なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第261話 長谷川真昼、フォーク神と対決する

 炎上する本能寺。

 外に1万以上の偽明智軍。

 光秀さんや蘭丸君たちが必死に防戦する中、建物を支える柱に炎が燃え移り今にも崩れ落ちそうだ。

 熱い。しかも紅蓮が視界を歪めていく。

 1秒後に黒ずみになってもおかしくない状況だ。

 それでも逃げるわけにいかない。

 

「スギシタよ、行くぞ」

 

『ああ』

 

 泰朝の手元に英霊ボール『スギシタ』が収まる。

 最初は向こうが投手。ということはこっちが打者か。

 

「ん? ちょっと待って。そっちキャッチャーいないけどどうすんの? 1球ごとに炎の外から帰ってくんの?」

 

 私の当然の疑問に、泰朝の頭上で宙に浮いている英霊ボール『テツハル』が、ポロンと白球を一つ吐き出した。

 英霊ボールの生態は相変わらず意味不明だぜえ。

 

『zzz……』

 

 その白球は眠ったまま私の後ろで浮いた。

 全身に嫌な予感が電流となって走る。

 まるでこっちの考えを絶対に見逃さない兎の慎重さと、隙を見せたら一気に喰らいに来る獅子の獰猛さを感じる。

 

『ムウ! モリか! 気をつけろ小娘! V9の正捕手にして、常勝ライオンズの象徴よ!』

 

 センイチが叫んでくるけど、背景聞かなくっても大丈夫。

 油断なんて一切しないから。

 

『関東を支配したテツハル、ヤバすぎでしょ。教え子を食ってたなんて……』

 

 あのナチュラル鬼畜のイシイが怯えているけど、そういやイシイがお父さんと慕っていたノムサンがツルオカに食われた話をしてなかったっけ。

 今度教えてあげよ。

 

「センイチ! 審判せよ。イシイとテツハルらは塁審をせよ! どっちへの贔屓も許さん!」

 

 信長様の叫びに英霊ボールどもが配置につく。

 泰朝と、私も。

 

「信長様、カネヤンは任せたから私がスギシタを倒すよ」

 

 煤で作った左バッターボックスに入り、目線を泰朝に合わせたまま信長様に告げていく。

 

「フッ。そう言うと思ったぜ。恋女房としてマウンドだけじゃなく成長したな、真昼」

 

 信長様が珍しく優しく微笑んできたよ。

 これ、絶対あかんやつだ。

 

「この三打席勝負、一打席でも負けたらこっちの敗北よ! 絶対に勝て! 俺の出番をなしにしたら許さん!」

 

「ヒエッ! 急に緊張してきたよ!」

 

『いや、小娘。炎で崩れそうな建物内部にいて、今まで緊張してなかったほうがおかしいぞ?』

『まあお嬢ちゃんだからね。僕なんてさっきから心臓バックバクだよ』

 

 うん黙れ。センイチ、イシイ。

 ていうか、白球の心臓ってどこだよ。

 

『プレイ!』

 

 センイチが叫び、私VS泰朝&スギシタの勝負が始まった。

 

 さてと、センイチからスギシタの情報は聞いている。

 センイチの大先輩にして、史上最高のフォークボーラーであり球界随一の名投手コーチ。

 ただし現役時代、フォークをほとんど投げなかったという。

 それなのにフォーク神ておかしくねって思うけど、1試合で数球放るだけで敵に絶望を与え、脳裏にフォークの落差を刻みつけたという。

 ならば、直球を待つのみ。

 

 振り被った泰朝の右腕が、スリークォーターからスギシタを投じてくる。

 

 ……え? ボールの縫い目がくっきり見える。まさか無回転⁉

 真ん中高め、ストライクゾーンだ。とにかく打つのみ!

 

 ブルン! ゴツン!

 

「……なっ⁉ 」

 

 背後のモリとぶつかる音が足元から聞こえた?

 スイングしたのは私の胸の高さなのに、落下地点が足元?

 

『ストライク。カウントノーワン』

 

 無情に告げるセンイチに私は訊ねる。

 

「今の、私のバットに当たる直前で足元まで落ちたの?」

 

『小娘。審判に聞くな。信長に訊け』

 

 センイチめ、融通効かないなあ。

 信長様に振り向くと、コクンと首を縦にしてきた。

 

 マジか。これがスギシタのフォーク。なるほどね、神と呼ばれるだけあるよ。

 でも、1球見れた。今の軌道を脳裏に刻むんだ私。

 ちょっと待て私。……胸元に来たボールがバットの直前で落ちる。しかも蝶々のようにパタパタと羽が揺れるように。

 これどうやって打つの⁉

 

「ちっ。マズイな。俺もフォークを投げたことねえからか、真昼のくせに混乱してやがる」

 

『ワッハッハ。スギシタさんは儂の400勝の半分よりちょい多い勝ち星じゃが、儂との投げ合いに何度も勝ちやがる大一番に異様に燃える英霊ボールよ。残念だったな信長。貴様の出番ないまま終わるぞ』

 

 信長様とカネヤンさあ。互いにラスボスな存在のくせに隣同士で会話してるなよ。

 

 泰朝が第2球目を投じる。

 私にフォークは見せたんだ。情報通り、私の脳裏にフォークの残像を刻みつけた。

 なら、もうフォークは来ない。

 ……なんて思わせて多投してくるかも。打ち方も何もわかんない私のスイングを見たなら、私が捕手ならそうサインを出す!

