なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
木曽義昌、織田に寝返るの報を新府城にいる勝頼に告げたのは、義昌の妻であり、勝頼の妹の真理が放った忍びであった。
「何だと! 武田一門衆の扱いを受けて何が不満だったと言うのだ!」
「真理姫によりますと、義昌は岡部元信の最期に己を重ねたから、と」
忍びの報告に、勝頼は苛立ちを露わにした。
「……愚かな。虎繁と己を重ねず、元信と重ねるとは」
以前、織田との最前線の責任者は秋山虎繁であったが岩村城陥落時に妻と自害し、死後に長良川で磔に処せられている。
勝頼の脳裏に、あの時義昌が全力で岩村城に救援していたら結果は違ったはずという不満が蘇る。
俺が元信を見殺しにした? 貴様も虎繁を見殺しにしたじゃないか。
「……実母が新府にいて裏切るか。信茂! ……やれ」
勝頼の短い命令を受け、控えていた小山田信茂は命令を実行すべく立ち上がり、新府にある木曽邸に軍を向けた。
「御屋形様、ここは織田軍が来るより先に義昌を討つべきかと」
控えている一門衆の信豊の進言に、勝頼は頷くしかない。
「信豊、急ぎ義昌を屠れ! 俺も出陣に向かおう」
「御意。お任せあれ」
『ううむ。電光石火で決めるしかないぞ、勝頼』
勝頼の横で浮遊する英霊ボール『ワカダイショウ』も、事の重大性にオレンジ色に発光している。
「……ワカダイショウは桂の側にいてくれ」
『なっ! 勝頼、それは一体……!』
「頼む」
一礼までしてくる勝頼に、ワカダイショウはこう言うしかない。
『わかった。勝頼の妻は誰にも触れさせん。僕が必ず守るよ』
こうして勝頼は武田信豊に5000の軍を預け先鋒させ、自らも10000の軍勢を率いて新府城を経った。
この武田の動きに対し、岩村城まで進軍していた信忠は滝川一益、斎藤利治、森長可、河尻秀隆ら諸将に武田領への進軍を命じる。
すると信濃の武田国衆は、松尾城主・小笠原信嶺を筆頭に自ら織田に降ったり、領主を追放して織田に降ったりと、戦わずして勝敗が決していく。
骨があると聞いていた飯田城主・保科正直も、あっさりと城を捨てて高遠城へ落ち延びていってしまった。
「う~む、歯ごたえが全く無くてつまらぬな。これがあの武田か。設楽原で浴びた殺意の波動が懐かしわ」
織田軍の先鋒は森長可。人間無骨の金属バットを手にしながら平伏してくる信濃の民たちを見つめる。
「長可は設楽原や他でも暴れてるんだからまだマシじゃねえか。俺なんてようやく一軍を預かったのにこれだぞ? 俺、可哀想じゃね?」
長可の隣で、同じく先鋒の団忠正が無念そうに吐き捨てる。
この忠正、長可と幼き頃よりウマが合う友人であり、だから当然なのか戦闘大好き人間である。
「よし忠正、ならこうしようじゃないか」
「おっ、なんだ長可、策があるのか?」
馬上でヒソヒソ話をする2人の顔がニヤつく。
「信長様の軍が到着したら、せっかくの功を立てる機会が減ってしまうわ。乗ったぞ、長可」
「おう。ただし、俺に勝てると思うなよ」
肩を組み合って大笑いする2人であったが、突如大地が揺れる。
「な、なんじゃ?」
「お、おい長可! 空を見よ!」
忠正の指さす空は、先程までの青空から一変、灰色の粉塵と真っ赤な炎がまるで龍のようにうねりながら舞い上がっていく。
「まさか真昼様がなんかしたでござるか⁉ いや、真昼様はまだ信濃に来ておらぬ……はず」
「お、おい、誰ぞ何が起こったか理解できるか⁉」
絶句する長可の横で、忠正は降伏してきた武田国衆どもに訊ねた。
「あ、あれは浅間山じゃ。浅間山が火を噴いたのですじゃ」
「天が武田はこの地に要らぬと見放した証……織田様にとっては吉兆かと」
涙を流し、震えながら呟く言葉を耳にし、長可と忠正は天命でも吉兆でもなく、これで武田の戦意がなくなったらどうしようと頭を抱えていった。
***
浅間山の噴火は安土を出立し、美濃に入った信長様の本陣にいる私も目撃した。
「うわ~、大噴火は初めて見たよ。お父さんは若い頃、竜に捕まって火口に落とされて、大噴火に巻き込まれたことあるって言ってたっけ」
ここから浅間山までどのくらいあるんだろ?
でも信濃の山の噴火が視認できるって、近くに住む人たち大丈夫かなあ。
「これは武田諸将の心を折るのに十分な出来事かと。朝敵に噴火、勝頼は随分と天に嫌われたようで」
光秀さんが冷静に状況把握しながら、信長様へと報告してる。
「フッ、山が火を噴くのは太古の昔からあると記録にある。そこに人の意思はない。……が、結びつけようとするのが人だ。十兵衛(光秀)! 武田領に噂を流せ、徹底的にな」
「ハッ! お任せあれ」
この信長様の策は効果てきめんとなる。
武田一門衆の重鎮である穴山信君は岡部元信の死後、対徳川戦線の最前線にいたが寝返ることを決意、進軍してきた徳川軍を迎え入れていった。
上杉景勝も、越中で権六おじさま率いる北陸織田軍に足止めされ、飛騨から信濃に進軍する金森長近さんを止めることができず、自国防衛に舵を切ることとなる。
さらに北条氏政も自ら軍を率いて駿河に進軍を開始、これにより次々と武田国衆は武器を捨て、迫りくる織田・徳川・北条の侵攻軍を迎え入れるのだった。
——武田の主力部隊が、裏切り者の木曽義昌を討伐すべく結集した鳥居峠でも。
「ヒャッハー、さあ、どっちが多く敵を屠れるか勝負するでござるよ忠正!」
「おう! てか長可! てめえはあっちこっちで大功立ててるだろ! ここは俺に譲れ! って、逃げるな武田ぁぁぁぁぁぁぁ!」
木曽義昌は唖然とした。織田家に寝返り、最初に功を挙げる絶好の機会である武田信豊との戦いは、浅間山噴火の天命で必ず達成できるはずであった。
けれども、突如現れた森長可と団忠正によって邪魔されたのだ。
新府に居た母が処刑されると分かっていながらしたこの謀叛。必ず功を立て、織田家で成り上がらなくてはいけないのに。
「おのれええええええ! 木曽軍も進め! 若造どもに功を奪われるなあああああああ!」
絶叫する義昌も崩れて撤退する信豊軍を追う。
「なあ忠正、義昌殿は何を怒ってるんでござるかな?」
「知らね」
この武田信豊の大敗により、勝頼は迫りくる織田への迎撃を断念。進軍していた諏訪から、新府城へと撤退した。