なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
六方面からの織田軍同時攻撃に、伊賀は大混乱に陥った。
「ええい! どこの戦線に行けばいいのじゃ!」
「迷うことはない! 父祖の地で戦うぞ!」
「俺……忍びの里で育ったから父祖の地知らね」
「ええい! 北畠の雑魚どもから屠るぞ!」
「才蔵だ! 才蔵を殺せ!」
よくわからないまま、北畠信雄と津田信澄の進軍する天童山に集結した伊賀忍者どもだったが、前回と違って統制され、織田の綺羅びやかな鎧と金属バットの光に仰天し、こりゃあかんと一戦も交えず散り散りに逃げた。
丹羽長秀と滝川一益も甲賀衆の案内で炎の業火とともに進む。
織田でも天下に名が轟いている2人に容赦も慈悲もない。
黙々と伊賀を焼け野原に変えていった。
堀秀政は島ヶ原の地を和平派と徹底抗戦派の伊賀忍者同士で潰し合わせる謀略で落とし、進軍を進める。
筒井順慶、浅野長吉も伊賀上忍の千賀地一族を尽く屠る大戦果を得る。
至るところから途切れることのない敗報に、百地丹波ら伊賀上忍が集った比自山に暗い影を落としていた。
「六方面の織田軍、一番恐ろしいのが玉滝口の蒲生氏郷と長谷川真昼よ」
美髯公と呼ばれる白い長髭を撫でながら、百地丹波は冷や汗を掻きながら呟いた。
裏切り者の霧隠才蔵目当てに、上忍の藤林長門、山門左門、山尾善兵衛ら伊賀でその名が轟いている者たちが向かったが誰一人として帰ってこない。
「ううむ。これほど圧倒されるとは」
伊賀軍総大将滝野吉政も、屈辱に拳を震わせながら呟いた。
「もはや伊賀全土に恐怖が蔓延している。蒲生氏郷、長谷川真昼来たると聞くだけで泣く子も黙る状況ぞ。次に黙る時、伊賀に死体しか残っとらんぞ!」
地侍筆頭・森田浄雲の拳がドンっと比自山の大地を揺らす。
そこへ空中より血まみれの忍びが飛来し、最悪のひと言を告げてきた。
「申し上げます! 蒲生軍により、平楽寺陥落!」
「なっ!」
吉政は絶句した。
平楽寺に集うは町井左馬充率いる荒くれ僧兵軍団。
それが抵抗らしい抵抗もできぬまま全滅するとは。
「最初に比自山に辿り着くのは蒲生軍で確定だな」
百地丹波が立ち上がる。横に浮遊する、獅子の咆哮を抑え込んでる英霊ボール『ハツ』とともに。
『才蔵から連絡なしか。なら、一矢は報えるな』
「ああ。終生のライバルを見つけられなんだようだ」
「どうするのだ丹波! 俺も連れて行け!」
いつの間にか、丹波の背後に比自山全軍がついてくる。
「フッ。究極の忍者が個で組織を打ち破る証明をしたかったのに、これでは戦のようではないか」
嗤う丹波だが、そのまま闇と同化した3000の忍びを従え、平楽寺を落とし、安眠貪る蒲生軍へ向かい動いた。
***
才蔵の陣幕にセンイチを放り込んで眠っていた私だけど、妙に違和感を覚えて氏郷君のいる本陣に向かう。
すると氏郷君も同じだったようで起きていたのだ。
「多分だけど囲まれてる。夜襲して一点だけ逃げ道用意してるようで、そこにドカーンとやる作戦かも」
忍びってなんでいつの時代でも夜型なんだか。
お父さんもお母さんも忍者に命を狙われ続けたことがあって、深夜バイトしてる気分になったって聞いたことあるけど、ホントそんな気分だよ。
「真昼様なら、次の敵の一手をどう見ますかな?」
「うーん。お父さんが一番ヤバいって思ったのが、上空から毒塗り手裏剣攻撃、逃げたところで毒の沼地の落とし穴かな? かすり傷で致命傷になるのに、全部食らって死んだと思ったって苦笑いしながら言ってたっけ」
「なんで後日談になってるのか気になりますが、普通、死にます。包囲が完成する前に全軍で脱出しましょう」
氏郷君の言葉に私は頷き、通る陣幕に金属バットでコンコン叩きつつ、センイチを放り込んでいた才蔵の陣幕に向かう。
うん、青く発光してるから気分よく喋ってるみたいだね、センイチ。
『そうして儂は就任2年目で初優勝したのじゃ。ヒラノやヤスノリ放出しやがって、とか抜かす評論家を黙らしたのが気持ちよかったわい』
「センイチ、才蔵。敵襲だから脱出するよ」
『むう。こっからがいいところなのに』
センイチが不満げに明滅するけど、ここ戦場ど真ん中だからね。
「てか、才蔵も起きて」
こいつ、センイチのダミ声聞いて微動だにせず、アイマスクだけでよく眠れるな。
私だったらとっくに地面に埋め込んでるぞ。
「ん?」
息もしてなくないか?
