なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
見事私がスギシタの神魔フォークを攻略し、敗北イコール即死のデスゲームである三打席勝負の第一打席を突破した。
業火が本能寺を覆う中、第二打席の勝負が始まる。
マウンドに信長様、握ってるのは英霊ボール『センイチ』。
キャッチャーはもちろん私。
煤で書いた右バッターボックスに立つ、朝比奈泰朝が持つバットは血染めのように赤い。
鉄仮面姿の泰朝の表情は読めない。頭上に乗る英霊ボール『テツハル』も打撃に集中しているようだ。
『現役は左打者のテツハル。そこは泰朝に合わせたか』
センイチの呟きが私の耳に届いてくる。
審判はカネヤン。
ラスボス英霊ボールが背後にいて、ストライクとボールの判定する状況って何これ?
私の背中に突進してきたら、それで私死ぬじゃん。
最終決戦で、今の私のポジションとラスボスの位置、おかしくね?
『小娘! 敵は審判にあらず! これは基本中の基本じゃぞ!』
信長様の手元でセンイチが叫んでくるけど、いや、敵でしょ。
「フッ。真昼よ、勝負にカウントされるのは打席にいるテツハル&泰朝よ」
信長様が、俺の投げるボールは誰を倒すためだ? 私に別の思考をするな、俺に集中せよとか告げてそうなオーラを出してくる。
……わかってるって。恋女房として、絶対に打ち取って最後の最後の勝負に持っていくよ信長様。
『略してテツ&トモだね。プププ、ヤバい。なんでだろう、ツボに入っちゃったよ』
塁審してる私側の英霊ボール『イシイ』が吹いてるけど、それ、伏字やピー音じゃなくていいのか?
てか、テツ&ヤスでしょ。
『プレイ!』
カネヤンの声で、信長様が振りかぶる。
サインは一発で決まってる。信長様の球、打てるものなら打ってみろ泰朝!
泰朝のスイングが凄まじい衝撃となって、キャッチャーの私にも襲いかかってくるけど、貰った、空振りだ。
ストライクゾーンからボールゾーンに逸れるスライダーに、バットが当たるわけがない!
カキン!
「なっ⁉」
外角低めに落ちるスライダーだよ?
なんでセンイチが遥か彼方にレフト方向に飛んでいくの!
ガチン!
『ふう、ファールだね』
煤で作られた三塁側の塁線、もう少しでフェアゾーンに入ってる位置でイシイがセンイチを止めてくれた。
なんていう弾丸ライナー。しかも外角スライダーを引っ張って、とてつもない打球速度を出せるなんて。
「遅すぎてタイミングが合わなかったか」
『ファールゾーン以外がヒットゾーンよ。フェアにすれば儂らの勝ち。気負うなよ、泰朝』
バッターボックスでボソッと呟く泰朝とテツハルだけど、これは明らかに挑発だ。
信長様のストレートを粉砕したい意思を感じる。
……なら、それを利用させてもらう!
信長様が頷いて、第2球を投げました。
カキン!
『ファール。カウント、ノーツー』
カネヤンがすぐに告げ、またもやイシイが三塁側ファールゾーンでセンイチを止めた。
……嘘でしょ。内角高めの顔面スレスレの160キロのストレートをジャストミートされた。
追い込んだけど、緩い球をストライクゾーンに入れたら空振りや見逃ししてくれるイメージが湧かない。
泰朝は見えてる。それもくっきりと信長様が投げる球を。
だから外角低めのスライダーも、内角高めのストレートも同じように引っ張れるんだ。
気持ちが逸って、バットを出すタイミングが早いだけ。
……勝負を長引かせても、泰朝がタイミングを合わせてくるだけだ。
ここは3球勝負! と思わせて3ボールまでストライクは要求しない!
第3球目はここ!
外角低め、ボール2個分外れたコースだ!
審判が取ってくれたら儲けもん。
……え? スイングしてくる……?
あっ! ボール1個分しかズレてないよ信長様!
カキン!
