なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

262 / 263
第262話 長谷川真昼、赤バットに散る?

 見事私がスギシタの神魔フォークを攻略し、敗北イコール即死のデスゲームである三打席勝負の第一打席を突破した。

 業火が本能寺を覆う中、第二打席の勝負が始まる。

 

 マウンドに信長様、握ってるのは英霊ボール『センイチ』。

 キャッチャーはもちろん私。

 煤で書いた右バッターボックスに立つ、朝比奈泰朝が持つバットは血染めのように赤い。

 鉄仮面姿の泰朝の表情は読めない。頭上に乗る英霊ボール『テツハル』も打撃に集中しているようだ。

 

『現役は左打者のテツハル。そこは泰朝に合わせたか』

 

 センイチの呟きが私の耳に届いてくる。

 

 審判はカネヤン。

 ラスボス英霊ボールが背後にいて、ストライクとボールの判定する状況って何これ?

 私の背中に突進してきたら、それで私死ぬじゃん。

 最終決戦で、今の私のポジションとラスボスの位置、おかしくね?

 

『小娘! 敵は審判にあらず! これは基本中の基本じゃぞ!』

 

 信長様の手元でセンイチが叫んでくるけど、いや、敵でしょ。

 

「フッ。真昼よ、勝負にカウントされるのは打席にいるテツハル&泰朝よ」

 

 信長様が、俺の投げるボールは誰を倒すためだ? 私に別の思考をするな、俺に集中せよとか告げてそうなオーラを出してくる。

 ……わかってるって。恋女房として、絶対に打ち取って最後の最後の勝負に持っていくよ信長様。

 

『略してテツ&トモだね。プププ、ヤバい。なんでだろう、ツボに入っちゃったよ』

 

 塁審してる私側の英霊ボール『イシイ』が吹いてるけど、それ、伏字やピー音じゃなくていいのか?

 てか、テツ&ヤスでしょ。

 

『プレイ!』

 

 カネヤンの声で、信長様が振りかぶる。

 サインは一発で決まってる。信長様の球、打てるものなら打ってみろ泰朝!

 

 泰朝のスイングが凄まじい衝撃となって、キャッチャーの私にも襲いかかってくるけど、貰った、空振りだ。

 ストライクゾーンからボールゾーンに逸れるスライダーに、バットが当たるわけがない!

 

 カキン!

 

「なっ⁉」

 

 外角低めに落ちるスライダーだよ?

 なんでセンイチが遥か彼方にレフト方向に飛んでいくの!

 

 ガチン!

 

『ふう、ファールだね』

 

 煤で作られた三塁側の塁線、もう少しでフェアゾーンに入ってる位置でイシイがセンイチを止めてくれた。

 

 なんていう弾丸ライナー。しかも外角スライダーを引っ張って、とてつもない打球速度を出せるなんて。

 

「遅すぎてタイミングが合わなかったか」

 

『ファールゾーン以外がヒットゾーンよ。フェアにすれば儂らの勝ち。気負うなよ、泰朝』

 

 バッターボックスでボソッと呟く泰朝とテツハルだけど、これは明らかに挑発だ。

 信長様のストレートを粉砕したい意思を感じる。

 ……なら、それを利用させてもらう!

 

 信長様が頷いて、第2球を投げました。

 

 カキン!

 

『ファール。カウント、ノーツー』

 

 カネヤンがすぐに告げ、またもやイシイが三塁側ファールゾーンでセンイチを止めた。

 

 ……嘘でしょ。内角高めの顔面スレスレの160キロのストレートをジャストミートされた。

 追い込んだけど、緩い球をストライクゾーンに入れたら空振りや見逃ししてくれるイメージが湧かない。

 泰朝は見えてる。それもくっきりと信長様が投げる球を。

 だから外角低めのスライダーも、内角高めのストレートも同じように引っ張れるんだ。

 気持ちが逸って、バットを出すタイミングが早いだけ。

 ……勝負を長引かせても、泰朝がタイミングを合わせてくるだけだ。

 ここは3球勝負! と思わせて3ボールまでストライクは要求しない!

 

 第3球目はここ!

 外角低め、ボール2個分外れたコースだ!

 審判が取ってくれたら儲けもん。

 

 ……え? スイングしてくる……?

 あっ! ボール1個分しかズレてないよ信長様!

 

 カキン!