 

 投じられて、私の胸元の高さのストライクゾーンに向かってくるスギシタは、やはり無回転!

 

 軌道、最後が足元なら中間地点でスイングするんだ私!

 

 ブルン! ゴツン!

 

『ストライーク。ノーツー』

 

 嘘でしょ? なんでモリが外角の足元で受け止めてるの⁉

 

『あれよ! スギシタの恐ろしいのは! 1球ごとに軌道がまるで違うフォーク。だからこそ魔球であり、神となったのじゃ!』

 

「モリも見事なキャッチングだな。並のキャッチャーなら後逸してるぞ」

 

 カネヤンと信長様の会話で、私の握る金属バットのグリップが重くなる。

 炎の熱さも、蔓延してきた煙も英霊ボールどもが防いでくれてるみたいだけど、私の視界は真っ暗だ。

 

 1球ごとに軌道が違うフォーク? そんなのを一打席で攻略? 不可能だよ……私は幼い頃から野球漬けだったわけじゃないし、そもそも戦国の世に飛ばされるまで野球なんてしたことなかったんだよ?

 真剣勝負だって数えるほどしかしていない。それなのにプロでも神とか魔球とか呼ばれていたフォークを打てとか無理ゲーここに極まれりだよ。

 

「真昼! 命を賭けた戦場に出た日々を思い出せ! 貴様は織田家中でも俺と同じくらい戦経験が豊富よ」

 

 信長様の檄が飛んできて、私の視界がクリアになる。

 

「いやいや信長様? 檄の仕方おかしくね? 戦場経験豊富なJKってあらゆる意味で変なんだけど?」

 

 それでも、両手で握るグリップが軽くなったのを感じる。

 まったく、信長様め。相変わらず乙女にかける言葉が雑すぎるでしょ。

 

「次で決める」

 

 泰朝が私を睨んで投球フォームに入る。

 私もまた、投じられたスギシタを睨んで睨んで睨みつけていく!

 

 ゴツン!

 

『ボール。ワンエンドツー』

 

 センイチのコールに、泰朝のグラブに帰っていくスギシタ。

 

『ほう?』

 

 カネヤンの私への評価も変化が出たみたいだ。

 

 ゴツン!

 

『ボール。カウントツーツー』

 

 ふう。さすがセンイチ。僅かに外角に外れたのを取ってくれたぜえ。

 

「審判によっちゃストライクだな。俺ならファールで逃げたわ」

 

『当てられると思ってるのがうつけよ、信長。……と言いたいが、貴様はやれるだろうな。……あの小娘も大した選球眼よ』

 

 だから信長様? カネヤンと仲良くしてどうする?

 

『次もボールならスリーツーになる。追い込んでからの四球は恥ぞ! 泰朝、このカウントで必ず決めよ! 儂を思いっきり挟め!』

 

 今まで全部フォークだったからわかってたけど、スギシタに言われ、泰朝が握りまで見せてきやがる。

 

 これでフォーク以外だったら金属バット持ってマウンドに行っちゃるぞ?

 

 泰朝が投げてくる! 無回転のフォークの軌道が内角の腰回りの高さで来る!

 見逃せばボールになる? いや、ならない!

 

 カキン!

 

 私の打ったスギシタが、泰朝の足元を抜けていった。

 

『センター前クリーンヒット』

 

 塁審のテツハルが冷徹な声で告げてくる。

 

 ふひ~。勝ったよ~。

 

「どうやって打った?」

 

 マウンドの泰朝が悔しそうだけど穏やかな声で訊いてきたのを、私はありのままこう答えるのだ。

 

「スギシタをずっと見て、落ちてきてもバットを出さず、ここが着地点と判断してからスイングしただけ。……正直なところ、あのフォークは100打席勝負でも3割ぐらいしかヒットコースに飛ばせないよ。その1回をたまたま出せただけ」

 

「フフフ。人はそれを怪物と呼ぶのだ。長谷川真昼よ」

 

 ……おっといかんいかん。勝負に勝ったのに金属バット掲げてマウンドに走っていくとこだったよ。

 

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