なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
京の本能寺を目指す羽柴秀吉と秀長、及び英霊ボール『ヒロミツ』だったが、待ち構えていた謎の正規兵と、その者らにバフを与える英霊ボール『イナオサマ』と『ノリフミ』によって窮地に陥っていた。
『ヒロミツよ降れ。儂とお前の仲だ。誰にも真似できぬ真の4番打者として、天下一統、英霊ボール大戦の終結、野球の発展の三冠王を儂の許で成すのじゃ』
イナオサマの鉄腕によって、謎の正規兵たちのスタミナが無限に続くかのように剣を、槍を振り回してくる。
『ヒロミツさん、露払いは僕がするよ。僕が盗塁してヒロミツさんが返す。イナオサマ率いるオリオンズに帰っておくれよ』
ノリフミの電光石火によって、謎の正規兵たちの走力が極限にアップし、秀吉と秀長の金属バットがかすりもしない。
『ムムム……』
かつての偉大な師と後輩の甘い言葉に、ヒロミツは浮遊したまま固まった。
「ウキー!」
「慌てるな秀長! 躱されるならこちらも躱していなしていけ!」
猿と美女が背中合わせで演舞するかのごとく回り続け、大人数相手に致命傷を受けずに立ち回っていく。
『さあ、ヒロミツ』
『来て、ヒロミツさん』
白球から手が伸びてくるのが見えるのは幻覚か、それとも求めていた夢の光景か。
『フッ』
自嘲するかのようにヒロミツが呟くと、秀吉と秀長にバフ『オレ流』が流れ込む。
2人対十数人の劣勢が、互角へと変わる。
『……』
『残念だよヒロミツさん。史上最大の下剋上、再び食らわせてあげる。2010のように』
青・赤・白のトリコロールの輝きがノリフミから溢れ出す。
「下剋上などさせぬ!」
「ウッキー!」
秀吉・秀長の金属バットが月夜に煌めく。
「……おのれ。おなごと猿の分際……で」
十数人いた敵兵の最後の一人が、そう呟いて地に伏す。
残る敵は、浮遊する英霊ボール2球のみとなった。
『下剋上はオレの主には禁句よ。残念だったなノリフミ。戦国ではオレの勝ちだ』
『……グッ』
『イナオサマ。オレはあんたを唯一無二の師と思ってる。だからこそ本気でいく』
『それでこそヒロミツよ。倒しがいがあるわ』
上空で白球の眩い輝きが煌めく。
「待てヒロミツ。……イナオサマ、ノリフミ。この倒れている兵ども、龍造寺の兵ではないな?」
秀吉の冷静な問いに、白球どもの輝きが落ち着く。
「答えないのを答えと受け取ろう。龍造寺家にいる貴殿らが畿内で活動する。それを可能にしたのは先年に九州へ行った近衛前久殿のみ。使われている兵は織田に滅ぼされた牢人ども。……ただし」
秀吉はそこで言葉を区切り、京方面を見上げた。
「近衛前久殿に兵や戦力を集めても動かす大義名分も、兵たちが従うこともない」
「ウキー?」
「そうだ秀長。敵が我らを待ち伏せできるかと問われればNOだ。可能にできるとすれば……」
秀吉は金属バットを上空に浮かぶイナオサマとノリフミへと向ける。
『どうでもよいことだ。その答えを知ってどうするつもりだ』
『イナオサマの言う通り。ここで死ぬのは変わりなし』
秀吉の耳に、弓矢の引き絞る音が背後から届く。
ヒュン! ヒュン! ヒュン!
秀吉は身体を捻らせ、フルスイング一閃!
