なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
西国における織田の最前線、備前の宇喜多直家は毛利との戦いで一進一退の攻防を繰り広げていた。
鳥取城救援に向かう小早川隆景軍を足止めにし、羽柴秀吉の因幡攻略に多大な貢献をした。
けれども戦線は、備前へ繋がる要衝・忍山城を奪還され、吉川経家の仇討ちに燃える毛利勢に劣勢に転じつつあった。
それでも直家に悲観はない。居城・岡山城で上機嫌で鼻歌をしている。
「うーん。これはいわゆる一つの総力戦ですね。ヒロオカ、ワカマツ。ここを耐えれば……グフ、グフフフフ、信長様はこの私に備前・美作だけではなく、備中までくれる約束してくれてます。ここは頑張り時ですよ」
『やれやれ、信長がどこまで約束を守るかわからんが、直家を上手く使うやっちゃな』
直家の横で浮遊する2つの英霊ボールの一つ『ヒロオカ』が冷徹な声で嘆息する。
『まあ、長曾我部と違って信長のために働いてるし約束は守るんじゃない? 働けば働くほど褒美をめちゃくちゃくれる人だし』
もう一つの英霊ボール『ワカマツ』があっけらかんと口ずさむ。
「毛利との最前線で戦ってるのは、秀吉でも官兵衛でもなくこの私。鳥取城とて、私の活躍なければあっさり落としてなかったでしょう。信長様も私が一番と思っているからこその備中加増の約束! ああ、いいですねえ、この感覚。今ならタイトル総なめにできる気分です」
直家は英霊ボール大戦で敗れ、眠りにつく英霊ボール『シゲオ』を手で撫でながら、さて次は裏切り者の伊賀家久をどうやって暗殺しようかと考えていた。
——のだが。
グラッ。
直家の身体が突然、倒れた。
『『直家!』』
ヒロオカとワカマツの悲鳴に、直家の弟の忠家が慌てて駆けつけようとして、鎖帷子を着込んでからソロリソロリと近づいていく。
兄が自分を暗殺しようと演技で倒れたと疑ったがためだ。
「嘘だろ……兄上」
ようやく状況を理解した忠家だったが、このまま宇喜多家を乗っ取ることを諦める。
「……なんという執念だ。おい誰か! 羽柴殿にこのことを伝えよ!」
忠家の指示に宇喜多家臣の誰もが青ざめながらも、このまま織田に与するほうが得と考えていった。
***
安土城に秀吉さんがやってくると聞いて、私はソワソワしながら大広間で待っていた。
三木城陥落直後以来の再会だし、いっぱい話すことありすぎるよ。
秀吉さんの戦線についても色々聞きたいし、こっちの本願寺から高野山、伊賀攻略について話すことが多すぎる。
まあ、一番話したいのはあとどのくらいで本能寺なのかなんだけど、信長様が一緒だから聞きづらいなあ。
ヒソヒソ話しても、信長イヤーは地獄耳だから意味ないし。
やがて蘭丸君と弥助の案内で襖が開き、相変わらず美しい……あっ、これ自画自賛になっちゃうか。
相変わらず凛々しい秀吉さん(帰蝶様だった前周回の私)と、やっぱり純日本猿な秀長が入ってくる。
おっ、もう1人、弥助と同じ小5ぐらいの男の子がいるぞ?
……あと秀長さあ。なんで棺桶を引きずって入ってくるのかな?
いや、疲れたぜってへたり込むな。説明せい。
「羽柴筑前守、宇喜多直家が嫡男・八郎殿を宇喜多家当主と認めてもらうべく参上しました」
蘭丸君の口上に、男の子が平伏してくる。
「この宇喜多八郎、亡き父に代わり、毛利との最前線で命を賭して働きまする」
うんうん、礼儀正しいお子様だね。直家さんみたいな不気味さが全くないのが驚きだよ。
滲み出るオーラが邪気じゃなくてボンボンだし。
毎日塾でお勉強して、テストで満点じゃなかったらため息つくタイプかも。
「であるか。当主として認めるが貴様はまだ若い。忠家や宇喜多家中の背中を見て学べ」
「ハハッ! その通りにいたしまする」
……ん? ちょっと待って。亡き父?
「直家さん、死んじゃったの⁉ てか、年齢的に孫じゃないの⁉」
「真昼、直家殿は暗殺……コホン。妻に先立たれることが多く、子宝に恵まれなかったのだ。ようやくできた男子が八郎なのだよ」
秀吉さん? 理解できたけど不気味な単語もあったんだけど?
驚く私を無視し、上座の信長様が棺桶に向かって歩き、開きやがった。
ひょっとして菓子折りの箱に細工して袖の下が隠れてるように、貢ぎ物が入ってるんじゃないかと私も覗いてしまい、すぐに後悔した。
「直家さんの遺体じゃん! なんで岡山から安土に持ってくるの⁉」
首検分じゃなくて全体だよ? しかも味方。
ユーは何しに安土へ状態だよ。
クンクン、肌は青色になってるけどでも死臭はしないね。なんか防腐してるのかな?
