なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
「明智光秀謀叛! 惟任日向守謀叛!」
炎上する本能寺と妙覚寺、さらに二条御所の光景により、未明の京は大混乱に陥っていた。
何はともあれ着の身着のまま逃亡する者。
家の中でガタガタ震える者。
立身出世の好機とばかりに謀叛軍に加わる者。
もはや京に、熟睡している者は誰もいなかった。
「光秀殿が謀叛? 信じられぬ!」
逃亡する民たちの真逆を走る徳川家康一行は、狂ったように謀叛人の名を叫ぶ声を耳にしながら、京に昇る火の手を顔面蒼白になって見つめていった。
「殿! 我らは少数! 謀叛軍は万を超えるとのこと! ここは急ぎ浜松まで撤退を!」
石川数正が震える声で進言すると、小刻みに震えていた家康の身体に落ち着きが戻る。
家康は背後に控えている正信に、振り向かずに訊ねていく。
「弥八郎(正信)! 策はあるか? 当然、信長様と真昼様を助ける策よ」
「はっ! 無論、あります。……ですが、死亡率は家康様が一番高いかと」
「それでいい。申せ」
「……策はただ一つ、家康様を囮にして謀叛軍の標的を我らにするのみ。というのが無能な策士の典型。背中は見せるな、突撃せよ。この全員で本能寺に向かい、包囲軍を切り崩せ!」
家康一行は9人。
酒井忠次、石川数正、本多忠勝、本多正信、徳川旭、猿飛佐助、猿飛小夜。
それと。
「五徳姫様、何かあっては信長様と真昼様に合わせる顔がなくなります。ここは安土へ向かってくだされ」
「ウキー、ウキキノキー」
家康と旭夫婦が真顔で告げてくるのを五徳は無表情のまま、紅蓮の炎を見ながら呟いてくる。
「父と真昼が死んだら、さらに信忠兄様もヤバそう。……なら、次の天下は信雄兄様や信孝より、私が遺志を継ぐべき。でも私、軍勢は持ってない。忠実な夫と侍女はいるけど」
五徳を背に乗せて四つん這いになってる佐助と、口にピンク色のよだれ玉を装備している小夜がコクンと頷く。
……まさか。
家康は嫌な予感を感じ取る。
この空気、幼少の頃に信長様に肥溜めに落とされまくった時と同じじゃないか。
「まあ、政務は面倒だから家康に任せる。あっ、一応お義父様だ」
佐助は元の名を松平信康、小夜は瀬名。
家康の実の息子と前妻だ。
だから五徳が家康を義父と呼ぶのは正しい……のだが、家康にとってそれどころではない。
(の、信長様! 真昼様! 絶対に生きててくだされ……。死なれていたら儂……一生五徳姫の傀儡で生涯終える気がする……!)
しかも正信は邪悪な笑みを浮かべ、五徳姫とがっちりと握手を交わす。
(あかん! 弥八郎め、もう五徳姫と手を組みおった! 儂は織田家の継承争いなんてのより、東海3国を維持するに、集中したいのにぃぃぃぃぃぃぃぃ!)
家康が白眼を剥きかけると、本多忠勝が名金属バットである蜻蛉切を構え、反対側の空へスイングをした。
ブンッ!