弓矢は風圧で勢いを失い、地面へと落下していった。
『『……⁉』』
『フッ。どうだオレの主は? 中々のものだろう。オレがオリオンズにいた頃のスイングと同等かそれ以上よ』
勝ち誇るヒロミツの真下で、秀長も腕組みして頷く。
怯むイナオサマとノリフミに、さらに追い撃ちが来る。
「なんや秀吉様。バットスイング、真昼の姉ちゃん並やんか」
「五右衛門か。ちょうどいいところに来てくれた。五右衛門は秀長とともに、本能寺に向かっている我が羽柴の者すべての救援に向かってくれ。私はヒロミツと先に本能寺へ向かう。イナオサマ! ノリフミ! 二度は言わぬ。回収されよ」
『ムムム。……わかった。ヒロミツが選んだ主よ、従おう』
『戦国の相性はオレ流が上、か。無念なり』
イナオサマとノリフミは抵抗を諦め、秀吉の手のひらに落下し、眠りについた。
ヒロミツが浮遊したまま一礼していく。
『オレもすぐにそっちへ行く。英霊ボール大戦、お疲れ様。……行くぞ秀吉』
「ちょい待ち! 何がどうなってるんか説明してくれ!」
慌てる五右衛門だったが、秀吉は駆けながら返答する。
「詳細は秀長に聞いてくれ!」
もう五右衛門の目に、秀吉とヒロミツの姿は見えなくなっていた。
「ウキー」
呆然とする五右衛門の肩に、秀長の手が乗る。
「いや、ワイは猿語わからんで?」
***
ねねもまた、長浜から本能寺に向かっていたが土砂崩れで立ち往生していた。
「迂回している暇はないわね。登るわ」
「ウキキノキー」
「ウキャキャノキャー」
「わかってる。登った直後に罠がある可能性なんて!」
ロッククライミングの要領で、命綱もなしに登っていくねねを見て、竹阿弥猿や仲猿らが頷きあう。
「ちょっ⁉ みんな?」
猿の跳躍力に土砂崩れの崖なんぞ効かぬとばかりに軽々と頂上に立つ猿ども。
そこで全猿が両手を広げて仁王立ちしていく。
「「「「「「ウッキー!」」」」」」
バァァァァァァァァン!
バァァァァァァァァン!
バァァァァァァァァン!
火縄の銃声が響き渡る。
「みんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ねねの絶叫もまた、つんざいていく。
よろける猿ども。駆けつけるねね。けれども以降の銃声も、血飛沫もなかった。
「やれやれ。猿飛佐助を仕留めに安土に向かっていたら、羽柴秀吉の奥方が猿を率いて京に向っているとはな。……織田家って一体」
黒ずくめの忍び服。霧隠才蔵が銃声響いた場所で数人の男たちを地に伏せさせて立っていたのだ。
それにもう一人。
「フッ。それがしだけでも悪漢どもを始末できたでござる」
肩から血を流している子供の姿があった。
「見たことあるわね。森仙千代丸君ね」
「はい。真昼様に言われ、ねね様を迎えに来ました!」
「……命に別条なさそうだけど、無理はさせられない。あなたは安土に行きなさい」
「なっ! それがしはまだ戦えるでござるが⁉」
「肉壁にしかならないのは不要よ。……腕を磨きなさい。こんな時に頼られるぐらいにね」
ねねの圧に怯んだ時点で、仙千代丸は言う通りにするしかない。
才蔵に、ねねの瞳が向く。
「あなたはこのまま私と本能寺へ。報酬は我が羽柴が可能な限り払うわ」
「大きく出たな。わかった、ついていこう」
ねねも土砂崩れで塞がれた道を乗り越え、再び本能寺へとひた走る。
深い闇夜がそろそろ終わりを告げようとしている中で。
***
「信長様、光秀さん。ちょっといいかな?」
囲碁の名人戦も終わり、就寝支度をする2人に私は意を決して話しかけた。
「本能寺を脱出して安土に帰ったほうがいいかも。敵が狙ってる」
真剣な私の表情に、信長様と光秀さんが顔を見合わせる。
「丹波亀山の光秀さんの兵たちからの連絡も全然ないし、秀吉さんとねねちゃん……勝手なことだけど来る予定だったのにまだ連絡の一つもない。とんでもなくヤバいのが敵にいるのかもしんない。こっちの……英霊ボール『カネヤン』を禁裏から釣り出す作戦だったのに、全部読まれていた……みたい」
もっと論理的に話さないと。
でないとこの2人、納得しないのに。
でも口から矢継ぎ早に出るのは、ここから早く2人を動かさなくっちゃって思い。
心を落ち着かせろ私。腕を掴んで気絶させてでも本能寺から脱出させなければ。
「とんでもなくヤバい。ほう? であるか」
ん? 信長様、なんで嬉しそうなの?
「信長様の指示通り漏洩させた情報、敵方に届き、無事に実行されましたな」
光秀さん? 今、何を淡々と口走りやがりました?
「援軍がどこまで英霊ボールどもを撃破できるかよ。なあ、センイチ」
『儂は心配しとらんわ! ヒロミツたちならやってくれるわ!』
あ、布団の中から白球が出てきやがった。
いたのね、センイチ。
「ちょっと待って! 思考を整理させて!」
私は腕を信長様に伸ばして考え込む。
これって要は、信長様も光秀さんも全部知ってたってことだよね?
んでもって、援軍も潰したのも信長様っと。
実行犯が光秀さんっと。
「……? えっとそれって今のこの状況作ったのって?」
私の当惑声に、信長様は口元を三日月に歪める。
「俺だな」
……てーことは?
「本能寺の真犯人って、信長様じゃん!」
私の絶叫が本能寺全体に響いていったのだった。