「ウキー、ウキキノキー」
「え? きれいな顔してるだろ。ウソみたいだろ。死んでるんだぜ。それ。って言われても、おっさんの顔だしきれいではなくね?」
「ウキッ⁉」
「ジェネレーションギャップって何が?」
「ウキー!」
いや、ガードレール下で泣きたい気分だぜって言われてもねえ。
多分それ、猿がやったら台無しになるんじゃね?
「ほう? なるほどな。死んでからも面白い男よ、直家」
「信長様? さすがに死体見て笑うのは趣味が悪いよ?」
「真昼、手元をよく見てみろ」
信長様に言われ、再びそ~っと覗いていくと、ああなるほどねと納得してしまう物を見つけてしまった。
『ううむ……抜けん』
『これ絶対死後硬直関係ないよね? 吃驚だよ』
『zzz……』
直家が両手でヒロオカ、ワカマツ、シゲオをがっしり掴んで離さない状態になっていたのだ。
「小六や茲矩殿、清正や正則ら羽柴の剛の者に試させましたがピクリとも動きませんでした。宇喜多の家中も幾人か試したようですが、結果は同じでございます」
「ウキーウキーウキー」
秀吉さんの説明に、秀長もこれはもう真昼しか無理だと思ってここまで運びましたと告げてくる。
この猿、相変わらず私のことを雑に扱うなあ。
「真昼、とりあえずやってみよ! 英霊ボール回収係の効力があるやもしれぬ」
「うえ~。嫌だなあ。直家さんだからってわけじゃないよ? 死体を追い剥ぎしてる気分になるし、純粋に嫌だよ」
でもヒロオカたちも困ってるみたいだし、やってみないと。
「八郎君、お父さんにちょっと失礼するね」
「はい。父からよく噂で聞いていた真昼様なら心配しておりませぬ」
殺し屋・白面の野猪が息子に私を語ってるって、不思議な気分になるよ。
「えっと、ちなみにどんなことを聞いたの?」
「はい。父には『真昼様なら安心して我が暗殺術を授けられる。お前には授けん』とよく言われました。あと『これからの時代は学問よ、とことん学んで織田家の政務を任せられるようになれ』とも」
……あのさあ。そんなキラキラした目で見ないでくれる?
直家さんめ、孫みたいな息子に何を遺言してやがるんだ。
「ふんぬー!」
『おい小娘、痛いわ』
『ちょっと待って、無理無理無理、キズがついちゃう』
「zzz……z……」
英霊ボールどもが痛がるって、どんな構造してるんだよ。
「ハアハアハア、無理かも。センイチ、何とかならない?」
私は信長様の横で、知っている人の死にしょげているセンイチに声をかける。
こいつも英霊ボールのくせに人間くさいなあ。
『小娘が無理なら儂をぶつけても無理じゃ。ちゅうかヒロオカとワカマツが脱出できんなら人には無理じゃろ』
「ええ? じゃあこのままお葬式して、埋めるってなるんじゃね?」
私が嘆息すると、ヒロオカとワカマツの慌てた声が響いてくる。
『おい、儂らは活動してるんや。シゲオと一緒に土に埋まるのは勘弁してくれ』
『シクシクシクシク、こんな形で英霊ボール大戦脱落は嫌だよ……』
「だよね。……うーん、でも秀吉さんでもどうにもならないんじゃ、もう白骨になるのを待つしかないんじゃ?」
『それは儂らが全力で防腐してるからさせんぞ』
『うん、臭いのは嫌だし』
……あんたら、そんくらい我慢してよ。気持ちはわかるけどさあ。
私が困って腕組みして唸ってると、信長様が直家さんの棺桶の前で大声を張り上げ、こう言い放つのだ。
「直家! 貴様の忠義見事であった! 褒美に備前・美作・備中を八郎に安堵してやる! ……ヒロオカどもを回収させるなら、だがな」
ポロリポロリポロリ。
白球3つが直家さんから回収された。
「……嘘でしょ⁉ ホントは生きてたんじゃ……」
ヒロオカたちを拾いながら、私は直家さんを見つめるが、やっぱり死んでいる。
「フッ。執念だな。葬式は岡山で盛大にやるがいい」
そんな信長様の言葉に平伏する秀吉さんたちに八郎君だけど、帰り道は死臭ヤバいんじゃないの?
『ふう助かった。シゲオがエガワ獲得に動いた空白の一日に巻き込まれた気分だわ』
『……僕ら、コバヤシだった?』
『あの年はヒロオカさんが日本一の監督となり、ワカマツがMVPじゃったなあ。ジャイアンツが相当追い詰められていたのをプププと笑っていたら、まさか空白の1日を起こすなんてのう……』
「いやいやヒロオカ、ワカマツ、センイチ。わけわからんこと言ってないで、直家さんに何かひと言ないの?」
『引退は仕方あるまい。やりきった』
『だね。……楽しかったよ』
うーん。求めてた言葉と違うけど、この2球らしいかな?
『儂も英霊ボール大戦、故郷スタートじゃったら信長じゃなく直家に協力してた可能性あったわ。立派じゃったぞ、宇喜多直家よ』
ふ~ん、センイチって備前出身なんだ。令和だと何県だっけ?
何はともあれ、お疲れ様、直家さん、ヒロオカ、ワカマツ。
シゲオも信玄と直家、濃い2人のところで御苦労様でした。