『ファール。カウント変わらずノーツー』
一塁線にいるモリとぶつかった。
あっぶなー、危うくライト前に運ばれるところだったよ。
「うまく広角に打てたが、さすが信長、球威がある」
『いいぞ泰朝。落ち着いている。その調子でいくのだ』
泰朝とテツハルめ、追い込まれているのに全然焦ってないか。
さて、どうするか。セオリーならもう1球外角ボールゾーンにストレートを投げて、目がストレートに慣れたところで緩いカーブで見逃し三振を狙うか、外へ逃げるスライダーで空振りを奪うかだけど、私の直感が危険の警報を鳴らしてくる。
なら、内角高め、さっきより高く、目一杯のストレートで釣り球による空振り三振を狙う!
信長様が振りかぶって、センイチを放る。
よし! コースばっちりで球威も申し分ない! いける、私だったら100回中100回空振りする最高のボールが来た!
泰朝の手首が動き、赤バットが動く。
よっしゃ! 空を斬れ!
カキン! ゴツン!
センイチが真後ろに飛んでいって、カネヤンが止めてくれた。
『ファール。カウントノーツーのまま』
カネヤンがセンイチを押し返し、信長様のグラブがパーンと音を鳴らす。
速い。カネヤン、やっぱり口だけじゃなさそうだ。
……今は泰朝を打ち取ることに集中しないと。
3球連続ストレートで、泰朝の目はストレートに慣れてるはず。
カウントはこっちが有利。
ここは一旦、カーブだ。ストライクゾーンからボールになるコースで。頼みます、信長様。
5球目、ど真ん中から外角低めに逸れていく最高のカーブがくる。
これで1球外して、次にスライダーでも外す。その次にもう一度内角高めストレートだ!
そう考えた私の決死の配球が、赤バットが動くことで無に帰していく。
「もらった!」
赤バットが動く。まさか、振ってくるの? ボールになる球なのに、ジャストミートで!
曲がって! もっと曲がって! 信長様のカーブ!
私の願い通り、最高のキレで信長様のカーブは落ちていく。
それなのに、赤バットの真芯にセンイチがぶつかったのだ。
カキン!
フェアゾーン! 三遊間、抜かれる!
守備位置に誰もいない勝負だ。常識的に考えてセーフかアウトのコースかやってる当人たちが理解できる。
……あそこは、レフト前に抜けるラインドライブの打球!
「うおおおおおおおおおおおお!」
バシーン!
え? 捕球音? 嘘、なんで? それに叫んだ声って。
炎の奥からショート定位置に飛び出したその人が、サード側に横っ飛びジャンプで好捕してくれたのだ!
『……アウト』
カネヤンが不愉快そうに宣告したのを確認し、私は駆け出してショートに飛びついていく。
「うわあああああああん、秀吉さああああああん!」
「遅くなってすまない。真昼、それに……信長様」
相変わらず大人な女性な秀吉さんの胸で泣きじゃくる私。
前周回の私に今周回の私が泣きつくなって? 今はいいの! この胸の大きさも、いずれ成長した私が手に入れるものなんだし。
「好捕で救われたか。ちっ。V9に赤バットのテツハルめ。勝負に負けて試合に勝った気分だぜ」
信長様が近づいてきて舌打ちしてくるけど、今は勝ったことを喜ぼうよ。
『……羽柴秀吉とヒロミツか』
審判の位置にいるカネヤンの圧が高まる。
……なんで400勝とか4490奪三振の文字が浮かんでるの?
『信長、次はカネヤンとの直接対決ならオレを使え。打撃ならセンイチより当然、オレが上よ』
『三冠王3度と、ピッチャーの儂を比較してどうする! じゃが最適な選択よ。信長、そうせい』
『うーん、僕は最後まで塁審だね』
ヒロミツとセンイチとイシイが浮遊し、信長様の手元に集う。
私と秀吉さんは、その光景を頼もしく見ていた……のだけれど——
「グッ!」
「秀吉さん! えっ……」
秀吉さんが突如苦しみだし、私もまた意識が遠のいていったのだ。
『勝負は勝負。乱入も、好捕も認めたるわ。……けどな、同一人物が同時代に2人いるのは反則よ』
……なんでカネヤンが、そのことを。
「おいカネヤン! 泰朝! 何をした!」
信長様が激昂して泰朝の胸ぐらを掴んでいく姿を見てるのに、目が霞んでいってしまう。
「安心しろ。元に戻るだけよ」
泰朝の言葉を耳にして、私と秀吉さんの意識は途切れた。