 

『ファール。カウント変わらずノーツー』

 

 一塁線にいるモリとぶつかった。

 あっぶなー、危うくライト前に運ばれるところだったよ。

 

「うまく広角に打てたが、さすが信長、球威がある」

 

『いいぞ泰朝。落ち着いている。その調子でいくのだ』

 

 泰朝とテツハルめ、追い込まれているのに全然焦ってないか。

 さて、どうするか。セオリーならもう1球外角ボールゾーンにストレートを投げて、目がストレートに慣れたところで緩いカーブで見逃し三振を狙うか、外へ逃げるスライダーで空振りを奪うかだけど、私の直感が危険の警報を鳴らしてくる。

 なら、内角高め、さっきより高く、目一杯のストレートで釣り球による空振り三振を狙う!

 

 信長様が振りかぶって、センイチを放る。

 よし! コースばっちりで球威も申し分ない! いける、私だったら100回中100回空振りする最高のボールが来た!

 

 泰朝の手首が動き、赤バットが動く。

 よっしゃ! 空を斬れ!

 

 カキン! ゴツン!

 

 センイチが真後ろに飛んでいって、カネヤンが止めてくれた。

 

『ファール。カウントノーツーのまま』

 

 カネヤンがセンイチを押し返し、信長様のグラブがパーンと音を鳴らす。

 速い。カネヤン、やっぱり口だけじゃなさそうだ。

 

 ……今は泰朝を打ち取ることに集中しないと。

 3球連続ストレートで、泰朝の目はストレートに慣れてるはず。

 カウントはこっちが有利。

 ここは一旦、カーブだ。ストライクゾーンからボールになるコースで。頼みます、信長様。

 

 5球目、ど真ん中から外角低めに逸れていく最高のカーブがくる。

 これで1球外して、次にスライダーでも外す。その次にもう一度内角高めストレートだ!

 

 そう考えた私の決死の配球が、赤バットが動くことで無に帰していく。

 

「もらった!」

 

 赤バットが動く。まさか、振ってくるの? ボールになる球なのに、ジャストミートで!

 

 曲がって! もっと曲がって! 信長様のカーブ!

 

 私の願い通り、最高のキレで信長様のカーブは落ちていく。

 それなのに、赤バットの真芯にセンイチがぶつかったのだ。

 

 カキン!

 

 フェアゾーン! 三遊間、抜かれる!

 

 守備位置に誰もいない勝負だ。常識的に考えてセーフかアウトのコースかやってる当人たちが理解できる。

 ……あそこは、レフト前に抜けるラインドライブの打球!

 

「うおおおおおおおおおおおお!」

 

 バシーン!

 

 え? 捕球音? 嘘、なんで? それに叫んだ声って。

 炎の奥からショート定位置に飛び出したその人が、サード側に横っ飛びジャンプで好捕してくれたのだ!

 

『……アウト』

 

 カネヤンが不愉快そうに宣告したのを確認し、私は駆け出してショートに飛びついていく。

 

「うわあああああああん、秀吉さああああああん!」

 

「遅くなってすまない。真昼、それに……信長様」

 

 相変わらず大人な女性な秀吉さんの胸で泣きじゃくる私。

 前周回の私に今周回の私が泣きつくなって? 今はいいの! この胸の大きさも、いずれ成長した私が手に入れるものなんだし。

 

「好捕で救われたか。ちっ。V9に赤バットのテツハルめ。勝負に負けて試合に勝った気分だぜ」

 

 信長様が近づいてきて舌打ちしてくるけど、今は勝ったことを喜ぼうよ。

 

『……羽柴秀吉とヒロミツか』

 

 審判の位置にいるカネヤンの圧が高まる。

 ……なんで400勝とか4490奪三振の文字が浮かんでるの?

 

『信長、次はカネヤンとの直接対決ならオレを使え。打撃ならセンイチより当然、オレが上よ』

 

『三冠王3度と、ピッチャーの儂を比較してどうする! じゃが最適な選択よ。信長、そうせい』

 

『うーん、僕は最後まで塁審だね』

 

 ヒロミツとセンイチとイシイが浮遊し、信長様の手元に集う。

 

 私と秀吉さんは、その光景を頼もしく見ていた……のだけれど——

 

「グッ!」

 

「秀吉さん! えっ……」

 

 秀吉さんが突如苦しみだし、私もまた意識が遠のいていったのだ。

 

『勝負は勝負。乱入も、好捕も認めたるわ。……けどな、同一人物が同時代に2人いるのは反則よ』

 

 ……なんでカネヤンが、そのことを。

 

「おいカネヤン! 泰朝! 何をした!」

 

 信長様が激昂して泰朝の胸ぐらを掴んでいく姿を見てるのに、目が霞んでいってしまう。

 

「安心しろ。元に戻るだけよ」

 

 泰朝の言葉を耳にして、私と秀吉さんの意識は途切れた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。