なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第263話 長谷川真昼、前周回の記憶を継承する

 ——自分が体験していないのに、別の人生が走馬灯のように浮かび上がる。

 

「十兵衛、無事か!」

 

 視界に映るのは、血まみれで金属バットを振り続ける光秀さんや蘭丸君たち。

 彼らの背後で紅蓮の炎に包まれる本能寺。

 

「秀吉殿……人生の最期で帰蝶様に会えるとは……」

 

「最期ではない。……勝つぞ。秀長たちももうすぐ到着する。私は先に信長様の許へ向かう」

 

「また無茶なことを。……あなた様の従兄妹として、美濃衆の同僚として、ここは必ず死守しよう」

 

 手に持つ金属バットで血路を開き、ヒロミツと共に炎に飛び込んでいく。

 

 ——場面が変わる。

 

 ヒロミツと秀長と一緒に、イナオサマとノリフミを撃破した光景。

 備中高松城の水攻め。鳥取城陥落後の炊き出しで死んでいった民の姿。

 宇喜多直家さんが死んだ時のことや播磨平定。

 三木城干し殺し、半兵衛の死、官兵衛が有岡城に向かい、消息不明になったこと。

 毛利攻めの総大将に任命され、太田牛一に取材された安土での出来事。

 

 これ、秀吉さんの人生が逆行して私に流れ込んでる?

 

 松永久秀との最期の会話、柴田勝家との諍い、長浜築城、斎藤龍興との一騎討ち。

 どんどん逆行して……清洲城門前で騒いでいる女の子に気づき、鼓動が速まっていく。

 

 まさか……私が再び召喚されようとは。

 野球の神め、何があっても戦国の世に英霊ボールをばら撒くのが確定演出とはな。

 

 そう思いつつも能天気な長谷川真昼を見つめ、妹ができた気分だ、私はもっと初期から落ち着いて戦国の世を生き抜こうとしてたぞ? とも思考した。

 

 ——あっ、これは自主規制だわ。

 秀吉さんが……この時の木下藤吉郎になる前の帰蝶様だった頃の夜まで流れてくんなよ。

 今の私の顔真っ赤だぞ。なぜに一度も経験したことないのを、詳細に五感たっぷりに刺激交じりで知識を持たにゃならんのだ?

 

 ——前周回の燃える本能寺。

 倒れ伏し、炎に消えていく信長様や光秀さんの肉体。

 炎の外から高笑いする英霊ボール『カネヤン』の影。

 集めた英霊ボールにやり直しを願い、生き残っていた侍女のねねちゃん、猿の小一郎(今の秀長)、英霊ボールヒロミツが記憶を共有し、時を戻していく。

 

 ——前周回の帰蝶様で終えた私の人生、信長様と結婚して戦場で駆け抜ける日々、夜は……置いておいて、それ以前の斎藤道三と美濃を攻略した記憶。

 道三のお父さんの松波庄五郎との出会い。

 時は明応9年、山城国に突然放り投げられた、ついさっきまでJkライフしていた私の混乱と、近くに将軍様が住んでる? 頼ろう! からの戦国人生。

 

 自分で自分にツッコむのもあれだけど、秀吉さんだって最初は私と同じじゃね?

 

 ——脳がスッキリする。

 ここは絶賛炎上中の本能寺内部。

 朝比奈泰朝、カネヤン、テツハル、スギシタとの三打席勝負の真っ最中。

 第一打席は私が、泰朝操るスギシタのフォークをセンター前クリーンヒットした。

 第二打席は信長様のカーブを、テツハルのバフを受けた泰朝に三遊間に弾丸ライナーされたけど、秀吉さんが炎の外からショート定位置に入り横っ飛び一閃。

 見事好捕し、私たちの勝ちも確定した。

 

 ……そうだ。その後に秀吉さんに抱きついて、2人して倒れたんだっけ。

 あれ? 秀吉さん、どこ行ったの?

 私、秀吉さんの秀吉さんになる前の帰蝶様な人生に、召喚された直後の長谷川真昼の人生も全部知ったんだよ?

 信長様との夜のことまで流し込まないでよ! って、ちょびっとだけ怒りたいんだけど……。

 

「真昼!」

 

 信長様⁉ いきなりほっぺを両手で押さえつけないでよ!

