なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
センイチの発光により平楽寺付近で繰り広げられる戦場は、ナイター球場のようになってるそうな。
対戦カードはおごとくちゃん&佐助ペアVS霧隠才蔵と、私VS英霊ボール『ハツ』である。
「忍法・霧隠の術」
才蔵が発すると闇夜より濃い霧が発生して、おごとくちゃん&佐助ペアの視界を奪う。
「将を射んと欲すればまず馬を射よ。狙うなら馬を狙って」
冷静に告げるおごとくちゃんだけど、どこから攻撃が繰り出されているのか、着ている黒装束の端々に次々と裂け目が入る。
それなのに佐助君の黒装束は綺麗なままだ。
「おなごを狙うとは外道だな、霧隠才蔵。俺を狙え、さすれば忍びとしての究極奥義を浴びせてやる」
佐助君の挑発に返事はない。代わりに来るのは真空波。
おごとくちゃんの首を切断すべく放たれた。
私のほうも、たった1球のボールに囲まれている。
英霊ボール『ハツ』の分身の術で、前後左右に白球がある。
輪っかから抜け出したいのに抜け出せない土星になった気分だよ。
しかもどんどん攻撃してきやがるし、全部に硬球の重みがある。
カキン、カキン、カキン!
襲われては打ち返すけど、金属バットでジャストミートしたのに遠くに飛ばないでフッと消え、別の分身が現れて攻撃に転じてくる。
ハアハアハア。……こういう企画って2分ぐらいで終わるもんじゃね? 連続スイングで敵を弾き飛ばせ! なんてのがあったってセンイチが言ってたぞ?
『10分経つが、まだスイングスピードが緩まぬか。まあよい、無限でも構わぬこちらと疲労する人、どちらが有利か火を見るより明らかよ』
ちぇっ、全方向から聞こえてくるから本体判別は無理か。
「ねえ……なんで忍者の里で修行してたの? 白球なのに」
私の疑問に、ハツは攻撃の手を緩めないまま語りだす。
『……儂が地味だからだ』
「いやいや、なんか神走塁したって聞きましたけど。浅いセンター前ヒットで1塁からホームって、普通に凄いじゃないですか」
BOOOOOOONN!
ほえっ⁉ なんか今、ライオンの咆哮が聞こえた気がするぞ?
『ゴールデングラブ8度、ベストナイン5度、選手として日本一7度! 優勝10度! 監督としても優勝2回!』
「凄い! 野球人として頂点に立ったんですね!」
自慢話を語り出してくれたし、ここはヨイショあるのみ!
『小娘! 儂の所属していた球団は⁉』
ん? なんで質問してくんの?
『儂のポジションは!』
……いや、そう言われても困る。
『やっぱりじゃ。なんで儂、あんなに名手と呼ばれ、神走塁もしたのに、称号忍者が手に入らなかったんじゃ。リョウスケより儂のほうが忍者じゃわい!』
「えっと……だから戦国の世で忍者の里に?」
『その通りじゃ! 山賊どもを従えていたのに、日本シリーズ1回も出ていないせいで監督としても地味扱い! この屈辱、英霊ボール大戦で晴らしてくれるわ!』
「忍者じゃなくて山賊の親分じゃん!」
『黙れ小娘ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
全方向同時にデッドボールぶつけるように迫りくるハツの群れ。
マズい。さすがの私も背中に目はない!
殺られる!
こうなったら一か八かだ!
「全部捕球してやる!」
私は金属バットを放り投げ、万が一のために持っていたキャッチャーミットを構え、片膝を地に着けて冷静に迫りくる白球を凝視していく。
バシッ! バシッ! バシッ! バシッ! バシッ!
『なっ……!』
ふう。なんとかなったぜえ。
『グッ……抜けん。なんちゅう握力じゃ』
ミットの中に残った1球がジタバタするけど逃がすもんか。
「バットで打ったら消えるから、捕球しても消えると思ったよ」
『まさか……そんな理屈で全部掴む……だと? ふざけるな! 四方八方、前後左右の全方向だぞ!』
「まあ、信長様も荒れ球だし。このくらいはよくあったから」
投球練習でも、投げて私が捕ったらもう次の球を投げてきたことあったし。
「球威も信長様以下だったから、ギリギリいけた感じ」
何気なく呟いた私の言葉に、ハツは心を折られたようだ。
——球体が忍術を学ぶと笑われた戦国初日。
唯一真剣な眼差しで、イチから教えてくれた百地丹波との厳しく辛く、血を吐くような修行の日々。
そんなハツの記憶が私に流れてくる。
『儂の修行は……無駄だった……のか』
「ううん。そんなことはないですよ。だってハツは、百地丹波との日々が楽しかったんでしょ?」
『……フン』
「丹波も殺させないから、安心して眠って」
ミットから出して撫でてあげると、ハツは安心したかのように寝息を立てていった。
さてと、もう一つの戦いも決着がついたようだ。
***
才蔵の放つ黒い霧に真空波で、おごとくの黒装束は見るも無残に切り刻まれている。
佐助の挑発にも興味はない。
(次で首を刎ねる。妻を殺されて激昂するがいい。それでこそ、一対一の忍びの殺し合いが完成する)
大きく身体をエビ反り、両手を頭の後ろから全忍力を込めて空を斬る。
(終わりだ! さあ、殺し合おうぞ、猿飛佐助!)
断末魔と発狂と復讐の殺意が聞こえるのを待つのみ。
なのに、何も起こらない。黒い霧の内側は静まり返っている。
(防がれた? いや、我が霧は忍術を無効化する。丸太に身代わりさせることも、脱出も不可能。……よもや妻の死に呆然としてるのではないだろうな?)
それならば期待外れだ。ライバルの価値もない。
「死ね。猿飛佐助」
再び、才蔵は真空波を放つ。
手応えあり。
「さて、丹波様の加勢に向かうか」
そう呟き、霧に背中を見せた刹那。
「グハッ!」
才蔵の背中に、真空波の衝撃が直撃した。
「鎖帷子、もう少し上なら首を刎ねられたのに」
おごとくの残念そうな声が耳に入る。
シルエットで、四つ足の佐助の背に乗っているのがわかった。
「……なぜ、生きている。どうして2人とも生きてるんだ!」
振り絞った才蔵の血を吐くような呻き声を、佐助は誇らしげに返していく。
「貴様の敗因は修行不足だ」
「この俺が……修行不足……だと!」
「そうだ。俺は妻の馬になりながら忍術修行をしたのだ。貴様の真空波なぞ、我が妻の尻の温もりに比べたら軽いそよ風のようなものよ」
「……何を言っているのか……さっぱりわからん。……グフッ」
おごとくのパンチが後頭部に決まり、才蔵は沈黙した。
「いずれわかるさ。貴様も大事な妻を持てばな」
佐助は誇らしげに囁き、才蔵も背に乗せようとして妻と接触してしまうと思い直し、口で咥えて持ち上げた。