なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
——ゴゴゴゴゴゴ。
——うにょ~ん。
「清胤様! 新たに二つの廟が……!」
高野山にある奥之院参道にて、長谷川真昼の二つ目の廟が出現してからひと月後、再び織田信長の近隣に廟が出現した。
「こちらのトチノキの数は信長殿と同じ数……なんと!」
廟に刻まれている名を見て、清胤は目を見開いた。
——明智光秀。
信長が最も信頼している配下の将ではないか。
さらにもう一つ。
「羽柴秀◯……ううむ、最後の一文字にモザイクがかかっておる。秀吉殿のことか? 彼の者も信長殿の信頼厚いと聞く」
ただし、そこにトチノキはなかった。
「これが如何なる意味を持つのか。……ともあれ信長殿に報告を」
清胤は急ぎ書状をしたため、前回同様に高野山を包囲している織田兵へと渡す。
すぐさま早馬が安土へと放たれたが、この書状の中身を信長と真昼が目にすることはなかった。
***
近衛前久様の英霊ボール『ネモト』と一条内基様の英霊ボール『サダヨシ』を回収し、京から安土に戻った私と光秀さんに信長様は開口一番でこう言ってくるのだ。
「毛利攻めも最終局面に入った。出立するぞ!」
相変わらずの人のHPを無視する暴言である。
「はっ! 丹波亀山の利三や秀満らの支度も万全とのこと。藤孝殿と忠興殿、恒興殿とは姫路で合流できるかと」
光秀さんが即座に対応するけど、この配置、そして信長様の次の言葉。
「明日には本能寺に入る! 朝廷とも俺自ら話さねばなるまいしな。本願寺と冷泉家の婚姻の日取りを調整、暦、譲位、前久殿の辞任と色々あるからな」
ついに本能寺の局面だ。
ここで前周回の私は信長様と光秀さんを守ることができなかった。
……ゴクリ。私は唾を飲む。
前周回の私は、秀吉さんとなって毛利攻めの大軍を擁している。
前周回で本能寺にいたねねちゃんも、長浜でこの時に備えて猿軍団を率いている。
前周回にいなかった弥助がいるのも大きい……のか?
ともあれ私のやることは襲撃の瞬間、センイチと一緒に本能寺を防衛すること。
秀吉さんたちの救援まで持ちこたえれば勝ちだ。
それに……。
「光秀さん、利三さんたちが本能寺まで出迎えしてくれる件は大丈夫ですか?」
「ええ、真昼殿。信長様と信忠様から許可を得てます。朝廷との交渉に圧力をかけていると思われないよう、近場で待機する手筈です」
これで異変があれば、即座に明智軍が本能寺に介入してくれる。
信長様本人の周囲が手薄なのは気になるけど、そこは私がカバーするしかない。
「信忠は妙覚寺に宿泊せよ。毛利・長曾我部のみならず、九州まで平定する気でいよ!」
「はっ!」
信忠君の後ろで、斎藤利治君や団忠正君もお辞儀する。
もう1人、幼児を抱いている八重緑ちゃんも。
「うひょ~。三法師君かわええなあ、こんちくしょう。信忠君と八重緑ちゃんも子持ちかあ」
「まひる……おばあたま?」
受け取って抱っこすると、キョトンとした顔で私を見てくる三法師君。
なんで疑問形というより、おばあたまなんだよ。
「あっ、いえ。いつも信忠様と私が吉乃様が亡くなって以降、私たちの母親のような存在と話していて……いえ! 決して真昼様が老け顔という意味では……!」
あたふたする八重緑ちゃんもかわええなあ。グヘヘヘ、姑になった気分だぜえ。
「父と真昼様に、三法師も健やかに育っているところを見せたく連れてきました」
「であるか。三法師よ! 励めよ」
信忠君の説明に、信長様は短く返す。
いやいや、幼児に言うセリフじゃないでしょそれ。
「はい!」
それでも三法師君も、舌足らずだけど元気一杯に返答した。
その後、八重緑ちゃんと三法師君は岐阜城へ帰還し、私たちは京へと向かう。
短い旅の空は、いつものように晴れていた。
***
信長様が本能寺に到着すると、近衛前久様を筆頭に一条内基様や勧修寺晴豊様などの朝廷の超大物たちが出迎えに姿を見せてきた。
