なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
安土での家康さん一行の歓待も無事に終わり、家康さんたちはかねてより希望していた織田家の台所・堺の見学及び学習ツアーに出かけていった。
「家康様、堺には南蛮伝来の珍味・天麩羅という極上の品がございます。肉、野菜、魚、あらゆる食材を小麦粉でまぶし、油で揚げるのです」
去りゆく旭ちゃんの背中に手を振ってると、正信さんが美味しそうな話をしてるのが耳に入ってくる。
じゅるり。天麩羅美味しいよね~。でも美味しすぎてついつい食べ過ぎて、お腹を気にしちゃうんだよね。
……はっ! 正信さん、まさか!
「へえ? それは楽しみじゃ。堺に着いたら行くとするか」
「ウキー」
家康さんと旭ちゃんの背中しか見えないけど、あれは涎垂らしてるね。幸せオーラ最高潮だよ。
逆に正信さんの背中は邪気で溢れてるよ。
(策にかかったな家康。天麩羅の虜になってもっとデブれ! ライト前にヒットを打ってもアウトになる足を手に入れるがいい! フハハハハ、正捕手はこの僕がいただく!)
……うん、よくわかんないけど、家康さんの嫌がらせをするためだけに徳川に帰参してから絶好調みたい。
正信さん、本願寺に居た頃よりめっちゃ血色いいね。
「南蛮料理か、甲斐にいた頃は塩を手に入れるのに四苦八苦したのに、時代は変わったのじゃな」
「ええ、信君殿。戦乱がなくなれば、美味しい料理が食い放題、飲み放題なのです」
「南蛮には、ワインという赤い血液のごとき酒があるそうですぞ。……ゴクリ」
「今は宣教師や弥助殿のような境遇の者が滞在していますが、今後南蛮人の流入も増えると思います。海の向こうにまだ見ぬ強者がいると思うとワクワクします!」
穴山信君さん、石川数正さん、酒井忠次さん、本多忠勝君もウキウキ気分なようだ。
……誰か正信さんの企みに気づいて。
ともあれ私は、わざわざ私に会いに安土まで訪ねてきてくれて待っててくれる人に会いに城内へと戻っていった。
***
安土の大広間に入ると、信長様と光秀さんが先にその人と対面していた。
上空には英霊ボールが3球浮遊している。
2つは言わずもがな、センイチとイシイ。
どっちも傍若無人なくせに、たった1球に萎縮してるけど、センイチは大先輩にビビり、イシイは単純に怖くてビビってるな。
「こちらとしても、土佐の失地回復を今更望む筋合いはございません。土佐は長曾我部にお与えくだされ」
そう言って、信長様に頭を下げるこの人は一条内基さん。
現・関白様で、長曾我部元親が下剋上するまで土佐を支配していた一条家のトップに君臨する人だ。
実際に土佐を支配していた、一条兼定の義理の弟でもある。
「ありがたい。内基様、戸島で隠棲している兼定殿は織田が保護すると約束しましょう」
信長様も頭を下げるって、よっぽどの重大案件だったのかな?
「あとは元親の返答待ちですね。土佐だけではなく阿波の一部の領有権。ここまで信長様の譲歩を引き出したのです。長曾我部家中はともかく、元親本人はホッとしていることでしょう」
光秀さんの状況説明に、私もこれで四国関連はスムーズにいきそうだと安堵する。
このまま本能寺をクリアすれば、四国平定にひと月もかからないだろう。
「えっと、お待たせしました。私に会いに来てくれたそうですけど、そこの怖そうにオレンジと黄色に明滅している英霊ボールを回収させてくれるでいいんですよね?」
私が口にすると、センイチが真っ赤になって怒鳴ってくる。
『おいこら小娘! この方はサダヨシさん! 放棄試合に没収試合、くらった退場数しれず。おまけに勝手に選手を移籍させて、コミッショナーと大喧嘩しても信念を曲げないで己を貫き、監督を退いたあとも、教え子が理不尽なトレードされたら球団事務所にカチコミに行くほどの御仁じゃ! きちんと挨拶せい!』
あのさあセンイチ。それ絶対野球じゃなくって組長に対する態度でしょ。
まあ、挨拶は基本だし、さっきのは私的にも急かしすぎた反省あるからやるけどさ。
「長谷川真昼です! お見知りおきお願いします!」
『フッ、嬢ちゃんがアオタを回収したと聞いてな。さらに徳川家康もノムサンを進呈した。だから内基と儂も、このままだと朝廷の立場上よろしくないと結論にいたったんや』
……センイチの説明だと暴れてきそうだったけど、物分かりの良さそうなお爺ちゃん白球じゃん。
『ただし条件がある』
ん? 空気が変わった気が?