 

『まさか……こんなことが』

『ううむ、英霊ボールになって初めてビビったわ』

『お嬢ちゃん……気をたしかにね。自暴自棄はダメだよ』

 

 ヒロミツ、センイチ、イシイも間近で浮遊していて絶句してるけど、何がなんやら。

 

「はっ! 信長様、私どのくらい意識を失ってたの? 秀吉さんはどこへ行ったの⁉」

 

 ほっぺにある信長様の両手を外し、私は裏返った声で叫ぶ。

 一刻一秒が惜しいのに、気絶して勝負を中断するなんて不覚だよ。

 

「10秒も経っておらぬ」

 

「マジで? 感覚的に100年ぐらい過ぎた気がしたんだけど」

 

 泰朝が赤バットを捨て、カネヤンを手元に呼び、右手にグローブをはめていく姿が目に入る。

 最終勝負の準備か。

 スギシタの時は右投げだったのに、カネヤンでは左手で投げるのか。

 

「それよりも秀吉さんは? ホントにどこへ行ったの?」

 

 やはりいない。スギシタとテツハル、モリの姿はあるのに。

 

「秀吉は……」

 

 信長様? 真剣な目で見ないでくれたまえ。夜のことをまた思い出しちゃうよ。

 

「秀吉は真昼に重なり、消えた」

 

「……は?」

 

 え? それってつまり、私と合体したってこと。

 胸のあたりをさすってみるけど、うん、私のままだよ。ちくしょう。

 

 ……でも、秀吉さんだった人生のすべてを、私は鮮明に思い出せる。

 嘘でしょ? なんでこの最終局面で、こんなびっくりどっきり展開になるんだよ。

 いや……これもまた必然だったのか。

 

 私は泰朝の手元のカネヤンへ視線を向ける。

 

「あの日、前回の本能寺で私はやり直しを要求した。……私は過去に戻り、ねねと小一郎、ヒロミツだけが前周回を覚えていると思い込んでいたけど……カネヤンも覚えていたってことで合ってる?」

 

『ワッハッハ。そりゃ、その時に生きていたのが対象なんじゃ。今更気づいたのか』

 

 迂闊。炎の外から聞こえる高笑いをぶっ殺してから巻き戻るべきだったか。

 

「それにしては対策が帰蝶以下だな。あいつは頑張ったぜ? 正室の立場を捨て、小者から一軍の総司令官になるまでな。……カネヤン、貴様は安全地帯で、ただこの日を待ってたのかよ」

 

 信長様の鋭い視線がこもった問いに、カネヤンは不敵に笑う。

 

『前回と、何がどう違っていくのか見るのもまた乙なものよ。流れがほぼ同じであり、誰も儂に探りをいれんのなら無理することあるまい。……明確に、羽柴秀吉と長谷川真昼にだけ注意するのみだったからなぁ。同一個体を元に戻す術式を調べるのにも禁裏は好都合よ。陰陽道を深く学べたわ』

 

 陰陽道って。忍術学んでた英霊ボールもいたし、こいつら何でもありすぎるだろ。

 

「この本能寺で信長様を倒し、織田家が集めた英霊ボールを奪取するために。……前回は残念だったね、カネヤン。私のせいで、英霊ボール大戦の最終勝者確定からリセットされて」

 

 私がカネヤンを睨みつけると、信長様が私の頭にポンと手を乗せていく。

 

「次が最期の勝負よ。真昼は二度と時を巻き戻す誘惑に乗るなよ。……俺が負けても、英霊ボール大戦の勝者がカネヤンになろうともだ」

 

「誘惑って……」

 

 ——そうだ。あの時、誰かが私にやり直すことができると脳に直接響く声で囁かれたような?

 

『儂も三度の巻き戻しは願い下げよ。……さて、審判はセンイチがせい。ヒロミツよ、バフを信長に与えても構わんが、儂はお前にだけは絶対に打たせん。……儂の名球会をコケにした報い、儂の180キロで粉砕してくれるわ』

 

 自称170キロだったのが、10キロも増えてるぞ?

 

『殿堂入りだけで十分よ。名球会、球界の天皇の自己満足に付き合う義理はない』

 

『ギリッ! 抜かしたな。後悔させてやるわ』

 

 カネヤンの圧がどんどん高まり、泰朝の身体全体も濃淡色に輝きだした。

 

「ヒロミツ、信長様を頼む!」

 

『……フッ。秀吉が消えたと焦ったが、秀吉そのもののようじゃないか』

 

「うん、明応9年から覚えてるよ、ヒロミツ」

 

『ならば久しぶりに、こう呼ぶとしよう。任された、真昼』

 

「センイチも審判頑張ってね。頼りにしてる。こっちに贔屓もしないだろうけどさ」

 

『秀吉と混ざったっちゅうのに、小娘のままでもあるんか。ホッとしたような、巨乳が消えて寂しいような……審判は任せい! 小娘は気合を入れた声援を信長に送るんじゃぞ!』

 

「当然! それがヒロインポジの私の役目だし!」

 

 信長様が右バッターボックスに立ち、泰朝もカネヤンを握りしめ、モリがキャッチャーの場所に移動してくる。

 ついに、最期の戦いが始まる!

 

『いや、ヒロインポジは今更無理がありすぎるよ、お嬢ちゃん』

 

 一塁線で塁審にしているイシイがボソッと呟くと、私以外のみんなが頷いたんだけど、あれ? なんで信長様含む味方まで頷くのかなあ?

 あとでお仕置きするから、絶対に勝ってよ。

 

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