『おーん! 早とちりするな! 儂は織田側や!』
『ミーたちに直撃してないネ、ドンデン。凄いヨ! ミハラたちのフォーメーション乱れてるネ!』
ドンデンとボビーをもう少しで捕捉しようとしていたミハラたち毛利の英霊ボールが、距離を取る。
『徳川の者か。ノムサンがいなくなった連中、敵ではないわ。このままドンデンと一緒に潰すぞ!』
ミハラの下知に、コバ、ミムラ、オガタ、アニキが上空で旋回していく。
「むう! 早く本能寺へ行かねばならぬのに!」
「父上! ここは戦わねばなりますまい。英霊ボールを倒せば、連中のバフを我らに乗せることができます!」
焦る家康を佐助が励ますが、浮遊する英霊ボールの発光と、家康一行の奇異さに謀叛軍の一部が集結してくる。
「……囲まれた。クソ、僕の策が……」
正信のメガネが、怒りのあまりヒビが入った。
『フフフ、京で明智光秀が謀叛とは面白いことになっておる。ここで貴様らを倒し、輝元の許へ戻って上洛を促し、我ら毛利が天下を取るとしよう』
ミハラたちが真っ赤に輝き、家康たちに謀叛軍兵の白刃が襲いかかる。
忠勝の金属バット。五徳と佐助の夫婦コンビの忍術。小夜のよだれ玉が作る瘴気。忠次と数正の堅実なバット裁き。正信の練り辛子チューブが宙を舞う。
「右じゃ平八郎(忠勝)! 与七郎(数正) は小五郎(忠次)と左を!」
「ウキーウキーウキー!」
家康と旭が的確に指示し、そこへドンデンのバフ『アレ』とボビーのバフ『ボビーマジック』が乗るも、さすがに多勢に無勢。
誰もが気力で立つのがやっとの状態になっていた。
「……ここまでか。信長様……先に極楽浄土に行きまする。……また、幼き日のように儂を肥溜めに落として爆笑してくだされ」
忠勝のバットが空を斬り、敵が家康の懐へと潜り込んで刃を横薙ぎにすべく構えたのを見て、家康は旭を抱いて後ろ姿になり、目を瞑った。
「「ウッキーーーーーーーーーー!」」
背中が血飛沫でぐっしょり濡れた感触が気持ち悪い。
(ん? やっぱり痛くない。このパターン、堺と同じ……てゆーか、我が妻の旭のじゃない猿の鳴き声が重なってたような?)
戦闘音はまだ続いている。
みんなもう倒れる寸前だったのに。
いや、それどころか敵の悲鳴と味方の声量が逆転しとるぞ?
家康は恐る恐る目を開け、振り向いた。
すると顔面に純日本猿の秀長がいたのだ!
「ウキーウキーウキー!」
「ウキャキャノキャー!」
秀長と旭が抱きつく、感動の兄妹再会だ。
「な、なぜ秀長殿がここに? それにその者らは……?」
戦闘が終わり、驚く家康に駆け寄る若武者……というより女の子用の華やかな着物を着せたいと思う顔立ちをした人物が近づいてくる。
後ろに3人の男たちを連れ。
「我らは羽柴秀吉様の配下の石田三成」
「同じく福島正則」
「俺は加藤清正」
もう一人は家康も知っている顔だ。
「竹中重矩殿。貴殿も軍監として毛利攻めにいたと聞いておりましたが……」
「ええ。ですが亡き兄が、この日の事態を想定しておりました。まさか極秘裏に援軍する我らを、敵が待ち伏せていると思いもしませんでしたが収穫は大きい」
重矩たちの手に、毛利の英霊ボールが収まっていた。
『おーん……カッタデー』
『ミハラマジック……もう少しでこっちが負けてたネ! 羽柴の援軍、感謝感激雨嵐ネ!』
「ドンデンとボビーは回収したミハラたちと先に本能寺へ! 私たちもすぐに行きます。秀長様、妹君との積もる話は後にしてください」
三成に促され、秀長は旭の肩にポンと手を置いてウインクした。
「待ってくだされ! 儂らもご一緒させてくだされ!」
立ち上がろうとする家康だったが、どうやら腰が抜けていたようだ。
「役立たずは不要です。……では」
整然と羽柴軍を率いて本能寺へ向かう三成たち。
「な、なんちゅう可愛げのない奴よ! 羽柴め、我ら殿のお身内だからといい気になりおって!」
「ちっ……万全なら、僕もあの三成と一緒に家康様を馬鹿にできたのに。……クソッ!」
数正が怒るもよれよれと倒れて忠勝に抱えられ、正信が地面に拳を叩きながら呟いた言葉に、家康は(ん?)と思いながらも気力を奮い立たせる。
「全員、無事な命を拾ったが、ラストイニングがまだある。進め、這ってでも本能寺へ!」
「「「「「オー!」」」」」
「ウキー」
「フモー!」
「三成は敵。メモメモ」
五徳姫様だけなんか未来を見据えてね? 今は頼りになる味方なんじゃが? なんて思いつつ、家康は再び走り出した。