なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~ 作:ハムえっぐ
『儂の戦国の世、ラストイニングの相手ピッチャーがセンイチは縁起が良いわ』
もういつ崩れてもおかしくない炎上中の本能寺内部で、マウンドにいるピッチャー朝比奈泰朝の手にある英霊ボール『カネヤン』が勝利を確信したかのように言ってきた。
『ルーキーの貴様を撃破し、400勝をあげた現役ラスト相手。儂の監督日本一を決めた敗戦投手も貴様よ。センイチと儂では格が違うわ』
うわぁ……煽るなあ、カネヤン。
ていうかバッターボックスは信長様で、バフを与えてる英霊ボールはヒロミツで、センイチは審判してるのによく煽れるよ。
「センイチ、過去は知らんけど、礼儀のない相手なら遠慮いらないよ。全部ボール判定にしちゃえ!」
見守る私のヤジに、センイチはため息をつきやがった。
『あのジジイは、儂が審判しとるから安心して軽口叩いてきてるんじゃ。内心自分の出番が回って小躍りしとるわ。儂がテツハルを抑えたお陰でな!』
いやいや、投げたの信長様で、リードしたの私で、好捕したの秀吉さ……私なんだけどね。
『カッカッカ。V9も大部分儂のおかげよ。前座として役に立ってくれたわ。スギシタもテツハルもなあ』
『優勝1回、日本一1回の監督が大口叩くことよ。儂は監督として優勝4回、日本一1回じゃ!』
『んなもんは時の運よ! 儂のスワローズでの353勝の15年間、優勝どころかAクラスさえ1回よ! 打てば三振守ればエラーのチームにいたのに儂、凄い!』
以前センイチから1年で10勝すれば一流、15勝すればエースって聞いたことある。
353÷15だから……うん、1年で20勝以上はしてるんだ。それを15年連続ってヤバくね?
ん? カネヤンが14年連続20勝以上って発光したぞ?
私の心の中を読んで訂正してるのか?
単純に自慢だろうけど、そこの数が減るのはいいんだ。
まあそれよりも、打てば三振って、打ったらゴロアウトかフライアウトじゃないの?
『はっ! 儂だって打てない守れないチームを率いて優勝したことあるわ! 儂、凄い!』
『儂だって弱小オリオンズを優勝させたわ!』
『儂はドラゴンズ、タイガース、イーグルス三つじゃ!』
『ギリッ!』
あっ、口喧嘩はセンイチが勝ったみたい。カネヤンが怒りのあまりに真っ赤になってカッカしてるよ。
「フッ。面白い話よ。ヒロミツ、貴様は何かあるか?」
信長様がバットを構えながら、肩に乗るヒロミツに訊ねた。
『打てないなら練習するだけ。勝てないなら練習するだけ。オレが凄いと思わせるのは結果を出すだけよ』
「であるか。なら、凄いと言わせなければな」
必ず結果を出すのが信長様のこれまでの人生。
たとえ大敗北しても、徹底的にやり返していった。
けれどこれは敗北すれば逃げ道がない。
やり返しの機会が与えられない最期の勝負。
「イシイはどうだ? 言いたいことあるなら今のうちに言っておけ」
信長様が三塁側の塁審についている光秀さんの英霊ボール『イシイ』にも訊ねていった。
『僕は常勝スワローズにいたからね。ハハハ、頼りになる仲間が多かったから気楽だったよ』
『『『ギリッ!』』』
おお、凄い。英霊ボールどもの殺意がイシイに集中していったよ。
おいこらイシイ。怯えて震えるなっての。発言に責任持ってよ。
「そうだな。俺にも権六や五郎左、久助に十兵衛、半兵衛や家康、秀吉——真昼らと随分と仲間に恵まれたものよ」
信長様……。
「信勝に長政、久秀や村重と裏切りにも恵まれたがな」
……不吉なことを口にしないでよ。そこも思い出すのも信長様らしいけどさあ。
「お願い。……必ず勝って。信長様……」
私の両手が自然と胸の位置で合体する。
最後の最後で見守る立場で出番がないのが歯痒い。
野球も戦場も個人技の積み重ねであっても、チーム全体の勝敗を左右する決定的な場面は戦いの流れで決まる。
それを手繰り寄せるのが、監督であり指揮官なのかもしれない。
私は信長様が構える神主打法に、今は亡き帰蝶の頃に兄だった斎藤義龍の姿を重ねながら、ただただそう思った。
——長谷川真昼。願え。
……え?
なに今の? 信長様でも泰朝でも、センイチたち英霊ボールでもない声が直接脳裏に響いてきたんだけど。
——状況は絶望的だ。たとえ勝負に勝っても、外にいる明智光秀や森蘭丸らは死に、偽明智軍が本能寺を瓦礫に変えるだろう。
……そんな。なら、この勝負は無意味だったの?
——時間をかけすぎたのだ。三打席勝負に、な。
……なら、どうすれば?
ゴツーーーーン!
「なっ⁉」
意識が泰朝の投げたカネヤンが、キャッチャーのモリとぶつかる音で現実に戻る。
内角高めのストレート。速い。信長様と同等かそれ以上だ。
しかも信長様が仰け反らなければ後頭部直撃だったぞ!
「センイチ! 危険球退場じゃないの!」
激昂する私だけど信長様は立ち上がり、かつてないほどの邪悪な目と口元を見せてくる。
「お前らの時代に危険球退場はなかったんだろ? カウントワンボールだ」
『よう避けた信長。見事じゃ』
「信長様! センイチも一旦タイムで間を……!」
なおも叫ぶ私だけど、勝負はそのまま続行されていくようだ。
信長様が構え、泰朝も振りかぶっていく。
——英霊ボールの大半を集めた今、再び願いを叶えてやる。過去へ戻れ、長谷川真昼。今回の出来事を覚えたなら本能寺をやり直すことも可能よ。さあ……願え!
泰朝が投げたカネヤンが私の背の倍以上の高さから、信長様の目の前でグイーンと曲がっていき、モリと内角低めの信長様の足元の真後ろでぶつかった。
『ボール。カウントツーボール』
モリが怒気を発し、一塁にいる塁審の英霊ボール『テツハル』に確認を求めた。
『……。はっ、いかんいかん。手がなかったわ。ハーフスイングは止まってる。ボールじゃ』
スイング判定を求められたら一塁にいる塁審が腕をくの字にしてスイング、両腕を横に広げて振っていない判定をする。
無意識に両腕を広げていたんだろうけど、テツハルも球体人生長いくせにうっかりしやがって。
たしかに信長様はスイングしようとしていた。
ふう……よく止まったよ。でも外角高めのボールだと思っていたのが、信長様の足元まで曲がるって。
あれがドロップと呼ばれる、カネヤンの魔球か。
正直、私はスギシタのフォークが連投されたおかげで勝てた。
カネヤンは信長様並のストレートに加えてドロップも混ぜるのか。
——おい、長谷川真昼。無視しないで。
うっさい。この勝負を見ることに集中させろ!
その次にあんたを倒しに行くから!
——儂、敵じゃないぞ⁉
どうでもいい。私の邪魔をするなら神でも魔王でも英霊ボールでも敵だ!
泰朝が第3球目を投じてくる。
ストレートか? ドロップか?
どっちでもいい! 信長様……勝って!
ゴツン!
……え?
信長様の身体が倒れていく。
揺らめく炎を背景に、歪む視界が私の見る世界を邪魔しながら。
デッドボールだ。それも頭に……ヘルメットも被っていない信長様の左耳の上にカネヤンが直撃したのだ!
「信長様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
私の絶叫が、本能寺に木霊していった。