なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
——丹波亀山城、出陣準備を整えた明智光秀家臣団が京へと進軍を開始し、柴野付近に到達した時のこと。
先頭で馬を走らせる斎藤利三の前に空から黒い影が一つ落ちてきて平伏した。
「信長様の忍び、百地丹波でございます」
「名は聞いている。何用か!」
「はっ、近習、森蘭丸様より本日中に帝の前で閲兵式を行いたい、との信長様の仰せにより急ぎ進軍せよとのこと」
書状を見せられ、そこに信長と光秀の印を確認し、利三と隣にいる明智秀満の顔色が変わる。
「本日中?」
「ふむう、とてもじゃないが間に合わぬぞ」
すると丹波の横に、いつの間にかもう一つの黒い影があり、口を開いてくる。
「同じく信長様の忍び、服部保長でございます。いかがでしょうか? 我ら忍びどもが明智様の旗指物を持ち、先陣を承るというのは?」
「なるほど、良き案だ」
利三が頷き、秀満が旗指物を用意する動きを見せる中、丹波と保長はじっと明智軍全体の動きを見つめている。
やがて旗指物を持ってきた兵たちの姿勢が火縄の構えになると見るや、跳躍した。
バババババッ!
銃声が柴野の地に響き渡る。
「これは如何なる趣旨か? 信長様への叛逆と見なしまするぞ」
「我らを攻撃した時点で証拠は明白、死をもって贖うがいい」
跳躍した忍びの影がクナイを手に利三と秀満に襲いかかる。
火縄を構え直すより、刀を抜くよりも早く、弓を引くよりも早く。
それなのに殺害に失敗する。
両者のクナイが、明智軍から飛び出した二つの黒い影の持つクナイとぶつかったのだ。
「ったく。儂に変装するにしても調査が足りんな。儂は信長に様をつけんぞ?」
本物の百地丹波が偽物と激突する。
「それは調査不足以前に貴様が人としておかしい。気にしない信長もな! 百地丹波ァ!」
偽物の顔の皮膚が崩れ、巨漢に白い長髪、もみあげから顎下までを覆う白髭の男と変貌していく。
「乱破の分際で忠義者気取りか。反吐が出る。風魔小太郎さんよぉ!」
高速で動く老体二つとぶつかる金属音。
保長は自分に化けている者を睨みながら、利三たちにクイッと顎を揺らして先に進むように合図する。
「……ありがたい。貴殿らのお陰で命拾いした。全軍、急ぎ本能寺へ進め! 光秀様、信長様、真昼様らの危機ぞ!」
利三の号令で駆け抜けていく明智兵たち。
馬の蹄音が遠くなり、丹波と小太郎が交わる金属音のみが四方八方から聞こえ続ける中、身構えた保長が偽物に訊ねていく。
「……東国で活動していたのは聞いたことがあった。20年以上前だが。生きていたのか、鳶加藤。武田信玄に殺されたとも、上杉謙信に殺されたとも聞いていたが。今更北条に従って何を企む?」
ニヤリと笑う偽物の顔も蕩け、皺まみれの老体が露わとなる。
「生きていたのか? こっちのセリフだ、服部半蔵。信長の伊賀攻めに協力したそうだな。……俺ァ、それを聞いて心が高揚したのよ」
「どいつもこいつも。儂の名は服部保長。半蔵の名は息子にあげたわ」
「さあ、勝負しよう。……ああ、そうそう。今頃貴様の旧主、徳川家康にも刺客が放たれている。そっちは旗指物の奪取じゃない。ただ死体に変えるだけよ」
ガキン!
