シュバババ、俺のマキビシは特別製よ。爪先からじわじわ死にゆく恐怖を味わうがいい!」
「シュッシュッシュ、悪く思うな。忍びの武器は毒よ。我が見えぬ吹き矢を浴びて訳が分からぬまま死ぬがよい!」
カキーン! カキーン! カキーン!
「なぜ……俺が本物だ……と。グフッ!」
「ぎゃああああ! 全身にマキビシがああああああ……ぁ」
「? なんじゃこりゃあああああ……ぁ」
言っとくけど私じゃないぞ? 私は分身消しただけだからな。
「忍びは己の力のみを信じ、他者と連携を取らぬ。冷静に個々を潰せ。幻術も小細工も、軍略無きは子供の遊びと同様」
氏郷君の冷静な指揮が、一益さんが選び抜いた精鋭部隊の力を増幅させているようだ。
伊賀忍者からしたら裏切り者である福地宗隆と霧隠才蔵が私たちの陣にいるからか、忍びたちが大挙してやってくる。
連携してくる地侍どもは、別の戦線にアップアップしてるようだ。
「氏郷君、暗闇と同化した忍者どもがまた飛んできてるよ!」
シュタタ、シュタタという音もさせないで木々を跳躍してくるけど、姿消してるなら普通に移動でよくね?
『儂の発光で照らしてやるわ!』
センイチの青色、黄色、クリムゾンレッドと信号機のように目まぐるしく変わる発光によって、敵の位置が丸見えになった。
氏郷君は淡々と命じる。
「火縄部隊、一斉射撃」
バババババッ!
黒い塊がドサリと地面に落ちてくる。
さすが氏郷君率いる精鋭部隊、忍者たち白眼剥いてるけど命に別状なさそうだ。
さすが国友善兵衛さん発案、暴漢制圧用の野球ボール弾。
ふう、これで緒戦は切り抜けたかな?
「なっ……なぜ俺は生きている」
「俺も死んでない……だと?」
捕らえた伊賀忍者たちが目覚め、驚愕の声を出してくる。
「馬鹿め、忍を縄で縛ったとて無意味。フハハハハ、見よ! 我が縄抜けの術! ……ファッ⁉」
「関節外しても絡め取られる。……クッ! 抜けん」
「かくなる上は歯に仕込んだ毒を砕く……抜かれてる⁉」
うん、リアクションいいね、伊賀忍者たち。
「伊賀忍者の個々の技量が優れているのは知っています。ですが、どれだけ技が凄くても封じる術を知っていれば破れます。その証明をしたつもりです」
「おなご……我らを愚弄するか。甲賀衆の一益か? 裏切り者の才蔵から仕組みを聞いたか? ふざけるな!」
「聞いたぐらいで我らが幼き頃から心血注いで会得した技を、手品の種のように破れるものか!」
忍びたちが激昂するけど、捕まったんだからおとなしくしててよ。
「わからないんですか? 心血注いで会得した技? 織田軍全体も、同じように心血注いで会得した技があることを」
私は金属バットでフルスイングして、連中に風圧を浴びせる。
あっ、カツラが2人もいた。
「どうですか? このスイング、一朝一夕でできると思います?」
地面にズシンと置いた金属バットがめり込んでいく。
「……まさか……そんな」
「俺たちは井の中の蛙……いや、伊賀の中の蛙だったのか……」
項垂れる伊賀忍者たち。
よし、心折ったぜ。
ここだけの話、今までの説得、全てブラフである。
忍び技なんて素人が破れるわけないじゃん。
私は蒲生軍にいる三つの黒装束に振り返り親指を立てる。
一つ目は矍鑠たる老人が本体の服部保長さん。
二つ目は四つ足歩行で動く、一応人間の猿飛佐助君。
三つ目は佐助君の背中に座る、おごとくちゃん。
ふう、佐助君が信康君だった頃、徳川内紛に心配した保長さんが伊賀忍術の極意を継承してくれてて助かったよ。
ついでにおごとくちゃんにも伝授してたのは意味不明だけど。
「でも保長さん、いいんですか? 地元の秘伝をことごとく潰しちゃって」
ボソッと保長さんの耳元で囁く。
「故郷に帰るのは50年振りですからなあ、いやはや、世捨て人の老人に破られる進化が止まった忍びなど不要。まあ、信康様……佐助殿が織田家にいるなら、協力するしかありますまい」
おごとくちゃんが信康君を馬にして安土に戻ってきた時、まさかこんな伏線になるなんて思ってなかったぜえ。
保長さんも家康さんが元康さんだった頃以来の再会だし、生きてたことに吃驚だよ。
「どう? ジン……じゃなかった、才蔵君。ライバルな人いる?」
私は織田軍の道案内しつつも、心に織田のおの字も持ってない上に忍者仲間たちがやられるのも黙って見てる霧隠才蔵君に声をかけた。
「心が燃えん」
「つまり、いないって意味?」
私は金属バットを構える。
このままだと息を吸うように淡々と、兵たちを暗殺しそうだからだ。
「勘違いするな。蒲生氏郷も長谷川真昼も、戦場では俺より遥か遠くの格上よ」
「いや、そこに私を混ぜるなよ」
でも言いたいことはわかる。
欲するのが、同じ種目で切磋琢磨できる存在だと。
「この伊賀攻め、織田の勝利は確実だろう。けどな、忍びは闇に紛れる者。闇がなくならない限り、俺らは消えん」
カッコつけてるけど、なんか怪しいなあ。
こいつの頭上に、四六時中センイチの光でも浴びせようかな?