なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
丹波亀山城から京に通じる老ノ坂の闇夜で、老忍4人が人生最期の死闘を繰り広げていた。
一組は百地丹波VS風魔小太郎。
2人のクナイに火花が散るたび、木々は倒れ、畑が焼け、畦道のあちこちに穴が空く。
(京の方角から異様な殺気が充満しとるわ。……謀られたか)
殺し合いをしているのに、別の思考をした丹波の隙を逃す小太郎ではない。
縮地で丹波の懐に入り、両手の指の間すべてにあったクナイを投げつけた。
「つっ……」
丹波の右肩に激痛が走る。それでも痛む前以上に動かなくてはいけない。
ここで仕留めると言わんばかりに、小太郎の両手にあるクナイが踊る。
魔の文字が刃より鋭い暴風となり、丹波の全身を襲う。
「グハッ!」
十数メートル飛ばされた丹波は仰向けに倒れ、ピクリとも動かない。
「……関東の平和は畿内が乱れていればこそよ。天下一統などさせぬわ」
確実な死を与えるため、上空に飛んで刀を抜き、丹波の心臓めがけて落ちていった。
「ゴフッ!」
小太郎は、一瞬何が起こったか理解できなかった。
血を吐いているのは己?
どうして、丹波が己の心臓を鷲掴みにしているのだ?
丹波の心臓に確実に刀を突き刺したのに!
「……油断したな。儂は心臓の位置を変えられるのよ」
「……だから鎖帷子を着込んでなかったか。……不覚! 間近で仕留めるべきで……なかった……わ」
小太郎の身体が骸になるのを見ながら、丹波は目を閉じた。
「直近で2度の移動、さすがに無理だったか。……まあ、よい。北条に……大打撃を……与え……た……わ」
丹波もまた、二度と開かぬ瞼を閉じた。
もう一組の老忍対決、服部保長と加藤段蔵の戦いは、ブレービーVS猛牛というぶつかるたびに大地を揺らす怪異でしかない。
「明智軍に英霊ボールをぶつけてるな? 悪いが、手加減なしでやる」
保長のブレービーの肉体が、忍びのオーラで赤と白に光り輝く。
「愚かな。鶏が牛に勝てるものか。猛牛こそ赤に相応しい!」
段蔵の猛牛の肉体が、忍びのオーラで赤とオレンジに光り輝く。
深夜ながら、この異様な光景を近隣住民は気づき、固唾を呑んで見守っていた。
注:後に太田牛一が取材した際の以下の証言は住民たちのプライベート保護のために、目元に黒帯のぼかしと音声は加工してお送りします。
目撃者A
老ノ坂近隣に住むおじいちゃん。
「あれは巨大な鶏ですじゃ。恐らく牛が鶏が小さいと馬鹿にしたんで、カチンとして巨大化したんじゃろうて。共倒れしてくれたら両方食えたんですがのう」
目撃者B
老ノ坂近隣に住むクソガキ。
「どっちも最後、金属バットを両手で握って突進してったよ。僕より早くて力強くてカッコよかったなあ」
目撃者C
ちょうど老ノ坂を通ってた旅人。
「猛牛のライバルはブレービー。これは間違いありません。……ですが、日本一についぞ縁がなかった猛牛と誰もが知っているんです。……分が悪かったんです。何かが起こるんです。猛牛には」
目撃者D
老ノ坂近隣に住む雌牛。
「フモー、フモー、フモー♥」
——金属バットを両手に握り締めた加藤段蔵の猛牛と、ブレービーに扮する服部保長の勝負は意外な形で決着した。
互いの金属バットが激突した直後、雌牛が目をハートマークにして段蔵の背中に激突。
勢いは凄まじく、猛牛はブレービーと激しく衝突してしまった。
「なっ⁉」
「にっ⁉」
動揺する2人だったが、互いの持つ金属バットが的確に相手の頭蓋を割った。
目撃者E
老ノ坂近隣に住むおばあちゃん。
「ブレービーは消え、猛牛も消える。これがこの世のさだめなのじゃ」
***
斎藤利三、明智秀満率いる明智軍も窮地に陥っていた。
『クソ……たった2つの白球に足止めされるとは』
「牢人どもは雑魚の分際で……早く光秀様と信長様の許へ向かわねばならぬというのに……!」
傷だらけの満身創痍ながら、上空にファイターズブルーで光り輝く英霊ボール『ヒルマン』と、ファイターズオレンジで光り輝く英霊ボール『ヤスノリ』を力強く睨みつける利三。
もう、明智軍の大半が地面に伏している。
ヒルマンのバフ『テキサス』と、ヤスノリのバフ『フルスイング』を乗せた牢人どもに完膚なき敗北を喫していたのだ。
『これが我ら英霊ボールの力よ。畿内は九州と違って温いな』
『ヤスノリの言う通りネ! 回収するだけで運用しない織田にびっくりネ! ……ヒロミツにくらった完全リレーの屈辱果たす前座にもならなかったネ』
