なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
『おーん、この空気、日本シリーズ前のピリついた感覚そっくりやわ。こらとんでもないことがおこるで』
備中高松城の官兵衛の許から闇夜を浮遊する英霊ボール『ドンデン』は、荒ぶる英霊ボールどもの波動を京方面から感じ、急ぎ本能寺へと向かっていた。
そんなドンデンの背後からも、朝焼けには早すぎる真っ赤な波動が迫りくる。
『……毛利全球で追ってくるんか』
舌打ちしながら、ドンデンはスピードを速める。
追撃者たちは『ミハラ』『コバ』『オガタ』『ミムラ』『アニキ』『カツミ』の毛利が誇る英霊ボール6球だ。
ミハラの腹に、毛利に敗れ去った尼子遺臣・山中鹿介が所有していた『ユキオ』が収まっている。
『どこへ行くドンデン? 我らは西ぞ?』
ミハラのマジックが発動し、ドンデンの球体が重くなる。
『ここでドンデンを撃破すれば、備中戦線は我らに傾くわい』
『3連覇の僕の手にかかれば、連覇したことのないドンデンさんなんて赤児をひねり潰すようなもの!』
コバとオガタの常勝カープ魂が、閃光のように周囲を真っ赤に染める。
『儂のアニキをタイガースで真に4番にしてくれた礼を言うけえ、毛利に降るんじゃ! たっぷりかわいがってやるけえ。……しかしやっぱ、儂のアニキって呼称おかしくね?』
『ミムラのオヤジ! 今はそんなことよりドンデンさんを屠るんじゃ!』
ミムラとアニキの旧師弟コンビがカープ魂を極限まで高めていく。
『カープの立ち上げから携わった儂よ。西国こそ野球文化の黄金と証明しちゃるけえ!』
カツミの咆哮が巨大な鯉を生み出し、ドンデンに襲いかかる。
『グッ! さすがにあかん! 狩られる!』
決死で逃げるドンデンだったが、数の暴力からは逃れられない。
毛利6球の攻撃を躱しつつ本能寺を目指すも、球体は刻が進むごとにボロボロになっていく。
『降伏せぬか。……トドメよ。官兵衛の陣からたった1球で抜け出したのを見逃す我らと思ったのが、貴様の敗因よ』
ミハラマジックがコバたちの能力を底上げさせてドンデンを囲み、一斉に牙を向く。
『おーん、ここまでか。……官兵衛、センイチさん。すまんわ』
敗北を覚悟したドンデンに、勝利を確信した毛利6球が一斉に襲いかかる。
——そこへ。
『グハッ!』
『hey、ドンデン! まだ諦めるのは早いネ! 33ー4の精神忘れちゃダメネ!』
大坂湾の方角から猛スピードで突進してきた英霊ボール『ボビー』がカツミを撃破し、ドンデンを連れて勢いよくそのまま飛んでいったのだ。
『ボビーやんけ! 九鬼嘉隆のところにいるお前がどうして飛んできたんや⁉』
背後から『おのれ! 逃がすな!』というミハラの号令を耳にしながら陽気にボビーは答えを告げる。
『ミーだって織田の一員ネ! 英霊ボール大戦終結間近が嫌でもわかるネ! 嘉隆に頼んで大筒から撃ってもらったのサ!』
『フフフ、むちゃくちゃな球体やな、ボビー。このまま本能寺へ急ぐで』
『了解ネ! 05年の再現するぞぉ! エイエイオー! ……ドンデンもやってくれないとミーだけ騒いでるみたいで恥ずかしいネ!』
『ボビーよ。33ー4と05年の再現は禁句や。縁起が悪いんよ』
『ミーにとっては吉兆ネ!』
『ギリッ!』
こうしてドンデンとボビーも本能寺へ向かう。
追撃してくる毛利の英霊ボールどもとともに。
***
本能寺に水色桔梗紋の旗を掲げる軍勢が包囲したのを、外部の人間でいち早く察したのは本能寺の近くに住む京都所司代・村井貞勝であった。
(これは儂が行っても即死するだけ……! 信忠様! 妙覚寺の信忠様のところに行って脱出させなければ……!)
