なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
家康さんによる徳川観光ツアーも無事に終わり、安土に帰ってきた私たち。
わかっちゃいたけれど、信長様の決裁待ちの書状や手紙が一部屋を埋め尽くすぐらいあるよ。
「最重要の決裁と、西国の情勢はこちらにまとめてあります」
「あと、高野山の清胤殿と鷺森の顕如殿から手紙が届いております」
安土城の留守を任されていた堀久太郎君と竹中重矩君から、手渡された書類をざっと目を通した信長様はすぐに一つ即決する。
「久太郎(秀政) ! 久作(重矩)! 備中高松に行き、毛利の出方を確認せよ!」
「「はっ、承知しました」」
いよいよ毛利との戦いも大詰め、備中が織田に落ちれば輝元自ら出陣するか、領土割譲を条件に降伏するしか選択肢はなくなる。
輝元がどっちを選ぶとしても、信長様は自ら西国に出向いてケリをつける気満々なのだ。
「真昼! 弥助!」
信長様は清胤さんからの手紙を一読すると、私のほうにポンと投げてくる。
えーっと、なになに?
……は?
「トチノキが1本もなく、信長様との距離が60尺8寸。はは~ん、なるほどな」
「清胤も細かい性格よ。大体わかったな」
「ちょっとちょっと、弥助も信長様も納得しないで? なんで私の廟だけ二つ目が出現すんの⁉」
しかも本人生きてるんだよ⁉ 高野山に突然現れる廟、私を狙い撃ちするって何が狙いだよ。
「60尺8寸は、マウンドプレートからホームベースまでの距離だ。ピッチャー信長様、キャッチャー真昼って意味は間違いなさそうだ」
うへえ……嫌がらせ徹底してんのが不気味だよ。
「んで、弥助が別の時間軸で植えていたトチノキの形跡がない。考えられるのは二つよ」
「ええ。俺がこの時になる前に殺されていたか……」
2人が真剣な顔で私を見つめてくる。
ここまで言われたら、私だってその考えに至らざるを得ない。
ていうか、知っているからだけど。
「繰り返しとやらに巻き込まれるのが、キャッチャーやっている真昼は初めてという意味か、はたまた別の真昼が以前にいたか、だ」
ちなみに、今の私の状態は冷や汗ダラダラである。
まだ話すわけにいかない。
羽柴秀吉になった、元信長様の奥さんの帰蝶様が前周回の私で、本能寺で殺された信長様を救うために英霊ボール回収の報酬として過去に戻ったこと。
亡くなる前の半兵衛君が見破った、本能寺を襲撃する英霊ボールと持ち主の正体。
本能寺を餌にしなければ現れず、ここを逃せばいつ動くかわからず、こちらから動いても織田家が崩壊する存在。
この世に解き放たれた108の英霊ボール。
今の私も前回の私も、活動を確認できた英霊ボールは107つ。
残るは——
英霊ボール『カネヤン』。
所持者は二択——。
「フッ。答えに確定を求めるとドツボに嵌る。真昼!」
「は、はい!」
「俺は溜まった書類を片付ける。真昼はこの件を裁け!」
ポンと信長様から手渡されたのは、顕如さんからの手紙だ。
えーっと?
『信長、高野山の件の借りを返せ。俺の息子の顕尊に似合う嫁を紹介しろ。こちらの希望は力は長谷川真昼並……まあ、これは無理だろうがMMAに対応できるパワーと、長谷川真昼にない教養を所持、ついでに家柄もあれば申し分ない』
顕如さん? 私に喧嘩売ってる?