織田家交渉役担当として、村井貞勝さんもいる。
下手な城よりも分厚い門を潜り、大広間に入ったところで即刻本題スタートだ。
「信長はん、忙しないどすなあ。それほど朝廷との関係を大事にしてくれはることに感激やわぁ」
手にしている扇子を晴豊様にパタパタしてるけど、晴豊様、無表情だけどイラッとしてるね。
「うむ。誰か様が太政大臣を辞めたから、その真意も聞きたく思いましてな」
信長様の問いに、前久様はホッホッホと笑って晴豊様に送る風を強める。
あっ、晴豊様の額に怒りマーク出てきてるよ。
「暦についてですが根強い反対が未だ多く、我ら公家も未だ一枚岩になっておらぬのが実情。……そこで信長様、貴殿が太政大臣になって朝廷の意思を統一するのはいかがでしょうか?」
晴豊様が告げる言葉と後ろに控える公家の真摯な態度。
これが前久様があっさり辞任したからくりかのように。
「征夷大将軍を断ったら、次は清盛の道、か」
「乗り気ではないなら、関白はいかがでしょうか? それならば武家出身で初でございます」
信長様が微妙な顔をすると、内基様が念を押すかのように呟いてくる。
これは信長様を朝廷から逃さない、あるいは取り込みたい意思をひしひしと感じる。
「まだ戦乱は終息しておらぬ。次に京に戻った時に答えをだそう。……それよりも顕尊殿と為子殿の婚姻は8月に行なう! 帝と殿下にも御出席いただけるよう、調整をお願いいたす」
「それはもう、帝もお楽しみにしております。……譲位の件もお忘れなく」
晴豊様が念を押すと、またまた前久様の扇子音が強まる。
もう晴豊様、拳にオーラが集中し始めてるんだけど⁉
「暦も、次に信長はんが京に来る時までお預けやな。8月には戻る予定なん?」
「毛利、長曾我部、大友、島津、龍造寺が愚かな選択をしなければ、ですが」
「ほな8月で天下一統どすな。ホッホッホ、戦乱がなくなる世ってどんなもんやろ? 退屈やったらつまらんわぁ」
「……退屈はさせぬと約束しましょう」
信長様にしては決定の先送りが多いけど、これが朝廷との付き合い方。
強引に決定しても、公家一人ひとりの背後に大名や寺社があるからややこしくなるのだ。
***
「信長様、太政大臣や関白より征夷大将軍になるべきでございます」
公家たちが帰り、貞勝さんが進言するも信長様はセンイチをお手玉しながらどこ吹く風だ。
「源頼朝公、足利尊氏公のように幕府を開く。日の本津々浦々の人々に分かりやすいかと」
光秀さんも具申するけど、特に信長様の心に響かないようだ。
「十兵衛(光秀)! 吉兵衛(貞勝)! 俺の次は誰が天下を統べると思う?」
「それは当然、信忠様かと」
「もはや実績が足らぬと申す者もおりますまい。各戦線での戦い、見事かと」
そういや信忠君って初陣から負け戦ないもんね。設楽原、有岡城、武田との最終決戦で織田信忠の名も天下に轟いている。
信長様も私も、負けどころか大敗してばっかだったのに。
「俺の次は信忠だろう」
そこで信長様は遠くを見るような目をした。
「その次は知らん。三法師次第よ」
「……それは!」
光秀さんが驚愕の表情をするけど、信長様は嬉しそう。
「十兵衛、俺と半兵衛の約束を覚えているか?」
私はハッとした。
稲葉山城が陥落し、半兵衛君が織田家に仕える条件のことを思い出し。
——私は、古い血筋や権威が何の意味も持たない世界が見たいのです。将軍でも公家でもない、ただの実力者が天下を采配する道三様が夢見た下克上の完成形……それを成せるのは、このうつけしかいない。道三様の血脈に譲るというのは、あの方の志を継ぐ者に次の時代を譲るという意味です。
「信長様……まさか」
恐る恐る、私は口にする。信長様の考えがはっきり読めたから。
「おう、トップは永久に実力主義よ。血脈主義なんざ興味ねえな」
『二代続けて名プレイヤー、名監督な信長と信忠が稀有な例よ。無能なボンボンなんざ、ドラフト指名すらかからんわい』
信長様とセンイチが高笑いする中、私たちは苦笑するしかなかった。