『儂とて、センイチさんに放出された屈辱を果たすのは今と思って話に乗ったんじゃ。悪く思うな、明智の者共よ』
白球2つがさらなる光を放ち、牢人どもが刀を構えた。
***
二条御所から本能寺にひた走る信忠勢もまた、英霊ボール『アキヤマ』と『クドウ』のバフで強化された偽明智軍との戦闘を続けていた。
「ヒャアハッハ! 長可にあとで自慢しちゃるわ! こんな首獲り放題の戦場で腕を振るう機会に恵まれた俺を羨め!」
団忠正の豪快に振り回す金属バットのスイングが先陣を切り開く。
「道三の子にして義龍の弟の私を雑魚と侮るなよ? さあ来い! 血染めになろうが信忠様を本能寺まで導く!」
斎藤利治の洗練された金属バットのスイングが敵を吹き飛ばす。
「父の覇道、真昼様のJK道を誰よりも間近で見て育った私を甘く見ないでもらおう! 私は織田信忠! 我が首欲しくばかかってこい。死体になる覚悟でな!」
信忠のコンパクトなのに、どのコースもヒットゾーンになる金属バットのフルスイングが敵に恐怖を植え付ける。
「はあ、はあ、はあ。京都所司代・村井貞勝ここにあり! はあ、はあ、はあ」
貞勝のヘロヘロスイング目当てに敵が殺到するが、それが餌となって信忠勢に命を刈り取られていく。
それでも多勢に無勢。
二条御所から本能寺まで進む距離は縮まない。
『英霊ボールのバフなしに見事だ。……ただ、戦は数よ』
『支配下以下の人数で、育成も大量な我らによくぞここまで持ちこたえた。……今、楽にしてやる』
アキヤマとクドウがレボリューションイエローに、眩く輝いていった。
***
燃える本能寺。
光秀さんや蘭丸君たちが、迫りくる敵兵と絶望的な戦いに突入し、いたるところで金属音と火縄の轟音が鳴り響く中、ついに私と信長様の前に襲撃者が姿を現していた。
信長様のフルスイングに英霊ボールどもはびくともせず、背後の切り裂かれた炎から何者かが歩いてくる。
「V9のテツハル、フォーク神のスギシタ、球界の天皇カネヤン。……そして」
私の視線の先、炎の中から黒い鉄仮面を顔に纏った男が歩いてくる。
「朝比奈……泰朝!」
「ほう。よく俺のことを覚えていたな。長谷川真昼よ」
忘れられるわけないでしょ。
戦国に来た私が最初に戦った桶狭間の戦いでの対戦相手だし。
その後も三河独立問題、比叡山について森可成さんを殺したりと、常に私の前に立ち塞がってきたんだから。
「ったく。執念ってのは大したもんだ。嫌いではねえさ。それもまた、一つの人生よ」
信長様が嘆息するけど、この状況でそんな感想言うの相変わらず人としてズレてね?
「俺もだ信長。俺も信長と長谷川真昼、特に嫌っているわけではない」
泰朝が腰から金属バットを抜く。
「だったら友人に……!」
叫ぶ私の目の前にセンイチとイシイが飛び出す。
『無駄よ、小娘。友人と勝負は相容れんのよ。グラウンドの外では仲良しこよしでも、試合に情は不要じゃ』
『うん。しかもこれは死しか決着しない最終決戦だし』
死のみが審判が告げるゲームセットの試合。
もう、プレイボールはかかっているのだ。
『ワッハッハ! 名球会の資格も持たぬ白球が2つだけか? この勝負、するまでもないわ! テツハルさんとスギシタさんで十分よ!』
豪快に笑うカネヤン。
……この笑い声か。帰蝶様だった今の秀吉さんが聞いた笑い声は。
『フン。カネヤンに指示される謂れはないが、儂の赤バットが貴様らを粉砕してくれるわ』
『我がフォークは令和のスプリットの比ではない落差よ。存分に味あわせてやる』
テツハルがオレンジ色、スギシタが青色に発光してくるだけで圧が凄い。
気圧されるな私! こんな圧、信長様と同じぐらいじゃん!
「フッ。であるか。テツハルとスギシタを撃破して必ずカネヤン、貴様を引き摺り出してやる」
『ワッハッハ。儂の170キロを打てるもんか!』
170キロ⁉ マジで? 信長様より10キロも速いじゃん!
『カネヤンめ。……まーた盛りやがって』
『あれガチで言ってるから始末に負えないよ。スピードガンなかったからって適当すぎるでしょ、爺って』
センイチとイシイがヒソヒソ言ってると、カネヤンも濃淡色に輝いて激昂してきた。
『ガチじゃぁぁぁぁぁぁ! 小僧どもがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
イシイはともかく、センイチまで小僧扱いか。
圧は本物だ。170キロは置いといて強敵は間違いない。
そこで信長様と泰朝の金属バットがクロスしていく。
「「三打席勝負、恨みっこなしのラストゲームだ!」」