なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
夜更けの本能寺、私は信長様が敵が集結して襲ってくると知りながら、敵に情報を流してこっちの援軍にぶつける策を立てていたと知って頭を抱えていた。
「センイチ?」
私や秀吉さんたちの計画を知っていたのはこいつぐらいだ。
半兵衛君の策を聞いてたんだし。
私はジト目でセンイチを睨んでいく。
『儂じゃないぞ! 儂は信長が知ってそうやなと思っただけじゃ!』
「いや、それ単に諦めただけじゃん!」
ええいセンイチめ。たしかに信長様が知っていたと気づいたら時の流れに身をまかせていたけどさ!
「真昼殿、落ち着いてくだされ。これは真昼殿が英霊ボール108球を集めるのに避けて通れぬ道」
『そうさ、お嬢ちゃん。英霊ボール大戦を終結させるには敵を引き摺り出さないと』
光秀さんと、光秀さんの袖口からイシイが出てきて決意を込めた声で呟いてくる。
「……それって、私のためってこと? 108球回収しないと令和に帰れないから」
うん、弥助が告げてきた言葉の意味が今ならわかるよ。
——俺が怒ってるのは信長様にだよ。天下一統直前で女のために博打を打つなっていう意味だ。
未来から来た、か弱い女子のために命を賭ける天下人。
傍目から見たら恋愛作品の超盛り上がる場面だ。
怒りながらも、彼に抱きついて激情のままキスをするのかもね。
でも私はそんな溺愛系に出てくるヒロインではないのだ。
信長様をキッと睨んでいく。
……頼んでないよ。わけ分かんないよ。
そりゃあ、こっちも、姿を見せない英霊ボールがこの機を逃さず襲撃してくるから信長様を餌にしてたよ?
でも援軍すら潰すって何だよ。
これじゃあ、秀吉さんが帰蝶様だった時の前回と同じじゃん。
「妙覚寺に信忠君や利治君も少人数でいるんだよ? 巻き込まれたらどうすんの? 私の問題だけで、みんなの命を危険に晒さないで!」
そう叫んだ私に、信長様は爆笑してきやがった。
「真昼、何を勘違いしてやがる」
「ほえ?」
私は信長様の顔を見てキョトンとする。
言ってきた信長様の表情は、今まで見てきたなかでもとびっきりの狂悪な笑顔で、とびっきりの無邪気な子供のようだったのだ。
「高野山で廟が生える超常現象がある以上、弥助が暴いた疑惑、時を繰り返す問題も起こっていると考えるべきよ。この戦国の世は俺たち戦国の世で生まれた者の物よ。好き勝手に掻き乱す奴は誰だろうと許さん! ならどうする! ここですべてケリをつけるのみよ!」
金属バットを天井に掲げる信長様。
言ってることは勇者風なのに、魔王にしか見えないんだけど?
「真昼殿。要は信長様は、真昼殿が無事に令和に帰還できるようにすべてを解決しようとしてるのです」
粛々と光秀さんが言ってくる。
それって弥助が言ってたように?
「十兵衛! 余計なことは抜かすな!」
あっ、信長様、ちょっと耳が赤いかも。
私がそう思いたいから見えた幻覚だったらヤダな。
「たしかに、わけのわからないのに生きてる人たちが酷い目に遭うのは許せないもんね」
布団の上に転がるセンイチとイシイを見つめていく。
『儂らはただの喋る球体じゃ! わけはわかるぞ!』
『そうだよねセンイチさん。僕としては何十年もJKで生きてるほうがわけがわからないよ』
「喋る球体の時点で超常現象だよ!」
私の身体についてはNG発言だぞ?
イシイはあとでお仕置き決定だ。
「光秀さんはそれでいいの? 一番危ない立ち位置にいるけど」
私は球体どもとの口論を諦め、常に冷静で理知的に織田を支えてくれた光秀さんに目を向ける。
「道三様の死後、地盤を失った私を受け入れてくれたのは他ならぬ信長様であり、本願寺との戦で、天王寺砦で散る運命だった私を救ってくれたのも信長様。私は何があろうが信長様を御守りするのみ」
うへえ。私より恋女房っぽい発言だよ。
光秀さん審判ばっかだったけど、守備適正絶対捕手だよ。
信長様の色に染められ、一度の人生それさえ捨てることも構わないって。
「フッ。相変わらず真面目な男よ、十兵衛」
信長様も嬉しそうだし。
ちょっとムッとしちゃうよ。
「俺からしたら、真昼も光秀様と同じに見えるけどな」
背後から声が聞こえて振り向くと、弥助が立っていた。
「いやいやいや、弥助。私は死にたくないぞ?」
「バーカ。死にたくない奴がここで駄々をこねてるかよ? こっからどうしたいか言ってみろよ」
「決まってる! 全員助ける!」
周りから苦笑が聞こえるけど、私、別におかしいこと言ってないぞ?
「弥助! 貴様は時を巻き戻す存在を確認せよ!」
「承知! 死んだらパーだ。死ぬ前に暴いてやる」
信長様の命令に、弥助は跪いて返事した。
ゴクリ……ここで言ったほうがいいだろうか?
前周回を秀吉さんが覚えていて、秀吉さんは前周回で帰蝶様で私だったと。
信長様、光秀さん、弥助なら直感で閃きあるかも。
……でも、秀吉さんの許可なく言うのは気が引けるなあ。
今周回でも、私が来る以前は帰蝶様で夫婦だったわけだし。
すると信長様がフッと笑った。
「俺が帰蝶と何年ともに過ごしたと思っている? 真昼が帰蝶と同じだと、出会った当日に気づいていたわ」
「ふえ?」
「今の秀吉と真昼が同じという意味よ。違うか?」
あの~信長様? 私だけじゃなくって光秀さんと弥助も驚愕してるんだけど?
そこにドタドタと、廊下から足音が響いてくる。
「本能寺の外に軍勢を確認! 浮遊する英霊ボール多数! 指揮官は織田に該当なしの鉄仮面! 旗は……水色桔梗紋!」
蘭丸君の報告に緊張感が一気に増す。
……鉄仮面ってもしや。
それに水色桔梗紋って。
私は驚愕から戦闘モードに入る前に、一瞬だけ青ざめた顔をした光秀さんにボソッと囁く。
「あの~、光秀さん。もしかしてだけど、敵は光秀さんに濡れ衣着せようとしてるんじゃ?」
「……真昼殿。私は後世の評価など気にしておりませぬ」
うん、ちょっと意気消沈した声だったよ、光秀さん。