迅速かつ冷静に、貞勝は妙覚寺へと向かう。
到着した時、妙覚寺にいる信忠勢100名もまた異変を察知し臨戦態勢を整えていた。
「急ぎ京から脱出を! 安土に戻り兵を整え……信長様の仇を……!」
跪いて言葉を飲み込む貞勝に、信忠は首を横に振った。
「かような事態に帝を護らず逃げたとなれば、天下の笑い者よ。そこで織田の未来は潰える。……二条御所へ向かう! そこで最期の抵抗をする!」
信長様がこの場の信忠様の立場なら恐らく逃げただろう。
貞勝はそう思いつつも、同じように逃げるべきと理解しながら信忠様を支える斎藤利治らと目を合わせ、頷いた。
「槍も刀も不得手なれど、金属バットならば振れます。この老骨もお供に……!」
覚悟を完了させた貞勝の呟きに、信忠は「すまぬな」と返した。
***
織田信忠勢が二条御所に着くのを待っていたかのように、水色桔梗紋の旗を掲げる軍勢の包囲が完了した。
「謀叛は明智光秀……か。ありえぬ」
「ええ。当人は本能寺にて信長様のお側に」
包囲軍を見つめて吐き捨てた信忠に、貞勝は事実を告げる。
「包囲勢の中に、光秀殿の配下の美濃衆が一人もおりませんな。私も美濃衆。フフフ、敵もそこまで気が回らなかったようで」
利治は瞬時に理解した。
敵は光秀に罪をなすりつけ、織田の天下を終わらせるべく動いてきたと。
「信忠様! 御所に公家の者ども誰もおりませぬ! すでに何処かへ避難してる模様!」
二条御所をくまなく調べ上げた団忠正の報告に、信忠は苦笑した。
「……素早いことだ。知っていたか、早めに知らされていたかはもうどうでもよい。我らの朝廷への義は果たした。……血路を開き、本能寺へ向かうぞ。死に場所はここじゃない!」
信忠の号令に、忠正を先頭にして包囲軍に突撃を敢行していく信忠勢。
1人2人と信忠を守る者たちが散っていくも、10人20人と敵兵も倒れていった。
『恐ろしい男よ、織田信忠。島津と同じ匂いがするわ』
『信長と信忠。御苦労様よ。天下は我が島津がいただくから、ここで散ってくれ』
二条御所の上空にて、島津が所有する英霊ボール『クドウ』と『アキヤマ』が鷹であり獅子のような咆哮をして、包囲軍に『正確無比』と『バク宙』のバフを解き放っていった。
***
漆黒から白みかかりつつある空から、私たちが泊まる本能寺の本堂に次々と火矢が飛来してくる。
金属バットで数本跳ね返しても、数十人じゃ1万はいる敵の放つ火矢を全部弾けるわけがない。
「信長様は真昼殿と英霊ボールどもを! 私は蘭丸たちと時間を稼ぎます! イシイ殿! 君も行くんだ!」
『十兵衛君! 無事で……また会おうね!』
「……世話になった」
駆け出していく光秀さんに言われ、私と信長様はセンイチとイシイと一緒に上空を見上げる。
『出たな、V9のテツハル、フォーク神スギシタ、それに……球界の天皇カネヤン!』
あの3球が私たちが倒すべき敵!
「ねえ信長様……信忠君大丈夫かな? 無事に安土に向かってるといいんだけど」
私は敵に集中する前に心配事を吐露した。
だって信忠君だよ? 小さい時から知っていて、吉乃さんに頼まれてるんだよ?
「さあな。俺から言えるのは、俺が信忠ならとっとと京から逃げてただろうよ!」
信長様の金属バットのフルスイングの衝撃波が、上空に浮遊する3球へ向かっていった。