保長のクナイが鳶加藤を襲い火花を散らす。
「ちっ、感情に乱れなしかよ。さすが地元を売った男だぜ」
「儂は儂の仕事をするのみよ」
「ヒャハハハ! 思う存分に幻術を楽しもうぜぇ!」
巨大な牛に変化した鳶加藤に対し、保長は赤いトサカに黄色い羽毛、大きな口に1枚の小さな羽を持つ異形に変形する。
「なんだそりゃ? ふざけてんのかジジイ?」
「ジジイにジジイ呼ばわれる筋合いはない。猛牛のライバルはブレービーと相場が決まっている」
「はっ! 異国に染まった忍びは死ね!」
猛牛の持つクナイが金属バットに変形すると、ブレービーの手にも金属バットが握られる。
上空で火花散る金属音の真下で、牛と鳥の最終決戦が始まった。
明智軍の上空に浮かぶ、大友義鎮・立花道雪が所有する英霊ボール『ヒルマン』と『ヤスノリ』を知る由もなく。
***
水攻めにより水没している備中高松城を囲む羽柴秀吉の陣内。
そこに毛利方からの使者・安国寺恵瓊が来訪し、羽柴方の将・黒田官兵衛と信長から軍監として派遣されている堀秀政が対応していた。
「美作・備中・伯耆・出雲・備後の割譲、及び全英霊ボールの譲渡は厳しい。出雲と備後を省いてくれたら輝元様も許諾するかと」
「こちらの条件は変わりません。我々には譲歩する理由はなし」
杖を横に置きながら無表情で告げる官兵衛に、恵瓊は内心で舌打ちした。
「信長様御自ら来た頃には、こちらの兵数は10万を超えるでしょう。毛利が現状動員できる兵力、及び巻き込まれる民草を思えば現状を受け入れるのが最良」
秀政の追撃にも、恵瓊は内心でムッとする。
毛利が大半を失って生き延びるか、はたまた全滅するかが織田家にとっては決定事項のように聞こえたからだ。
『おーん、カツミさん。カープの面々にミハラさんの様子はどや?』
官兵衛の横に浮遊する英霊ボール『ドンデン』が、恵瓊の光る頭に乗る英霊ボール『カツミ』に声をかけた。
『ま、世の流れってやつよ。長谷川真昼に回収されてもいいとミハラさんがまとめてくれている。……ただし、毛利の恒久的な領土安堵が条件だがな』
『そこは安心せえ。こっちは約束破らん。……ただし、領土割譲が条件やがな』
結局平行線となる話し合いが続く。
(おかしい。一度も羽柴秀吉のみならず、名代で羽柴秀長も姿を見せぬ。秀吉の英霊ボールのヒロミツもだ)
恵瓊に疑惑が膨らんでいく。
秀吉と秀長の身に何かあったならば、輝元様に全軍をあげて羽柴軍との決戦にもっていけるのではないか?
「ときに官兵衛殿。秀吉殿は今何処に?」
「秀吉殿は恵瓊殿がこちらの要求を呑まないと予測し、次なる標的の城を入念に選んでいる最中でございます。私は吉田郡山城が良いと具申しております」
「……!」
恵瓊の身体が、電流が走ったような衝撃で震える。
恐ろしきは羽柴秀吉。信長が来るまで動かないと見せかけ、一気に毛利本拠を突く気か!
「姿を見せる時は、全要求が通った場合のみ」
「……わかった。輝元様を説得してこよう」
青ざめて陣所を出ていく恵瓊の姿が見えなくなるのを見て、秀政はホッとため息をついた。
「不在を気取られず、逆にとどめを刺しましたな」
「ええ、ですが気がかりなのは本能寺まで秘密裏に向かった秀吉殿たち」
官兵衛はドンデンに目線を向ける。
「大きな英霊ボール大戦が起こるとの半兵衛殿の遺言。……ドンデンも向かってください」
『せやな。秀吉もヒロミツも半兵衛の遺言っちゅうより、一回経験したかのような語り口やったしな。ほな向かうわ』
「ええ。私たちも備中高松城陥落後すぐに向かいます」
***
秀吉は秀長・三成・正則・清正ら数百人の手勢に竹中重矩率いる美濃兵を分散させ、本能寺に向かっていた。
秀吉本人の共は秀長と英霊ボール『ヒロミツ』である。
「ウキー」
「ああ、大丈夫だ秀長。余裕で間に合う。……それにしてもこれが本能寺前の雰囲気か。あの時は帰蝶として信長様の側にいたから気づかなかったが……」
『異様な空気に満ちてるな。オレら英霊ボール特有の明滅している空気よ』
ヒロミツが呟いた直後、秀吉たちは十数人に囲まれた。
「これはこれは、猿使いの旅芸人に何の用でしょうか?」
人相風体、身体の動きから牢人崩れではなく正規の武士だと感じられる。
……こういった連中が本能寺の裏で動いていたのかと秀吉は悟った。
「いいから黙って死ね。羽柴秀吉、羽柴秀長」
抜刀してくるも秀吉にとっては好都合だ。連中の背後を洗える好機に変えられる。
数人を金属バットの峰打ちで気絶させる秀吉だったが、刺客どもに怯えの色は見えない。
『この気配……まさか!』
ヒロミツが叫んだ直後、天が雷鳴する。
天から落ちる光に紛れ、英霊ボール2球が姿を現したのだ。
「イナオサマとノリフミ……龍造寺家にいるはずの貴様らがなぜ畿内にいる!」
「ウキーウキー、ウキー!」
『猿が服着て武将か。織田家は面白いことをしておる』
『だが我らも負けるわけにはいかぬ。ヒロミツよ、本気でいくぞ』
イナオサマの鉄腕とノリフミの電光石火のバフが刺客どもの能力を底上げしていく。
(おのれ……! 秀長の言う通り、このような配置をできるのは奴しかいない! 信長様……真昼……!)
焦燥感に駆られながら、秀吉は金属バットを構えた。