ちゅうか息子の嫁じゃなく、総合格闘技の選手を求めてるでしょ、これ。
「顕尊は安土に滞在しているそうだ」
そう言って、信長様は弥助や蘭丸君たち近習組と紙の束だらけの部屋に入っていった。
……うん、ここに残りよりはマシかも。
私はそそくさーと、顕尊君が滞在している部屋に向かっていった。
***
「これは真昼様、お久しゅうござりまする」
ペコリと頭を下げると眩しいって。坊主頭なんだし。
「久しぶりだね。石山で会った時より筋肉増えてるけど、やっぱ修行の日々だったの?」
「はい……それはもう」
キラリと目にも光るものを浮かべる顕尊君。
「鷺森では、1日腕立て伏せ千回、腹筋千回、スクワット千回、ランニング10里と厳しい日々を送ってました……」
「ヒエッ! よく生きてたね。……てかお坊さんの修行ってそういうもんだっけ?」
まあいいや、深く追求すると顕尊君のデビュー戦の相手が私になりそうだからスルーしよう。
「……顕如さんからの手紙の条件は読んだけど、顕尊君の条件とかあるのかな?」
「いえいえ、拙僧は父の出した条件で十分にござりまする。……そのようなおなごがいるか、甚だ疑問ではござりまするが」
「フッフッフ。実はいるんだよね。今、安土で理由あって侍女やってるんだけど、会ってみる?」
顕尊君がゴクリと唾を飲む。
ほう? その反応から察するに、当分の間安土で羽根を伸ばそうとしていたなこいつ。
「えっと、できれば拙僧と年齢が変わらないおなごが好みです」
「うん、大丈夫。その条件もクリアしてる!」
「その! 真昼様のように美しい方が好みで!」
「往生際が悪い! 会ってみて。ガチで最高物件だから!」
畳の上で動こうとしない顕尊君を思いっきり引っ張り、力ずくで立たせる。
「くっ! まだ拙僧の力は真昼様に遠く及ばずだとは!」
そこに落ち込むなっての。
私は安土の奥御殿へと向かう。
ここは織田家屈指の魔境スポットだ。
侍女頭の猿飛小夜さんに見つかったら、茶々ちゃん・初ちゃん、江ちゃんの幼女三連星に報告されてしまう。
そうなったら最期、翌日安土の庭で変わり果てた顕尊君が見つかってしまうだろう。
「玩具大好きだけど、あの三姉妹手加減まだ知らないんだよねえ」
「えっと、信長様の寝所空間がなぜに魔境となってるのでしょうか?」
「しっ! おごとくちゃん夫婦は忍びを使え……」
あかん、見つかっちゃった! でもこの気配、なんとかなりそうだ。
「なっ……聞いたことがあります! 夫を馬にして縦横無尽に走る五徳姫を……う、うわぁぁぁ! なぜ真顔で向かって来るのです……ん?」
キン! ガキン!
「ちっ。防がれたか。猿飛佐助ぇぇぇぇぇ!」
「才蔵、今それどころじゃない。狙うなら後にして。今は真昼の間男を始末しないといけないから」
「まったく! 織田にいる条件に、それがしと妻をいつでも襲っていいと言われているからとはいえ、上野国にいるのに毎日御苦労様だ! 才蔵!」
よし! ラッキーだぜえ。私に意識を向けながら戦えるほど、才蔵は楽な相手じゃない。
当分、攻防は続く!
「……まだ油断しないで。お市ちゃんに見つかったら毛という毛が消えるから」
「えっと、それは比喩ですか?」
顕尊君のツルツル頭がピカリと光る。
「ううん、そのままの意味。何人がお市ちゃんに脛毛を抜かれて泣き叫んだことか」
「……恐ろしい。織田のおなごどもは長谷川真昼だけ異常ではなかったのか」
こらこら、私を異常側に入れるなっての。
「あっ、いたいた。為子ちゃーん!」
私は甲斐甲斐しく、襖が開いている部屋で正座しながら誰かの肩を揉んでる美少女に向けて手を振りながら部屋に入って……引き摺られた。
「よく来たわね真昼。さあ、今日は明日の日が暮れるまで布団の中でいちゃつくわよ!」
「しまった! ここ、お市ちゃんの部屋だった! ぐっ……ちょっと待ってお市ちゃん、今日はお見合いの話を為子ちゃんに持ってきたの!」
「え? 私に……ですか?」
キョトンとする為子ちゃんだけど、顕尊君、わかりやすく赤面してるね。
「はっ、初めまして! 本願寺顕如が次男、顕尊と申します!」
「あっ、はい。冷泉為子と申します」
うーん、為子ちゃんは冷静だね。
まあ、あんなことがあった後出しそりゃそうか。
「ちょっとちょっと真昼様! 冷泉ってお公家の冷泉ですよね! なんでこんなところ……コホン、安土にいるのですか!」
「うーん、話せば長くなるんだけど」
私の口から言うのは憚れるなあ。そんなことより、だ。
「為子ちゃん、ちょっと顕尊さんに肩揉みしてみて。全力で」
私の言うことにピーンときたのか、為子ちゃんの口元が歪む。
「では、本気でいきます」
「ぐおおおおおおおおおおお! この握力、この膂力! まさに探し求めていた人材!」
「なっ! 私の本気で気絶しない!」
フッフッフ、熊をも即死させる為子ちゃんの肩揉み、よく耐えたね顕尊君。
「お嫁に……なってくれますか?」
「……はい」
おっしゃあああああああ! 速攻任務完了! あとは自由時間だぁぁぁぁぁぁぁ!
「ちょっと真昼。為子があのパワーと阿茶局の嫉妬で殿下の許を追い出された女房衆で、しかも王女2人産んでるって知ってるの?」
私の耳元で、お市ちゃんがヒソヒソ声で言ってくるけど、まあそこら辺は信長様と顕如さんがなんとかしてくれるでしょ。
為子ちゃんだって、欲しがる場所に行ったほうが幸せになれると思うしね。