続きを内基様が口にしてくる。
「近衛前久様が持つ英霊ボール『ネモト』と同時に回収してくだされ」
***
私は光秀さんと一緒に京の御所へと向かう。
表向きの要件は、例の暦問題と帝の譲位についてだ。
「おや、真昼はんが一緒とは光栄ですわぁ。真面目な顔もええどすな。金属バットと英霊ボールを手放せば、国母にもなれそうや」
国母? うーん、絶妙に乙女が欲しがらない称号だよそれ。
「例の件、進捗具合はいかがでしょうか?」
光秀さんが切り込むと、前久様は扇子で顔を隠して唸ってくる。
「それなぁ。そもそも暦が帝に合わせるべきと反対されてなあ、もうちょい待っててくれへんか?」
「いつ頃までかかりそうですか? このままですと来年の1月が閏月となり、野球の日程はおろか、来季に向けた税収についても不具合が発生してしまいます」
令和には閏年があったけど閏月はなかったから、最初に聞いた時はオリンピックでも開催してるのかと思ったよ。
なんで今年は13月があるよってしないで、月を繰り返すにしたんだろ?
しかも地域ごとに月が違うのにも驚きだったよ。
「ホッホッホ、帝は反対してへんのや。そう焦らんでもええって」
のれんに腕押しのように、ヒラリと躱していく前久様。
このままじゃ無駄足になっちゃうけど、今日の本題はここからだ。
「前久様、私と勝負しませんか? 英霊ボールを賭けた勝負です」
「勝負? 真昼はん、野球や肉体系やと、こっちの勝ち目ないからパスや」
そう言ってるのに、前久様の目がギラリと光ったのを私は見た。
『面白いことを言うわ。どうせ内基とサダヨシの入知恵あるんやろ。どんな勝負でも、儂1球しかないこっちが不利や』
前久様の英霊ボール『ネモト』がこっちの筋書きをすべて見透かしたように告げてくる。
内基様が安土に行った裏の目的もすべて把握してそうだ。
「なら、じゃんけんでどうです? これなら実力じゃなくって完全に運です」
私は心臓をバクバクさせながらも平静を装い呟く。
当然、勝確の必勝法があるからの提案。
ここを悟られたら水泡に帰してしまうのだ!
「グーって言いながら殴ってきそうで怖いわぁ」
「……その手があったか!」
「ホッホッホ、その場合、うち死んでますな。ほな条件追加しまひょ。殴るの禁止。うちが負けたら太政大臣の職も辞して一条はんに決定権を譲渡するわ」
「え? いや、そこまでは求めてませんけど」
「ほんで、真昼はんが負けたら女房衆として朝廷に出仕してもらいまひょ」
この太政大臣、なんだって?
「前久様! 真昼殿は信長様の……!」
光秀さんが叫ぶのを私が制する。
「わかりました。それでいいです」
「ほな、やりまひょか」
「「最初はグー、じゃんけんぽん!」」
結果は私がパー、前久様がグーだ。
「三番勝負やったわな?」
「いえいえ、見苦しいですよ、前久様」
ふう~。前周回の私が帰蝶様だった時にやった結果と同じで助かったぜえ。
ここで負けてたら、とりあえず拉致して秀吉さんの許に送る計画だったんだよね。
前久様、前周回で帰蝶様が観察して、癖で最初にグーを出すのを知ってたんだよね。
ネモトが捕手出身で、グーの形から指を足してピッチャーにサインを送る癖みたいなもんって、ヒロミツも太鼓判押してくれたし。
おっと、これは前久様には絶対に内緒にしなくては。
『じゃんけんもくじ引きと同じく、結果は受け入れるべきや』
ネモトが私の手のひらに乗り、寝息を立てていく。
「せやな。ほな太政大臣辞めるさかい、光秀はん、今後の交渉は一条はんでよろしゅう頼んますわ」
軽い口調で言ってくる前久様は、帝に辞任を告げに行くために立ち上がった。
……もう少し抵抗すると思ったけど、別に辞めなくてもいいのに。