私はバッと才蔵の布団を剥がす。
すると、才蔵の身体が丸太になったのだ。
「やられた! やっぱ黒の組織だったよこいつ!」
『ぬう……不覚! じゃが小娘、黒の組織は変化の術で逃げる組織じゃないぞ。変化するのはコナンのほうじゃ』
それは今問題じゃないって、センイチ。
***
蒲生軍を見下ろせる大木の上で、腕組みをする丹波に跪く霧隠才蔵の姿。
「そうか。いなかったか」
「はい。このまま丹波様の許で戦うべく帰参しました」
才蔵の覆面から見える両目に愉悦が浮かび上がる。
生死より、これから己の技を戦場で試す快楽ほどこの世で愉しいことはないからだ。
「丹波様、下知を」
「うむ。全軍、忍びとして思う存分技を奮え。戦は個で覆ることを証明するのだ」
織田の得意とする炎は使用しない。
闇に紛れ、標的を闇に返すのみ。
3000の忍びが、無音のまま蒲生軍に襲来した。
大木の上で腕組みのまま、蒲生の陣幕が崩れていくのを視ていた丹波の目に、隣の大木に立つ1人の老人の姿が映り込む。
「……半蔵か。50年振りじゃな」
「その名は息子にあげたわ。今はただの服部保長よ」
「徳川と織田の犬になった貴様は死ね」
「冗談言うな。忍びに固執する貴様こそ死ね」
老体二つが大木から跳躍し、空中でクナイが激突する音だけが響き渡った。
***
毒塗りの手裏剣、マキビシが空を切り、陣幕を裂く音だけがする蒲生軍だったが、突如炎があがる。
それも四方八方から、深入りした忍びどもを包むように。
「連中、俺らと心中する気か?」
「馬鹿め。俺らは炎の中を歩く訓練も受けている」
忍びどもに動揺はない。
作戦決行を継続し、寝ぼけ眼で逃げようとする敵兵の背に淡々と手裏剣を放ち続ける。
「平楽寺、奪還! 織田なぞ大したことないわ!」
炎の中、動く敵兵がいなくなったのを確認し、浄雲が勝ち鬨の声を出す。
——も。
「氏郷、真昼。どこに逃げた? なぜ逃走経路のどこにもいない!」
激昂する吉政は、さらに信じられない光景を目にする。
「蒲生兵の死体……全て丸太に変わっております!」
「……なっ! なら誰が火を放ったというのだ!」
さらに急報が入ってくる。
「へ、平楽寺、囲まれてます。先頭は蒲生氏郷と長谷川真昼!」
大敗を餌に地獄へ引き込まれたのだと、忍びどもはようやく理解した。
一連の報告に絶句する吉政たちを見つめながら、才蔵は高揚した。
ついに現れたのだ。己の終生のライバルが。
才蔵の覆面の口元が大きく歪んだ。